金曜日。実は弱小サッカー部な我が部の朝練が、久方振りに感じるくらいの頻度でようやく再開されるらしい。
いや麻帆良祭で燃え尽きたのはわかるけれども、週一に陥るってどうなんだ。と問い質したいが。
そんなことよりも問題は今の俺の日常だ。軽く語れば「えー?クライカコガタリー?そんなの語って許されるのなんて小学生までだよねー!」なんて笑い飛ばされること必至な我が黒歴史、どういうわけなんだか俺に一定以上の関わりのある魔法先生や魔法生徒に普通にばらされていた。
同室の大柴君は知らなかったらしいのがまだ救いなのだが、担任の神多良木先生がやたらと優しくしてくるのが正直キモイ。
あとエヴァ姉がなんでか一昨日から登校してこない。俺の恥ずかしい話を窮せず知ってしまって顔を合わせづらいのか? 実際のところは知らんが。
そんな日常になってしまった犯人が一体誰なのか、と思いを馳せつつ練習場へと赴けば、
「おめーら気合入れろぉぉおおおぉぉっ!!!」
「「「「オオオオーーーーッッス!!!!」」」」
「俺たちの天使がついにご降臨なされたぞぉぉおおおおっっっ!!!」
「「「「イッッッッヤッフゥゥゥゥーーーーーッッッ!!!!」」」」
テンションというか脳内麻薬が過剰分泌されているとしか思えない部活仲間たちが、宍戸先輩の煽動にて大興奮していた。どうしたオマエラ。少し落ち着け。
一瞬来る世界線を間違えたのかなぁ、と現実逃避に似た憧憬に突き動かされそうになりつつも、部の全員がそれに参堂しているわけじゃないことに安堵を覚え、その円陣を組む宍戸先輩のご同輩らの中心には見慣れた少女がいることに目を疑った。ていうか亜子だった。
……何してるの、あの娘。
亜子は、何故か仮契約装備状態のナース服に身を包み、部活仲間に笑顔を振り撒きつつドリンクを配布している。
周囲の先輩方は一定の距離を保ちつつ、彼女を逃さないフォーメーションで中心の亜子を崇め奉っている。
あれだ、アイドルの取り巻きみたいな状態に近い気がする。
「うはぁー、凄い人気だねー亜子ちゃん」
「何の騒動ッすかこれは……」
「多分あれだよ、あの娘と他の娘たちだけど学祭のステージで二位獲ったじゃん? その可愛さにようやく気づいたバカな男共が、あわよくばお付き合いしたいーってイマサラ騒いでいるんじゃないの?」
亜子とは別の、高等部の先輩マネージャーが疑問に応えてくれた。彼女の言うとおり、確かに今更な気がする。
バンドなんてやらんでも充分可愛かったのにな、アイツ。
「バカだよねー、とっくに売約済みだって見てればわかるのにねー?」
「宍戸先輩とはもう終わってるみたいッすよ」
「そっちじゃねーよ、キミだよ。付き合ってるんでしょ?」
「付き合ってねーッす」
付き合ってはいない。一応は。
当然彼女はその返答には納得がいってないらしく、
「あれー? でもその割には距離が一番近いのはキミだよねー」
そう言いつつ、「オラー散れやー!」と練習を再開させるべく男共に備品のサッカーボールを蹴っ飛ばすマネジ先輩。正直、この人がうちの部ではトップクラスに上手かったりするのだが。
そして円陣から解放された亜子がこちらに気付くと、今までの引き攣っていた笑顔ではない、自然な顔で笑って手を振ってきていたりして。
……こうして見ると確かに美少女なんだけどなぁ。
× × × × ×
「やばいわー、まさかあんなんなるとは思いもしなかった」
「一体何をやっていたんだよお前は……」
朝練終了後、ナースルックからいつものジャージへとフォルムチェンジを果たした亜子がこっそりと近づいてきていた。こっちは備品の片づけ中。
本来ならマネジか一年の仕事なのだが、マネジ先輩の采配によってあれよあれよという間に俺と亜子へとお鉢が回ってきていた。しかも「亜子たんの可愛さに惹かれた一年に告白される可能性も微レ存だぜ?」などと、本気で余計なお世話な忠告付きである。
べっ、別に気になってなんかいないんだからねっ。
「ちょっとアーティファクトの臨床実験を……」
「やだなにこの娘、こわい」
マネジ先輩が裏で少女漫画のお助けキャラみたいな裏工作をしている傍らで、メインヒロインに相当する女子が人体実験をしていたという恐ろしい事実を知り思わず身を数センチ離した。本気で何をしているのこの娘……。
そうするとわたわたと、見た目だけはちょっとだけ可愛らしい仕草で慌てたように手を振り本人からの修正が入る。
「あっ、実験にいうても危ないもんとちゃうよっ? 出てきたウチのアーティファクトって、なんか飲み薬みたいなもんやったからね。説明書きの通りなら副作用とかも無いハズ」
「どっちにしても怖ぇよ」
つかこの娘も原作と違うアーティファクトなんすか。一体なんの因果で変更されるのか、ちょっとルールを誰か教えてくれや。
そんなことを思いつつ、見せられた彼女のアーティファクト。召喚のために一々ナースルックに変身するギミック付きなので、まるで魔女っ娘のような中学生。その年齢ならば惑星系美少女戦士か、若しくはプリティでキュアキュアな感覚なのかもしれぬ。
性格バランス的には木星の気高さとか、水星の知性がどーのだっけか? そういう配役とかがしっくりきそう。配色は現在進行形で完全どピンクだけど。
「これこれ、なんかすごいお薬みたいで」
「どら」
益体ないことを思考しつつ。手渡された小瓶の横についているラベルを読み込む。
製造元が『柊製薬』。聞いたことが無い――ような、ある、ような……?
