そういえば見事にネギ君のフォローを忘れてた。
教室に帰ってきてからふつーに気づく。
が、このかに連れられて戻ってきたらしいネギ君が2-Aでの歓迎会に感激し、明日菜にもやや乱暴に頭を撫で繰り回されて謝られたり、と色々とあって内心の問題は自然消失していったと判断。
良かった良かった。
というか、明日菜のパイ●ンフラグをぽっきりとへし折ったんだし、問題なくね?
あれ、俺この上なくいい仕事をしたんじゃなかろうか。無自覚だったけれど。
「ね、ネギせんせー、これ、お礼の図書券です……」
ほぉ、しっかりと本屋ちゃんを助けもしていたと。
働き者だなーネギ君は。
というかアレが本屋ちゃんか。
実際見てみると可愛さなんぞ良くわからんね。いや、女の子はみんな可愛いですけどね?
「何を見てるんだ」
「あ、エヴァ姉」
珍しいことに、エヴァ姉が歓迎会の場で話しかけてきた。というかいたんですか、あなた。
「ま、形だけでも祝ってやろうという私からの心遣いさ」
「――あぁ、マスターがこんなに嬉しそうに……」
「別に嬉しいとかそういうわけでもないわボケロボが」
いや、あんまりしゃべんないほうがいいっすよ? ただでさえツンデレなんだから、もはやなにを言ってもそういう台詞にしか聞こえないというか。
っつうか、茶々丸さん? あなたもどっから顔出してんですか。
無表情で俺の背後を取っている茶々丸さんに地味ーに驚く。この娘の表情の変化はまだ掴めそうにもない。付き合いはエヴァ姉に比べるとまだ少ないからね。
「それはそうとあのボウヤ、いきなり魔法を使ったみたいだぞ? 幸いにも目撃はされなかったみたいだがな」
「へぇ、秘匿意識が低いのか、それともそういう方向へ誘導されたのか……
まあ子供なんだし多目に見てやれば?」
大方、本屋ちゃんを救ったときの例のアレでしょうよ。明日菜には魔法バレしていないのだから、問題なくない? 物語的にはブレイクどころのハナシじゃないかもしれないけれど。
「なにを暢気な。
万が一バレれば、その傍にいたお前がボウヤと一蓮托生にされるのかも知れんのだぞ?」
「えー、正式な魔法生徒でもない俺にそのルールって通用するの?
あとネギ君が教師やらなくなったら俺もここにいる意味なくなるだろうから、結構万々歳なんだけども」
ちらりと、一緒に飲み食いしている高畑先生を眺めながらそう答える。先生には悪いけれど特別彼を擁護する必要性って俺自身にはあんまりないよね。あとその飲み食いしている代物は俺のおごりであること気づいてないだろ?
「くふっ、いい感じに『悪』だな。
だがまあ、その必要もないことぐらいわかっているんだろ?」
「そりゃそーだ。
ネギ君を簡単に手放すようなら、初めっから預かりはしないでしょ。麻帆良も、さ」
ぐだぐだ言ってたけれど、結局はどれもこれも取り越し苦労の過剰想定。初めっから俺には直接被害もないし、構ってやる必要もない。
俺の所属はエヴァ姉の下、って程度だと魔法関係者らは見ているのだろうから、彼にかかわること自体が鬼門であることは間違えようのない事実なのだ。
だが、それでも関わることは止めれそうにないのだろうな。と思う。
「烏丸く――あ、
お、お邪魔、かな?」
「ん? いーや?
それじゃあな、2-Aにようこそ、そら」
普段使わないような他人称で呼ばれて思わずどきりとしつつ、名前を呼んで去ってゆくエヴァ姉へと手を振って話しかけてきたお客へと向き直る。
関わる必要性のある原因というか、勝手に俺がそう計らっているだけの対象なのだけども、和泉亜子が話しかけてきていた。
「烏丸くん、エヴァちゃんと仲良かったん?」
「まあねー、結構長い付き合いだよ。
で、なんか御用っすか?」
去ってゆくエヴァ姉を横目で見ながらの質問に正直に答えつつ、ハナシを振ってみる。普段と変わらぬ口調であるので、和泉は俺の心境も理解できていると思う。一見さんは大抵突き放したように聞こえる、と結構不評だったりする我が口調。
「あ、そや!
