ネギまとかちょっと真面目に妄想してみた   作:おーり

95 / 100
お待たせしました
ようやくネギまに戻れた気がしますが、
そろそろ終局です


『カウントダウン0』

 

「『ユキエイリ・シンドウシュウイチ、熱愛発覚!? 公共の電波で熱烈キスシーン!!』……? どっちが女?」

 

「いや、そいつら2人とも男だよ。片方は小説家で、もう片方はバッドラックってーバンドの」

 

「バッドラック……、あー、あれかー。

 ――へー、料理番組で床を突き破って土中から登場したユキエイリが踊りながら料理を作ってシンドウシュウイチを応援? 会場の熱気に中てられたのか踊りつつ2人が熱烈なキスシーンを披露したのをギャラリーが悲鳴と共に祝福。うん、わからん」

 

 

 

 名前を聞いたことのあるバンドと、何処かで耳にしたようなネームが目に付いたので新聞記事を読み込んでみた。けど、正直読むと余計に混乱するような内容が描かれていた。というか神宮寺が言うには男同士である2人のキスシーンが紙面の半分を埋めるような大きさの写真つきなので、でっかく取り扱っていればイヤでも目にするわ。

 教えてくれた神宮寺には悪いが、俺の理解力を超えた事情ってこの世界に結構溢れてるもんだな。と逆に感心させられた気がする。

 

 

 

「……一見すると2人そろって女顔っつーか整っているっつーか……。……写真だけだと性別逆での同性愛にも見えなくもねーな」

 

「色んな女子がこぞって悲鳴を上げたらしい。中には男子も」

 

「ファンが多いのか、どっちも。……大人しく交際することも許されない世界か、業が深いな」

 

「至言だなぁ……」

 

 

 

 新聞を隣から覗き込む敷浪と揃って頷き合う。

 若干この記事自体とは関係ない話題かも知れぬけれど、この2人はもうプライベートでもマスコミに憑いて回られることは必至だろう。日常生活で『業が深い』とかって揶揄されるようなキャラクターを維持しなくちゃならないかもなんて、芸能人ってタイヘンダナァ。

 

 

 

「他人事みたいだけど、烏丸も割かしそういう部分あるから気をつけたほうがいいんじゃねーの?」

 

「なんでよ。俺は有名税なんて支払うつもりは毛頭ねーぞ」

 

「有名人であることに間違いはねーだろ」

 

「それ何処情報?」

 

 

 

 疑問の声を上げると、「わかっちゃいねぇぜこいつはよ」と神宮寺は欧米人のようにやれやれと両手を広げてため息をつく。イラッとむかつきすぎて殴り抜きたい衝動に駆られた(ダブルミーニング)。

 

 

 

「級長から聞いたぜー、ゲーセンで桜咲とデートしてたって」

 

「そか。おしゃべりが過ぎるワンサマーくんには同性愛疑惑を抱かせて溺死させてやろう」

 

「それこそ今更だろ」

 

 

 

 えっ、そうなの?

 正しい報復を仕掛けてやろうかと思っていたら既に疑惑があったでゴザル。じゃあどういう報復が必要かなー、と思考しかけていたところへ。

 

 

 

「おはよー、って烏丸! 結局あの後桜咲とは何処へ――!」

 

「おお、来たなホモ野郎」

 

「早朝一番に罵倒されたっ!?」

 

 

 

 織村一夏改めゲイ山ホモ太郎と一文字も原型の残っていない改名をしてやろうかと画策している張本人のご登場に、自然と心がささくれ立つ。

 いつしか誰かが言っていた。笑顔とは元来攻撃的な表情であったのだと。

 そんな笑顔で新聞を投げつける。

 

 

 

「ホラ見ろ、お前がおしゃべりなせいでこんな熱愛報道をされた哀れな犠牲者がいるんだぞ?」

 

「え、ええー? それ俺に関係ないんじゃ、」

 

「バカやろう! この地球上で人と無関係な事象なんて一つとしてないんだよ!」

 

「それこそ話題から遠ざかったよな!?」

 

「無関係でないというならば、是非ともどうにか片付けて欲しい案件が一つ残っているのですが」

 

 

 

 人間だけが特別視される謂れなんて何処にあるの?って、何処かの人外が言っていたよね。わかるわ。

 と、朝っぱらからわけのわからないバカな男子校生会話を一通り楽しんでいたら、久方振りの茶々丸の登校に口を挟まれた。

 そういえば忘れかけていたけどこの主従、男子部に通学中のテストケースだっていう設定だったな。学祭以降教室で見てなかったから、最早なんだか懐かしくも思えてくる。

 っていうか茶々丸だけ? エヴァ姉は?