喉に小骨が刺さったような疑問を覚えつつ、下に連なる効果を読む。
『一回一錠で三回分の死を回避できます。四つ飲めばこれで貴方もヘラクレス!』
これは酷い。
正式名称が『四分の一の純情な優しさ【内服薬】』。ルビには『ウィッカン・メディスン』とあった。
………………ウィッカ。魔女?
……あっ(察し)。
「柊っておま、」
「え、知ってる人?」
思わず己の口を押さえてしまった。
柊 紅。『最強の魔女』などと呼ばれている、この地上で一番目の当たりになりたくないお人である。
正直口に出しただけで麻帆良に平然と現れそうで、一番得体が知れない分イリシャさんより会いたくない。その件のワルプルギスさんも、この間別の次元から幼女呼び出した張本人だって言っていたし……。
そんな彼女謹製のお薬らしきこの物体。しかもラベルの一番下には、『非売品』ととってつけたように書いてある事実に恐れ慄き、
「おま、これ絶対他人に見せるなよ? これフリじゃねーからな!」
「う、うん? わかった……?」
押すなよ!絶対押すなよ!
本人が一番意味を理解していなさそうに頷いていたが、これをいつまで隠し通せるのかまったく予想がつかない。なんとか目をつけられる前に返すことができるか、返せなかったら何かしらの補償を弁えないことには命が危ない、気がする。
ネームだけでガクブルなんだよ! ネギまストーリーの裏に魑魅魍魎が跳梁跋扈していそうな世界線で、『最強』という二つ名が罷り通るお人だぞ!?
カウントダウンが先か、魔女が先か。なんで俺こんなやりたくもないチキンレースに乗っかかってるの……?
「あ、あとな、そらくん。それと、もう一つ相談があるんやけど」
思い掛けないところからの疲労に朝から困煤な俺に、亜子がナースルックのままもじもじと問いかける。
なに? なんでお前まだジャージに戻らないの? 背後にうっすらとした人型がこっちを凝視してるから早目に戻ってくれない?
「こ、このアデアットのときにいっしょに出てくる人って、なんなん?」
「――え、気付いてたの?」
「気付いてたん!?」
てっきり見えてないのかと思ってた。
ほら、まおちゃんも戦車の上に乗っかっていたスタイルのいい女性のスタンドに気付いてなかったし。
「気付いてたんなら早く言うてよ!? ウチだけにしか見えない幽霊みたいなモンかと思うとったーっ!」
「いやスマン。てっきり見えてないのかなー、って思ってた」
そういえば、実際の幽霊であるさよちゃんとも未だ邂逅してないのではないかな、3-Aの娘らの大半って。
そのうち説明するか。見た目ネギ君の娘みたいな髪色になっているけど、まあ大丈夫だろ。
「うう~……、そ、それで、これはなんなん? これが出るたびに、周囲の男の人たちが凄い興奮してるみたいで怖いんやけど……」
へー、もう性質を理解しているのか。意外に観察力あるな亜子って。
真っ先にスタンドの所為だって思う、というより自分がアイドルみたいに扱われていた朝の風景が信じられてないんだろうなぁ。
「とりあえず名前だけでもつけてやろうぜ。制御法はそのあとで教えてやるから」
「いや、その前にこれが何なのかを教えてほしいんやけど……」
おっかなびっくりな亜子を放置して、亜子のスタンドを見やる。
意外と女性型には見えないのは胸部装甲(意味深)が薄い所為かもしれない。スレンダータイプ、なのだとは思うが、透け過ぎていて見えづらい。実態を得るためのエネルギーが足りてないのか?
配色は金と黒。獅子を思わせる配色……いやむしろ牙狼?
