ちょっと怒られそうな三十五話。いくぜっ
「ここは……?」
光に眩んだ目を開ければ、先ほどとは違う場所に。周囲には烏丸さんもマスターの姿もありません。
超特性GPSを起動。現在地を特定。
どうやら先ほどの場所とは500mほど離れてはいるようですが、麻帆良の街中なのは間違いない様子。
ついでにお二人の位置情報を取得しておきましょうか。
「しかし、あれは転移符、ですか」
ネギ先生の第一手は光の精霊を使ったデコイ(囮)。
三対一、という無理な状況を覆そうとしたのか、数での手を打ってきたと思われるネギ先生。しかしその間隙を突いてきたのは背後から近づいていた小さな影でした。
あれは恐らくオコジョ妖精でしょう。
烏丸さん曰く『ネギ先生の下僕の小動物』が転移符を発動させたのかと思われます。
お二人の位置情報の取得完了。烏丸さんもマスターも、遠い箇所にそれぞれ居りますね。
結果として、私たちは散り散りにされてしまったようです。
「そうして各個撃破する、それがあなた方の手ですか。――雪広さん」
「そのとおり、ですわ」
木陰から、雪広さんと宮崎さんが現れました。
私の相手はお二人のようです。
「よろしいのですか? お二人の戦術は対処できる、と先日言ったはずですが」
「早々対応策が取れるのならばそれを乗り越える。それもまたいい女の条件ですわよ
それに、」
一つ区切り、雪広さんは身構えます。
「以前の勝負は不完全燃焼でしたので、決着をつけたい。そう思っておりましたの」
「何処の少年漫画ですか
ですが、わかりました。謹んで、お相手させていただきます」
嘆息しつつ、私も戦う準備をします。
しかし、そうなると烏丸さんの相手は、いったい誰なのでしょうか……?
× × × × ×
「あっはははははははははははははははははは!」
目の前に広がる状況に気でも触れたのでしょうか。
それとも別の要因でしょうか。
転移されてきた烏丸さんは、状況を確認すると声を上げて大笑いし始めました。
いっそ爆笑と言っても過言では無いくらいに笑った後、周囲を見越してこちらへと視線を向けます。
「はー……。で? 俺の相手をお前らがするってことか? 綾瀬、早乙女?」
……正直、以前に教室で同じく授業を受けていたときとまったく変わらない雰囲気なので気が抜けてしまいそうですが、相手は仮にも『零崎』を名乗る人物。
気を引き締めなおして応えます。
「――そうです
この状況なら、烏丸さんが以前使った炎の魔法やネギ先生から聞いた曲弦師の技も使えないはずです
烏丸さんはエヴァンジェリンさんの手伝いだと聞きました。勝てない勝負をすることは、本意ではないはずです」
「だから、降参しろ、ってこと?」
「そうだよー! というか、よく平然としていられるね? これでー!」
共に来ていたパルも同じように首肯しました。
烏丸さんを囲んでいる状況は――、
パルのアーティファクトで召喚した簡易ゴーレム『炎の魔人(インフェルノアニキ)』×37という、傍から見れば悪夢になりかけるムキムキマッチョのオンパレードでした。
しかし、これが現在私たちの使える最良の手段なのは間違い無いはずです。
以前に見せた炎の魔法は同系統相手には効果は薄いですし、その副次効果なのか装備変換魔法なんてものを使われても、はっきり言ってダメージを受けるのはそれに囲まれている烏丸さん本人でしょう。
糸を使っても所詮は糸。魔力コーティングとか、実はワイヤー、とか想定しかけましたが、インフェルノアニキの周囲を覆う炎ならばそれすらも焼き切れます。
これで、烏丸さんに勝ち目は無いはずです。
……正直言ってこれはヒドイと言わざるを得ない状況ですが……。
ボディビルダーも真っ青な筋肉祭り……。
私が囲まれたら五秒で泣くデス……。
「ふうん、ふうんん、確かに、これはちょっと手が出そうに無い」
しかし、烏丸さんは未だ余裕の表情。
まだ、何か手があるとでも?
「でもさー
――相手を間違えたな」
「はい?」「へ?」
360度を囲まれている相手の台詞とは思えず、思わず続きを促しました。
「あのさぁ――、」
× × × × ×
「うわっ!?」
そらと茶々丸を転移符で飛ばし、一対一の状況を無理矢理作り出したボウヤだったが、どうも私のことを甘く見すぎだな。
封印がまだ継続しているこの状況では、魔法すら薬という触媒がなければ行使できん。学園結界が解除されているからといって、無駄に強力な登校地獄が解呪されることもないという、ナンダコレあの馬鹿(ナギ)どんな無茶苦茶な構成シヤガッタ、と愚痴りたくなる現状だ。
学園結界が効果を発揮しないというだけで、高位呪文を扱えないことが恐らくはばれているのだろう。ボウヤは捕縛魔法ばかりを使って私の動きを封じようとしてくるばかりだ。
だが、甘い。
魔法だけに頼った戦いなんぞ、私がすると思うのか? 現に今、ボウヤは足を引っ掛けて空中につんのめっていた。
「なっ、こ、これは、糸!? どうして……っ!?」
「――なあネギ先生、勘違いしていないか?」
「え……っ?」
こういうのを何と言うんだったか。
ああ、伏線、か。
× × × × ×
「「『そらが』(『俺が』)曲弦師だって、いったいいつ誰が『断言した』(のかな)?」」
× × × × ×
絶句、しました。
「俺は糸を扱えない。
俺は零崎というわけでもない。
俺は言うほど強くも無い。
全部、ぜーんぶ、戯言なのさ」
あ、あれだけ思わせぶりなことをしておいて、全部『嘘』ですか……!?