 

 

 

「そのマスターのことでお願いがあります」

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「――ふぅ、お茶が美味い」

 

「ふざけるなコラァッ!!?」

 

 

 

 現在時刻は朝の10時。朝定をやっている店に間に合うことができた俺とエヴァ姉は、遅めのブレックファストを楽しんだ後別のカフェテラスで優雅に茶を飲んでいた。

 飲んでいたのだが、落ち着く心を何処かへ置き去りにしてしまったのか、王蟲も画やというほどに心頭来たエヴァ姉がテーブルを幼女の力で叩きつける。鎮まりたまえー、テーブルは壊れこそしないけど茶が零れる。

 まあ怒る気持ちもわからなくも無い。

 しかし俺としては、感謝されてこそあれど怒られる要素なんて特に持ってないはずなのだけどなぁ。

 

 

 

「私の知らないうちに従者を寝取られていたら怒りたくもなるわッ!! 私の命令でなくてなんでそらの命令をあいつ等は優先したんだ!?」

 

「あー、そっちかー」

 

 

 

 茶々丸に、エヴァ姉が引き篭もり一歩手前くらいの割合で病んでる、っていう旨を受け強攻策を取ってでも回復の兆しを見せてもらえまいかと依頼されたのが登校時朝(冒頭)の話。

 日取りも日取りのことであるし、思い立ったが吉日ともよく言うし、代返を頼んでエヴァ姉の部屋へと脚を向けた俺。そんな俺が見つけてしまったのは、実に病み入り一歩手前というか、ニート手前も斯くやと従者から評価されるのも已む無い、布団を引っ被ったエヴァ姉であった。

 

 俺はそんなエヴァ姉を心機一転させるために、先ずは風呂で丸洗いから始めよう、と茶々丸の妹たちである量産型メイド人形らに注文つけただけである。

 

 最大首領(ぐらんどますたー)であるエヴァ姉の健全なる精神を取り戻させるため、という事前命令も相俟ってか妹たちはエヴァ姉の止めろという命令を聞き入れず、実に細部に至るまでいい仕事をしてくれたらしい。GJ、妹らよ。

 

 

 

「いやよいやよも好きのうちですね、とか変な台詞まで仕込んだのは貴様か……!?」

 

「いや、それは知らんけど」

 

 

 

 茶々丸の仕業じゃねーかな。

 俺がエヴァ姉の部屋に、しかも普段着というかパジャマ姿であろう彼女に対面するのはどうなのよ、と苦言を呈したときも、「大丈夫です。お気に入りの服を毎日着るのは好きな人の目線をちらつかせるためらしいですから」って何処から収入したのか不明な理屈を口走っていたし。

 

 

 

「あとエヴァ姉が憤怒ってるのは朝食が洋食だったことだー、とついさっきまで思ってた」

 

「それはどうでもいいっ」

 

「洋食のぶれっくふぁすとの後が緑茶じゃ合わないんだろうなー、と」

 

「死ぬほどどうでもいいっ!!」

 

 

 

 むぅ、不死者に死を引き合いに出されるとはこれ如何に。

 未だに憤怒ったままのエヴァ姉だが、鬱一歩手前みたいな精神状態は解除されたらしい。先ずは身体を動かせば人間生きる気力が沸いてくる、ってバンコランが言ってた。要するに脳と身体を騙すわけなんだけど、何気に自分を騙すのが人生楽しむコツだ、ってとも。こっちは某コンシェルジュの受け売り。

 ともあれ、健全な生活へと無理やり逆転させられてのお子様吸血鬼は、某10歳のセレブ高校生みたいに下手な方向へは進んでいなくって若干の安堵であったりもする。

 そんな彼女はぷんすかといきり立ちつつ、まったくもうまったくもう、と食後の茶を啜る。なんか和んだ。

 

