・・・の前哨話。大体二回くらいです
『四月二十一日【午前】』
「いいか貴様ら! 『ボールは友達』などと腑抜けた戯言は忘れろ!
ボールとは奴隷だ! 己がどれだけの影響力を持ってそいつを従えられるかこそが! 勝敗と実力の上下を決める!
それぞれ自分たちの支配力をフルに発揮できるように! 全力で部活に取り組め!」
エヴァ姉の編入で一時期沸いた男子部の興奮も一様の沈静化を見せ始めた土曜日、本日の朝練は宍戸先輩のそんな宣言で始まった。
思わず唖然とする俺を放置して、ジグザグドリブルの五百メートル往復を開始する部活仲間たち。
というか放置でいいのか、あの人を。キャ●翼を全力でディスる様なこと言ってるんだけど。
「……何があった?」
「ん? あー、烏丸はここしばらく来なかったもんな」
同年の一人が納得の表情で応えてくれた。
仕方なかんべよ。ここ数日、エヴァ姉の相手をしていたんだし。男子部の配置とか説明とか連れ回されて(デートして)いたのがここんところの我が記憶。部活に来るのが久方振りすぎてこいつの名前を思い出せない。
「振られたんだってよ、宍戸先輩」
「そーなの? 彼女に?」
「いや、和泉」
……どゆこと?
和泉を振ったのがあの先輩だったのではなかったっけ?
「……同学年の彼女とやらはどうした」
「そっちはバレンタインにはもう振られていたらしい」
ふーん。
それで年下の女子によりを戻そうとして改めて振られたー、とか? なんだか荒れてるのはそんな理由か?
「それにしたって、あの先輩ならお望みの『同学年の彼女』がいくらでも作れるだろうに」
イケメンだし。悔しいけど。
「それがさぁ、宍戸先輩がバレンタインにもらったチョコの数、知ってるか?」
「いいや?」
「ゼロ個だってよ!」
プー、クスクス! とでも言いたげにほくそ笑む部活仲間。正直嗤うしかないだろうが、疑問も沸く。
あの人選り取り見取りなタイプと違ったん?
「何でも、件の彼女に宍戸本人の悪い噂を友人伝ってあらゆる方向へと広がっていったらしい。女子のネットワークって、怖いよな」
あ、主将。聞いてたんすか。
つーかそこまで言われるって、本気で何やったんだあの人。
「小倉! 烏丸! 何をくっちゃべっている!
ダッシュでノルマ追加だ!」
「「げぇっ!? 倍っすか!?」」
ジグドリ(略)はノルマを追加されると倍の距離にされる。すなわち一キロ――、
「いいや、――十三キロだ」
「「なん、だと……っ!?」」
やつあたり、カッコワルイ。
× × × × ×
「ダッシュで、十三は、死ねる……っ」
「」
息も絶え絶えにノルマ完了。
俺、なんで朝から全力疾走せにゃならんのだろー。一緒に走った小倉(仮)は息もしてないのだけど。というか死に掛けておらんかね?
「おつかれー、災難やったなぁ」
「おー、和泉か、さんきゅ……」
スポドリとタオルを手渡され、とりあえず死に掛けている小倉(仮)に半分ほどかけておいた。肌から呑め。
「――無茶だ……ッ!」
陸地で溺れる小倉(仮)が、現世に帰還する。
「生還したならそのまま行けよ、また倒れたら目も当てられねーぞ」
「う、うぉおぉ……、烏丸の救助方法が鬼畜過ぎる……」
充分優しいだろーがー。
よろよろと歩む小倉(仮)を見送り、和泉に目を向けた。残りのスポドリを口に含みつつ。
「助かった」
「助け方間違うとるよ」
ハハハ、ソンナバカナ。
「で、宍戸先輩を改めて振ったって、マジ?」
「あー、それを話しとったんか」
「なんで断ったんだ? よりを戻すのも悪くは無いと思うんだけど」
正直、将来的にナギスプリングフィールド(偽)相手に見込みの無い恋愛をするよりかは現実的なお相手にも思えるのだけど。
いや、宍戸先輩は見た目はいいけど性格的に難有りなのか? そうでもなければ女子友達に悪い噂を広げられる謂れも無さそうな……?
