物語の管理者:欠片集めのストラテジー   作:瑠川Abel

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「すっかりいい時間だな」

 

「そうだねー。四ノ月くんがなんでも似合うから、私も楽しかったよ」

 

「俺もまさか着せ替え人形にされるとは思わなかったぜ……」

 

「あははっ」

 

 苦笑する紬と疲れた表情の春秋。日も傾き始め、二人の『遊び』は最後の目的地である小物店で終わる。

 中にはアクセサリーや日常品に小さな家具を見立てた置物などが色鮮やかに配置されており、見ているだけでも楽しめそうな雰囲気だった。

 

「何か買うものでもあるのか?」

 

「気に入ったのがあれば欲しいかなって」

 

 そういって物色を始める紬は楽しそうで、何か彼女を喜ばせられないか春秋は思案する。

 手に取ったリボンは紬が敬遠している「これぞ女の子」というものでとてもじゃないが彼女に贈る事は出来ない。

 ならばどうすればいいか。彼女がただ贈り物して受け取ってもらえて、かつ―――。

 

「お、これならいいかも」

 

「どうしたの、四ノ月くん?」

 

「椎葉、ちょっと」

 

「わわっ!?」

 

 真正面から紬を抱きしめるように、彼女の首にあるものを取り付ける。

 色合いにも気を付けた。柄にも気を付けて、彼女の様子を見て、そこにあった小さな鏡を紬に合わせる。

 

「これ……チョーカー?」

 

「ああ」

 

 色合いは大人しめに、でも、女性というより男性を意識させるように、黒を。

 柄は目立たない、裏側に花柄が少しだけ描かれている、リボンのような薄い素材で出来た金具を一切使っていないチョーカー。

 

「まあちょっと男性向けって感じのだけど……こういうのだったら、どうだ?」

 

「……あ、ありがと」

 

 見てみると、少し紬は涙ぐんでいる。どうしたのか、気に入ってないのかとあたふたしてると、涙を拭いながら。

 

「嬉しいの。とっても嬉しいの。ありがと、四ノ月くんっ」

 

「お、おう」

 

 花が咲いたような満面の笑顔に、思わず春秋は照れてしまい、頬を掻く。

 そこまで喜んでもらえるなら、プレゼントした甲斐があったと。

 

「お洒落とか、本当にできないの。でも、結構探すの難しそうな、ぎりぎりを見つけてもらえて、私、私……っ」

 

「ほらほら、泣くなって。似合ってるぞ」

 

「……うん、ありがとう。私毎日これ付けるよっ」

 

「おいおい、毎日は言いすぎだろ。まあ、付けて貰えると嬉しいけど」

 

 笑いあう二人、最後の最後にいい思い出が出来たと満足して、購入を済ませて店を出る。

 そこでバタリ。

 

「「「「あ」」」」

 

 後を追っていた、柊史たちと出会う。春秋は後ろから誰かついてきているな、くらいは感じていたが、紬はまったく気にしていなかった。

 

「き、奇遇ですね四ノ月先輩っ!!!!!」

 

「おー、そうだな因幡。後を追ってくるとはいい趣味してるなぁ」

 

「……ごめん、四ノ月」

 

「まあ川上が気にしているから、だろう。俺は大丈夫だが」

 

「す、すいません先輩っ! 決してお二人のデートの邪魔を―――」

 

「あ、馬鹿」

 

 川上がふと漏らしてしまった単語は、春秋も紬もわざと避けていた単語。

 その言葉にどういった結果が訪れるかは、川上とめぐる以外は周知のこと。

 

「で、でででデートじゃないよデートじゃないってっ! ……うっ」

 

 必死に自分に言い聞かせても、そう思ってしまった、考えてしまった。

 紬の顔が青ざめる。口元を手で抑えて、懸命に堪えている。

 トイレは、遠い。かといって緊急的に上げ下しを止める方法もない。

 

「え、え、紬先輩もしかしてっ!?」

 

「と、とにかくなんとかしないと―――」

 

 黙れ、と一言だけ告げて。

 春秋は『本』を広げる。欲しい情報を。魔力と呼ばれるものがどういったものか、すぐさま自分の頭にぶち込んで。

 本を消して、目を閉じて、身体の内側に働きかける。自分は知っているはずだ。ベクトルは違えど、かつての自分が使っていたこのエネルギーは―――魔力だ。

 身体中に、満ちる。

 事情をまったく知らない川上やめぐるからは見えないように、紬を抱きかかえて、咄嗟に柊史がそれをアシストするように身体を使って二人の視界を塞いでくれる。

 歯で、左の人差し指を切る。零れだす鮮血。

 

「紬」

 

 咄嗟に、名前で呼ぶ。苦しそうな紬の表情が一瞬だけ驚いた表情になり、その開いた口元に、指を突っ込む。

 

「ん~~~~っ!?」

 

「いいからっ、落ち着け。そんでもって、飲めっ」

 

「ん、んんっ、んんんっ!」

 

「いいから、お前が吐くとかそういうのよりマシだっ」

 

 それが何かわかったのか、紬は首を振って拒否しようとする。

 だが押さえ込む力で春秋に敵うわけがない。

 

「んっ、ん、ごくっ……ぷはっ!」

 

「よし、飲んだな」

 

 飛び起きた紬は、肩で息をしている。まだ辛そうな表情で、春秋に向き直る。

 

「し、四ノ月くんいきなり何するのっ!?」

 

「椎葉、体調はどうだ」

 

「私のことより―――って、え」

 

 体調は快方に向かっていることに気付いた紬が、心底不思議そうに春秋を見つめる。

 説明が面倒だなと思いつつも、春秋は紬を助けられたことに安堵した。

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