 

 

「で。そら、授業はいいのか?」

 

「まあこっちとしてもエヴァ姉にそこそこの用事があったんだよ」

 

「む、そ、そうか」

 

 

 

 テーブルを挟んだ状態で、さっきまで怒っていたエヴァ姉が少しだけ居心地悪そうな顔をした。

 ころころと表情が変わるなぁ、と俺としては未だに和んだ状態で、本題を切り出す。

 

 

 

「ぶっちゃけ、俺、今日死ぬみたい」

 

 

 

「――――――は?」

 

 

 

 いやぁ、無理無理。

 緊急回避決めろとか、生存戦略立てろとか、色々しずな先生には言われていたわけだけど、マジで俺には無理だわ。運命石の扉の選択を覆すための能力なんて俺には備わってないし、死因もさることながら死んだとしても、復活するような術式を開発するのも候補にはあったけど、正直根本的に乗り気じゃない。

 そもそも考えろよ。俺転生者だぜ? 死んだ人間をまた人生やり直させるとかって、正直人の手に及んでいい問題じゃない気がするんだ。むしろ一度きりの人生だ、と覚悟することこそが人間十全に人生を謳歌するコツなんじゃないかな、って最近ちょっと思いだしたし。この辺は平成漫画の問題点がネックなのかもなー。でぇじょぶだドラゴンボールがあるから死んでも生き返られる(キリッ、っていう有名な台詞は正直問題だらけだとも思うわけで。

 そんな益体も無い思考をしていたら、エヴァ姉の表情が呆然としたままから帰ってこないことに気付いた。まあそれはともかく、本題を続けようか。

 

 

 

「というわけで、遺産分配をしておこうかなーと思ってね。俺の『子』である人工精霊とか、エヴァ姉の封印術式の緊急解除法とか、あとは俺の持っている新呪文とか。腐らせるのも勿体無いから、エヴァ姉が保存しておいてくれないかな。好きに使ってもいいけどさ。あとは、」

 

「――なんでだ」

 

 

 

 正直俺の死因はともかくとして、日本の半分が焦土に化したという謎の因果関係。原因はこういう遺産分配をやっていなかったことなんじゃないかな、って思ったわけで。いや、正確に審議したわけじゃないけどさ、それくらいしか思いつかないんだよな。放置されたハチリュウとかが暴走したんじゃないかね、ってさ。

 そんな目論見で面倒見良さそうなエヴァ姉に話を切り出したのだけれど、……おーやぁ? なんかエヴァ姉、怒ってないかね?

 

 

 

「なんで、そんな簡単に自分の死を語れる……」

 

「んー、まあ、一回経験済みらしいし。死ぬんならしょうがないかな、と」

 

 

 

 その一回目の死亡自体まったく覚えてないから経験というにはなんかアレなんだろうけど。そんな暢気な軽い気持ちで語る俺。

 人間はいつかは死ぬのだし、覚悟とかしないと死ねないわけでもない。死なんてそこらに転がる代物、俺にとってはアフタヌーンティーを楽しむのとそう変わりないのさ。

 等とクロロみたいなことを思っていると、げきおこぷんぷんであったらしきエヴァ姉が沈んだ表情のままに俯く。うーむ、不死者には理解し切れん話だったのかなぁ。死なない存在のありようとか、正直よくわからんことだし。

 

 話が詰まってしまい、エヴァ姉が顔を上げるまでちょっと待つことに。こちらも黙って茶を啜っていると、遠くの方からなにやら喧騒が耳に届いた。

 居心地の問題もあってか気に掛かり、思わず首を傾げるように視線を向ければそこには、

 

 

 

「――ですから! いい加減落ち着きなさいと何度も言ったでしょう!? 更正しない限りはしばらくは刀禁止です!」

 

「後生ですからぁ、人を斬らせてくれるだけでええんですわー。ほらぁ、不死者のお人とか殺しても死ななそうなお人とか、麻帆良には仰山おるんでしょう?」

 

「良いわけがありますかっ!!! ああもう、なんでこういう癖のある子を私に預けたんですか学園長ーーーっ!?」

 

 

 

 なんか物騒な会話している刀子先生と、ロープでぐるぐる巻きにされて引き連れられている月詠の姿が………………、なにやってるのあの人たち。

 つーか本当に月詠だよ。今までまともに対峙したことなかったけど、そういえばアイツいつのまに麻帆良にやってきたんだ? 京都じゃ影も形も見なかったし、完全なる世界との邂逅フラグも無かったってことなんかね?

