最終話です
「正座」
「え……と、あの……」
「正 座」
「あう……、ハイ……」
時刻は深夜十時ごろ。場所は図書館島入り口前。
島といっても図書館であることに変わりは無いのだから、こーいう時間に施設が動いているわけが無い。
俺はというと、見るからに『コレから侵入します』という格好のクラスメイトらを捕まえて、今から説教に入るところだった。
「で、」
じろりと見渡せば、びくぅ、と身を竦ませるのは、綾瀬を筆頭にした馬鹿レンジャー+αの六人組に、図書館探検部の綾瀬除く三人。+ネギ君。
「試験期間中の部活動は駄目だろうが
いやそれ以前に深夜に図書館島に行く意味がわからない
どういうつもりだったのか言ってみろ」
「え、ええと、ですね……」
「ま、どうせ噂とやらの『頭のよくなる本』とかを探しに来たってところだろ
このままじゃ一週間以内に学力を上げられそうにもないと思ったろーし、次の試験でも学年ビリだと初等部からやり直させられると別の噂でも聞いて危機感でも覚えたか」
「全部あってますけど……
なんですか。大浴場に監視カメラでも仕掛けているんですか」
大浴場での話題だったか。
「違う。お前らがバカをやろうとしたら教えてもらうように頼んでおいたんだよ
案の定、報告通りにここにやってきただろうが」
ちなみに件のスパイ役はさよちゃんだったりする。
未だに見つけてもらえない幽霊娘は有効的に活用させてもらっております。
「し、しかしですね、ここは確実に学年ビリを回避するためにも、噂の検証という意味合いも兼ねて件の『本』を探してみるのも一考かと思われるのですが、」
「噂を頼っている時点で確実性なんぞ無いわバカタレ」
「……ぐぬぬ」
ずばりと切り捨てられてぐうの音しか出ない綾瀬。実際どれほどの効果があろうと、実物の所在も不明な代物を探す時点でこの行動自体に意味がない。
アレだ。テスト前に部屋の片付けをしようとする心理に近いのだと思う。
「し、しかし……、今回ビリを回避できなければ初等部からやり直しという話ですよ?」
「だから『頭のよくなる本』を探す?
その噂に翻弄されてる時点で本当に初等部からやり直したほうが良さそうな発想なのは間違いないがな」
「ぐぬぅ」
ネギ君も止めろよ、と思って見てみれば、うつらうつらと舟を漕ぐお子様。まだ十時だぜ?
だがまあ仕方ないかもと思いつつ、ため息をつく。
「あと、初等部からやり直させられるっていうのはさすがに無いだろ
一応は義務教育だぞ。本気でそんなのやる学校だったらPTAから苦情が殺到するわ」
「…………まぁ、確かにそれはそうでしょうけど……」
学園長なら認識阻害でなんとかしてしまいそうな気もするけど、まあ流石にそこまでバカな真似をやるわけが無い。……と、思いたい。無いよな?
「つーか俺の教え方がそこまでイヤか
こういう手段を取られるとそうとしか思えないんですけどねー」
「え、いっいえ、そういうわけではないですけど、」
「けど?」
「う、ううぐぐ……」
ずい、と近づいて綾瀬の顔を覗き込む。
メンチ切ってるわけではなく、ただジッと覗き込む。
黙ったまま綾瀬を見詰め続けると、次第に顔を赤らめてゆくのがよくわかる。コレだけの至近距離なら、夜でもよく見える。
「………………あ、あのぉ、近いのですが……」
「そんなのはいいから
答えてみてくれよ」
「いえ……、こ、答えづらいといいますか……」
「ん?」
「うう、あううう……」
ハハハ、下手に問い詰められるより堪えるだろう。
無論確信犯だ。
さて、この『次』はどういう反応をしてくれるのかなー?
「!?」
つぃ、と綾瀬の顎下を指で上向かせ、さらに見つめる。
顔が赤いままに目をまん丸にして俺を覗く綾瀬がいる。
突然のことに混乱しているか。
こうかはバツグンか。
「………………っ!?!?!?」
さて、どうする?
× × × × ×
綾瀬のキス待ち顔を写メし、この一週間は部活動を自粛することを条件に『人質』とさせてもらった。
いい具合に嵌まってくれて実に愉快。
ちなみにこの条件はその場にいた全員に適用される。精々必死で皆を説得してみな、バカブラック。
「でさぁ、なんで桜咲がついていながらここまでずるずる来ちゃったのかなぁ」
「仕方ないでしょう
試験勉強という名目で呼び出されたのですから、図書館島が危険です、と言えるはずもありません
ネギ先生も一緒だったので止めてくれるかと期待していた部分もありますけど……」
可愛げねぇー。
このバカホワイトってば、皆と離れたら途端に口調がツンツンしてるし。
ま、こちとら魔法生徒との交流自体そんなに無いからな。仕方ないのかも知れんけど。
「子供にその期待は酷だよ
見習い魔法使いなんだし、学園長から詳しいことなんぞ聞いてないだろ」
「しかし教師です」
「だから期待かけすぎなんだよ
つーかこの話題はやめやめ。楽しいことなんてありゃしない」
大変だよねー、英雄の子供っていうのも。
「……いつもは学園警備なのですが、この期間は外れても構わないといわれました
何かあるのですか?」
「あ、そーなの?
たいしたことはねーよ。ネギ君の最終課題が2-Aを学年一位にしろっていう学園長からの無茶振りさ」
「ああ、なるほど………………、?
えっ、いえ、それは無理、というか無謀すぎるのでは……?」
ですよねー。
やっぱあのクラスにいるだけあってその点に関する理解力程度はあるか。
「だからこんな『噂』も流れたんじゃねーの?
