ネギまとかちょっと真面目に妄想してみた   作:おーり

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相変わらずキンクリが仕様です
何話目かわからない人のために第65話
番外編除いたら60話だけど


『母の日の贈り物』

 

 私服姿で墓石の並びの中を進み、手に持った献花を目当てのそれに供えて、静かに手を合わせる。その隣を歩む俺はというと黒のスーツでビシッと決めている。ある意味想定外な格好だったはずなのに、彼女はというと「似合うじゃん」と微笑って言うのみで。その仕草が、少し、不気味。

 で、俺は実際のところそんな裕奈の今日の大人しさに若干引き気味であるが、そういうことに注視する余裕は余り無い。

 さっきからこちらを見ている視線が四つほどあるので。

 

 

「――母さん、今日は紹介したい人がいるんだ」

 

 

 なんか語りだした。

 墓前に合わせていた手を休め、遠い目をしつつ裕奈が語りかけるのは、そこに眠るであろう彼女の母への言葉だった。

 

 

「こいつ、烏丸そらっていうんだけど、私の――、

 

 ――友達」

 

『って、ただの友達!?そんなの紹介されてもリアクションし辛いんだけどっ!?』

 

 

 ですよねー。

 墓石の正面に立つ裕奈似の大人の女性が、すげぇいいツッコミを入れてくれた。半透明だから、多分幽霊かなぁ。

 あと後ろのほうのストーカーしてる三人組も、いっしょにずっこける雰囲気を感知した。

 

 

「えっと、紹介に与った烏丸です。本当にただの友人でして、なんでこいつこんなに雰囲気出して紹介するのかと……」

「えー、いいじゃんこれくらいー」

 

『な、なんかごめんなさいね?裕奈の母の夕子です』

 

 

 いえいえ。

 しかしリアル夕子さんと邂逅するとは思わなかった。スタンド使いだから見えるかなーとは思っていたけど、さよちゃんと付き合ってるうちにこっちのほうの感受性まで高まっていたらしい。

 と、なると俺の用事のほうも、見えるのか?

 

 

『それにしても裕奈に男の子の友達が出来るなんて、あの人も穏やかじゃないかも知れないわね――』

 

 

 なんか語りだしてるけど、これくらいの女性がおしゃべり好きだというのはまあ周知の事実で。というか、裕奈には見えてないんだよな?夕子さん。

 俺もそれに応えるわけには行かないよなー。

 

 

「ちょっとまったー!!友達だって言うんならうちらは親友やでー!!」

「えっ、ここで出るの?」

「ゆーなー!ごめんねー!」

 

「えっ!?あれっ?亜子にまき絵?アキラまで……」

 

 

 ストーカー三人組も出てきた。

 よくもまあ麻帆良から多磨霊園にまでついてこれるものだ。

 

 

『あらあらこんなにお客様が、お飲み物あったかしら……』

 

 

 いえ、もう帰りますんで。お構いなく。

 茶菓子代わりにお供え物とか出されるのもアレなんで、ちょっと落ち着いてください。

 

 本日五月の第二日曜・母の日、ということで裕奈は夕子さんの墓参りに参上。俺は他に用事があったので多磨まで来たのだが、麻帆良からのルートはほぼいっしょなために途中の電車で遭遇したわけである。

 あの三人組はいったいどうやって俺たちの邂逅を嗅ぎつけたのだろうか。色々謎が残る一日が始まった。

 一頻り騒いだ後、帰りごろになって、

 

 

『それにしても、裕奈がお友達を連れてきたのがこんなに嬉しいとは思わなかったわね……。

 皆さん、これからも裕奈と仲良くしてあげてくださいね』

 

 

 などと。そんないい笑顔で言われたら応えざるを得ない。「もちろんです」と最後に礼をして、墓前から立ち去った。

 

 

   × × × × ×

 

 

『あらあなた見えてたの?見えてたんなら見えてたって言ってくれればいいのにー!もう、やだわ。お化粧もしてないじゃないの。こんなすっぴん見せちゃうなんておばさん恥ずかしいわー』

 

 

 憑いてこないでもらえませんか……?

 最後に応えたあの礼が駄目だったのか、しっかりと背中に乗っかっているテンションやや高めのおばさゲフンゲフンお姉さんである。友人の母に取り憑かれるとか、どういうシチュエーションだよ。括弧付けたのが台無しだよ!

