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麻帆良祭・三日目
泉井ちゃんに超りんの計画について説明をしつつ、手を出さないようにお願いしていたところ、ふと視界にとんでもないものが飛び込んできて目を疑った。
お、親方ー! 空から美少女がー!?
親方って誰だよ。
『にゃあああああ!?』
『ちょっ、なんで空にぃいいい!?』
『わひゃああああ! おちるぅうううう!』
元気に叫ぶね、君ら。
学祭の喧騒に紛れて他に気付いた人は居ないご様子。
さすがに俺も慌てて魔法を具現化する。
「帝釈廻天、――――マイナス!」
落下地点まで赴いて鉾を廻す。
無重力状態が発生し、落ちてきた何人かをちょうどいい地点で受け止めることに成功した。
良かった、明日菜も中に居たから、正直魔法を打ち消される可能性も考慮しかけていたけど。
ちなみにそうなっていたらお陀仏であった。が、まあ多分泉井ちゃんとかに頼んでいるだろう。あの娘超能力者らしいし。
「――ふぅー。で、お前らはなんで揃いも揃って空中自由落下とか、」
事情を聞く、前に。
――抱きつかれた。俺が、明日菜に。
「お、おお? どした、怖かったのはわかったから、さすがにそう強く抱きしめられるとちょい照れる――」
「――そら、だ……!」
「――明日菜?」
あ、あれぇ? なんか様子がおかしくない?
明日菜の怯え方が空中自由落下の恐怖だけじゃなくて、それ以上のものを見てしまったときみたいにがたがた震えてるのですけれど。
「良かった……、もう、会えないかと……っ!」
これ、泣いてね?
ココでうろたえるのは男じゃない。
とりあえず無言で抱き止めて、あやすように頭を撫でる。
よーしゃよしゃ、怖くないですよー。
「ふわぁぁぁん……!」
ガチ泣き仕出した!?
いやこれちょっと無理! さすがにこれをうろたえるなというのはインポッシブルすぎるので誰かヘルプ!
そう視線に込めて周囲を見れば、
「――そ、ら……くん、はは、良かった……!」
「ああ、まだ、間に合うな……!」
「希望は前に進むんやな……!」
和泉とちうたんとこのかがそんな台詞を涙ぐみつつ口にしていた。
どういうことだ……。
というかこのかは何か違くないか。
そして明日菜に便乗しているのか知らんが、アキラたんとせっちゃんが人知れず引っ付いてきていることには皆スルーなのか?
今俺普通に身動きが取れないのですけど?
「はは、生きてる、生きてるよ、烏丸くん……!」
「はい……! 生きてます……! 烏丸さんが生きてます……!」
勝手に殺すな。
× × × × ×
「――あたしらが最後に見た光景は、烏丸の首が綺麗に胴体から切り離されたところだ。それを回避するために、あの時間軸から逃げてきた」
え、俺マジで死んだの?
一緒に一週間後の世界へと出現してしまったちうたんからの証言で、あいつらが何に怯えていたのかをようやく把握した。
というか、切り離すことができずに未だにくっついている明日菜さんをどうにかしてくれませんかね。さすがにアキラたんやせっちゃんはもう離れているけど、明日菜だけがもう絶対に離さない!ってレベルで抱きついているのですけど。
状況を一番に把握していたのがちうたんだというのには疑問が残るのだが、仕方のないことなのだろうと割り切り、彼女からの某時間軸の事情を聞くと、どうやら超りんは世界改変を阻止して欲しいとネギ君らに要求したらしい。
自分で変えておいて再改変できないものなのかと疑問に思うが、超りんは超りんで色々と忙しいらしい。それでも自分の責任から逃げ出さない辺りは偉いと思うが、その自分の大変な状況を別の時間軸の己には味合わせたくないとか、そんなに追い詰められる状況ってなんぞそれ?
なんだ、終野イズミにでも目をつけられたか?
