物語の管理者:欠片集めのストラテジー   作:瑠川Abel

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 これは、デートではない。そう自分に言い聞かせる。

 だから、待ち合わせもしない。紬の家まで迎えに行って。

 だから、お洒落もしない。最低限おかしくない程度の服装で。

 砕けた会話は日常の出来事を語るだけ。出来るだけ、今日という日を意識しないように。

 辿り着いたのは、駅前の大型ショッピングモール。

 

「行くか」

 

「うんっ」

 

 いつもとは違い、カチューシャを外して薄紫色のパーカーを纏った紬は、笑顔で春秋についていく。

 二人の歩幅は、春秋がゆっくりと歩くことで合わせる。小さな気遣いだが、紬と楽しみたいという目的である以上置いていくことなんかできやしない。

 

「で、紬は何処か行きたいところとかあるか? ないなら適当に見つつ気になった場所に入ろうと思ってるが」

 

「私もそれでいいよ。最後らへんにちょっと小物とか見てみたいけど」

 

「おっけ。五月蝿いところは平気?」

 

「少しなら」

 

 楽しそうに笑いあいながら、二人は道行く人々の喧騒の中に解け込んで行く。

 そんな二人を後ろから追う、四つの影。二組の男女。

 寧々と柊史。そしてめぐると今回の相談の依頼主である、めぐるのクラスメイトの川上。

 元々は、最近彼女が出来た川上の最初のデートプランを検証してほしいという依頼だ。

 

 

 

「椎葉さん、楽しそうですね」

 

「っというか紬先輩、間違いなく四ノ月先輩のこと好きですよね? なんかもうオーラ感じちゃいますよっ。びんびんですよっ!」

 

「川上くんとしては、どう思う? 二人としては『友達と遊びに行く』って建前らしいけど」

 

「えと……なんかもう歩いてるだけで楽しそうですよね、先輩方」

 

 そうですよっ。とめぐるが強調して川上に詰め寄る。

 

「難しく考えないで、一緒にいるだけで楽しくなれるんですよっ。相手を楽しませようと思う以上に、相手に優しくしたいから、ああやって色々気遣いができるんですっ!」

 

「あはは……因幡さんのその意見は実際の体験に基づいて?」

 

「いえ、色々乙女ゲー……じゃなくて資料を読み漁って!」

 

「……私も、柊史くんとああやって一緒に遊びに行くだけで、楽しいですよ。一緒にいるだけで嬉しいというのは、本当です」

 

 寧々の思い切った告白に、柊史も川上もめぐるも頬を赤らめる。

 思ったより大胆ですよね、とめぐるが茶化すと、寧々もまた顔を真っ赤にする。

 

 

 

「あーほら椎葉、落ち着いて」

 

「で、でも最後に消えちゃったのに、奇跡が起きて主人公がヒロインの元に帰ってくるの、すっごい、嬉しくて」

 

「そうだな……自分が忘れられていく、そんな辛い環境でそれでもヒロインを想って決意した主人公の覚悟は、凄いよな。でも」

 

「……春秋くん?」

 

「俺としては、もっと足掻いて欲しかったかな。まあ映画だし描写が薄い部分があるのは仕方ないが。あの途中で消えちゃった母親の心情とか、もっと語って欲しかった」

 

「……そうだね。お母さんがどれだけ主人公を大事に想って消えたのか、そこは欲しかったかも」

 

「あーでもそれまでやったら椎葉がもっと泣いちゃうか?」

 

「な、泣かないよっ。私泣いてないもんっ」

 

 後をつけている四人のことなんてまったく知らずに、二人はたった今見てきた映画の感想を言い合う。

 枯れない桜が咲き誇る島で過ごした、他人の夢を見ることが出来る魔法使いの恋物語。四つの季節を巡り、そして幼馴染と恋をする典型的なラブストーリー。

 別れと奇跡の再会を題材にしたその物語は紬の涙腺を一気に緩ませていた。

 

「さて、椎葉も落ち着いたし服でも見るか?」

 

「うーん。どちらかといえば、私が四ノ月くんの服を見てみたい、かな」

 

「いいのか?」

 

「うん。それにほら、私は代償があるから」

 

「……ごめん」

 

「き、気にしないでっ。ほら、行こっ」

 

 駆け出す紬と追って、春秋も歩調を速める。

 服を見て、紬に見てもらって、ちょっと好みだったものを買って。

 昼食をあまりこじゃれてない、気取ってない喫茶店で済ませて。

 

 

 

「保科先輩……あの二人本当に付き合ってないんですか? なんかこう湧き上がってくる想いがあるんですが」

 

「俺も予想外だった。因幡さんはこうなるってわかってた?」

 

「私としても予想外ですよっ。あれで『遊んでる』感覚なんですかっ!? もうお腹いっぱいですよっ!?」

 

「お昼は回転寿司とかに行きたいんですが……」

 

「寧々先輩は思ったより自由!?」

 

「うーん。前田さんがこれで本当に喜んでくれるか……?」

 

「断言はできないけど、前田さんも川上くんと一緒に入れればそれで嬉しいと思ってくれますよ? あとは……四ノ月先輩がさりげなくしてるあのような気遣いとかが、できれば」

 

 遠くを歩く二人を指差して、二人の立ち位置を注視する。

 人が多い側を出来るだけ春秋が歩き、紬をかばうような、それでもしっかり歩幅を合わせて歩いている二人。

 

「私的にはあれを自然にやってもらえるだけですっごく嬉しいですよ。あー、大事にしてくれてるんだなーって思えますし」

 

「そ、そうか……よしっ」

 

「自信、つきました?」

 

「ありがとう。俺……がんばってみますっ」

 

 依頼主が決意を固める一方で、めぐるはさらに提案する。

 

「もうちょっとあの二人の『デート』、見ていきません?」

 

 断る人は、誰もいなかった。

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