「「――はぁー……」」
気が抜けました。
そんな相手なら、ここまで用意周到に対処する必要も無い……。
というか、そうなるとネギ先生のほうが現在進行形で危険ということに?
「……では、とっとと降参してください
私たちは急いでネギ先生のところへ――、」
「――とは言うものの、」
言葉を遮って、烏丸さんが口上を続けます。
その雰囲気は何処か奇妙で、切り上げるべきだと判断していたはずの私たちの注意を惹きつけるほどの何かが垣間見えました。
「俺も、エヴァ姉の弟子であるからして
そうそう容易くやられる気も無い
――なので、切り札を一枚、切ろう」
そう言うと、携帯を手にし、
「あー、もしもしー? 俺俺、俺だけどー」
詐欺めいた口調で何処かへと連絡をし、
「悪いんだけどさ、
――今すぐ来てくれない?」
次の瞬間、
「「なぁっ!?」」
――烏丸さんの背後に、巨大な魔法陣が出現しました。
「ゆ、ゆえ!? あれはなに!?」
「ちょ、ちょっと待ってください! あれは……!」
私は急いでアーティファクトである『世界図譜』を使って魔法への対処法を調べます。
既存の魔法であれば、この『図譜』で調べられないことは無い、というアイテムなのです。
「ありました! あれは、召喚魔法……っ!?」
「ぬぇえ!?」
答えを見つけた、その瞬間には、『魔法陣から』吹雪が吹き荒れます。
比較的近くに居たインフェルノアニキ達が凍り付いてゆく姿が目に映りました。炎の魔人なのに!?
「って、『吹雪を』『召喚した』ってこと!?」
「それはどんな魔法ですか……! いえ、違います! 見てくださいパル!」
召喚陣から、しなやかな腕が、青く長い髪が、透き通るような美しい肌の女性が、そう。人型の『何か』が抜き出てきたのです。
しかし、その姿は……!?
「よぉ、悪いないきなり呼び出して」
『まったくじゃ、妾を呼ぶとはどんな難敵かと思えば、なんじゃ? あんな小娘どもに遅れをとるとは、情け無い』
「まあそう言うな。せっかく機会だし、思う様に暴れさせてやろうってだけさ」
『ふむ……
まあ好かろう、父様(ととさま)を梃子摺らす小娘の一匹や二匹、すぐに蹂躙してやるから有り難く思え』
「あ、殺しは無しな?」
『りょうかい、じゃ』
フランクに言葉を交わしているようですが、私たちは古めかしい口調で話すその『彼女』の容姿に開いた口が塞がりません。
なんで、なんで……、
「じゃあ、よろしく頼むな
――セルシウス」
『うむ。妾に掛かれば朝飯前、よ』
「「なんでゲームのキャラがいるの(ですか)ーーーッ!?」」
それは、有名なRPGの某氷の精霊でした。
……というかほんとになんでなのですか……?
~転移符
オコジョがまほネットで購入した模様。仮契約者が四人もいるんだし、それぐらいの出費も懐に優しいだろう。
~インフェルノアニキ×37
筋肉祭り。マッスルマッスル。
悪夢が顕現したおぞましい現実。実際目の前に居たら泣くどころの話ではない。やめてようやめてよう。
ちなみに魔法の射手や召喚数はこの世界線では素数を元に考えています。原作でも元々はそうだったらしいよ?
~登校地獄が原作以上にチートでは?
実際ただ登校させるだけの呪いでエヴァに止めを刺せたナギがおかしい。
まともに考えたらこうなった。
~戯言だよ
伏線回収。何人が本気にしていたのかな?
いつから烏丸が『本物』だと、錯覚していた…?
~セルシウス
烏丸の切り札(その一)。
召喚されると『吹雪』という『天候』も一緒に召喚される困った娘。
詳しくは次回説明予定。
やりたかったことを意外と安易に出せまして、ちょっと安堵しています
でも感想でなんと言われるかガクブル。セルシウスは人気だもんなー。キャラが違う、って確実に言われそう。でもこの娘はゲームから直接召喚したわけじゃないから、ツッコミあったら次回まで待っててね?
ガチバトルっつうよりは一部一方通行のフルボッコになりそうな予感
それでも! 彼女らが! 泣いても! 書くのを! 止めないッ!