それでも一応は和泉が最初に告ったのは件の先輩だから、改めて縁られるとそれを受け入れてもおかしく無さそうには思えるのだけれど。
「烏丸くーん? 女の子にそういう聞き方するか?」
「え、だめ?」
「減点1、女の子は繊細なんやで?」
知ってるよ。でも男の子も繊細ですからね?
「罰として明日一緒に買い物に付き合いなさい」
「あ、それ無理だわ」
「え」
ほぼ脊髄反射で答えてたけど。
あれ、今のひょっとして、デートのお誘いだった……?
「え、ちょ、なんで!?」
「いや、先約があるからさ。済まんけどまたの機会に」
「あ、ああ、そうなん? そんなら仕方ない、かな……」
かなり残念そうな和泉さん。
むう、マジでデートのお誘い? 俺いつの間にこの娘にフラグ立てたんだっけ……?
「ちなみに先約って誰かと?」
「おお、明日菜と」
「え」
× × × × ×
斯くて翌日。日課の新聞配達を終わらせ、エヴァ姉の別荘に寄ってからの一時帰宅。
野暮用の配分がどうにもこうにも手間がかかる。
一日経過するだけで別荘の『中』は一ヶ月経つわけだから、一週間も過ぎれば半年。一ヶ月過ぎれば二年を悠に超過する。
下手に手を出せば時期がずれるし。どう見繕っても修学旅行には間に合いそうも無いし。
茶々姉妹にやり方をある程度伝授しても、安定するまでは目を離せない日々が続きそうではある。
そんな益体も無いようなことをつらつら考えつつ、自室の扉を開けた。
「「「うーっ☆どっかーん!」」」
――パタン
「――………………?」
思わず閉めてしまったけど、今の、何……?
ネギ君とオコジョと大芝が、何かを謳いつつ踊っていたような幻覚が見えた。
……幻覚、だよな?
もう一度、扉を開く。
「「「ミミミン! ミミミン! ウーサm」」」
――バタン
――うん。俺は何も見なかった。
少し早いけど待ち合わせのところへ行こう。
ああ、今日もいい天気だ。
× × × × ×
「こちらA、ターゲットは合流した模様です、どうぞ」
「こちらY、拾音機の調子は良好です。音声を拾いますので各自判断を」
『ご、ごめん! お待たせ!』
『いや、こっちが勝手に先に来ただけだし、気にしなくていいさ』
『ううん、それでもごめん。あ、でも、待っててくれてありがとね?』
『気にすんなって』
「ターゲットはまさかの三時間待ちでした」
「なんでアレで笑って許せるの……?」
「表情見るに完全に気にかけていません。やべぇ、大物過ぎて惚れる」
「しかも時間見る感じじゃ明日菜も遅刻なんじゃ……」
「現在11時半。そやね
……問い詰めたいなぁ……っ」
「……二人とも、怖いんだけど」
こんにちは、アキラです。
現在空気が重いです。
何でか知りませんが烏丸君と明日菜がデートをするとかで、その情報をどこから聞きつけたのか亜子とゆーながノリノリで追跡を開始しました。
追跡一時間で発見できたものの、それから三時間。私たちはずっとこの場所に隠れています。
亜子の口調が若干おかしいのも仕方が無いのかもしれません。
「ターゲットが移動を開始。追跡を再開します」
「了解。見つからないように注意しろ」
「らじゃー」
「なんで二人はそういう話し方なの?」
別に無線で連絡を取り合っているということもなく、三人一緒に動いているのですけど。
ちなみにまき絵は部活です。烏丸くん絡みになるとなんだかタイミングが合いませんけど、気にする必要も無いかと思います。
『時間的に、まずは昼でも食うか
何がいい? 奢るけど』
『えっ!? いや、そんな悪いわよ! 自分の分くらい自分で払うし!』
『こういうものは男が支払うんだよ。つーか旅先でもそうだったろうが、今更気にすんなっての』
『い、いや、でも、そんなお腹すいてないし、そ、そう! 食べてきたから今すぐ食べなくってもへいk』
――クゥゥゥ
拾音マイクが明日菜のお腹の音まで拾いました。
ゆーなは一体何処に仕掛けたのでしょうか。
『……食べてきたから?』
『う、うぅぅぅ……』
顔を真っ赤にしている明日菜が、ちょっと可愛いです。
『じゃ、やっぱまずは昼だな。俺も空いてるし、少し店にでも入ろうぜ』
