ネギまとかちょっと真面目に妄想してみた   作:おーり

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まだ生きてる俺が通りますよ、っと・・・


『レイニーデビル【極楽大作戦風味】』

 

 どうしてこういうことになったのか。

 もう何度目かになる鍔迫り合いを交わしつつ、侵入者である悪魔伯爵・ヴィルヘイムヨーゼフフォンヘルマンは内心嘆息する。斬撃を迎撃しているのだが、拳で対抗しているのに鍔迫り合いとは是如何に。とも詰まらない冗句を浮かべつつ、コブシを振るうのを止めることは無い。

 止めようとすればこちらが斬撃の雨に晒されるからだ。

 

 

「もう止めにしたらどうかね……!」

「あははー、まーだまーだ、つきあってもらいますえー?」

 

 

 斬魔剣!と刀を振るう毎に何処からか業の名称が叫ばれる。無駄に気合の入ったイイ声で漫画ならば画面の端に縦字で貼り付けられている感じである。こういう効果は世界の真理と理解していただければ構わない。ドン!みたいな。惜しむらくは続けて振るわれれば斬魔斬魔斬斬斬ざ斬魔斬斬魔剣!と、スクラッチでもかけているのかと思われるようなことになっているのがなんとも情け無いが。

 それはともかく。

 

 刃引きのされた刀を振るうは、京都弁の残る口調のゴシックロリータ調の服装で着飾った眼鏡の少女。番傘を差しつつ、雨の中片手で悪魔に対処のできる実力者。彼女の名を月詠という。

 彼女は以前に麻帆良大襲撃に参加した元関西呪術協会の刺客であったのだが、協会が空中分解してしまったお陰で行き場がなくなった者の一人である。その時同じように捕縛された術者などは協会解体後も引き取り手があったので引き渡せたが、彼女はそのようなものが居なかったために同じく京都出身であるという理由で葛葉刀子が面倒を見ることとなった唯一の麻帆良預かりの使い手である。

 その実力は葛葉の折り紙つきなので、こうして麻帆良の防衛に一役買われていた。

 

 

「久しぶりの獲物やー。変態でなければ渋いオジサマなんやけどなー」

「背筋がそら寒くなるような台詞を……!あと私は変態ではないよ……!?」

「女子寮に侵入しようというオジサマが言い逃れを通用できるとでも思うんですかー?」

 

 

 喜々として剣戟を繰り出す月詠。彼女の本質はバトルマニアである。戦えれば何処でも構わない。その相手が強ければ強いほど善い。

 そういう人種であるがして、こうして実力のある侵入者が自分の警備する範囲の女子寮前までやってきてくれたことは、彼女にとって実に僥倖なのであった。

 たとえそれが女子寮覗きの変態紳士だったとしても。

 

 一方のヘルマンとしては、こうしていつまでも闘っているわけにも行かない。

 彼の趣味は戦うことであるが、その前に彼は召喚された身である。先ずは与えられた仕事を片付けなくてはならないのだと、召喚師からの令呪が彼を苛む。絶対的に抗えないものというわけではないが、抗うだけで気をとられるので趣味の範疇を片付けようと気を向けるにはやはり邪魔なのである。

 かといってそちらに気を向ければ戦いに集中できない。実に興味をそそられるだけの使い手に出会えたというのに、世の中上手くいかないものだと反撃に乗り出せない己の身が恨めしかった。

 

 

『(ダンナー、ダンナー……)』

「(むっ、その声はすらむぃか?どうした、犬上くんは見つかったか?)」

 

 

 そんな中、先に女子寮に侵入していた使い魔から念話が届く。

 そもそもこの場に彼が現れたのは、道中ちょっかいをかけた変質型犬神使いに魔力マーカーをかけて追いかけたからだ。麻帆良に行くという彼女が京都にてリョウメンスクナを破砕した少年と顔見知りだと耳にして、恐らくは手を出しておけばすぐに合流するだろう、と目論での凶行である。

 傷ついたであろう彼女が身を隠したと思われる場所を追いかけていったらこの場所に行き着いた、というだけであって、決して変態的行為ではないのである。決して。

 

 

