ネギまとかちょっと真面目に妄想してみた   作:おーり

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あれ?ちょっと間が開きすぎたかなーって


『レイニーデビル【追憶風味】』

 ……土砂降りの雨の下、地面に倒れ伏し這い蹲って身動きの取れない男子がいる。

 右の手のひらと左肩、そして右脚の太ももと左の足には、無数の針で穴を開けられたような痛々しい傷痕が。開いた穴からは流血が血と一緒に意識まで流れ出して逝きそうになるのを、彼は止めることも出来ずに、ただじっと待っている。

 ……次の攻撃が来るのを。

 

 

「――グァ……ッ!」

 

 

 バツッ、という音が背中、腰の辺りから聞こえた。

 『攻撃』を防ぐことが出来ず、新たに開いた穴は貫通し、噴出する血流を唯一動かせる右腕をなんとか動かして腹へと当てる。

 ゴボッゴボッ、と呼吸のたびに吹き出し、死に一歩近づくことを実感しつつも、彼はスタンド・インストールドットを出すことを止めない。

 

 スタンドが攻撃を受けたとき、その効果は使い手にも影響するが、使い手が攻撃を受けてもスタンドにダメージが影響することはあまり無い。

 あるとすれば使い手が仕舞おうとするか、それとも、死ぬか。

 

 

「(――……どうして、こんなことになったんだっけ……?)」

 

 

 見えない攻撃を防ぐことも出来ず、猫科の動物に追い詰められた獲物のように弱々しく抵抗することしか出来ずとも。

 烏丸そらは思考することを止めなかった。

 

 

   × × × × ×

 

 

「というわけで新しい魔法生徒の皆さんでーす」

 

「どうもー!」

「どーもー」

「やっはろー!」

「ど、どうも」

 

「「「「「「「「「「……は?」」」」」」」」」」

 

 

 総勢十名の唖然とした呟きが見事にシンクロした。

 唯一、同じ反応を見せなかったのはアキラに近づいていっている茶々丸である。友人が堂々と『別荘』へと大手を振って入って来れるようになったことが嬉しいのか、真っ先に会釈した。

 

 

「いらっしゃいませアキラさん。並びに新たな魔法生徒の皆様。ようこそマスターの別荘へ。

 マスターに代わりまして心より歓迎いたします」

 

「おおう、反応堅いなー茶々丸さんは」

「あはは、いきなり来てごめんなー」

「うん、ありがとう茶々丸さん」

 

「ずるいよいいんちょー! わたしだってネギ君の役に立ちたいのにー!」

「ちょっ、まき絵さんっ!? 真っ先に突貫してくる前に何か説明をっ!?」

 

 

 一足早くまき絵があやかに突貫するのは、まあご愛嬌と言ったところだろうが。同じようにネギの方向へと興味のベクトルがアクセルを踏んで加速している、そんな同類同士の抜け駆けが見逃せなかったのもあるかもしれない。

 その前に四人がこの場にいるということに、やはり最低限の説明はして欲しい。そらたちが来る前に待機していたネギ・あやか・のどか・ゆえ・ハルナ・このか・刹那・明日菜・古菲、そしてエヴァンジェリンの総勢十名の内心が、そう地味にシンクロした。

 その中でも比較的平然であるこのかが、そらに顔を向ける。

 

 

「……で、どういうわけなん?」

「あー、先週に襲撃されてな。そのとき一緒に居たせいで魔法バレすることになった」

 

 

 なんか耳を疑う単語に再度聞き返したくなる一同。

 当然の如く、このかは聞く。

 

 

「そやのー? で、その襲撃犯は?」

 

 

 おい、反応はそれでいいのか。とあまりにも淡白なこのかの反応に、誰もが別の意味で絶句した。

 

 

   × × × × ×

 

 

「さて、それでは始めるとするかのぅ」

 

 

 ところ変わってこちらは世界樹前広場。

 魔法教師立会の下、先週に襲撃を噛まし、その結果として麻帆良預かりの魔法生徒の一人として紹介されることとなった野木坂遙が、その実力をお披露目していた。

 

 

「私が言うのもなんですけど、いいんですか?烏丸さんをまた襲うかもしれませんよ?」

「それならそれで、やはり麻帆良に居たほうが阻止し易いのう。二人の言い分のどちらが正しいにしろ、白昼堂々街中で神秘を扱うようなものを放逐するわけには行かないのじゃよ。関東魔法協会の長としてものう」

 

 