 

 

 

「――あ」「は?」

 

 

 

 刀子先生と目が合った。

 そしてそのまま気まずそうに目をそらす先生。

 ……あー、俺の黒歴史ってそういえばまだ消えたわけじゃなかったよね。

 

 

 

「ど、どうも。授業はどうしたんですか?」

 

「ちょいと所用で自主休講ッす。午後にはキチンとでますんで」

 

「午後では遅いのでは……」

 

 

 

 気まずくて話をしたくないのだろうけど、先生としての責務があるのだろう。なんだかんだで悪い先生じゃないんだよな、原作じゃへたれな部分ばっかり強調されてる気もするけど。

 そしてそんな先生とは裏腹に、月詠がちょっと昂ぶり過ぎていませんかね?

 

 

 

「――――あはぅ、先生ぇ、やっぱし刀くださいな。目の前にこんな上等なお肉転がっておったら、斬らずにはおられんのが人情ですえー」

 

「なにそれ物騒」

 

 

 

 こっちをちらっちら見ながらとんでもない台詞を口ずさむ月詠。あとお肉言うな。

 この娘はどうしてこんなになっているんですか、という意思を込めて視線を刀子先生へと。

 

 

 

「………………なんか、禁断症状みたいで」

 

 

 

 言い辛そうに、目線をあわせないようにそっぽを向きつつ応える刀子先生。現代には到底生き辛そうな生粋の人斬りが、此処にて市中引き回しの刑に処されていた。

 いや、人を斬るのに未だに刀を必要とする時点ではまだ安心かね? 世の中には無刀で人斬りが出来る人間もいると聞くし、武器さえ取り上げちゃえば平気だろう。……平気、だよな?

 そんなことを思いつつちらりと見る。

 

 

 

「刀~、刀~、あううう~」

 

 

 

 ――がくがくブルブルとアル中っぽく震えだしたメガネ女子。斬殺に依存性があるとか、この子ひょっとして村正の生まれ変わりとか? そんな隠れ設定持ってないよな?

 というか俺が標的っぽいのはなんでだ。

 

 

 

「本当にすいません。この娘何故か朝からこの調子で、一時間目に既にこんな状態が断続的に続いているので連れ出したところでして」

 

 

 

 ということは、一時間目は女子部3-Aは刀子先生の授業だったのか。今更ながら、なんの教科を教えているんだろう、この人。

 

 

 

「刀~、はぁう~、は………………ぁ、はっ………………っ!」

 

 

 

 立っていられなくなった女子中学生が荒縄に雁字搦めになったまま横たわり、ビクンっと一層身を捩じらせる。エロいと感じるのは、俺が汚れているのだろうか。

 なんというか、見てはいけない気分になってくる。もう刀の一本くらい渡したらどうよ。

 

 

 

「いや、そう簡単に渡すわけには、」

 

「でも、なにかしらで発散させないと一層危ない娘のままですぜ? 最低限リハビリとかもしないと普通の生活すらこの先危ういのでは」

 

「う゛」

 

 

 

 刀子先生が言葉に詰まる。心当たりがありすぎるのだろうなぁ。

 そしてそんな俺たちの会話が耳に届いたのか、月詠は恍惚とした表情のままに期待の眼差しをこちらへと見上げた。なんか器用な奴だな。

 

 

 

「貰えるんどすかぁ!?」

 

「……あげません」

 

「うう~、先生のイケズ~! 刀~、一本だけ~、さきっちょだけでええどすから~……!」

 

 

 

 御預け、を決め込む刀子先生。あれ、話がループしてない?

