こっこんなところにいられるか! 俺は帰る!
そんな感じで逃げ出した2-Aを離れて大体校舎裏。バカンフーから逃げ切った俺は身を潜めつつ一休みなのであった。
見事に死亡フラグを打ち立てているけど今更だ。スタンドがこの世界のどこにいるのかわからない以上、多分逃げ場はない。
ただ、お願いだからイエローはスタンド使いではありませんように、とだけ祈る。
「……祈りは無駄かもしれないけど」
考えてみれば俺をここに送り込んだのも神だし、何に祈ってもどうしようもないのだろうな、と軽く絶望してみたりもしちゃったり。
――と、そのとき、
「――いた」
「ん? おおあきらたん、じゃなかった、大河内」
「今気持ち悪い呼び方しなかった?」
とっさに出たんだ。聞き流してくれ。
女子に気持ち悪いといわれることの男子の辛さを女子は知らなさ過ぎて(絶叫)、
「って、なんでこの場所が?」
「それ、風香のスタンド」
「それ?」
指で指されたところを見る。
左腕には――、小人のようなやつらがいつの間にかまとわりついていた。
「う――おおおおおおっ!?」
思わず向こうの『原作』張りに絶叫する。
その数は十数匹、セックス・ピストルズ、いやハーベストみたいな複数型か? 姿は機械の歯車が重なり合って人型を形作っている感じだけれど。
つーか、まったく気づかなかった。大丈夫か俺。
「名前は『ベイビィ・ユニオン』、対象に隠れて内側から直すスタンドだって聞いたよ」
「そ、そうなのか」
隠密性高っけえ。密着しているのに気づけないなんて相当だぞ。
つーか、ふーかって鳴滝風香? なんで双子の片割れのスタンドだけがこの場に。
「わたしが知ってるのは風香だけ。
あとは2-Aにはいないと思うけど」
「――マジ?」
勝った! 第三部完ッ!!
いやいや、まだ始まってない。落ち着け俺。
イエローがスタンド使いじゃないって言うのは確かに朗報だけれどね。
「で、これがわたしのスタンド」
そう言って見せるのは、全体的に青い女性型。表面は壁画のように塗りたくられている姿? えーと、モザイクカラーっていうやつか?
「名前は『モザイク・ブルー』」
「まんまだな」
「性能はよく知らないけれど」
「えー」
人に聞いておいてこの女は。
「だ、だってそうそう使うこともないし」
「ああ、まあそうだけどね」
考えてみれば当然かもしれない。
そもそも原作でも魔法関係者でもなかった二人が、こういった力を有したところで使い道なんぞあるはずもないし、おそらくはこの場でもその可能性が高い。高畑先生も龍宮とかせっちゃんとか以外の魔法生徒は教えてくれなかったし、そもそもしずな先生がああやって魔法関係者から隠れ住んでいる時点で、スタンド使いがその身を魔法関係者に晒しているとはまったくもって思えない。
まあそんな事情はどうでもいいのだ。
解決しなければいけないこちらの事情は覗き魔。俺のこの先の学生生活が関わる死活問題でもある。もし解決できないとすれば、どういう飛び火がこちらに来るものかわかったものでもないし。
「つうか、この場に鳴滝姉? がいないってことはけっこう広範囲かつ遠距離に使えるスタンドってことだよな?
俺、いらなくね?」
改めて、思う。
しかも俺のスタンドは使い勝手がかなり悪い。近接戦型だし、特殊能力の効果範囲は近ければ半永久的に効果を発揮できるけれど、離れればその効力が消えるし。多分十メートルも離れれば、放った『無月』すら霧散する。
あれ、俺本気でいらない子なんじゃなかろうか……。
「でも、ベイビィ・ユニオンはそもそも対象に引っ付いて持続するスタンドみたいだから。
あと、モザイク・ブルーに試してみたんだけれどスタンドにはくっつけないみたい」
「ああ、そうなると持ち主を追いかけることもできないってわけか」
どっちかというと寄生型ってことね。なるほど。
「例のスタンドは写真とか撮る様子もなかったし、証拠で犯人を挙げるにはちょっと難しいし。
正直犯人を『見て』いるのが私だけだから、スタンド使いにしか関係しない事件なんて、私たちだけじゃ解決できそうもないんだ」
意見が欲しい、か。
まあ三人寄れば文殊の知恵とも言うしね。
つーか、平和だ。
もう一方の『原作』にあったような殺伐としたり世界の命運をかけたり、人の生き死にが関わっていたり、なんて事態はかけらも見当たらない。
ま、それだけでも安心したよ。
俺のような一般人はそんな事件とは無関係に生きていきたいものだしな。この程度の事件でそれらが回避できるというなら、いくらでも手を貸そうじゃないか。
× × × × ×
そんな二人(二人?)との邂逅を終えて、現在はエヴァ姉のログハウスへと向かっている状況である。