 福禄寿みたいな頭をした老人・近右衛門がそう諭して朗らかに笑う。

 普段より魔法関係者には厳しい態度で接することが多い老人であるが、たとえ犯罪者だったとしても子供には相応の態度で通すつもりなのか。教育者としては最低限度己に課している様でもある。

 

 

「それで、野木坂くんは何が使えるのかね?」

「……式神を少々」

 

 

 若干憮然とした態度のままだが、遙は応えて符を一枚ポケットから取り出した。

 

 

「御い出ませ、星屑少女メルティちゃん!」

『まじかるー』

 

 

 唱えると同時に眼前へと差し出した符から再生されたのは、2.5次元を等身大に再現したような表情の固まった美少女フィギュアであった。

 それを目の当たりにした魔法教師らの数人が失笑を漏らしたが、その美少女フィギュアの膂力に漏らした笑みが凍るのはまた別の話。

 

 

   × × × × ×

 

 

「で、修行ってどんなことしとるの?」

 

 

 適度に説明を終えて、比較的手持ち無沙汰に陥った亜子が皆に尋ねる。内数名が顔を曇らせて目をそらした。

 

 

「えっ。どうしたの?」

「まだ初心者モードも攻略できてないらしいからな、成長性の見えない成果に己で恥ずかしいんだろ」

 

 

 辛らつなコメントがそらから放たれる。言われたチームネギまは言葉も無かった。

 

 

「ちなみに、あたしらには魔法教えてもらえるの?」

「そんな暇あるか」

 

 

 裕奈の上目遣いがそらには通じない。

 ばっさりと斬って捨て、そらは不満げな裕奈に更に追撃を入れる。

 

 

「事情を話す必要があるからつれてきただけだからな。正直どんなにファンタジーな魅力があるように見えても結局のところ技術でしかないし、教える必要性のあることでもない。本当にしっかり学びたかったらそういう専門家に習わせてもらえ」

「烏丸くん、私らになんか厳しくない?」

 

 

 そんな亜子の質問には、うんざりとした顔でそらは応えた。

 

 

「襲撃されたのも後始末をしたのも俺なのに、お前らの一時監督役にされてたからな。ネギ君に任せるにしても、魔法生徒が増えすぎると一番近い俺が芋蔓式に引っ張り出されるだろうから、正直お前らには『普通の生徒』をやっていてもらいたい」

 

 

 疲れた表情で吐き出す様子に、申し訳ない気持ちが先行する亜子。

 だが、そんなそらは気にも留めない、とばかりに裕奈が不満を漏らした。

 

 

「えー?あたしも魔法とか使ってみたいなー。杖を使って変身とかできるんでしょ?」

 

「そういうのは精々中級者程度から上だろうな」

 

 

 応えたのはエヴァだ。

 実際『変身』は『衣装』か『実体』かで用途も目的も分かれるだろうが、魔法初心者ではどちらにしろ一朝一夕に手に出来る領域ではない。

 

 

「え?魔法少女みたいなことって無理なの?妖精とかと契約して平和を守る!とか?」

「漫画やアニメと混同するな。それに変身魔法なんて使い手も今時そんなに居らんわ」

「えー、そーなんだー?」

 

 

 何を妄想していたのか知らないが、少々残念そうな声音で裕奈はがっくりと項垂れる。

 そんな彼女に声をかけるものが居る。

 

 

『へっへっへ、そんなお嬢さんに良~い代物がございますぜ?』

 

「ん?誰?」

 

 

 微妙に胡散臭そうな声音であるそれに振り向けば、ネギのペットのオコジョが煙草片手に歪な陰のある笑顔を浮かべていた。

 

 

「……あ!使い魔とかそういう奴だったのか、ネギ先生のペットって!」

 

『お、おおう、察しのいいお嬢さんでやんすね。まあ間違いじゃございませんけど。アッシの名はアルベールカモミールというケチなオコジョでごぜぇましてね、』

「前書きは要らん。どうせ仮契約だろ?」

『ちょ、師匠っ!?久し振りの出番ナンすからもうちょっと喋らせry』

 

 

――キングクリムゾン!――

 

 

 詳細はすっ飛ばされ、魔法アイテムを手に出来るという事情を教えられた裕奈は仮契約に乗り出した!

