というか、原作読み返すたびにキャラクターが混迷極めていくとか普通ねーぞ
何気にモブ度が一番強いキャラだったのではないかと未だに疑ってる
そらの死亡予知に向けて、カウントダウンスタートな89話
さて、しずな先生の話ではこのままゆくと本日入れてあと5日でご臨終となる我が人生。期末試験を受けないままに終了とか申し訳ないなー、などと若干楽観的なままに今日も今日とて一日が始まる。
せめて真っ当に、名残を残さないように、色々と整理整頓でもしておこうかね、と新聞配達のバイトをとりあえず辞めてきた。
「コラァっ!? そらっ! あんたいきなりバイト辞めるとか何考えているのよーっ!?」
正確には、今日から三日ほどやってから辞めますと名残を惜しまれつつ発言していたのを耳聡く知ったらしい、明日菜が土煙を上げて突貫してくる。
お前の担当地区こっちじゃねーだろ。
「耳が早いな。期末の準備もあるから様子見ってところだよ」
「あ、そ、そうなの? それならそうと言っておきなさいよ」
ほぼ嘘だけど。
それにしても、昨日の今日だというのに明日菜の対応は特に変化した様子は無い。
あのあとはお茶会とかいう雰囲気なんぞ微塵も掻き消えて、気まずいなんて空気を味わう間もなく帰ったからな、俺が。
態度を変えないのは、黄昏の姫巫女という人生経験を経ているからなのかね。同情したところで仕様も無い事実なんて何処にでも転がっているよ、って頭の何処かで理解しているとかだったらこっちも気を遣う必要ないから楽なのだが。
「……それにしても、そらも割かしドラマチックな人生送っていたのねー」
「お前それを本人に直接言うとか本気で何考えてるの?」
違った。
なんか過去を思い出しているはずなのにこの明日菜、中身がこれまでの幼なじみのままだ。
あっれー、おっかしいなー? Coolなアスナは表面だけっすかー?
……麻帆良で形成された自己は、それまでの100年あったとかいう人生をも凌駕するインパクトがあったということだろうか……。普通に怖いのだが。
「まあ、人間誰しも何かしらの事情くらい抱えているわよね」
「確かにそうだけど」
同情されたくは無いから有り難いのだが、そうあっけらかんと応えられるのは納得がいかない。いまいち。
× × × × ×
驚かせた罰として次の日曜に買い物に付き合えとほぼ強制的に約束を取り付けられ、黒歴史を知り気まずかったのかエヴァ姉が授業をサボタージュしていた本日放課後。
なんだか紅王症候群に取り憑かれたかのような感覚を感じつつも、何故か今俺がいるのはウルスラの校舎内であったりもする。
それというのも、全校放送でそこの生徒会室まで出頭を命じられた所為なのだが、……呼ばれた理由がまったく持って謎なのであるが如何なものか。
呼び出したのは女子高の生徒会長。呼ばれたのが男子部の中学生。
……そこはかとなくイケナイ薫りを燻らせているのは気のせいだと思う。というかそう信じたい。
意を決してノックし、許可が下りたので入室する。
「しつれいしまー」
「ようこそ、ウルスラ女学院生徒会室h」
「失礼しました」
バタン。
と部屋の戸を閉めて回れ右。ありえないものを見てしまったので多分まだ気疲れが残っているのだろうと判断する。
とっとと自室へ戻って布団を被ろうそうしよう。
そんなことを思考しているうちに部屋から触手がにゅるりとはみ出て俺を捕縛した!? ナ、ナニヲスルダー!?
