Fate/Zero 【crimson alchemist】 作:焼酎ご飯
ガバガバ安定
「馬鹿にしやがって馬鹿にしやがってぇ!!あれが講師のやることか!あいつ僕の論文を読んで嫉妬したんだ!僕の才能を恐れたんだ!だからみんなの前であんな…」
僕ことウェイバー・ベルベットは降霊科の講義に際し、会心の論文をおおよそ講師とは思えないような所業を持って否定された事に憤り、講義室を飛び出したのだった。
決して周囲の嘲笑にいたたまれなくなって逃げ出したとか、そういうのではない。
「第一なんだよあいつ!最近取得した術かなんだか知らないけど?降霊科の授業で錬金術の自慢なんてしやがって…あんな奴に限って実際のところは大したことーーーーー
ーーーーーっのぅぁ!?」
巨大なガラス張りの廊下を歩いていると、怒りのあまり周りが見えていなかったのだろうか、何かに足をぶつけて転倒する。
「あぁすまないね。大丈夫かい?」
「うぇ?あ、いえ…」
「…?君は降霊科の学生かい?講義はどうしたんだ?」
顔を上げるとおそらく事務員であろう人が台車を押していた。
先ほどの宣いを聞かれていたのだろうか、降霊科の学生だということが露見してしまっているようだ。
一人で叫んでいるのを見られた恥を感じるのはもちろんなのだが、時計塔には無理をして入学した手前、相手側に自分の品行を疑われるのはまずい…ケイネスの件で手遅れな気もしなくはないが、ここはひとつ…
「いえ、その…アーチボルト先生に用事を頼まれちゃって、それで急いでて…」
「そうか、ちょうど良かった。これをアーチボルト先生に届けてくれるか?」
「これ、ですか…」
そう言って十字に縛られた箱のような包を手渡される。
大きさの割に随分と軽いようだ。
「頼んだよ。大事なものらしいから」
そう言うと彼は台車を押して過ぎ去っていく。
そんな大事なものならなんで僕なんかに頼むんだよ、とかなんとか思いながらも受け取った箱を観察する。
自分を貶めた相手に届いた品だ。場合によっては何かしらの嫌がらせをしてやろうというものだ。
「送り元は…マケドニア…?」
透視魔術を試みるも、何らかの術式に阻まれて中身を確認することができない。
「つまりは魔術的な物品ということか…」
僕自身が透視に失敗している可能性もあるのだが、多分大丈夫なはず。
成功していると過程して、あいつにとって今の時期に重要な魔術的物品…
「…!」
あることに閃き、僕はその箱を抱えてその場を後にした。
ケイネスのいる教室とは真逆へと。
~~~~~
「こいつだ!ケイネスの奴が近く極東の地で行われる魔術の競い合いに参加するって噂…きっとこれ関係のものだな」
あの場を後にした僕は図書館に足を運んでいた。
講義中の科目が多いということもあり人はほとんどおらず、探し物に手間取ることもなかった。
「聖杯戦争…200年前、始まりの御三家と呼ばれるアインツベルン、マキリ、遠坂、三家の魔術師はたがいに協力しあい、あらゆる願望を実現させるという聖杯の召喚に成功した。だが、聖杯が叶えるのは…ただ一人の祈りのみ。協力関係は血で血を洗う闘争へと形を変えた。これが聖杯戦争の始まりである。以来、60年で一度の周期で冬木の地に再来…それを手にするものの条件として七人の魔術師を選択し、サーヴァントと呼ばれる英霊召喚を可能とする。アーチャー、セイバー、ランサー、ライダー、アサシン、キャスター、バーサーカー…七つのクラスに振り分けられたサーヴァントが現界。七人のいずれが聖杯の担い手としてふさわしいのか、死闘を持って決着させる…聖杯戦争っていうのは肩書きも権威もいらない、正真正銘の実力勝負ってことか…この僕にぴったりじゃないか!」
「なるほど、聖杯戦争…大変興味深い…」
「えっ!?」
突然後ろから耳に入った声に、数冊の本を床に落としながら慌てて振り返る。
さっきまで誰もいなかったであろうそこには白いスーツを着た男が立っており、僕の落とした本を拾い上げている。
こいつ…何処かで見たような…
「落ちましたよ。どうぞ」
「あ、えっと…ありがとうございます」
「いえ、こちらも聖杯戦争について色々と調べようと思っていたので、調べる手間が省けてありがたいです」
「そ、そうですか。あの、あなたは?」
「あぁ申し遅れました。私はゾルフ・J・キンブリー、エルメロイ卿の助手のようなーーーーー
ガタッガタタッ
「…どうかなさいましたか?」
「いいいいいいいい、いえっ!な、何でもありません!!」
思い出した!
こいつはケイネスの助手の男だ!
講義では見たことはないが、ケイネスと一緒にいるところを何度か見たことがあった。
あいつが認めている以上さぞ高名な魔術家系の出なのだろうが、今はそんな苛立ちをぶつけている場合ではなかった。
あいつの助手だというのなら、これを持ち出したことがバレる訳にはいかない。
動揺を隠せないままに立ち上がった僕は、後ろ手に包を隠した。
「む?…マケドニア?あぁ、なるほどアレが届いたわけですか…何故それをあなたが?」
「…あ…あぅ」
冷たく刺さるような視線が僕を射抜き、とっさの行動も虚しくあっさりと包の存在がバレてしまった。
こいつにバレたということは最早ケイネスにバレるのも時間の問題だろう。
さようなら僕の時計塔ライフ…いや、そもそも僕は生きて帰れるのだろうか?