 そして運動部四人組も付いてくる。見世物じゃねーぞ。

 

 

「えー?そらっちの用事が終わったらでいいからさ、カラオケ行こーよ。それとも一日中だったりする?」

「ネギ君とか呼ぼっかー」

「今更やけど、烏丸君そのスーツかっこええなー」

「学生服でも良かったんじゃ……?」

 

「いっぺんに喋んな。一日じゃねーからカラオケぐらいいいけど、あとネギ君は用事があるとかで今日は朝からいない。このスーツはもらい物だ、学生服で休日街中を歩くかよ」

 

 

 普段からそんな格好したら本格的に這い寄る過負荷になるじゃないですかやだー。

 そんな旨を言ったらエヴァ姉からもらったのがこのお手製のスーツである。ちなみに神多良木先生の着ているものを参考にしたらしく、スーツ自体が弱目の概念武装に近いとかなんとか。手袋を付ければ人を殴ることが特技の某就活魔術師になってしまうな。ならんか。

 

 

「お墓に用事ってことは、烏丸君もお母さんが亡くなったの?」

「お前ズバズバ聞くな。いや、俺は母じゃねえよ」

 

 

 佐々木の距離感がおかしい。

 それはともかく、到着したのは『千束』と家名のある墓石の前。予測通り、初めて見る父親らしき色黒のおっさんの姿が其処にはあった。

 

 

『よぉ、今年もきたのか。つっても、姿は見えてねえだろうけどな』

 

 

 気安さから予測していた通りの性格でもあるらしい。安心した。

 安心して今年も、用意してきた線香に火をつける。

 墓前に供え、懐から扇子を出して、バタバタと扇ぐ。

 

 

『げぇっほげほげほっ!おっまえ!毎年毎年止めろそーうのっ!?』

 

 

 効いていたらしい。この蚊取り線香も。

 

 

「そ、そらっち?それ、どーいうこと?」

「なんや、普通の墓参りとは違うよーなー……?」

 

「当然だろ、俺はこのおっさんに参るつもりなんざ端からねえし」

 

 

 母の日、ということで俺の出来るささやかな贈り物がこれくらいしかないのである。

 

 

『チクショウこの親不孝ものめっ!?毎年毎年地味な嫌がらせばかりしに来るとか暇なのか!?』

 

 

 実の母は今何処にいるのかまったく知らないし、母の日とはいえわざわざ来てやっているんだからありがたく思え糞親父め。

 

 

「――……やっぱりお前だったのか、毎年人のうちの墓を荒らしているのは」

 

 

 と、そんな声が聞こえたので振り返る。

 本気で珍しい珍客と遭遇したことに驚きを隠せない。其処には同学年くらいの色黒の男子が立っていた。

 

 

「よぉ。ばあさんはどうした?」

「死んだよ。今年からは僕が家長だ、だからもうお前にうちに来いなんてバカな勧誘はもうする気はない、とだけ伝えておこうと思ってね」

「そいつは重畳」

 

 

 けらけら笑ってそいつの返事に気分が良くなる。ここ数日で最も良好なニュースを聞いたわ。

 しかしこいつと話しているとドッペルゲンガーと遭遇している気分になるなぁ、相変わらず。

 

 

「烏丸君、この人、誰?」

 

「ん、兄かな、多分」

「そうだろうね。まあ十中八九確定だけど」

 

 

 揃って憶測となる現状を応える。

 答えを聞いた和泉は、当然ながら怪訝な表情を浮かべた。

 

 

「いや、多分って」

 

「仕方ねーだろ、異母兄弟なんだから」

「そこに眠っている糞親父の馬鹿な行動の結果さ」

 

『揃いも揃って親を敬わない餓鬼どもめ、死んだ暁にはお前らも俺の一部にしてやるから覚悟しやがれ』

 

 

 くそ親父がなんか言ってるけど無視。

 全員は当然ながら絶句していた。

 

 

「ええっと、聞いていい話じゃないよね」

 

「それほど面白い話でもないなー」

「それはそうと、お前毎年荒らすのは止めろよ。去年なんて墓場でバル●ン焚いて、火事かと思われたとかって僕が住職に怒られたんだからな」

「さーせーん、反省してまーす」

 

 