「お待ちなさい。人が話しているのに退室するとはマナーがなってませんわよ?」
「女子高で触手プレイ強要されるとかマナー以前の問題っす! やめてー! アブノーマルな世界へと引きずり込まないでー!」
「触ッ!? 違いますわよ! 影ですわコレは!」
質量を伴った影の畝りとか触手以外のナニモノにも見えません。
廊下には人がいないとはいえ魔法秘匿意識を欠片も見せようとしない高音さんの得意技能に雁字搦めにされつつ、生徒会室(自称)へと舞い戻る俺(文字通り)。
そして改めて、部屋の主としてホワイトボードの前に陣取っている彼女が口を開いた。
「改めまして、ウルスラ高等女学院生徒会長を務めさせていただいています、野木坂遙です。お久しぶりですね、烏丸くん」
× × × × ×
以前に俺の命を狙っていた野木坂さんであるが、ウルスラへと転校し高音さんとかと同級生になっているとかいう話は耳にしていた。しかし転校一ヶ月弱で生徒会長となっているとかカリスマ力ぱねぇ。俺の知らない場所で暗躍していたようである。
こうなるとますます以て俺の命を狙う下準備が整っているのではないかと勘繰ってしまうのであるが、如何に。
「先ずは、謝罪を。先月は出会い頭早々、申し訳ないことをしてしまいましたね」
「――はいぃ?」
ペコリ、と頭を下げてくる野木坂さん。一瞬意味がわからずに、右京さんの物真似声で応えてしまう。
こうして見るといいとこのお嬢さんであるし、優しそうで物腰柔らかそうなお姉さんにしか見えないのであるけれど、人の第一印象というのは大事なもので、俺からすれば唐突な心内変化にしか思えずに疑心暗鬼が表立つ。
ところで高音さんは何故この部屋に居るのであろうか。居なかったら野木坂さんと二人っきりにされていたであろうから文句なんて一切無いのだけれど。
「遙さんの襲撃はブラフですわ」
「はぁ?」
「彼女の一族が厳冬を殺害した貴方を抹殺するために、一番の実力者であり縁が特に強かった近親の彼女を刺客として貴方へと送り届けた。その指令を実行していると見せかけるために白昼堂々貴方を襲撃した、それが一連の流れです」
高音さんのからっとした説明に、はぁそうですかと納得する。
……納得はしたけど、そういうことはもっと早くに教えてくれても良かったのではなかろうか。
「学園長にも思惑があったのでしょうね。貴方を目印に西からの刺客を集中させよう、とか?」
高音さんも把握し切れていないのか疑問系で返答が出た。
学園長の計らいかい。一昨日ちうたんを盾にしたことを根に持っていると見た。まあそれ以前にも色々と麻帆良に片付けてもらっていることはあるから、それらの負債を見えないところで処理してもらっていたのだと思うことにする。
「……本当は、私もこんな式紙使いとかになるつもりはなかったんです。でも適正というのが高かったらしくって、お爺様にもそこを見出されて。出来上がった専用式はあんななのですけどね」
そういえば武闘会に参戦させていたな、オブジエンドな等身大魔法少女フィギュア。滔々と自分語りを始めた野木坂さんに未だ疑惑の目は向きつつも、正確な内容を整理する。
つまり野木坂さん自身は実家の稼業というか修行というか慣習というかに追従する気は更々無く、況してや敵討ちと銘打たれたからといって人を殺すことを良しとするようなお嬢様ではなかったようだ。しかし実家の目が自分を監視していることは事実なわけで、頭首であった実力者の厳冬とかいう爺様がいなくなった今、替わりの御輿として担ぎ上げられる可能性が高くなってきていた。そこで一計を案じた野木坂さんは、俺を直接狙うことで実家での表立った立場を完全に放棄し、麻帆良への亡命を裏取引にて成功させていたのだという。
なんだか色々と面倒くさい事情をやっていたようだなー。……あれ、そうなると俺が阿佐ヶ谷まで出向して話を聞いてきたのってなんだったわけ……?
「お爺様のことは悲しくないといえば嘘になりますけれど、お爺様が何某かの謀を覆されて命を落としたというならばそれはお爺様自身の責任です。
それに、烏丸くんがやりたくてやったというわけではないのは学園長からも話を聞かせてもらっていることですし」
「あー、まあそうですけどね……」
というか未だにその厳冬とか言う人が誰なのかが実感が伴わない。ヘラクレス君に踏み潰された爺様のことだったのだろうけれど、あの直後に瘴気で湧き出た魑魅魍魎に食い潰されたから遺体も残っていないんだよな。だからか、俺が命を奪ったという印象はどうしても薄い。
いや、人を殺すことに慣れているわけでも無いですよ? こう見えて直接的に人殺しに関与するつもりなんて全然ないんだからねっ。
ツンデレっぽく自分の思考を纏めたところで、ふと疑問が沸く。
「あれ? そうなると俺にそのこと話さなくとも、いやむしろ話さない方が良かったんじゃないっすか? 下手に実情ばらすと何処に飛び火するかわかったものじゃないと思いますけど」
「それは確かにそうですけれど……」
高音さんが若干言葉を濁しそっぽを向く。
え、なに?
「家族を失い居場所を失う、そしてその全貌を隠したままに相手に棘だけを握らせる。それでは駄目だと思い直したので、全てを話すことに決めたんです。この程度のことが不幸だなんて言ったら、烏丸くんに申し訳が立たないですから」
なんだか晴れやかな、優しい目と笑顔で野木坂さんが言う。
しかし何故俺?