そしてその時間軸の俺、苦戦したとか言うエヴァ姉を庇いどうやら本気で彼女らの目の前で死んだらしい。
犯人は刀子先生らしい。
封印中とはいえエヴァ姉を追い詰める神鳴流、マジぱない。
まあいくら俺の能力が人外染みているからと言って、さすがに首を切り離されたら死ぬしか無いだろうしなぁ。
危機的状況の詳細を今のうちから知れたのは有り難い、と心に留めては置くが……、
「……ちうたん、浮かない顔してるね?」
「ああ、お前もな」
ちなみに、世界樹の魔力が根本的に足りなかった件の時間軸から逃走する手段として、ネギ君には俺の調合したという魔力の出力を一時的にだが大幅に引き上げるお薬を飲ませたらしい。
そのネギ君はオーバーフロー状態で寝込んでいる様子であるが。診ているのは宮崎。
そして『超の引き起こす歴史改変を阻止しようぜ大作戦』略して『超作戦』の方は、大々的に起こすつもりらしいというならばいっそ隠すのも無理だと判断し、一々魔法先生方に話を通すのも面倒なので雪広の陣頭指揮の下、準備を着々と進めてもらっている。
多分ネギ君が起きてこなくても今の戦力なら対抗できるんじゃないかな、って見立てている。戦力の当ても既に居るわけだし。
そんなことよりも気になっているであろうことは別にある。
その点については、ちうたんも気付いているらしい。
「お前に隠しても意味無いと思うから言うけどな、あたしが懸念しているのは修正力についてだ。歴史改変の修正力もそうだが、あたしらが知る時間軸に収束する可能性をあたしは少し懸念している」
「あー、まあ俺もそこは気になっているけどね」
「……なんの、話?」
抱きついたままの明日菜が話についていけて無いらしい。
まあ俺らの会話は、漫画とかラノベとかで時間移動について割りと読むからこそ浮かぶ懸念なのだろうな。
話すべきかな? とちうたんに眼を向けると、若干苦い顔で唸る。目と目で会話できるほどの仲ではなかったらしい、残念。
「要するに、未来予知の話かな。時間はすべての方向性に同時に存在する立体であり可能性である、っていう説があるわけだけど、要するに改変してもその時間の問題を解消できるわけじゃない、っていう理屈。パラレルワールドといえばいいかね。
その世界線を履行させないためには状況に変革を起こすべきで、分岐するための基点を幾重にも重ねる必要性が出てくる。タイムパラドクスは存在し得ないけれども、未来予知は絶対的である。それが成立するのはその形に沿って状況を知らずの内に動かしているか、その形に収束する強制力が時間という枠組みの中に存在しているかの違いかは分からないけれど、」
「――ごめん、三行でお願い」
「未来を知るとその形に未来が決まる。
俺が死ぬ未来に状況が沿って動く可能性がある。
超りんの改変を阻止しても意味無いかも?」
「すげぇ、本当に三行でまとめやがった……」
ちうたんが戦慄していた。
まあ小難しい理屈よりも要点を押さえれば問題は無いよね。まだ語り足りないけど、明日菜の目がぐるぐる渦巻いてきたので簡単に纏めてみた。
改めて無理ゲーなんじゃないかな、この状況。
若干絶望的にも思いつつ、まあ超りんの作戦を阻止すれば時間軸の改変には繋がるだろう、と楽観視にも似た気持ちでいると、明日菜はそうではないらしい。
理解が追いついたのか、マジ目で尋ねてきた。
「っ、そんなっ……! どうすれば、いいの……っ?」
マジ目というか、ハイライトが消えているのだが。
誰にともなく尋ねる明日菜に、さすがに俺自身は未来予知なんて出来やしないので絶対的な答えなんて出せやしない。
そこに声をかけたのはちうたんであった。
「――まあ、状況を変革、要するにあの時間軸と違う世界線に少しでも近づければなんとかなるんじゃないか? あの時間軸じゃ無かった要素を、烏丸に追加するとか」
「要素……?」
「おう。イメチェンでもするか?」
俺、また髪色変えるの?
これ以上変えると誰なのか理解されなくないかね?
例えば那波さんとかにさ。
「――っ! そら!」
「お? おう、はい、何?」
何か思いついたのか、明日菜が目にハイライトを戻して叫ぶ。
俺から離れて、何かを探すように部屋を見渡し、その『何か』を見つけたのか部屋の隅へと駆け寄りドタンバタンと奮戦していた。
どうでもいいがそんなに暴れるとぱんつ見えるぞ。
「捕まえた! 暴れるんじゃないわよカモ! 準備しなさい!」
『へっ、へい! 了解しやした姐さんっ!』
カモ?