『(ダンナー、スマネェ……、ニゲロー)』

「……何?」

 

「両者其処まで。先ずは話を聞かせていただきましょうか」

「あ、せんぱーい」

 

 

 月詠のそんな間延びした声とともに剣戟が止む。

 二人と離れた場所から現れた少女の声の主は、先に送り込んだスライム娘の三人を手に持っていた。――氷漬けにして。

 

 

「スラミィアメ子ライムっ!?」

 

「まさか女子寮に液体系モンスターを放つ変質者がいるとは思いませんでしたが、彼女らがウスイホンのように陵辱の限りを尽くす前に回収させてもらいました。残念でしたね」

 

「いや待ちたまえ!私はそういう目的で彼女たちを放ったわけではないよ!?」

 

「変態は皆そう言うのです。では事情聴取を始めましょうか」

 

「不本意すぎる……!」

 

 

 話を聞いてくれるのならば目的を早めに片付けられそうであるが、此処に至るまでの話の流れに納得がいかない悪魔伯爵。

 そしてあることに気付く。

 ビニール傘を差して現れたその少女の容姿が、どうにも自分を召喚したものによく似ているような気がする。

 

 

「……?」

 

「先ずは侵入した目的を話していただけますか、悪魔さん?」

 

 

 その少女の名は鈴木6号。

 女子寮の鉄壁ガーディアンとして未だに君臨し続ける、若すぎる寮母さんであった。

 

 

   × × × × ×

 

 

「おのれ、まさかこんなことになるとは……!」

 

 

 雨の中を全力疾走する影がある。

 云わずと知れたヘルマン伯爵。彼は今男子寮に向かって敗走中であった。

 

 実力者であっても召喚された身であれば基本的に使い捨て。それをわかっているからこそ、彼は必要なだけの情報を得て目的地を改め直した。

 その情報元である鈴木と名乗る少女によると、犬を拾ったという寮生がいたのを確認はしているがそのためだけに寮内に進入させるわけにはいかないとのこと。

 更に破れかぶれであったが、こちらの目的の人物として召喚師にマークされている人物『ネギ=スプリングフィールド』の居場所を確認するとそもそも居るのは女子寮ではなく男子寮らしいので、件の犬神使いとは合流するようには思えない。

 更に更に、一足早く捕縛された使い魔三人娘の為に目的を後回しにすることはできない。ヘルマンは彼女らを見捨てて本来の目的地へと『敗走』した。

 

 考えてみれば『少年』が女子寮に居るはずがないのであるが、ネギ=スプリングフィールドが女子寮内に居れば話は早くに済んだはずなのだ。この落とし前はキッチリつけさせてもらうぞー!と理不尽な意気込みを入れつつ、ヘルマンは男子寮前へと到着した、

 

 

「ぬぶるはあああっ!!?」

 

 

 ――ところで、蹴り飛ばされた。

 

 

「いらっしゃーい、侵入者さぁん」

 

 

 雨と泥に塗れながら来た道を数メートル逆にごろごろと転がされる屈辱を味わいつつ、急いで起き上がり蹴り飛ばした相手を睨み付ける。

 というか蹴り飛ばせるってなんだ。こっちはこう見えて悪魔である。人外を蹴り飛ばせる膂力がある人間って普通に考えておかしくないか。

 そんな困惑が相俟って、睨み付ける目に力が足りないが。

 

 

「連絡はきっちり受けてたけど、まさか真っ正面から襲撃しかけてくるとは思ってなかったよ。まあ文句は無いのだけれど」

 

 

 学生服を着、ビニール傘を差した白い髪の少年である。

 肌の色はやや色黒なように見えるので、そのコントラストが相俟って日本人には見え辛い。

 が、少なくとも耳にしたネギ少年の容姿でもなければ年齢でもないのは明らかであった。

 

 

「……誰だね? 私が用があるのはネギ=スプリングフィールドという少年なのだがね?」

 

「それを聞いてちょっとおせっかいにな。今日はまだ帰らんらしいから、また後日来てくれるかな」

 

 

 またなんとも締まらない理由だ。

 不在表明を挙げるならもっとキッチリとして欲しいというのは、古い人間の考え方なのだろうか。いや、人間ではなくて悪魔なのであるけど。

 というか、

 