『うん……』
食べ歩く、という選択も捨てがたいけど、烏丸君はまず落ち着ける算段もしているように感じます。
軽く微笑みつつエスコートする心を忘れない。意外に紳士をやってます。なんという雰囲気イケメン。
「あれは、落ちるな」
「マジで? 亜子あーゆうのしてほしいの?」
「してほしいっちゅうか、女の子をそれなり立てるって同年代の男の子にはあんまり無いやろ?」
「うん」
「そういうギャップとか、萌えへん?」
「うん?」
なんか、亜子の言ってることが理解できません。
「というか、亜子はやっぱり烏丸くんのことが好きなの?」
「「ふぇっ!?」」
「え、隠してたの?」
そして一緒に驚いているゆーなの反応が若干おかしいです。
「い、いややややや、すきとか、そんな、はっきりしたもんでもなくってな! ただ、ちょーっときになるっていうか、ちょっとな、ほんのちょびーっとな! 思わず目でおってしまうていどの気になるってだけであって! ほら! 去年はなんだかんだで二ヶ月いっしょにおった仲なわけやしな!」
「その理屈で言ったら2-A全員が範囲に納まるよ」
というか、亜子は結構面食いな趣味をしていたと思っていたのだけど。前に振られたっていう先輩とかも部活のエースだって聞いた気も……。……? あれ? そういえば烏丸君って亜子と同じ部活だっけ?
「スタンド能力……? いや、でもこんなことに使うような人じゃないし……
っていうかそんなに効果も続かないはずだよね……?」
「? おーい、アキラー? どうしたのー?」
「ん。ううん。なんでもない
ねえ亜子、なんで好きになったのか理由聞いてもいい?」
「せ、せやから、好きとかそういうんじゃなくって……」
「もう諦めたら? ばればれだよー?」
「ううう……」
前から気づいていたようにゆーなも言うけど、間違いなくさっき気づいたんだよね? さっきの反応どう考えてもおかしいもんね?
そして、ゆーなもひょっとして……?
「え、と、な? 宍戸先輩に振られたんやけど、そのあとで、この間またよりを戻さないか、って聞かれたんよ」
「「あれ? 烏丸くん(そらっち)は?」」
「ちゃんと話すから
そんときにな、先輩の考えてることがわからなくなって、私、悟ったんよ」
「「なんて?」」
「――イケメンは、信用できへん」
………………。
え、その理屈でいくと烏丸くんに、っていうのはひどくない?
~ボールは友達!
お前は友達を足蹴にするのか?
過去何回も問いかけられたコピペ。
~宍戸先輩
二話以来の再登場。
同年代の彼女にエッ●なお願いをして盛大に振られたイケメン。見た目イメージは工藤。
たった一回の失敗が口火を切り、今年の戦績は見事に0個。ザマァwww
~小倉(仮)
そらと同年の部活仲間。
無駄な体力のあるそらと違って一定値は普通の子。十三キロダッシュとか、死ぬ。
~和泉亜子
元はヒロインだったはずなのにそのキャラの薄さからか第一ヒロイン、ヒロイン候補、と格が下がってゆき、ついには半分くらい忘れられかけていた薄幸少女。
サッカー部の主将に告白し付き合いもするが、相手の度量の狭さのせいで振られる羽目になった、改めて見てみると本当に哀れな扱いに涙が出る。
烏丸のことは少なからず想っているかもしれないが、果たして…?
~うーっ☆どっかーん!
電車で片道一時間。
~そしてこちらは三時間
男は待つもの。というか、待て(鬼畜)。
~イケメンは信用できへん
ほんとの理由はどうなんでしょうかねぇー?(意味深)
エヴァの独壇場が始まると思ったかい?
残念! 亜子でした!
いや、残念ってわけでも無いと思うのだけど
色々試行錯誤していたら少しだけ時間がずれました。遅れまして申し訳ない
IFを2つ思いついてしまったので、仕方ないわな
修学旅行に行く前のインターミッション。明日菜の誕生日を祝うために前々から予定していた烏丸君の巻
何のことはなく、単に幼なじみの好きなものを買ってあげようという同年というよりは父親みたいな思考回路の果ての有様です。スニーキングミッションが始まるよ!
この裏では当然「あれ」も行われているので……?
以下次回。それでは