居たのか。
オコジョを捕まえて戻ってくる明日菜。
そしてそれを目を丸くして見ているちうたん。
「オコジョが喋っているのはまあいいとして、……おい、神楽坂、お前まさか……」
「うん。
――そら、仮契約しよう」
なんとなく予測できていたことだが、本当にやる気かよ……。
そしてちうたんはどうやら仮契約を知っているご様子である。
一体いつ説明を受けたのだろうか……。
× × × × ×
「――え、何ですかこの状況」
「そらくん、どうしたん……?」
このかとせっちゃんの2人が手の空いたゆえきちと早乙女を引き連れ、麻帆良祭中は使用しない図書室へと戻ってきて目の当たりにしたのは、
泣き崩れる俺。
それを覆うように抱きしめる顔の少し赤い明日菜。
そんな俺を慰めるように頭を撫でるアキラ。
カードをかざして喜んでいる亜子・裕奈。
ドン引きの表情でそれらを眺めるちうたん。
そんな惨状。
――所謂カオスであった。
ズキュウウウウウン!と効果音が出そうな強制キッスの嵐で、見事に仮契約は成されたわけである。
説得して回避しようとしていた俺を押し切って、部屋へ侵入してきた和泉とか裕奈とかアキラたんとかに羽交い絞めにされた状態で、先ず最初に明日菜に唇を奪われた。
……なんなんだよオマエラのその行動力……。
初キッス……ではないけど、よくもまあ他人のキスシーンを間近で眺められるものである。
今度からオマエラのことビッチって呼ぶわ。
ついでに言うと侵入してきた件の3人にも、一緒に接吻による契約を結ばれた。
あ? 障壁?
そんなの明日菜に無効化されたよ!
またしても羽交い絞めでの逃げ場無し。
ロマンの欠片もあったもんじゃぁない。
――あ、ちょっと背中が柔らかかったのは内緒な。
それにしたってやっていることはほとんど強姦。
被害者が男子だけど、訴訟したら勝てないかな。
……勝てないだろうなぁ……。
「いい加減、泣かれるのもちょっとアレなんだけど……」
「元気だしなよ、烏丸くん」
「お前らにわかるかよ……。男子のプライド粉々に打ち砕かれた気分がよ……」
「そんなもん美少女とキスしたことで相殺じゃん」
「そやなー、文句を言われるとかちょっとムッとくるかもしれんよ?」
「するほうならばいいんだろうけどなぁ……。
舌入れて口の中まさぐるとか、普通女子がするか……!?」
「うわぁ……」
見ろ!ちうたんなんかもうドン引きだぞ!?
次々と代わる代わる女子に蹂躙されてゆく俺の口内のSAN値はとっくにゼロだ!!!
他人のSAN値を唇だけで引き下げるとか、オマエラ何処の邪神群だよ!?
「え、ぱくてぃおーしたんか、そらくん?」
「そ、ソウデシタカ……」
このかさんの注視する点が微妙にずれている件について。
そしてせっちゃんは顔を真っ赤にして初心な反応を見せているけれども、そんな初々しいものなんか欠片もねーっすよ!
それはともかく片言なせっちゃんが少し可愛い。
ああ~、浄化されるぅ~・・・・・・。
「このかと桜咲さんも、どう?」
「ヤメロ! 俺の癒しを堕天させるな!」
もうちょっと女子に幻想を抱かせてください……!
「それでは代わりに私とかどうですか?」
「――は? むぐぅっ、ちょっ、やめっ、ふむぐっ」
「あ、6号ちゃん。いつの間に……」
「いや、止めてやれよ……」
ディープなやつではなく、唇で啄むようなフレンチなやつを連続でされる。
こー、ちゅっちゅっちゅーちゅちゅっ、と。
……何処からかげっへっへ、とゲスい親父の喜ぶような声が響いたけどカモであろうから気にする必要は無いな……。
………………オマエラそらくんに優しくしろっつってんだろ!!!
× × × × ×
「まあ、要するに神楽坂の狙いはわかったよ。件の時間軸との変更点を作るための布石が、この仮契約だってことはな」
「なるほど……。言われてみれば、未来の烏丸さんは誰とも仮契約をしていなかったみたいですしね。概念的な意味でも契約という『繋がり』を用意しておけば烏丸さんが辿った悲劇をなぞる可能性は少なくなるということですか……」
「………………オマエラ真面目にそう思えるんならこっちを見ろよ」
ちうたんとゆえきちがマジなトーンで会話するも、こちらへは一向に視線を寄越さない。
必至で目をそらす彼女らに、俺としても何某かの疑念が浮かばないでもない。
一応言い訳させてもらうけど、俺は被害者だからな……?
「大丈夫です、私は正妻ではなく愛人の座で我慢しますので」
「……そういうのは、私ちょっと問題だと思うんだけどな」
――たとえ事を終えた6号が胡坐掻いた膝の上でだいしゅきホールドで居座っていたとしてもな!
そして説得力無いっすよアキラたん……。
そんな6号一人勝ちを阻止するつもりなのか、アキラは俺の背中をあすなろ抱きで支えている。
ちょっとまて、俺アキラにいつの間にフラグ立てたっけ?