なんで教えてくれなかったんっ?」
「おお、びっくりするかなーと思った」
「びっくりしたわ!」
素直だね。
半笑い、且つ手のひらでの裏拳ツッコミを入れられ、こうゆうくだらないやり取りに苦笑。漫才とするには台詞の構成が互いに甘いけど。
そして突っ込めばとりあえず満足したのか、ころりと表情を変えて聞かれる。百面相でちょっと面白い。
「あとアキラとはどうゆう繋がりがあったん?」
「なんもねーよ、大河内さんが優しかったってだけさ。
いい子だねぇあきらたん」
「あきらたんはやめぇな? ちょっとキモイわ」
「マジか」
まさか直接キモイと言われるとは思わなかった。
「まあ、泣かせるとかいうことにならなければええけどな。
ほんとにええ子なんだから、泣かせたら怒る」
「そういうのじゃないってばよ」
「やって、アキラから男の子にかかわろうとするのって初めて見たんやもん。
そういうのでなかったらなんなん?」
スタンド関連です。とは言えないけどさぁ。
和泉さん。友人の恋愛に興味深々なのはわかるけれども、その口調って俺に対して友人以上の感情を抱いてない、って断言してるよね。
いーけどさぁ。
「それより、和泉から見たらどーよ?」
「どーよて、なにが?」
「ネギ君。
意外とお買い得に見えるのだけれど」
恋愛関連のハナシということで聞いてみる。
真顔。
何故。
「――はぁ?」
「ん、折角だから聞いてみたんだけど」
「あっはは、ないない。
まだお子様やねんで?」
「そうかー?」
あっけらかんと笑い飛ばされたが、まあ今のところはこれでもいいか。
徐々に互いに惹かれるように、色々と画策してみるかねぇ……。
「おーいそらっち……、ってうわ!? なにその悪い顔!?」
「ん? あ、いや、気にしないで。
んで、どしたよ、ゆーな?」
「ああ、アキラとの関係を聞いてみようかなぁ
――と、思ったんだけど、何? 亜子ともそういうのだったの?」
あれ?
「お前らで俺については交流なかったの?」
てっきり運動部関連で俺のことぐらい情報交換していると思っていたのだが。自意識過剰か?
「え、ゆーなとも? 手広いなぁ烏丸くん」
「ちょ、亜子なんか勘違いしてないっ?」
互いに知っている相手との交流を知らなかったって言うのは珍しいが、まあこのクラスのやつらが目立つから俺もそこそこ交流持てたって言うのもあるんだけれどね。といっても中学に上がってからの交流は和泉と裕奈とこのかくらいだけど。
きっかけは体育倉庫で一緒に閉じ込められたというものだったのだが、何処のラブコメだよ、とツッコミを入れたくもなるtoLoveるな展開。出てくる頃には互いに名前で呼び合うような気安さを発揮したのは、偏にゆーなの社交性の高さがネックだったと思われる。よくその状況下で俺≪男子≫と親しくなれたものだ。
それからはその一悶着を肴に笑いあったり、たまに買い物を付き合ったりすることもあるという友人関係。交遊の度合いで言うならば、現在は明日菜よりも裕奈のほうが高い気もするのだから侮れん。
街中で元クラスメイトらに一緒にいる場面を目撃されたこともあり、さすがにそのときの視線は中々にすごかった、とだけ言っておく。
ちなみにこのかとは明日菜が仲介した。街中でばったり会っての会話で、だったのだけれど、しっかりと尾行していたせっちゃんと目が合っちゃったんだよなー。あれ多分このかは気づいてなかったと思う。よく俺も斬られなかったよ。
今更ながら、自分の綱渡りっぷりにちょっと驚愕してみたり。
「へぇ、友人なぁ?」
「にやにやすんなし、ほんとにただの友達だってば」
ゆーなさーん、その台詞回しじゃあ疑ってくれと言ってるようなもんだよー?
ヒエラルキーは和泉が上だったのか。驚愕の事実、
「失礼。貴方が烏丸そらで間違いないカ?」
「………………。人違いです」
――おいおいおいおい、なーんかいやーな相手が寄ってきてるんですけどぉ?
「いや、なに言ってるの?」
「そやでー、どしたん、くーふぇい?」
そう、うわさのバカンフーことバカイエロー。褐色金髪中華娘に話しかけられた。
いやな予感がして即刻戯言を吐いた俺を責めるのは止めてくれよ、友人たち。
「矢張りそうカ
――うわさの埼玉の漆黒! 私と勝負アル!」
「何じゃあそりゃあ!?」
なんだそのダサい二つ名!?
ちょ、吹き出すなそこの友人二人! そしてもう一つ吹き出した音が聞こえたので、バッと振り向く。
ババッ、と目線をそらした柿崎美砂がそこにいた。
おめぇかぁぁぁぁっ!?
「待て待て待て待て! 一応確認するが何者だその埼玉の漆黒って!?」
「その実力を誰もが捉えられないと有名アル! 中武研の猛者タチが挙って挑むも、誰一人として勝てない謎の実力者! 一見素人にしか見えないらしいとのことでアタガ、戦ってみればわかる!
――さぁ、勝負アル!」
「イヤだよ!」
くっそう、一人歩きしていたうわさがしっかりとろくでもないところにまで届いていやがる! 柿崎、お前後で屋上だからな!
「さ、埼玉の漆黒……ブフッ」
「いつまでツボってんだよ和泉もよぉ!?」
やめてよぉ! 俺の名乗ったものでもないんだからさぁ!
あと中武研(中国武術研究会)の筋肉らから逃げ切れたのはスタンドのお陰です!
~埼玉の漆黒
名付け親・柿崎美砂。単なるうわさ。なのに逃げ切っちまうからうわさが下手に真実味を帯びている。けっこうそらの自業自得もあるかも?