 但し、相手はそら。

 

 

「解せぬ」

「なんで?いーじゃんいーじゃん!こんな美少女とキッスできるとかお得だよ?」

「無駄だと思うのだけどなぁ」

 

 

 向かい合ってそんな会話を交わす二人。

 その代償に、周囲にいる少女たちはほぼ全員がジト目で二人の様子を見ていた。

 衆人環視の中ラブい空気が発生するには親密度が足りないのは事実なのだが、それ以前にそらに対してそれなりの感情を抱えているものが多過ぎるのも現状の一端。

 声を上げて制止するには、『恥ずかしい』やら『気持ちが言うほど足りない』やら『次は自分も』やらと思っている乙女らが居るというのも内情である。

 残りはやはり、昼間から盛るな猿が、という辛辣通り越して直死に直滑降な意見もまた無きにしも非ずなのだが。

 

 が、これから仮契約を行う二人にはそんなのは関係ない。

 

 ん。と目を閉じて、口を相応の形にし、所謂キス待ちの状態で佇む裕奈。心なしか頬が赤く染まっているようにも見える。

 対してそらはというと、

 

 

「あー……、ま、とりあえず試してみるか」

 

 

 そんな内容によっては最低とも取れる台詞を呟き、実は激しい動悸を気づかれないように、平静を装って口付けをした。――頬に。

 

 

「――あれ!?そっち!?」

「そーですよー」

 

 

 所々から、ホッ……という呟きや、ほほぅ……などという感嘆が聞こえるのだが、彼自身はそれを無視。

 確認すべきことは確認すべき相手へ、と視線を向けた。

 

 

「で?出たか、カモ?」

 

『あ、アレー?おっかしいなー?いくらほっぺとはいえ……。お二人ともぉー、本当にキスしましたぁ~?』

 

「なんだ、疑ってるのか小動物。縊るぞ」

 

 

 己の師匠のお家芸で脅して見せればひぎぃ!?とガタガタ震え始める小動物。

 だがしかし、今日のカモはこれしきではへこたれない。怯えて距離を取りつつも抗議の声を上げる。

 

 

『い、いや!だって!スカカードすら生まれないって仮契約のシステム上問題しかねぇっていうか!?』

 

「だから、俺の障壁で相殺したんじゃねえの?」

 

『障壁ってそんな効果ありましたっけ!?』

 

 

 さらりとそらの想定していた事情を説明され愕然となるカモミール。

 これでまかり間違って仮契約が成されてしまっていたら明石教授とかに何を言われるかわかったものじゃないな、などと自分の障壁の効果が間違ってなかったことにひっそりと安堵していることは誰にも知られちゃならないことだ。無論、先日闘将神仏の手によって直接浄霊してもらった夕子さんにもであるのは間違いない。

 

 その後、何故かアキラが若干距離を開けていたり、明日菜が何事か考え込んでいたり、と微妙に周囲の反応が腫れ物に触るように感じたが、程よく日常風景のままに修行風景も埋もれていった。

 というのが先週の話。

 

 そして本日早朝、新聞配達で一緒になった明日菜に仮契約で試したいことがある、というカミングアウト染みた宣言が怖くなって本日の活動を急遽中止に決定したそらは、放課後になって降り出した豪雨の中唐突に『狙撃された』。

 運動部四人組の身元引き受けをネギに明け渡すための手続きを学園長の下で済ませて、女子中学校舎からの帰り道の出来事であった。

 

 

   × × × × ×

 

 

 最初は左足、そして左肩だった。

 狙い撃たれたという感覚すら感じることなく、衝撃に足を取られつんのめって倒れこみ、混乱する頭のままに『攻撃された』と判断してスタンドを顕現させる。

 第二の攻撃はそれからしばらく後だった。

 『攻撃』が来ることを防ぐためにスタンドを待機させたまま一分、這い蹲って前へと進もうとした次の瞬間には伸ばした右手と右脚太腿に穴を開けられ、最低限頭部を守らせていたスタンドには掠り傷しかない。

 これらのことから、この攻撃は狙いがしっかりとしているわけではない、次の攻撃に移るためには時間が必要である、という推測が生まれる。

 そして最後の攻撃でそれは確信となった。

 身動きをあえてしなかったそらは、頭部のみを守らせて攻撃を待った。結果、経過した時間は同じ程度で、攻撃された箇所は一箇所のみ。

 攻撃スピードは目に映らないし、何処から攻撃しているのかわからない=射程が恐ろしいが、狙いは正確ではない。だが――、

 

 ――正直、このまま嬲り殺しにされるのも時間の問題であった。

 

 そんなとき、インストールドットの姿が一瞬ぶれる。

 どうやら活動時間も限界に近いらしい。

 そう覚悟すると、血と一緒に流れて逝きそうになる意識を取り戻したく思いながら、腹に当てた手に力が篭もった。

 