 

「子供の使いでは無いのでね。はいそうですか、とおずおず帰れるものでもないのだよ」

 

 

 実際のところ、自身を召喚した者が子供の姿をしていたということが一番物悲しい事実なのだが。

 ともあれそう断ると、少年はため息をつく。

 

 

「そうかー。

 ……話は変わるけど、お前さんレイニーデビルって知ってるかい?」

 

「……何?」

 

 

 少年の言い分に、応えるより先に困惑が追いつく。ヘルマンには先ず何の話を始めたのかが理解できなかった。

 

 

「人の心の奥底にある願望を曝け出すっていう雨の悪魔。正確に言うと逸話であって悪魔そのものでは無いけどな、雨の日に悪魔が居るって時点で、何か符号のようなものがかっちり嵌まった。俺としてはそんな気分だ」

 

「……一体何の話を……」

 

「いや、聞いてくれよ。俺実はついさっきルームメイトと殺し合いをしてきたところでね、原因は俺のほうにあるわけだけど、何も殺す気にまでならなくてもよくねぇ?って思うわけよ」

 

 

 少年が手を伸ばす。

 雨はもう上がっていた。

 それを確認して傘を畳む。

 

 

「で、だ。思ったわけだ。今回こんな羽目になったのは、雨の日の悪魔が介入したお陰であって、彼本来の人間性を暴走させたのは別の要因があるんだ。ってな」

 

 

 聞いてるうちに、なんだかヘルマンの背筋に微妙な汗が流れてゆく。

 話の方向性が明らかにおかしい。そう切り出したいのだが、捲し立てるように語った少年はこちらを指差した。

 

 

「つまり、俺が今回風穴を開けられたのも血と泥にまみれて雨の中這い蹲ったのも気絶した大柴くんを担いで部屋まで運んで電話で侵入者が居るって呼び出されたのも元を糺せば全部手前ぇが侵入してきたせいだってことだよなぁぁぁぁっ!!!?」

 

「ちょ、ちょっとまてぇぇぇっ!?なんだか知らぬ罪状まで私のせいになってないかねっ!!?」

 

 

 後半は確かに伯爵のせい、とは言えないこともないが、前半は明らか過ぎる。

 酷すぎる言いがかりに絶望した!と指差し絶叫してくる少年に叫び返す悪魔伯爵の姿がそこにあった。

 

 

「まあなんでもいい。理由なんてものは何でもいいのさ。今夜一晩のストレス発散の為に生け贄になれ侵入者……!!」

 

「くそ、もっとマシな理由で戦いに発展できないのかね……!?本当に麻帆良は魔窟だな……っ!」

 

 

 悪魔に言われたくは無い台詞第一位に輝きそうだった。

 

 

「そうそう、自己紹介がまだだったな。

 烏丸そら、だ」

 

「フン……。

 ヴィルヘイムヨーゼフフォンヘルマン、伯爵だ」

 

 

 そうしてヘルマンが構えたのを見て、烏丸と名乗った少年は片腕を横に広げてみせる。

 まるで、何かを紹介するかのような仕草で。

 

 

「並びに、クタァト。使い魔だ」

 

「何……?」

 

 

 が、そこには何もいない。

 気配も無い。

 そのことに首を傾げ、

 

 

「……何もいないでは無いか……?」

 

 

 ――不思議そうな表情をした伯爵の背後に、大口を開けた軟体液状の少女が地面から顔を出していたのは、また別の話である。

 

 

 




~斬魔剣!
 サイクロン!のあの声を思い浮かべていただければ

~月詠
 麻帆良剣客・葛葉月詠。もうちょっとしたらネギクラスに編入予定

~あれ?白髪?
 イメチェンの理由は次回やっから

~ヘルマン後ろー
 クタァトは好き嫌いをしないいい子です


短いなぁ
ともあれやりたかったことをようやく書けました
でも俺の書く客観視点はどうにも不評のご様子
次回からはきちんとそら視点に戻しますのでご容赦を
エピローグ的な五章最終話を上げたら、IFの6に移りますね。では

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