 墓石に生卵をぶつけないだけマシだと思って欲しいけど。こう見えて配慮してるのよ?他の眠っている方々には。

 

 

「やるなら徹底的にやれ、今から僕が作った最高級の呪殺用の呪符を張るからお前は念を込めるのを手伝え」

「いや、お兄様の家族の方もこの中じゃねえの?」

 

 

 すごい手のひら返しを目の当たりにした。

 言うが早いかぺたぺたと貼り付けてゆく呪符の枚数に少々引き気味の面子。そして目に見えて苦しみだす糞親父。

 効くのか。死んでいるのに呪殺とはこれ如何に。

 

 

「お前は知らなかっただろうがな、この墓には糞親父殿しか眠ってないよ。一族の鼻撮み物だからな」

「それ早く言ってくれよ。言ってくれればもっと強力なのを用意できたのに。あとこのお嬢様方は一応堅気のお人らだからあんまりそういう芸風を見せるのは止めてね」

「善処するさ」

 

 

 スタンドで『死』『苦』『醗』『悔』と一文字一文字丁寧に書き込む。悔やんで腐って苦しんで死ね。

 

 

『ぎゃああああ!?この親不孝ものどもがぁあああああ!?』

 

 

 やだ……!ちょーたのしー……!

 グズグズに霊体が崩れてゆくのを見て、最近溜まっていたストレスがぐんぐん消費できているのを実感できた。なんて有意義な一日なんだろう……!

 

 

   × × × × ×

 

 

 お兄様と別れて晴れ晴れとした気分のままに、都心方向へと繰り出す我ら麻帆良運動部五人組!気分が良いのでこのまま服でも買いに行こーぜと女子らを誘ってみたところokの返事を貰ったぜ。

 ひゃっほう!可愛い女子とデートだー!若干人数多いけど気にしないやー!

 

 毎年毎年陰気になるだけの母の日であったけど、今日は何より楽しい一日になった。

 ここ数年で稀に見るすっごい気分爽快。こんなことでしか爽快になれない日常って何ナノかなー?という部分については触れないことにしておく。

 

 

「えーと、さっきのって聞いてもいい?」

「いーよー、今すごい気分良いから。ある程度なら答えちゃうよー」

 

「うわ、すごい爽快な笑顔。こんなそらっち見たことない!」

 

 

 尋ねてきたのはアキラたん。俺は新しい服に身を包んで気前良く返事を返した。

 

 

「あの人って本当に烏丸君のお兄さん?」

「年齢一緒、って言いたいか?マジだよ。お兄様の母親が身篭っているときに俺の母に手を出したのがあの糞親父っていうだけでね、」

「あ、なんかもういいや。この時点ですごい重いし」

 

 

 そう?ここからが割と壮絶で凄惨な俺の過去話に繋がってゆくのだけど。

 両手を広げて拒否のポーズをとるアキラたんに免除して話すのを止める。

 

 

「家に、とかどーこーゆうとったのはなんなん?」

「お兄様のお婆様の勝手な配分でねー。そもそも『千束(ちたばね)』の家は呪術的な大家であの婆様がその家的に俺の潜在能力がどーのと言い出したお陰で勧誘されていたってだけだよ」

「呪術て」

「現代でもそーいう考えはまだいるってこと。それほど珍しくもねえよ」

 

 

 それが現実的に実在可能かどうかは言わないでおくが、和泉はともかくアキラたんは気付いていそう。ま、この中では唯一魔法使いの実在を知ってるから、気付くのも無理はない。

 

 

「他に聞きたいこととかってあるかな?」

「んー、じゃあこれで最後にするね。烏丸君のお母さんって今何処でどーしてるのかな?」

「さぁ?」

 

「「「いや、さーってことはないでしょう」」」

 

 

 異口同音に口を揃えて(過剰表現)、質問した佐々木以外のツッコミが入りましたー。

 本当に知らないんだから仕方ないでしょうよ。失踪してからこっちも、探すつもりもないからなー。

 

 

「――失礼、貴方のお名前をお聞かせいただいても構いませんか?」

 

 

 四人のツッコミを聞き流しつつ店を出ると、唐突に声をかけられる。

 見た目は良い所のお嬢様みたいな容姿で、多分高校生くらい?3-Aに見劣りしないくらいの美少女に逆ナンを食らったでござる。

 