OHANASHIはつつがなく終了し、適当な食料でも購入してからいつもの修行に向かおうという魂胆なのである。
バカイエローとのゴタゴタの所為で、結局俺は宴会場のつまみをかけらも腹に入れてないからな。自分の金で買ったものなのに、どういうことなんだよ。
「――ん?」
ログハウスへと向かうつもりのはずなのだが、現在コンビニ前。単に森に入る前の町並み、というだけの話だから、間違ってはいない。というかその森もこの町からは結構遠いし。
それはともかく、そのコンビニ前に見た覚えのある姿を発見。えーと、あれはー、
「――ああ、2-Aの一番前にいた娘」
「えっ!?」
何故か、至極驚いた顔でこちらを見上げ、目がパッチリと合ってしまった。
× × × × ×
「――で、どういう状況なんだ
それは」
「いやー、俺にもさっぱりで」
そして現在エヴァ姉の城。別荘へとやってきたわけなのであるけれど、空気が寒い。つーか痛い。
中位から上位の魔法使いとなると使用する属性が偏ってくる。これは『純化』というらしく、その属性をより強力に行使することへと繋がる性質らしい。
ちなみにこれは魔法使い以外でも人間にはその傾向は元からあり、器用貧乏や万能型等と呼ばれるやつ以外はそうやって自分の分野を狭めてゆく。そうして得意分野を開拓してゆくのが『普通』なのだ。
なにが言いたいのかというと、
――エヴァ姉の怒り≪魔力≫で引き寄せられた氷の精霊が、周囲の温度を極端に引き下げている真っ最中です。
エヴァ姉の属性は『氷』『闇』。特に氷に特化しているために、氷の精霊が魔力を呼び水に無意識下にて喚起されている状態。
冒頭で立てていた死亡フラグをここで回収されるとは思わなかったぜ。どんどん空気が引き下げられてゆくお陰で水蒸気が凍りつき最早雪山状態。
その状況に怯えた古めかしいセーラー服のクラスメイトが俺の背中に引っ付くというね、ちょっと俺得な状態、に繋がるわけなのです。
「で、いい加減に説明してもらえないかなぁ?」
エヴァ姉怖い、超怖い。
顔は笑っているのに、目が欠片も笑っていないよ。なにこれ、なんでこんなに怒ってるのこの幼女。
「え、えーと、こちら、相坂さよ
エヴァ姉も知っている通り、2-Aのクラスメイトです」
「そんなことは知ってる……!」
怒りが増した。
なんで。
「なんで、そいつが、お前と、いっしょに、こ・の・場・に・い・る・の・か、と聞いとるんだ!」
「ヒィッ!?」
うお!? 背中に柔らかい感触が!?
「いちゃいちゃするなボケェ!」
「してませんよ!? サー!?」
思わず返した。でも怯えたさよちんの引っ付いたときの感触が中々上々。
あー、やっぱ女の子はいーなー。見た目成長不良っぽかったけれど、これはこれで年相応で、
――うわ、エヴァ姉の視線が人を殺せそうなほどヤヴァい。
「ええっと、ですね、
コンビニ前で偶然会って、話してみると仲良くなって、そのままついてきちゃいました」
いい加減説明しないとって、俺も思っていたんですよ。てへぺろ。
「元いたところに捨てて来い」
「犬猫じゃねえんですから」
でもって、更に引っ付くさよちん。ぎゅうううって感じで、もうご褒美以外の何物でもないよね。
「いい加減に離れろ! 取り憑くつもりかこの悪霊がっ!」
「あ、悪霊じゃありませんよっ!
イヤです! 離れたくないですぅぅ!」
「え、幽霊なの?」
「ええっ!? 気づいてなかったんですかっ!?」
い、いーや? 知ってたし。原作知識で知ってたしー?
でもふつーに見えるし、触れることもできるし、実際触れて掴まれて抱きつかれている状況だし。てっきりこの世界じゃ生きているのかと。ちょっと懐古趣味の影の薄い少女かと。
そっかー、本物の幽霊だったのかー。スタンド使いだから触れるのかね?
「わ、わたし、死んでからも影が薄いのが悩みで……、誰にも気づかれることなくこれまで過ごしてきたんです……
でも……っ、あなたはそんなわたしに気づいてくれてっ、そのうえ普通の女の子に対するみたいな態度で接してくれて……っ!
こんなひともういません! だから離れたくないんですーーーっ!!」
「なんだそれはっ!? 結局取り憑くと宣言しているようなものではないかっ!?
ヒトの弟子に勝手に取り憑くな悪霊がっ! 今すぐ離れろ! 即刻強制成仏させてやるーーーっ!!」
元気だなぁ、二人とも。
あ、そー言えば明日菜にコートを返してもらっていなかった。明日の配達で持ってきてもらうように連絡入れとかないとな。
今回やっとエヴァの本領発揮な気もした
そこに食い込む薄幸少女さよ
吸血鬼と幽霊とに挟まれた三角関係
いっそ憐れにも見える
これでようやくラブ米なのか…?
あれ、でも最初のヒロインがどんどん隅に追いやられるのが変わってない
がんばれ亜子、超がんばれ