ともあれ、
ご愛読、ありがとうございました!
「――昨夜はお楽しみでしたか」
「昨夜でもねーしお楽しみでもねーし。っていうか帰ってきてたんなら引き受けてよ、この娘」
「いえ、そんな幸せそうなマスターを受け入れられるほど、私の心は広くありませんので」
「お前エヴァの従者だよねぇ!?」
あの後、突然その場に現れた俺の仮契約の面々明日菜にアキラに和泉に裕奈、そして風香と綾瀬と古菲と、と茂みを掻き分けて顔を出した女子中学生らに問い詰められるまま。徒然なるように別荘へと足を運んだ俺たちを待っていたのは、足早にエヴァの屋敷へ出戻ってきた茶々丸のご挨拶であった。
コンチキショウめ。微笑ましそうな顔(無表情)をしてこちらを眺めるガイノイドが実に小憎らしい今日この頃である。
「姉扱いは止めたのですか」
「ん、まあね」
「そら、手が止まっているぞ」
「ああ、はいはい」
膝上に抱えた金髪幼女の長い髪をなでなでと、促されるままに手を動かす。静かに優しく、手櫛で梳かす感触が心地好いのか、エヴァはごろごろと喉を鳴らす猫のように、俺の肩に頭を傾けて目を細めていた。
――うん。どうしてこうなった。
本契約と言葉にするのは一層妖しい響きに聞こえるかもしれないが、実際やったことといえば仮契約にプラスして結婚式の真似事みたいなママゴトくらいしかなかった。来賓のまったくいない結婚式の真似事は互いに互いを愛するという子供みたいな約束だが、そんなのでも契約は契約、足元で輝く仮契約陣を少々改変した本契約魔法陣は俺の了承を確実に汲み取ってしまったらしい。不満はないけど。
誓いのキスをするところで茂みから傾れ現れた面々は、というよりも風香がここのところ色々暗躍していたらしく、正直忘れかけていた彼女の行動と良すぎるタイミングでその場に現れたことを問い詰めようと別荘まで連れてきたのが事の次第。というかお嬢様方、授業はどうした。
「そらっちの命がかかっているところで授業なんて受けている余裕ないよ。先生からは聞いていたんだけど、どうやったらいいのかなんてボクもぜんぜんわかんなかったしぃ」
不貞腐れた様子で風香は言う。
どうやらこの娘ってば、唯一しずな先生から直接協力を要請されていたらしい。とはいっても依頼されたのは俺の監視だったらしいが。
確かに、風香のベイビィユニオンは俺でも感知しきれないスタンドだったし、俺自身に控えさせていれば何処までも見張ることが出来ていたのだろうなぁ。と思っていたのだが、
「土曜日のみんなの特訓、ていうか明日菜のスタンドの影響でボクのベイビィユニオンも剥がれちゃったし」
思い出させないで。
どうやら明日菜のスタンドは他のスタンド能力を完全に無効化できるらしく、俺の監視は日曜と今日とでまったくのフリーになってしまっていたらしい。
その上で俺をようやく見つけられたと思ったら、視界同調で目撃したのは月詠に切りかかられる俺の姿。大慌てで教室を飛び出して、ついでに内的な事情に精通できるスタンド使いの面子を連れ出してきた。というのが、ついさっきの出来事であったらしい。展開のスピードが程よくて、まるで桜新町の独特な髪型の主婦のようである。財布を忘れて買い物に出かけるあの人のような。
そんな事情を、エヴァの家へ行く道すがら肩車の状態で聞き出していたのが、エヴァ的にはご不満であったらしい。
そこからようやく今に至る。
家族、と俺のことを受け入れていると本人は言っているのだが、続柄がなんとなく姉弟よりは夫婦に近しく感じるのは気のせいではないのだろう。現に名前の呼び方も。
姉と付けることを露骨に嫌がり、かといってキティと呼ぶのも正直嫌だといわれた俺。その果てに、ずっと昔に捨て去った本名を呼ぶことを許してやる、と古本さん以上の未踏範囲設定があざと可愛い。2人っきりでいるときはその名で呼べ、愛おしくな。と某拘束服の緑の魔女みたいな妖艶な台詞使いにはすこうしくらくら来た気がする。エヴァカワイイ!