どうするつもりだったのかぐらいは学園長に聞いてみれば?」
「………………。
そうですね、そうしてみます
それでは今日はこれで。お騒がせして申し訳ありませんでした」
ほんとにな。
× × × × ×
さて。
早くも試験は終了し、採点も終了してランク別トトカルチョなんていうのも終わった。
残念ながら2-Aは学年五位。成績自体は上昇したのだろうけれど、さすがに一週間で詰め込められるほど期末試験は簡単ではない。
つーか、一週間前になってようやく試験勉強を始めた2-Aがドンケツから巻き返すなんぞ不正が無い限り無理だ。
我らがバカレンジャー+αは中学生としての基礎を結構疎かにしていたタイプで、一週間程度の烏丸教室では応用にまでは至らなかった。せめてもう一週間あればもう少しなんとかなっていたかもしれない。『俺は悪くない』。
ネギ君はネギ君で普通授業もあったし、あの六人だけに付きっきりで集中講座をやるには放課後だけでは足りなかったようでもあるし。
まあ今回は赤点回避だけでもできたようだし、人質であったキス待ち写メは綾瀬のケータイに転送しておいてやろう。
ちなみに、俺はきちんと元の学校にて普通に試験を受けたので2-Aの採点にはカウントされない。悪しからず。
ところで、とてつもなく今更なハナシなのであるが。
この最終課題、クリアできなければ先生を辞めろ、とは誰も何も言っていないし、ネギ君は言われていないはずである。
何故原作ではビリを回避できなかったネギ君はイギリスへと帰ろうとしていたのだろうか。
謎だ。
× × × × ×
「ビリ脱出したんだってなー
おめでとー」
「あ、そら。おはよ」
試験結果が出て翌日の2-A。
今日も今日とて授業がある。
残念ながら試験休みは、本日と明日と二日ほどかけて採点結果との復習と答え合わせを済ませてからのハナシ。
この場合俺は男子校舎に行くのがスジなのだろうが、こいつらの勉強を見た手前、ちょっとだけ気になったので顔を出してみた。
あとは雪広にちょっとした提案があったわけだが、
「ねーそら、これ読める?」
「あ? ……ナニコレ?」
雪広を探す前に、明日菜より突き出されたのは一枚の手紙。
ご丁寧に英語で書かれており、どうやら明日菜は読めなかった模様。
「いや、筆記体? が斜めでちょっとよくわかんなくって」
「本場の書き方、ってやつかねー
えーと、ん? ネギ君から?」
手紙の末にはネギスプリングフィールドと書かれていると思われる名前が。
何故わざわざ英語で手紙を。
「そなの?
なんて書いてあるの?」
「ちょい待て待て
今簡単に訳すから。なんか無駄に書かれてる部分がある」
こういうのはもっと得意な奴にやらせろよ。
えーと、インストールドットで、『解』『釈』と。
スタンド自身の指先に書き込んで、なぞる。そうすればなぞった部分の意訳がスタンドの手のひらに現れる。
こんな使い方をした奴初めてなんじゃなかろうか。
「えーと、なになに……
『実家に帰らせていただきます』
………………うん?」
「えっ?」
えっ。
~最終話
じつはもうちょっとだけ続くんじゃよ。
~図書館探検、不発
ツイスターなんて無かった。学園長ゴーレムは多分放置プレイ中。
~キス待ち顔、ゆえ
いきなりなにをするのですかこの人は。いえ、自分がただおちょくられているというのはよくわかるのですが、まるで子供に対して言い含めるかのような視線の向け方なんて、自分も同年代ということをわかっていないのではないのですか。どうせ自分は胸も無い幼児体型なのですから気にしないとでも言いたいのでしょうか。しかしそういえばこのひとはそういうタイプの女子が好みだというハナシも聞いた覚えが、ま、まさか本気でき、キスするつもりなのですか。しかし自分はそういった接点なんて得に無かったはずですのに、いえ、勉強を教えてもらっている身で他人行儀なつもりもありませんけれど、しかしそれにしてもキスはいきなりすぎると、いえ、そうではなく。そもそもそういうお付き合いをする気などまったく無かったはずですのになぜこういった、あ、だ、だから近いです、顔が近い、い、イヤではないです、でもそんな真剣な眼差しで見つめられると断るものもどうかと、というかこの場には他にも明日菜さんとかこのかさんとかのどかだっているのに、こんな場所でいきなり、だ、駄目です、駄目、ダ、駄目――――――ッ!
という葛藤がゆえの中ではあったのだろうけれど基本この物語はそらの主観でお送りしておりますので割愛。本とはもっと長く書くつもりもあった。
~『俺は悪くない』
うん。悪いのは無茶振りした学園長だよね。
~最終課題
これは原作で本当に気になった。
誰も「おめーの席ねーから!」とは言ってないはずなのに、何故彼は帰ろうとしていたのか。
~試験休み、の前に
ウチのがっこでは答え合わせがありました。ほぼ白紙の答案用紙を返されて途方に暮れた日々も、すべて懐かしき地獄の一端です。
~筆記体?
斜めの、ぐにゃっとした癖のある書き方。本場英語の癖字って古文以上に読み難いですよね。慣れればそうでもないのか?
~スタンド『応用編』
殴れば手紙の中身自体を解読して書き換える。でもそうなるとスタンドを隠しきれないと思ったそらの苦肉の策。ある意味とてつもないカンニング。本当にできるのかは謎。だって俺スタンド持ってないしー。
~『実家に帰らせていただきます』
ある意味原作をなぞった結末。
魔法先生ネギま! 完ッ!?