棘が云々、というのは俺が気にしていないかとかそう言った憶測か、と推測する。暗喩だらけでいまいち全貌が掴めないままにも思えなくも無いけど。
じゃあ不幸ってなんぞ?
その点が理解できずに、顔をそらしている高音さんをじーっと見る。
「――じ、実は、学園長から貴方の幼少期の話を……」
気まずくなったのか高音さんが顔をそらしながらも呻くように呟いた……って、お 前 も か 。
心変わりの理由はそれかよ。ていうか何処まで知れ渡っちゃっているの俺の黒歴史ーーーっ!?
× × × × ×
無駄に優しくなったお姉さまな野木坂さんに、辛いときには頼ってくれても構いませんからね?などと誘惑染みたありがたいお言葉を貰って退室。失礼しましたー、と部屋を出たら、目の前のロッカーがドバンと開いて俺を捕食した。
「なん……っ、はぁっ!? んもっ」
「んっ、暴れないでよそらくん……」
正確にはロッカーから飛び出してきた何者かに捕縛され、引き擦り込まれる。
もにゅむだぷん、とウォーターベッドに沈められたような超絶柔らかな感触に抱きしめられ、挟み込まれて、挟み込まれた顔面が埋まったのは果たしてなんなのか。
なんなのかっつーか、俺の知るところ声の主から鑑みて乳しかないのだけれど、この状況が一番何なのか教えて欲しい。何してくれてるのアキラたん。
「何って、ウルスラの生徒会長に呼び出されたって聞いたから、保護?」
「保護されるほど脆弱でもありませんが……」
やたらとスキンシップの激しさに拍車がかかったアキラが、俺を抱えたままに小首を傾げる。
というか不意打ち噛ますためとはいえロッカーに隠れているとか、アキラも3-Aの空気に毒されてきたと思われる。
そんなことを考えていたら個室から強制退場し、飛び出た先は見覚えのある寮の部屋だった。っていうかアキラの部屋だった。
振り返ればクローゼットの戸が開いており、どうやら其処から飛び出したらしい。……どういうことだ。
「これ、私のアーティファクトみたい。便利だね」
クローゼットやロッカーが?
どうやら原作とは若干違うアイテムを引き当てたらしい。格好も原作にあったような人魚ではなく、バニースーツに生脚で燕尾服みたいな上着つき。カジノとかにいそうなコンパニオンディーラーみたいな、男心を擽る格好でこちらと向き直るアキラがそこにいた。
というか、原作との差異を探すと一番に目に付くのは胸囲なのだが。原作以上に成長著しい気がするのだが。抱えられたときえらく気持ちよかったのだが。
閑話休題。
個室に二人っきりとか身の危険を覚える思考にそれかけるが、本来男が浮かべるべき思考ではないので脳の端へとカットカット。それよりも丁度いい機会なので、座り直しても未だに俺を放さないアキラに聞いておきたかったことを尋ねるとしようか。
「あー、アキラたんや」
「ん、何?」
「髪に顔を埋めるな。……丁度いいから聞きたかったのだけどな?」
「うん」
「ぶっちゃけお前らって俺の何処が気に入っているわけ? つかクンカクンカと嗅ぐの止めて」
「んー……」
「ちょ、考えながら手を動かすな。腹がこそばゆいのだけどっ、ど、どっちかにしなさい!」
「………………」
「そっち!?」
声を出さずに服の下へと手を入れてくるアキラがあああああああ。
ともあれ、俺もここまでされて鈍感キャラをやれるほど鈍くもなく。というより、キスまでされたら思春期男子ならばこういう勘違いくらいするだろう。勘違いと言うにはさすがにあからさま過ぎるわけでもあることだし。
それでも納得がいかないわけだから、やはり聞いてはおきたかった。出来れば全員分。好意を向けている根本的な理由ってなんなのだろうか?