そしてそんな俺らを放っておき、仮契約カードを確認しているのが残る3人に、このかせっちゃん早乙女の3人がプラスの6人。
学祭中であるから人は関係者以外来ないように配慮しているらしいが、そもそも手が空いたという図書館探検部の面子はともかくとして、運動系4人娘はまだ仕事が残ってるのではなかったかな。
と、ジト目で問うてみれば、少年心を擽る魔法アイテムをようやく所持できた恩恵か、性別の問題も明後日の彼方へと放り投げて少女たちはにへらと嬉しそうに笑って見せた。
「いや、まずは戦力の確認からしておこうかなー、ってね。つーわけで“アデアット”!」
裕奈を皮切りにアーティファクトを召喚すれば、衣装まで変わるいつもと違う運動系3人娘。
裕奈・亜子は原作通りのコスプレな衣装へとチェンジしたのだが……、明日菜の格好が若干おかしい。
黒い茨をモチーフにしたようなドレス姿でー……、っておい、それラストダンジョンの………………あ?
「ふわー、明日菜の格好せくしーやなー」
「あんまり戦闘向きじゃなくね? ハズレ?」
「こ、この鍵みたいなのってまさか……!?」
………………なんでだ。
「あー……、とりあえず明日菜、お前ちうたんと一緒に後方支援で頼むわ。『それ』じゃ直接戦闘は無理だろ」
「あ、あー……うん、そうね。そうさせてもらうわ……」
『造物主の掟(コードオブライフメーカー)』を抱えて呆然としていた明日菜に役割を言い渡す。呆然というよりは何処か戦慄していたように見えなくもなかったが。
麻帆良祭に参加するほどの戦闘経験も無ければ、原作みたいな『破魔の剣』も無い。
はっきり言ってしまうと普通の女子中学生と然程変わらない女子を、前線には押し出せるわけがなかったからな。
………………車と同等のスピードで走って魔法世界を崩壊させる鍵を抱えた奴が普通の女子中学生?
内情(中身)を改めて考えると何のギャグかと問われそうだー……。
「え、そらくん明日菜のアイテムが何か知っとるの?」
「何かっつうか、なんつうか……」
亜子に尋ねられるが応えていいものかどうか。
ちらりと6号へ目線を向けてみれば、珍しくも目を丸くして驚いていた。
ですよねー。
なので、
「まあ、戦闘向きじゃないな、とは思った程度だよ。それよりお前のナース姿ってプレイの匂いしかしねーな」
「あ、それはアタシも思った」
「どういう感想!?」
さらりと亜子のコスプレをdisって話をそらす。
裕奈が賛同したのは理解できるが、お前も人のこと言えねーからな?
「――ねぇ、そらくん」
「なんだよ」
それよりもアキラの距離が偉く近づいた気もする。
呼び方は名前呼びで統一しているらしいし、そもそもスキンシップが過剰になっているのは何の心情の変化があったのやら。
そんな俺が新たに抱えるようになってしまった心内の動悸を悟られませんように、とややぶっきらぼうに俺は応える。
「私の気のせいかもしれないんだけど……、」
「………………うん」
「……アーティファクト召喚の掛け声と一緒に、あの3人……、
――スタンドを控えさせてなかった?」
「………………………………………………うん」
見たくなかった現実はしっかりと目の当たりにし、理解が追いつい(事情を悟っ)てしまっていたらしい。
これって、まさかとは思うけど……、お、俺のせいじゃない、よな……?
~未来そら、死亡のお知らせ
ある意味決定的な分岐
メンバーが全員過去へ向かおうとしなければこの状況は回避できたらしい
そちらは番外編として別枠に転載。読まなくっても物語の進行上なんの不都合も無い
~終野イズミ
単独で活動する日本語しか話せない世界的テロリスト
おーわーりのーうーたーをーうーたおーうー
~世界線の収束
運命石の扉の選択、とかを知っていれば思いつきそうな展開
そこからぱられるんるんな法則に傾ける理屈を展開させてみたけども時間移動自体作者はしたこと無いから予測でしかないですさーせん
でもこの予測に基づいて今後も進む予定
~それを回避するためという名目でこの結果だよ!
これにはちうも苦笑い。むしろドン引き
でもフラグっぽいのなら色んな場所で放流していたから、そろそろ結果を出してもいいんじゃないかなって思ったのも事実
しかし肉食系女子に群がられた状況を妄想してしまったのであまり羨ましいと思えなさそうなのだがいかに
~烏丸の心情の変化
呼び方に若干の変更点
女子側からパクティオーしてきたら流石に気付くので、ボッチを望むわけではない彼なりに歩み寄った結果
しかしこれって一歩前進か?
~そしてスタンド
感染源がそらなのは間違いない
活動報告でアンケ取ります
遅ればせながらば
あけましておめでとうございます
今年もネギマジ共々、よろしくお願いいたします