Fate/Zero 【crimson alchemist】   作:焼酎ご飯

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目覚

――――――――――ッ!!

 

 

全身を満たすように心地よく鳴り響く怨嗟の声が徐々に遠のき、私の意識も無に帰すのかと覚悟を決めようとしたその瞬間、唐突に意識が覚醒する。

既に認識することすらできなくなっていたはずの肉体はそこに存在し、仕事着として愛用していた白いスーツが身を包んでいる。

 

 

「私は……私は他の魂と共に…………っ!!」

 

 

そう、私の魂は鋼の錬金術師、エドワード・エルリックによって数多の魂と共に分解され、ただ消滅を待つだけだった。

最後にあの人造人間の宣いを下すことができたのは痛快だったが……それでもやはり自分が消えてなくなるというのは存外にさみしいものだった。

だがそのような己に似合わぬ感情を持った矢先、私の魂・肉体は再び私のものとなった。

だが慣れ親しんだ感覚が戻るよりも、遥かに奇妙な光景が眼前には広がっていた。

 

 

「なんともまぁ……辺獄がこのような世界とは……」

 

 

そこには―――――何もなかった。

色も影さえも失われた、自分の声だけが響く真っ白な世界で、私は立っていた。

上下左右の平衡感覚さえ狂ってしまいそうな、まさに虚無を表したようなその空間は、己の消滅よりも遥かに恐ろしいものであった。

 

 

「私への罰だとするならばまさに打って付けではありませんか…神を呪うしかありませんね…いや?錬金術士としてそれはどうなのだろうか?」

 

 

あの総統ではないが、罰だの神だの、そんな妄言を吐く程に精神が摩耗しているのかもしれない。

試しに地面と思しきそれに触れ、思いつく限りの錬成を行ってみたが反応することはなかった。

当然だろう。この地面が、この空間が何か理解できていないのであれば当然錬金術が発動するはずがない。

生きることを全力で楽しんでいたと自負している私が、まさか自殺を考えなければいけないようなことになろうとは…

そもそも消滅した後の世界と考えるのであれば、死ぬこともかなわないのではないだろうか?

深くため息をつき、あてもなく彷徨う覚悟で歩み始めるべく、足を動かそうとした。

 

 

『おや?この世界がお気に召さないようですね?私としてはこの上なく満たされた空間と言えるのですがね』

 

 

背後からの声に驚く。

 

降って沸いた希望にその場で振り返ると、そこには私の理解を更に大きく上回る何かがあった。

 

 

 

 

 

 

太陽と月を左右に分かった巨大な黒い門が宙に浮き、こちらを見下ろしていた。

先程まで影も形も無かったそれに目を奪われるも、先の声の正体に気づき私はやっと思考を放棄する。

 

その声の正体は…正体と言うにはあまりにも情報が少なかった。

 

何もない空間に、黒い靄のようなもので形取られた人が他の何か。

黒い門がなければこの空間に溶けてしまいそうなほど曖昧なそれは、表情の存在しない顔で確かにこちらを見ていた。

 

 

「…えぇ、こんな世界に私が求めるものはありません。少なくとも、宗教的に言われている地獄というものの方が遥かにマシと言えるでしょう」

『おや、驚かないようですね?しかし酷い言いようだ…錬金術師が求める終着点がここには有るというのに』

「錬金術師の終着点…賢者の石の制作、ホムンクルスの確立…はたまた真理の探究でしょうか?最早そんなものは見飽きてしまいましたが…そのいずれかがこの空間であると?それともあなたかその門のことを指しているのでしょうか?そもそもあなたは一体何だというのです?」

 

 

私がそれに問いかけると、その曖昧な何かはその質問を待っていたかのようにまたもその何もない顔で嘲笑う。

 

 

 

『よくぞ聞いてくれました!…とは言ったものの、あなたからは通行料の一切をお支払いしていただいておりません。残念ですが、私の正体を明かすことはできません』

「通行料?」

『えぇ。そもそもあなたは既に払える対価を所持していません…ですがご安心を。あなたにはあなたが望まないこの世界から、今すぐ旅立っていただきます』

 

 

ソレの声が止んだ瞬間、ソレの背後から耳障りな開閉音が響く。

そびえ立つ黒い門が開き、深淵を覗くようなその中身を顕にする。

だが変化はそれだけでは済まなかった。

 

 

「なっ?!なんですかこれは?!」

『別に噛み付いたりしませんよ。ただ、あなたを含め賢者の石として消化された者にはこうして旅立っていただきます』

 