というか、何気に契約できないと思っていたのだけど。てっきり俺の障壁で無効化されるかとばかり。
正しく穿つなら、俺の障壁はATフィールドと同等の心の壁だとそういえば誰かに分析されていた気もする。そう考えるとこうなった結果は、彼女のことを愛着以上に受け入れているということなのだろうなぁ。驚愕の結論にご本人がびっくりである。
そんな愛着改め愛情を注ぎ、イチャイチャにゃんにゃんする俺とエヴァ。
そして、そんな俺たちをにやにやと眺めている、明日菜を初めとした俺の仮契約メンバー。
……正直、静かなその対応が不気味すぎる。嫉妬とか、ないの?
「いやぁー、それにしても、これで磐石になってきたわよねー」
「せやなー、エヴァちゃんを受け入れたいうことは、体型には問題ないというても過言でないしなー」
筆頭の明日菜と亜子が、なにやら逆鱗に触れそうな会話をしている。
止めてやれよ幼児体型とか、見た目10歳なんだし仕方なかろうよ。
「他にも参入するのかな?」
「んー、あたしは正直これ以上は入るとそらっちの精力的にどうかなーって思っちゃったりするんだけど」
「せ、精力……」
裕奈の言葉にアキラが頬を染めた。
――あっ、ハーレムか!? ハーレム計画のことか!? オマエラそれまだガチで狙っていたの!?
正妻候補の明日菜が許可しているから他の3人もいっそ、みたいな空気になっているのか?
やめてよー、俺宇宙人系美少女ヒロインに追い縋られるラッキースケベ系主人公とは別の人よ?
というかそうやって俺を分割する考え方って俺自身の意思は何処へ?って聞きたくなるわ。
しかし、エヴァの反応はというと、
「あ? 何を言ってるんだ貴様らは」
和気藹々と語る4人に冷や水を注がれたのが癇に障ったのか、睥睨するように彼女らを睨み付けると鼻で笑って言葉を投げつけた。
「そらの主人は私で、私の所有者はそらだ。であれば、この先私がそらの周囲を管理することに、問題なんてないはずだよな?」
「――え?」「つ、つまり……?」
あ、今まで一応は気にかけてたのね。
俺の周囲に美少女がどんどん揃っていっても、基本的にノータッチだったのはそこを配慮していたのだろう。家族であっても色事には関わらない、とでもルールを自ら課していたのかもしれない。
律儀だなぁ、エヴァは。
そんな俺の理解と裏腹に、のっぴきならない現実に迫られたのかと、戦々恐々とした声音で続きを促す亜子と明日菜。
アキラと裕奈はこっちに珍妙な表情を向けて、小首を傾げていた。
「――私の目の黒いうちは、ハーレムなんぞ許可するかっ!」
「「「「え、ええーーーっ!?」」」」
ですよねー。
「ええー、ボクも魔法アイテム欲しいよー」
「そんなの坊やとでも契約しておけ。そらはやらないぞ」
「そらっちだからいーのにー」
「やらんと言っただろうが」
不満な声で仮契約ガールズがブーイングを上げるが、エヴァはにべも無く払いのける。
それでもその中でも、地味に食い下がるのが風香。
なんだろう、6号といい、麻帆良に来る幼女系は無駄に積極的になる傾向にあるんだろーか。
というか何気に俺がモテモテである。なんで?
「……割と落ち着いてますね、烏丸さんは」
「そりゃあ俺としてもハーレムとか元々望んでなかったし」
ゆえきちの視線に平然と返す俺。
束縛系な彼女ですけれども、これもまた自分にだけ愛情を注いで欲しいという気持ちの表れなのでしょうからね。俺としては不満などない。
そう応えたのだが、ゆえきちは視線を外さない。
まだ何かあるのか?