「――ん、距離かな」
「はー……?」
「だから、少なくとも私がキミのことを好きな理由」
素肌を弄られて色気な展開になるのではなく、こそばゆさで息も絶え絶えな俺にアキラはあっけらかんと口を開いた。
「そらくんはさ、好きと嫌いをはっきりと分けるタイプ?」
「……? いや、そんなことはないけど……。てかそんなことがなかったから今こうなっているんじゃないかと少し後悔しかけてるわ」
「その点については後で考えるとして。好きとか嫌いとか以前に関心があるかないかで物事があるくらいならわかるよね?」
まあ、そもそも知らないと判断できないか。あーなんか言いたいことわかってきた気がする。
そんな俺の様子に気付いたのか、アキラは一つ頷いて言葉を続ける。それは答え合わせのような作業になっていた。
「で、そらくんが言いたかったのは、私がいつフラグを建てられたのか、って部分」
「まぁな。好感度を上げた覚えも無いのに近寄ってきていたら、不審になるのもわかるだろ」
「女の子が男の子を好きになる理由に、そんな劇的なものはないよ。人を信じられないのは、まあ理解するけど」
「その『理解する』って部分も俺には謎だな」
俺が突っ込みたかったのは其処なのだ。昨日から引き続き、どいつもこいつも。
「虐待されていたガキを同情こそすれ、好意を抱くのは間違っているだろ。叩き潰されて捻じ曲がった成長で歪になった弱者に恋愛感情を向けるとか、普通はねーよ」
「――それをキミが言うんだ……」
普通の感性としては、間違ったことは言ってない。
世の中がどれだけ偽善を謳っても、人間の根本は結局のところ二元論で決まる。即ち『やりたい』か『やりたくない』か、だ。
動物的な、原始的な生活をしているわけでもない、近代的な日常が基本として敷いてある日本においては、歪んだ人間というのは基本的に排斥される傾向にある。理由は『気持ち悪い』から。
例えば此処が動物的なコミュニティの中だというのならば多少の歪みは見逃されるのだろうが、それでもそれを引き換えにしてでも目に付くメリットがあればこそだろう。例えば『強さ』だとか。
しかし歪んで弱くしか見えない存在は、排他されて然るべきだ。繋ぎ止める意味がない。あるとすれば餌にするくらいだろうか。
だから、俺も排斥されて然るべき理由がばれたはずだというのに。どいつもこいつも同情的な視線を向けるだけで、あまつさえ手をかけてこようとする始末。
あれか、魔法使い(正義の味方)なら負け犬にも手をかけますよとでも言いたいわけか。ふざけろ。
「拗ねた子供みたいな顔してるね」
「わかっているなら放せよ……」
「可愛い」
「いや、そのりくつはおかしい」
俺の内心を捉えたのか、アキラの抱きしめる力がいっそう強くなる。
本当にいい加減放してほしいのだが。
「結局はそういう部分だよ。私が好きな理由は」
「どういう部分だ……」
「縮まっている距離はキミの過去(むかし)を知った程度じゃ離れないくらいに、キミのことを気に入っちゃっているから。だと思うよ」
………………。
……なんつうか、ぐうの音も出ないくらいに論破された。
要するにばらされたくなかった過去をばらされてご機嫌斜めだった俺を、距離で囲って懐柔されたわけだ。
……全部お見通しされていたみたいで少し恥ずかしくなる……。いつから俺はサトラレになっていたのか……。
「顔、赤いよ?」
「……、そんな男殺しな台詞言われて平然とできるか……。勘違いしちまうだろうが……」
「してもいいよ。勘違いじゃないし」
この距離では呟きすら拾われてしまう。恥ずかしくなって、せめてもの意趣返しに抱きしめられている腕の中から、アキラの顔を見上げる。
彼女は恥ずかしがっている様子もなく、近距離で目が合うとじっと見下ろしてそらさない。
抱きしめる力が強くなる。
ごくり、と彼女から生唾を飲むような音が聞こえ、アキラのそばへと、拾われるように抱き上げられる。
顔と顔が近づいて、目をそらすことも憚られるような錯覚に陥り、二人の唇が、
「おおっとそこまでだよ! あたしの目の黒いうちは自室で二人っきりラブラブデートなんてさせないにゃーっ! つーかあたしも混ぜろーっ!」
――触れる寸前に、空気の読めない裕奈が突貫してきた。いや、むしろ読んだ方かもしれない。
俺としては2対1の男女比で襲われるのは勘弁なので、早々に退去する。
……残念そうに舌打ちした女子なんていなかったんや。
~アキラのアーティファクト
『神出鬼没の箱(プレゼントボックス)』
超広範囲絶対転移非実体型アーティファクト。アキラが箱と認識した『四方を閉塞した空間』に入れば一瞬にして転移することが可能。そらの知らない何処ぞの世界線にてミミック娘にされた箱入り吸血鬼息子の識能を再現したような箱
移動範囲は直線距離にて最大3キロ、最小で800m。箱の中身を入れ替えることで転移するので荷物を移動することもできる。但しいちいちアキラが一緒に入らないと不可
元来は某殺人鬼が箱詰めの死体を作り送り届けたラッピングアイテム、というフォークロアの顕現を再現させたレプリカにて魔術礼装。なのだが、アキラの手元に召喚される際に契約主であるそらの資質と合わさって変質し概念存在に変換された。通過の際にちょっと血生臭い香りが漂うのは気のせいである