 

「え、えーっと、烏丸です、けど……?」

「烏丸……、ひょっとして下のお名前は『そら』?」

「ええ、まあ……」

 

 

 さすがの俺も突然の展開に警戒してしまう。

 なんでこの人、俺の名前を知ってるんだろう。

 

 

「なるほど。ようやく見つけました……――」

 

 

 感慨深げで意味深な台詞を吐き、俯き表情を曇らせる美少女。それを見た俺の直感が告げた。

 あっ。なんかやばい。

 

 

「そらっちー?こんな美少女がそばにいるのにナンパですかー?」

「あかんなぁ、あかんよ烏丸くん。その人も嫌がっとるやろ?ほらはよ行かんと、な?」

 

 

 うん、ちょっと怖いお二人の視線は今は見なかったことにしとくから、この人から離れるのを少し手伝ってくれませんか?今はこの人の方がちょっと怖いっす。

 

 

「――お父様の仇ぃぃぃッ!!!」

 

「って、あっぶねええええッ!?」

 

 

 背後にやってきた二人に視線を移した瞬間、目の前の美少女がナイフを腰に構えて突進してきたところを間一髪で回避。

 せっかく買ったばかりの新品が、脇腹の辺りを切り裂かれた。

 ……服とか苦学生の俺には割と贅沢品なのに!?なんてことしやがるこの女!

 

 

「……避けましたか。次は外しません!」

 

「いや待って!?仇とか狙われる覚え俺ないんだけど!?」

 

「そんなはずはありません!貴方がお父様を手にかけたと、元協会の方からお聞きしました!」

 

 

 う、心当たりがありすぎる。

 つうかこんな所でおおっぴらに話すことじゃない。店の外だしギャラリーが既に大量に居るし、何より後ろの四人に思いっくそバレちゃ駄目な話題じゃね?

 

 

「とりあえず、名前を言え。それが目的の人物かどうかを知るのにはまず確認からだ」

 

 

 聞いてから警察に突き出そう。

 都心の繁華街ど真ん中で刃物振り回しているお嬢様なんて、普通に考えてそっちにご厄介になるべき人物だと思うんだ。念のため、認識阻害と人払いと隔離結界と捕縛魔法の準備はしておくが。

 一先ずお嬢様も、元々こういうことには慣れていない性格なのだろう。俺の話に耳を傾けて、深呼吸をし、キリッとした表情でこう言った。

 

 

「私の名前は野木坂遙、お父様の名前は野木坂厳冬です。この名前、忘れたとは言わせませんよ……っ!」

 

 

 ………………?

 え、誰?

 

 

 




〜黒スーツ
 イメージは喪服。好ましくない相手に会うときそらは積極的にこの格好で徘徊する。弱目の認識阻害と物理障壁と魔法障壁を術式にして随所に編み込んだとか言うエヴァ珠玉の一品。ある意味戦闘服。

〜千束 津袖(ちたばね つのそで)
 そらとは腹違いの兄。性格が似たり寄ったりなお陰で揃って喋られるとどっちが喋っているのかわからなくなる、意外な似たもの兄弟。一人称は僕。

〜千束 恩寿(ちたばね おんじゅ)
 そらの父親。麻帆良が進出したお陰で陰日向に行かざるを得なくなった千束家の家長であったのだが、それを口実に麻帆良に攻め込んだ際に当時学生であったそらの母である千歳を手篭めにするという暴挙を犯す。理由は『自身の想定する呪的術式の構築の一環として』という外道過ぎるもの。それから数年後、放置していたそらを『回収』するために再度麻帆良へと踏み込んだ際、そら自身の手によって再起不能に追い込まれる。それから数年の後に床から出ることがないままに自殺。自殺の際めんどくさい術式を実家に仕掛け、以降実家で死ぬ者はその術式に取り込まれるという悪循環が今もまだ続いている。

〜野木坂 遙(のぎさか はるか)
 厳冬さんの名前を書いてからこの娘を思い出した。せっかくなので出演。別に名前読みが一緒だからといって同一人物ではない。多分別世界線のパラレルな存在なんじゃないかねー。


厳冬さんの名前、そら知らなかったもんなー
書くこと無いから注釈だけで切り上げますかね

あ、前書きと後書きは本筋とは基本完全に別物だと思ってくださると有難ry

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