「ライオンキングとかでどーだ」
「ネーミング酷っ!? ぅああ、もうそうとしか思えなくなってもうたー!?」
改めて己のスタンドを見直して絶叫する亜子。
そして実体化するライオンキング(仮)。
命名が無駄に洗練された瞬間であった。
× × × × ×
「マスター、朝です」
「………………」
……起こしにきた茶々丸に、無言のままに半目を向ける。
察したのだろう、ため息をつくと昨日のように納得した。
「はぁ……。またサボタージュなさるおつもりですか?」
「………………うるさい」
寝不足の頭のまま、一言だけ返して毛布を被りなおす。が、眠ることも出来やしなかった。当然だ。
今の私の頭の中は、後悔でいっぱいだった。
些細な切欠は全て源しずなの言葉に踊らされたことなのだろうが、あの結果を引き起こしたのは私自身の配慮の足りなさが原因だ。
私の弟子であるそらのことを私がどれだけ知っているのか、そんなことを言われたような気がする。源しずなが魔法関係者だったことには気づかなかったが、そんなことよりもそらが私に心を開いていないのではないかと、挑発みたいな言葉に気を取られたことが間違いだったのだろう。
私はよりにもよって、アルビレオ=イマにそらについて知らない部分を尋ねてしまっていた。
私がそらについて知らないことといったら、精々が出会う前の幼少期に両親のことぐらいなのだが、それをわざわざ聞くというのも野暮だと判断していたはずだったのだ。
結果は最悪。
アルは何をトチ狂ったのか、そらと交流のある女子やネギの前でそらの過去を暴露した。
それを知ってしまって改めて、聞いてはいけない事実であったのだと、私は未だに後悔し続けている。
きっとあれだ、武闘会で女子中学生に腹パン一発で負けたことに、腹を抱えて笑ってやったことの意趣返しなのだろう。恐らくはそんな気持ちで私からの依頼を果たしたのかも知れぬ、アルの奴め。
私とて、こんな身体になる前は両親の記憶もある。
愛された記憶もある。
愛していた記憶もある。
そらにはそれが一切ない。
嘘か真か前世があるとは聞いていたが、だからといって今世で肉親から疎まれていたことを帳消しにできるとは思えない。
どういう気持ちで生きていたのだろう。
どういう気持ちで死ななかったのだろう。
私と出会って、どういう気持ちになったのだろう。
そらは言った。
私に対して「愛している」と。
しかしその前にも言った。
私が奴を拾い上げた理由を「気まぐれで暇つぶし」だとも。
それは当時の感情としては当たっていたし、修正する気も無い。今は違うのだし。
しかし、それでも言ったあの言葉には、本当に私の知る『愛』が混じっていたのだろうか。
知りたい反面、それがあいつを更に苦しめることに繋がってしまうのではないか。
そんな苦悩も、ここのところずっと続く。
600年生きた吸血鬼で、不老不死の化け物で。
なのに心の中を整理することも出来なければ、今自分の一番そばにいる少年の心に触れることもできない。
治療の仕方がわからないからなのか。
それとも他に理由でもあるのだろうか。
ああ、また混乱してきた。
まだ眠れない、本当にどうすればいいのか――、
『……マスター』
――遠くの方で、茶々丸の心配するような声音が響いたような。そんな気がした。
~惑星系美少女戦士
月がお仕置きで火星が折檻、なのは有名だけど他のきめ台詞が思い出せなくってうろ覚え
木星と水星が当たっているかどうかは、まあどうでもいいか
~柊 紅(ひいらぎ くれない)
ネギマジ最後のオリキャラ。舞台装置程度の役割なので今後ともご本人が登場する予定は一切無い
最強の魔女、などと呼ばれており、この世界線には存在していない安心院さんと侑子さんを足して二で割ったような性能を兼ね備えている。やべぇ
しかしスキルホルダーとかそういうのではなく、どっちかというと製作系に資質は傾いている模様。こう、人外魔境的に
~4分の1の純情な優しさ【内服薬】(ウィッカンメディスン)
和泉亜子のアーティファクト
ナースコスだからと言って注射器である必要性は無い。手元に1瓶召喚できる、飲むだけで無敵に成れるアーティファクト。内包60錠
一つ飲めば三回分の死因を無効化でき、以降その無効化した『死因』に対して一定時間の耐性が付く。4錠飲めば『十二の試練』を再現できる、簡易型ヘラクレス再現薬。但し内包している緩衝剤が一定量を超えるため、副作用によって薬の効果時間が切れても一週間は偏頭痛が続く。飲むときは用法用量を守って正しくお使いください
某最強の魔女が作成した家庭用常備薬。飲むだけで概念付加が出来る薬品だが薬事法違反に抵触しているために販売されていない。これにはワルプルギスさんも苦笑い
~ライオンキング(仮)
亜子のスタンド
スレンダータイプだが一応は女性型。偽仮面ライダーみたいな姿かと幻視したそらが勝手に名づけたが、正確には実態が保たないてけてけなんだかダークライなんだかみたいな揺らいだ形質。配色は金と黒
能力は『周囲の男性をケモノに変える』要するに性欲を迸らせるサキュバスみたいなもの。そんなスキルあったね、エロティックピエロだっけ?
ちなみに命名には亜子は納得いってないご様子。モバゲーみたいな命名がご不満かと見た。くるぉえるうぇーるです!(巻き舌)
~エヴァ、独白
なんだか微妙に形にならないのは寝不足による混乱のせい(断言)
合わす顔がなくてこんなことになるくらいならとっとと会いに行けばいいのにー(白目)