『亜子をメインヒロインにしたいんだけど……』
「はよーす、あーさむっ」
「やる気ないわねぇ、もっとシャキっとしなさいよ」
「このぐらいで勘弁してよ、こちとら寝不足でさ」
「なぁに? 遅くまでゲームでもしてたわけ?」
「べんきょーだよ、べんきょー。今習っているところをしっかりと復習しとかないと、多分高校くらいになってもっと後悔するからなー。留年とかなったら苦学生もやってられねーだろ」
「………………」
「……おい明日菜、目を逸らすな」
バカレンジャーとか呼ばれてるこいつには実に耳の痛い話であろう事を理解しながらも、あえて言っておこう。べんきょーしろ、じょしちゅーがくせー。 なんだか明日菜とこういう話をするのが日課になりつつある今日この頃、同じクラスの男子らには羨ましがられるかも知れんが知ったことではない。
そもそも言ってないし。言わないし。
神にチートを一つぶち込まれて転生したネギま世界。チート以外は普通であるはずなのに、ちょっと鍛えた程度で車と同程度の速度で走れるようになれるスペック。漫画の世界である。
あえてこの世界を現実的に考察するやからが多そうではあるが、それほど深く考えるな。どのようになったところで元は一人の人間の考えた世界なのだから。お約束、とか、ご都合主義、なんてものが常備されているのが当然の世界だ。俺はもう割り切ってる。
割り切って、二度目の人生(漫画だけど)をちょっとだけ真面目に取り組んでみることにした。
具体的に言うと、冷めた目線で生きていた前世とは対照的に、ちょっと熱く、そんでもってある意味適当に。情熱的に。
大体元来がのんきな世界だから、平穏に平坦なモブならばそれなりに成功できる。いや、成功というよりは得、というほうが適切かも知れないけど。
小学校の頃からのなじみで、明日菜とはそれなりに仲がいい。同じ苦学生だし、同じように新聞配達のバイトに精を出し、コイツの恋愛相談にもたまに乗る。幼なじみ、という関係だとしても過言ではないのではないかとちょっとだけ自負してしまいそうだ。
ん? 恋愛感情? なぁにぃそれぇ?
つーかこいつには特に持ったことは無い。割とがさつだし、女というよりはガキっぽい。
コイツも入学当初は無口キャラやっていたという話を聞いたし、原作でもそんな感じの描写があったけど、今がこれだし。あまり気にしたことが無い。
雪広なんかは、どうしてこうなったのか、と首をかしげているが、間違いなく原因はお前が一端じゃね? と内心思う。原作を読んだときの感想だから直接言ったことは無いけど。
身体はそれなりに成長著しいようではあるけれども……。
と、思っていたらジト目で見られた。何さ。
「……なんか、イヤらしい目で見なかった?」
「お前を? どうやって?」
「~~っ! ほんとアンタって! ほんとに!」
言葉にしろよ。語彙の無いやつだ。
× × × × ×
「じゃーなー、べんきょーしろじょしちゅーがくせー」
「うっさいわね! 居眠りして廊下に立たされろバカっ」
挑発の返し方が直接過ぎやしないかね。
特別好かれたいとは思わんが、ちょっとひどくね?
それに俺は戻って二度寝できるやつとは違う。これからサッカーの朝練があったりするからな。
前世じゃあ、サッカーなんぞ集団行動を義務付けるための大人の汚い思考が混じっている動き回らせるためだけの玉遊び、なんて思っていてやらなかったが、今じゃ違う。俺には相応の目標があるからだ。
それはサッカーの日本代表――ではない。
いや、車並みの速度が出る上に体力まで無尽蔵に成長できるこの世界ならそれも容易かも知れんけど、俺は楽しむために生きてるから。将来はまあおまけだ。
じゃあ目標って何? それは――、
「おっ、烏丸くん。今日も早いなー」
「おー、おはよー和泉」
コイツだ。
和泉亜子。
俺はコイツの恋愛を本気で応援したいんだ。