「あ、いえ、ちょっと烏丸さんのアーティファクトがどういうものなのか、気になったものですから」
「あー。じゃあお披露目しましょうかね」
と、納得のついでにアデアット。
光に包まれて手元に現れるは、一冊の本。
うーむ、ゆえきちとか宮崎とかと同系統?
「本型のアーティファクトですか。お揃いですね」
「だな。さてさて、どんな中身かなー」
適度に応えて書を開く。
あとエヴァさん、こそばゆいので腕を抓らんでください。ゆえきちのお揃い発言に同意したことに何気に嫉妬したのだろーか。
ぱらぱらとページを捲って、内容をざっと確認し、最後に閉じて表紙を見る。
お、おおう、これはこれは。
「――エカテリーナ」
「っ、な、なんだいきなり! 2人っきりのときだけ呼べと言っただr」
「ありがとう!」
「――ぅ、あ、うん……」
すげぇ! こんな最高峰のアーティファクトそうそう無いよ!
思わず感謝の意味を込めて、超ハグる。
恥ずかしそうに顔を背けちゃったエヴァカワイイ!
『あ、あんな笑顔初めて見た……』
『う、うん。まるでクリスマスにサンタさんからプレゼントをもらったと喜ぶ子供みたいに無垢な笑顔だったね……』
『そ、そらくんでもあんな顔するときあるんやな……』
『そらっち可愛い』
外野がなんかうるさいけど、今の俺には通用しない。
これでいろんなことが捗るかも!
「で、どんなアーティファクトなのですか?」
「おお、凄いぞこれ。『ラヴクラフトの書架』っつってな、5種の魔本を再現した上で俺の資質にブースト掛ける優れもので、」
「ちょっと待ってください名前の時点でヤバイ匂いがぷんぷんするのですがそれは」
説明の途中で句読点なしで待ったをかけられる。
むう、此処からが凄いところなんだけどな。
「と、とりあえず、SAN値がガリガリ削られそうな解析はともかくとして、そんな本を一体どんな人が用意したのですか? ラヴクラフトの年代的に見てそう古いものではないでしょうし、魔術分野を魔法使いが取り掛かるというのも違和感があります」
「あ、そこ聞いちゃう? 聞いちゃうかー。まあそう思うだろうなー。どうしようかなー、言っちゃおうかなー」
「果てしなくうざいのでとっとと説明しやがれです」
やだ……、辛らつ……!
「元々は魔術師の作成した代物みたいだぜ? 著者近影に載ってた」
「載ってるのですか……」
「製作者は、『アレイスター=クロウリー――』」
「「――っ!?」」
あまりにも有名すぎるネーミングに、エヴァとゆえきちの2人揃って表情が強張る。
が、
「『――3世』」
「「誰!?」」
意外すぎる暴露に、揃って絶叫するのであった。
※前話からの注釈です
~本文導入部分
男子中学生の日常、なんつって
~お気に入りの服をry
ちょっとフルムーン探してくるわ
~バンコラン
美少年キラーの秘密捜査官
~逆説的にry
陰険院さんのるきるき講座ー
~エヴァの本名
IFで以前に書いたけど、エカテリーナ説を推すよ、俺は
~『ラヴクラフトの書架』
『この世界』に現存する魔術師アレイスター=クロウリー・3世が製作した魔術道具。クトゥルフ神話を独自解釈した魔書であるのだけど、若干適当な出来栄えの魔術演算増幅器(アンプ)でしかなかったはずの本。それがそらの元へと召喚されたことでアーティファクトとして変質した
3世は祖父であるアレイスターの残した『法の書』に匹敵する本を作りたかったらしく、中身は実在しない5冊の魔書『妖蛆の秘密』『ルルイエテキスト』『ナコト写本』『セラエノ断章』『黄衣の王』の断片的な解釈本でしかなかった
ちなみに、3世自身は『ヘキサエメロン』と称される世界に6人しかいないとされる魔術師の一人であり、魔女っ子スタイルの銀髪少女であったりするのだが蛇足だろうか
~いつからハーレムエンドだと錯覚していた…?
摩り替えておいたのさ!
これにて一応の終わりとなります
が、
蛇足がもうちょっと続きます