 

人造人間プライドの操る影のような腕が深淵から一斉に伸び、私の体中を掴む。

その瞬間、肉体ではなく精神が引っ張られるような感覚に襲われ、抵抗することもできずに深淵へと引っ張られていく。

 

 

「っ―――――っ…あ゛…が…―――――」

 

 

最早声を上げることも叶わず、私の体を飲み込んだ門は閉じはじめる。

視界の殆どが闇に染まり、再び肉体が消滅していく感覚に支配されていく。

門の隙間から見えるソレは、こちらに振り向き再度嘲笑う。

 

 

 

 

『それでは、良い旅を―――――紅蓮の錬金術師、ゾルフ・J・キンブリー』

 

 

 

 

門は完全に閉じれら、魂、肉体…私の私たる感覚は全て失われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――…フ……ルフ……ゾルフ!……おぉ良かった!まさか失敗してしまったのかと思ったぞ」

 

 

…ここは?

全てが分解されていく感覚に、意識を手放した私だったが、再びその意識は私に戻ってきたようだ。

目の前には馴れ馴れしく私の名を呼ぶローブを羽織った丁年の男性が、その皺の入った顔をほころばせながらこちらを覗き込んでいる。

そして自然と視界に入るその部屋は、無数の本棚がひしめき、ロウソクの灯りがぼんやりと照らす薄暗い部屋だった。

薬香を焚いたような匂いとカビ臭さが充満したその空間は、私が先程までいたあの世界とは似ても似つかなかった。

 

 

「…ここは…一体…っ?!」

「何を言っている?ここは我が家の工房…まさか…記憶がないのか?」

 

 

起き上がろうとしたところで重大なことに気が付く。

私の体は何かに固定されており、起き上がることができない。

それに記憶が無い?彼こそ何を言っているのだろうか?

そもそもこの状況は何だというのだろうか?

私が再び肉体を得ることができたということは確かだろう。

現に拘束されているのがそれだ。

だがその体は私なのだろうか?

そもそもここはどこなのだろうか?

 

 

「記憶がないと来たか…それはさして問題はないが魔術刻印は…ゾルフ、魔力を…いや、これを何かに変化させて見せろ」

 

 

この老人は一体何を言っているのだろうか?

先ほどチラリと聞こえたが…魔術?魔力?

何かとてつもなく胡散臭いことに巻き込まれていることは確かであるということは分かった。

 

 

「その前にこの拘束を解いてはいただけませんかね?それとここはどこかということを教えていただきたいのですが?」

「おぉそうだったな。固定されたままではできないな…libero」

 

 

そう言うと老人は何かしらの単語を口走った。

 

 

すると私の腕・足・胴に巻きついていた石のような拘束具は霧のように消え去った。

 

 

 

…今のはどういう原理で起きたのだろうか?少なくとも錬成反応は見えなかった。

 

 

…またも理解できない事象が発生したことに、最早ため息をつくしかなかった。

先ほどの発言のこともあり、この老人は魔法使いかなにかなのだろうかとそんな妄想すら抱き始める。

 

起き上がり自分の足で立ち上がる。

すると自分が石でできた人型を象った台座ののようなもののうえで寝かされていたということが分かり、一層この老人への気味の悪さが増す。

 

 

「…先ほどのはいっt「まぁ待て。とりあえずはさっき言ったようにこれを何かに変化させてみてくれないか?そう考えるだけでいい。そうすればお前の疑問には全て答えてやろう」

 

 

そう私の言葉を遮ると、彼は私に石ころを押し付ける。

なんだこの老害は?

いっその事この石を爆弾に錬成してやろうかとも考えたが、今はこの人物だけが唯一の情報源である。

それに私の知らない何かしらの力?を持っているようだ。下手に抗うよりは素直に聞いておいたほうがいいのだろう。

それに彼が先程から促しているのはおそらく錬金術のことだ。

その程度の事なら安いものだと考えながら、私は適当な物を想像して手の錬成陣を合わせてからその石ころに触れる。

 

 

「っと、これで構いませんか?…っ痛!」

「錬成もうまくいっている。痛みが発生するということは刻印に魔力も流せている…なら何故記憶が…」

 

 

石の構成物質を錬成した瞬間、肩から手のひらに通して鈍い痛みが走った。

目の前の老人はそれがさも当然であるかのような口ぶりで、一人ブツブツと何かしらの考察を重ねている。

 