 

 

 

「――――そら、一つ、いいか?」

 

「ん?」

 

 

 

 ようやく何か言葉にするつもりとなったらしい。

 再起したエヴァ姉が、対面したこちらを見上げつつ尋ねてきたので、刀子先生らを放っておいて向き合う。

 

 

 

「自分をそこまで蔑ろに出来るお前の根本は、やはり『愛』を受けずに育った故か?」

 

「自己解析できるほど人間できてないのだけど。つうか蔑ろにはしてませんよー。どうしようもない事実の一つや二つ、この世にはあるってだけ」

 

『荒縄……、食い込む……、もがけばもがくほど……、硬く、堅く……、』

 

 

 

 表情の割には随分と一息に踏み込んだ質問をする。その辺りは彼女自身の癖なのかもしれないけど。

 しかし自身の中ではしっかりと答えとなっていることであるので、言えることは言葉にしておく。今日のいつ死ぬのかを具体的に把握してないしね。

 そうするとエヴァ姉は少しだけ言いにくそうに、言葉を続けた。

 

 

 

「……お前の事情を知りたいと思ったのは、私だ」

 

「ん? うん」

 

「その結果、あの古本に調査を依頼して、あの通りの結果になったことを、謝らせてくれ」

 

「いや、そっちは別に気にしてないけど」

 

『刀が無い、無刀、しかして斬れなしに非ずが儚き世の常……』

『何を言ってるんですか貴女は……』

 

 

 

 そっちも今更起こったことだし、正直一週間も根に持つほど腐っちゃいないし。

 つうか、さっきから後ろのほうが煩いな。

 

 

 

「そう、か。しかし、聞いてしまっておいてなんだが、ひとつ疑問が浮かんだんだ。

 ――お前は、本当に私のことを受け入れてくれているのかと」

 

「………………あー」

 

『硬い、だからこそ斬れる……、逆説的には。――つまり、刀が無くとも人は斬れる……!』

『その物騒な結論を止めなさい。――って、え!?』

 

 

 

 しずな先生にも言われたようなことを此処で聞くのか。今日のエヴァ姉は核心を妙に突くね。

 まあ本日で最後であるらしいですし、俺の本心を大サービスでぶっちゃけると、

 

 

 

「受け入れているに決まってるじゃない。家族だと思ってますともよ、俺は」

 

 

 

「――――――そう、か」

 

 

 

 大嘘だ。

 

 この世界は所詮漫画だ。俺は迷い込んだイレギュラーで、いつかは退場するのが絶対だ。

 それでも、愛着は沸いている。

 だからこそ今までそれなりに成果を出して、『原作』で解決されてなかったような問題を『どうにかする』手伝いでも出来ればいいかなと思っていたのが本音だ。

 自分が全部が全部まで手を広げられるとは思っちゃいないし、そもそも自分は万能じゃないし、目の届かないところくらいは普通にあるだろうし。

 でも、踏み出す勇気とやらが大事なことだと、魔法使いの誰もが言うらしい。

 俺は所詮その一歩目の手伝いでも出来ていればいいな、と。そう思って今まで生きてきた。

 ただそれだけのことなんだ。

 

 なんて、シリアスみたいな戯言をつらつら浮かべたけど、正直説得力も聞かせる気も無いので沈黙。男は黙って結果を出す。間違っても己の傷を白日の下に自ら曝け出してはいけない生き物なんですよ。俺自身は正直かなり手遅れだけど。

 

 エヴァ姉は当然俺の言葉に納得がいってないのだろうな。こちらの様子をじっと見上げて、内心を測り知ろうとしてくれている。

 それでもいいさ。どうせ今日でお仕舞いだ。

 …………でも痛いのはいやだなぁ……。

 

 

 

『――げて、逃げてっ!!!」

 

 

 

 唐突な刀子先生の叫びに、思わず振り返る。

 何事かと思ってみてみれば、

 

 

 

「――斬、る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬、る斬る」

 

 

 

 刀を持った月詠が、実にいい笑顔でこちらに踊りかかっていたところだった。

 ――いかん、逆説的に斬り殺される。

 

 

 

「――いやいや、只で斬られるほど安くは無いのよ。俺も?」

 

 

 

 体言、手のひらで握れば『掌握』出来る。振りかぶる刀を掴む姿勢に移り、寸前で刃が反されて手首を切り離された。

 やべぇ、こいつ普通に強い。

 

 

 

「――その首、もらいますえ?」

 

 

 

 瞳は白目と黒目が反転しているような、明らかにトリップ状態の月詠が微笑む。

 瞬間、狂化した月詠の返す刀が、己の首へと滑るように近づいて、

 

 

 

「――五月、蝿いッッッ!!!」

 

 

 

 ――バキィン、と氷の壁に阻まれて刀は折れて、その呆けた瞬間を月詠は氷漬けにされた。

 女子中学生の氷像がカフェテラスの真ん中にて展示される。っていうかエヴァ姉、封印はどうしたの?