 ――そこへ、彼が現れた。

 

 

「……フヒヒ、いい様だね……」

 

 

 どもるような口調で、しかし抱えている愉悦を隠し切れない声音で、ルームメイトの大柴巧が茂みから顔を覗かせたのだ。

 

 

「――……お前、かよ……。なんか、したっけ、俺……?」

 

 

 その彼へと目を向けて、その背後に煙突のような形状の頭部を持つスタンドを従えている姿を見て、この犯人が誰なのかが一発で理解できた。

 あまりにも遅すぎる理解でしかないが。

 

 

「なんか……?お、おいおい、キミ、忘れたとは言わせないよ……?」

 

「……?」

 

 

 そらの言葉に、困惑したような声音で巧は言う。

 しかしそら自身身に覚えがなかった。少なくともルームメイトに此処まで攻撃されるようなことをした覚えは無い。そう自覚していたはずであったのだが。

 そんなそらの内心が理解できたのだろう。

 巧は激昂したように声を上げる。

 

 

「ぼ、僕のウサミン抱き枕……!ネギ先生に勝手にあげたのは、キミじゃないか……ッ!」

 

「………………あー」

 

 

 言われて思い出す。

 そういえばネギ君の同室決定日、一人寝が寂しく無いようにと部屋にあった抱き枕を手渡したなぁ、と。

 本人的には、知らぬうちにベッドに入り込まれるフラグを叩き折っていたはずが、まさかこんな弊害が発生するとは、と内心実は反省していない胸中で言葉を選ぶ。

 

 

「すまん」

「反省して無いじゃないか……!」

 

 

 当然ながら、すぐに見破られた。

 

 

「まあ、いいさ……。この攻撃はキミには見破れない、当然魔法じゃないから、僕がお咎めを受けることも無い……。フヒヒ……、ぼ、僕の制裁、受けるがいいさ……!」

 

「それ、なんだが……、なんで、此処に、現れた……? お前の、スタンド……、実は、精密性が偉く、低いんじゃないか……?」

 

 

 分析していたウィークポイントを指摘すれば、ぐっ、と言葉に詰まる様子が僅かに伺えた。更にそらは、息が途絶えそうになりながらも言葉を続ける。

 

 

「この場に現れたのも……、正確に、狙うためだろう……? 俺のスタンドの、活動限界を、見計らって……、出せなくなりそうだとでも、思ったか……?」

 

「――――ッ!!」

 

 

 ガッ!と巧の蹴りがそらを転がした。

 図星を突かれて激昂したが、その程度ではうつ伏せから仰向けになる程度の威力しかなかった。

 だがその衝撃なのか、そらのインストールドットが姿を消す。

 それを目にし、更に気が良くなった巧は叫び声を上げる。

 

 

「ぼ、僕の弱点でも突いた気になったかぁっ!?そんなに死にたけりゃ今すぐ止めを刺してやるよ!

 行け!レインボウレインボー!」

 

 

 煙突のような頭部から、ボシュッ、と何かが射出された。

 それは放物線を描いて、おそらくはそうやって雨のスピードに紛れて着弾する攻撃なのだろう。だからこそ正確な狙いを測ることが難しかったのだろうが、今度こそ外すことは無いだろうとそらも覚悟した。

 

 ――そして、針のような弾幕がそらの頭部へと襲い掛かった。

 

 

 




~『まじかるー』
 オブジエンドじゃないですかやだー。
 能力は其処まで凶悪では無いけど膂力がアレすぎる、遙さんのオリジナル創造式神。

~ラブリー十七歳抱き枕
 限定品。両面にアナベベのらぶりぃな姿がプリントされている前年齢向け抱き枕。裏は水着だが、正直これ年齢制限つけるべきじゃね?とそらは言う。

~レインボウレインボー
 全身虹色の二足歩行機関車ト○マス。頭部の煙突から遠距離攻撃可能な鉄矢の雨を降らせるが、近づいて殴った方が実は強い。
 パワー:A スピード:D 射程距離:A 持続力:A 精密性:C 成長性:D


67話っす
書きあがってみるとなんだか微妙にコレジャナイ感がひしひしと。一見真面目そうに見える客観視点ですが所々ふざけていてどっちつかずな気分です
でも少なくともレイニーデビルはコレで行く気
これでも面白いという方は三話ほどの予定ですのでどうぞお付き合いください

またちょっと時間が空きそう
そんな次回、そら反撃。では

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