 

 

 

 

 

 

「あなた、私のかラダにナニか…お、ヤ?ここ、トバが…?…―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――…ガッ!?…グ、ガアアアァァァァァァァァァァァッッッ!!!!?????」

 

 

 

 

 

 

 

疑問を投げかけた刹那、全身の血管に溶鉄を流し込まれたかのような痛みが、全身を駆け抜ける。

 

 

「?!ゾルフ?!くっ拒絶反応g―――――

 

 

鼓膜を突き破らんまでに響き渡る轟音と共に、目の前の老人の肉体が爆ぜ、紅蓮の花を咲かせる。

己の生きがいとも呼べるその感覚と、おそらく生きている限り味わうことなど無いであろう痛みに、私は三度意識を手放す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドイツ山中で観測された大規模魔力反応…か」

 

 

時計塔の一角、降霊学科のとある工房にて、その主であるケイネス・エルメロイ・アーチボルトはひっそりと呟き、ため息をつく。

時計塔上層部の一部にて、少しばかり騒ぎになっているその事件。その発端と予測されているのは錬金術師の名門として、アインツベルンに次いで名門と謳われていたキンブリー家の屋敷と推察されているが、大規模なマナの流動が起きたこと以外は未だ分かっていない。

だが何かしらの大魔術か事故があったことは確かだろう。

魔術協会に所属していないとはいえ名門家系…優秀な魔術師の家系が何かしらの問題を起こすことは、彼にとってはあまり喜ばしいことではなかった。

 

 

「何事もなければそれに越したことは無いのだが……聖遺物の選定にも手を出し始めなければならないというのに、こう悪い知らせばかりではな……む?」

 

 

工房の周囲に張り巡らされた探知結界を通して、一つの物体の接近を察知する。

時計塔内部の工房であればそれが何であるかの特定すら容易な程の設備が整っており、ケイネスは訪れるソレの話を聞くべく椅子に腰を下ろす。

するとタイミングを見計らったかのように、工房の扉が二回叩かれる。

 

 

「アーチボルト卿、ドイツにて観測された魔力反応に関してお耳に入れておきたい報告が…」

「聞こう、入れ」

 

 

扉を開けて入ってきたのは老齢の男。

彼は魔術協会の実働要員の一人である人形使いのランガルという男だ。

そして眼前にある老齢の男を模したソレは彼が操る義体であり、魔術師の目で観察すると微かな違和感を感じ取ることができる。

実際に彼の姿を目にしたことはないが別段興味惹かれるわけではない。だが私が座るように促したその義体の動きやこの私でも注視しなければ気づけないその術の完成度は、彼を一流の魔術師として評価でき、信用には足る。

 

 

「早速…と言いたいところだが、何故私のところへ来た?別段報告するように要求した覚えは無いのだが?」

「ソフィリア卿からあなたにこの事件についてのある処理を伝えられまして、内容を報告後その是非を判断してくれとのことです」

 

 

ソラウの父上から…ロードの一人たる彼が私に?

頼られる力を持っていることは自負するが、ロード、そして義父となる彼への尊敬がある私にとって、彼がそのような行動を取ったことに少し疑問を感じる。

だがロードが持て余す程の事態ということには俄然興味を惹かれる。

 

 

「ふむ…彼の意図はわからんが、聞くとしよう。私としても件の現象とキンブリー家の関係は気になるところではあった」

「では現象の方から報告致します。観測された大規模なマナ流動は、大規模魔術によるものではありませんでした。…正確には魔術ではありましたがキンブリー家の故意によって起こされたものではなかったようです」

「つまり事故であったと?だが観測された規模の魔力が動いた事故ともなれば、ただ事ではなかったのではないか?」

「その通りです。辺り一帯のマナが枯渇しており、一部霊脈が枯れ果てる程の規模でした。確定情報ではありませんが、アインツベルンの施した大結界にまで影響を及ぼす程のものだったようです」

「…一体何があったというのだ…大神殿を急造したとしてもそんなことにはならないはずだが?結界の暴走でも起こしたのか?」

 

 

霊脈の枯渇など、並大抵の魔術で起こりうるものではない。

それこそ私が参加しようとしている聖杯戦争において召喚される英霊の仕業だというのであればうなずけることではあるが、そうそう起きるようなことではない。

 

 