 

 

 

「人が決断しようとしているところでごちゃごちゃごちゃごちゃと! 葛葉! この戦闘馬鹿をとっとと連れて行け!」

 

「――はっ、い、言われなくてもそのつもりです!」

 

 

 

 げきおこからまじおこぷんぷんにモードチェンジしたエヴァ姉の怒声に、現状に気がついた刀子先生が後片付けを始めた。

 どうも帯刀していた愛刀を奪われていたらしいのだが、おいおい大丈夫なのかよ魔法先生。思えば良いところを見た記憶がないなー、と物思いに更けそうになる。

 

 

 

「そら、手を拾え。とっとと治しにゆくぞ」

 

「え、あ、ちょっと待って、」

 

 

 

 そんな俺の返事を待たずに、俺の腕を掴んでこの場を離れようとするエヴァ姉。その顔はなにやら怒っている以上に思いつめているようにも見えたのだが、気のせいかね。

 待って待って、手首拾っておかないと。

 

 

 

     ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 ああ、実に腹が立つ。

 死ぬことを簡単に受け入れているそらにもだが、そうなったその先を見通せなかった私自身にだ。

 

 言われて想定してみた。こいつが死んだ後、私が何をしようとするのかを。

 思考の末は、どうしたって暴走しかなかった。それだけの喪失感を『こいつの死』で想定してしまっていた。

 便利な駒だとも切り替えられない。そんな私に己の全ての技術を提供する? 遺産分配をするために今日私を連れ出した?

 こいつは本物の馬鹿かっ!?

 ついでにいうと私も馬鹿だ!

 

 要するに私はこいつのことを家族みたいに思っていたわけだ。

 従者ではなく、恋人でもなく、一番近くにいて当然の、大事な存在だと思っていたわけだ。

 たったの8年だ。タカミチよりも付き合いは短いし、ナギにしてもらったみたいな劇的とも言える何かも無かった。

 ただ傍にいた。ただの人間なのに、ただ普通に。それだけで、気を赦せる間柄になっていた。

 それをこの土壇場で知らしめられることになるとは思いもしなかった。

 布団に包まってうじうじ悩んでいる暇があったら、とっととそらに会いにいけ!と昨日までの私に言ってやりたい気分だ。

 というかナギには世話にもなったけど最終的に喰らったのは封印だったし、そっちを引き合いに出すのは何か違うな。うん。

 

 ともあれ、実際、話をしてようやく気持ちが定まった。

 それだけこいつが近かったのもあるだろうけど、それ以上に考えさせられるような大嘘をほざいてくれるこいつにも、多少は腹が立っているのも事実なのだ。

 ――目にモノを見せてやるさ。

 

 

 

「そら、お前はこの前も、今日も、言ったよな。私を愛していると、受け入れていると。言葉にしたな」

 

 

 

 私の家へと帰る道すがら、切り離された手首を自力で治したらしいそらへと声をかける。

 人の気配は無く、周囲は森。

 やるなら、今だ。

 

 

 

「あー、うん。言ったけど、」

 

「言葉にしたのなら、証明して見せろ」

 

「証明って……、どうやって?」

 

 

 

 簡単なことだ。

 あらかじめ用意してあった魔法陣が、地面にて発光する。オコジョのものじゃない、私自身が随分昔に、いつかのためにと用意していた謹製の一品だ。

 

 

 

「――エ、エヴァンジェリンさん? これって……」

 

 

 

 気付いたらしいな。

 だらだらと滝のような汗を流し、そらは身を硬くする。

 私はそいつの腕を掴んだまま、決して逃がすつもりは無い。

 

 

 

「私のことを愛しているというなら、この契約を受け入れろ」

 

「――本契約、じゃないっすか………………!」

 

 

 

 当たり前だ。小娘どもと同じと思うなよ?

 

 

 

 




本番はないよ!
エピローグは日付変わる頃に投下予定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。