「次に関係の話になります。キンブリー家では事故発生前に魔術刻印の移植が行われていたようでして、その拒絶反応による暴走が原因かと考えられております」

「拒絶反応?つまりは一人の魔術師が辺り一帯のマナを使い尽くしたというのか?…そんなことができるとは到底思えぬな」

「魔力痕跡と術の効果から見て、キンブリー家特有の錬金術である物質変換であると確証が得られました。私も信じられませんが、どうやら間違いないようです。義体を通して現場を見てまいりましたが、一部ガラス化した地面や屋敷の半分を飲み込む程のクレーター…残った屋敷の残骸は全て物質結合が変化しておりました」

 

 

俄かには信じられない情報ではあるが、負荷を無視した暴走であるならば確かに可能なのかもしれない。

そうなれば必然的に…

 

 

「そこまでの惨状だったということは……魔術家系の没落が目立つ中、こうも簡単に名門が滅亡するとはな」

「それについてなのですが…現場にて生存者が一人回収されまして、先程時計塔への移送が完了致しました」

「生存者がいたのか?」

「はい。ゾルフ・J・キンブリー、魔術刻印の継承者にして、今回の事件の発端の彼ですが…屋敷跡から五体満足で気絶しているところを発見され、先程意識が回復したとのこと」

「馬鹿な…術者本人だと?ありえん!それほどまでの膨大な量のマナ利用した魔術を行っておきながら術者本人が生きているはずが無い!」

「しかし間違いありません。コンタクトを取ったところ、魔術回路の一部損傷。そして記憶の欠落、湾曲…その程度の事態で済んでおり、照合の結果からも彼本人で間違いないという結論に至りました」

 

 

それほどまでに膨大な量のマナを利用した魔術を制御せずに行使した術者が、死ぬことはおろか、肉体の損傷すらないなど到底信じられることではない。

仮に生きていたとしても、膨大な量のマナに魔術回路が神経ごと塗りつぶされ、全身不随や脳死は免れないだろう。

だが結果として軽傷程度で生還しているという話だ…

 

 

「目眩がしてきた……先天的な能力でも持ち合わせていたのか?」

「詳細の確認は済んでおりませんが、彼の血筋と魔術研究の目的から考えて超能力や魔眼、特殊な礼装などの線は薄いかと」

「錬金術そのものの完成度の追求…確かに同門のホムンクルスの研究にさえ手を出していない特化型の錬金術師の家系だ。可能性としてはあまり考えられないな…だがそれだけに解せない。件の彼は既に目を覚ましているのだったな?」

「はい。記憶に混乱が見られますが、会話程度なら問題なく」

「では案内しろ。そのような特例だ、会っておいて損はなかろう」

「了解いたしました。ではその後ソフィリア卿に依頼されました処理についてですが―――――

 

 

ランガルに処理の内容を聞き、その内容に多少の驚きを持ちつつも自らの工房を後にする。

しかしながら彼もなかなかに面白い…いや、結果によってはひどく面倒になるやもしれないことを押し付けてくれる。

だが私もソラウとの婚約を許される程に認められているのだ。

これは彼なりの期待なのだと考え、私は件の人物がいる医療棟へと足を運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではそちらの記入をお願いします」

「…はぁ」

 

 

名前や年齢、簡単な絵柄が何に見えるか等といった精神テストのような物を、医療スタッフと思われる女性に手渡される。

再三にわたって意識を失った私は、医療施設と思しき場所のベッドの上で目を覚ました。

またも目覚めた時の景色が変わっていたわけだが、最早それがどこであろうと大した驚きも生まれなかった。

だが私とは正反対に、私に薄緑に発光する手を向けていた白衣の男は、私が目を覚ましたと気づくやいなや、慌てふためきその場を去っていった。

だがその数分後には厳格な雰囲気を纏った老人や、異様な威圧感を放つ若い女性等といった、尋常ならざる空気を纏った人間に代わる代わる質問を受け、それが落ち着き現在に至るというわけだ。

 

 

「まったく……」

 

 

幾つかの質問に答えた結果、私は記憶障害者という烙印が押された。

私自身今の状況を知りたいために嘘偽りなく答えた結果がそれであり、随分と奇異な目で見られた挙句に、最後には諦めたように、「第二魔法じゃあるまいし…ここまで記憶が破壊されているとは」とため息を吐かれた。

どうやらここは本当に私がいた世界とは異なる世界のようだ。

ベッドから数メートル離れた位置にある、前面に光沢のある黒い箱…アレはラジオのように別の場所で記録されたものをその場に映し出すテレビという装置らしい。

私が今握っているこのペン…先端にある極小のボールを回転させることで、インクを付着させるといった画期的な仕組みをした筆記具だ。

この二つは私の知る限り元の世界には存在せず、技術的にも難しいとわかる。

 

 

そして最も元の世界と異なる点―――――魔術の存在だ。

この世界には一般的には秘匿されている魔術という理が存在していた。

先程、私に光る手を向けていたそれも回復を施す魔術というものであり、細胞の再生を促すものとのことだ。

だがそれ以上に面白いことに、錬金術という技術…これ自体が魔術という枠組みの中の一つであり、世間一般にはこれはとうの昔に廃れた技術ということになっている。

 

 

「まさか科学の粋の頂点であるはずの錬金術がオカルト扱いとは」

 

 

これはまさに決定的だった。

この世界においては国家錬金術師などという単語は最早滑稽以外の何者でもないのだろう。

自嘲気味になりながらも、業務的に用紙への記入を進め始める。

 

 

 

 

 

「フム、思っていた以上に肉体損傷が少ないな」

 

 

 

 

 

唐突に傍らから響いた声に驚く。

咄嗟に手に持ったペンを錬成し、声の方向へと投げつける。

 

 

一瞬にして眼前は紅蓮に染まり、爆風を制御する余裕もなく私はベットから転がり落ちる。

受身を取りながら立ち上がり、先程まで自分がいた場所に立ち込める爆煙に目を向ける。

 

先程の唐突に発せられた声…

だがそれ以上に驚いたことが、自分が声を聞くまでその殺気とも取れる良からぬ気配に気づくことができなかったことだ。

 

だが咄嗟の行動とは言えやりすぎてしまった。

 

内戦での戦闘や狙撃、奇妙奇怪なホムンクルス達ですら感知することができた私の感覚が探知できなかったイレギュラーとはいえ、下手すれば死んでいるかもしれない攻撃を浴びせてしまったのだ。

ため息混じりに立ち上がり、痛む体の節々を動かす。

 

 

「随分と動けるようではないか…ligatur!」

「っ!?」

 

 

聞こえるはずのない声に驚き視線を移した瞬間、爆煙を切り裂き銀の光沢を放つ触手が飛び出す。

飛び退く暇もなく、手足を絡め取られ拘束されてしまう。

 

 

「まさかあの一瞬の間に術を発動するとは…評価に値する。だが少々やりすぎというものだ」

 

 

爆煙の中から姿を現した一人の男。

ブロンドの短い髪をオールバックにまとめたその人物は、一切傷を負った様子もなく涼しい顔でこちらに歩を進める。

それに追従するように、私を拘束している触手の大本であろう、水銀の玉のような物体が音もなく近寄る。

 

 

「…一体これはなんですか?また魔術というものですか?」

「やはり記憶の欠落があるようだな…なんとも勿体無い。まぁいい、お初にお目にかかる。ここ、時計塔にて教鞭を取っている教師、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ」

 

 

私の質問には答えずそう名乗った彼が、パチンと指を鳴らすと、私の手足を拘束していた触手が解除される。

おそらく魔術と呼ばれるものであろうそれなのだが、異常事態が起き過ぎているためにあえて理解を放棄する。

 

 

「君の処分を決定するようにと言われてきたが…フム…」

「処分…ですか。私としましても現状を把握したいので何かしらのアクションが起きてくれると助かりますが…どうにも穏やかではありませんね?」

「今はそうでもない。最初は刻印だけでも摘出してやろうかとも考えていたのだが…安心したまえ。先ほどの術の完成度から見て考えが変わった」

「それはありがたいことです。して、その処分というのは?」

 

 

その問に、彼はニヤリと笑みを浮かべて言い放つ。

 

 

「君には私の教鞭の元、魔術について学んでもらう。光栄に思いたまえ」

「…はい?」

「君の扱う術は錬金術を扱う身としてとても興味深い…授業料として君の術を解析させてもらう。だが私から直々に魔術を学べるのだ。家柄と記憶を失っている君にとっては実に良い条件と思うのだが?フハハハハハ!」

 

 

男の笑い声が響き、是非を問うことなく私の処遇が決定した。

こうして私ゾルフ・J・キンブリーは、第一の生と国家錬金術師という肩書きを失い、第二の生と時計塔魔術師の名を背負うことになった。

 




キンブリーさんが好きでこんな作品を書かせていただいております。
ひっでぇ文章ですが、よければ今後共よろしくお願いします。





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