「…ふむ、おおよそ想像はできました。ご安心を、別に他言したりはしませんよ」
震え上がりそうになるような冷え切った視線はなくなり、彼はニコリと笑みを浮かべてそう言い放った。
願ってもない素晴らしい提案だ。
彼がこの包を回収してくれるのだろうか?
怖い目をしている割にいい人なんじゃないだろうか?
「え?黙っていてくださるんですか?」
「大方あなたがソレを使って聖杯戦争に参加しようという考えだったのでは?」
「えっと…その…ハイ。やっぱりこれは聖杯戦争に縁のあるものなんですか?」
「おや、まだ中身を確認していないのですか?おそらく召喚用の聖遺物だと思いますが…開けてみては?」
「…ハイ?」
てっきり他言せずにこの人がケイネスに返してくれるものだと思っていたのだが…何を言っているんだこの人は…
「あの…開けちゃったら返せなくなってしまうんですが…」
「…返す?あなたは聖杯戦争に参加するのでは?」
「最初は参加するつもりでしたが…貴方に見つかってしまいましたし…」
「なるほど、言葉が足りませんでしたね。他言しないというのはあなたが聖杯戦争に参加することについてです。窃盗は犯罪ではありますが…まぁ魔術社会で犯罪をどうこういうのはナンセンスですし、彼の私物がどうなろうと知ったことではありません」
「え?…あぁ…はい…んん?」
予想外の事態にイマイチ頭がついていけていないのだが、つまり当初の目的通り聖杯戦争に参加しても良いのだろうか?
「ですがまぁ…聖杯戦争に参加するのであれば急いだほうがいいのかもしれませんねぇ。その聖遺物の所在がアーチボルト卿の耳に伝わるやもしれませんし、何より空席があるかどうかもわかりません」
「え、あ、あぁ!これがバレるのは確かに…忠告ありがとうございました!!」
確かに彼の言う通り七席しか空きがないのであれば急がなくてはならない。
見つかったのがこの人で本当に良かったと安堵しながら、僕は数冊の本と包を手に取ると急いで席を立つ。
「おっと、お待ちください」
「グェっ!?」
唐突に襟首を引っ張られ、慌てていた僕はおもいっきり首を絞める形で転んでしまった。
最近転びすぎな僕なのだが、魔術師といえど足腰ぐらいは鍛えたほうが良いのかもしれない。
しかし…恩人とはいえこの人はいきなりなんてことをしてくるのだろうか。
「けっほ、けほ…あの、まだ何か?」
「今更失礼ですがお名前は?」
「う、ウェイバー・ベルベットです。こちらこそ名乗りもせずに行こうとしてすみません」
…ん?
名乗ってしまったけども、これでますます僕が盗んだことが確定してしまったのでは?
いや、いい人?だし…きっと大丈夫なはず…多分…
「!!…あなたがそうでしたか……ウェイバーさん、あなたに少し興味が湧きました。同じ時計塔の生徒として、あなたには勝ち残ってもらいたいので、コレを差し上げます」
そう言うと彼は僕の襟首から手をはなし、その手をコートのポケットに突っ込む。
取り出したのは直径2cm程度の真紅の玉だった。
引き込まれそうなほど鮮やかな紅色を放つソレは、直感的に普通の宝石の類ではないと理解できた。
「1~2人分といったところですかね。一応アーチボルト卿に実験成果として見せようと考えていたものですが…まぁ提出しろと言われたわけでもありませんし、差し上げます」
そっと僕の手のひらに紅い玉が転がされる。
ソレは魔力と共に何か言い知れぬプレッシャーを僕に感じさせる。
「あの…これは一体?魔力石か何かですか?」
「魔力石とは少し違いますが概ね用途は同じです。貯蔵量は中々に多いので使い道には困らないかと」
「そ、そんな高価なものを…あの!どうしてこんなことまでしてくれるんですか?」
何れ程の純度の魔力石かは知らないが、マジックアイテムというものはどんな物であれ基本的に高価なものばかりだ。
聖遺物の窃盗を黙っていてくれる上に、そんなマジックアイテムを渡すと行っているのだ…僕は見返りに命でも取られてしまうのではないかと軽く震え上がる。
ここでは見返りでもない限り僕に良くしてくれる人などいない。
ケイネスの件でもそうだったが、血統重視のこの時計塔では代を重ねていない自分は、不遇とまでは言わないもののあまりいい目で見られることは無かった。
故に彼の行動が不可解で仕方がないのだ。
「ふむ、どうしてと問われますと…気まぐれ…でしょうか?」
「えぇ~、気まぐれですか」
「普段の私ならこのような真似はしないでしょう。ですが私は今とても上機嫌です…ここでなければ今にも笑いだし歌でも歌ってしまいそうなほどです。ある実験が成功し、長年のしこりが解消されたかと思うと、そこへ今私の興味の中心である聖杯戦争について調べている若い魔術師がいるではありませんか」
「…それが僕ですか?」
「えぇ、その通りです。そして失礼ながらあなたは一見したところ大魔術師という風格ではありません。…が、それでありながらロードの物品を盗み出してまで参加しようとしたのです。動機はどうであれ、何らかの覚悟がなければできない行動でしょう…要はその行動力が気に入ったのでちょっとした手助けのようなものです」
「な、なるほど…」
気に入られてしまった。
しかしはっきり風格がないと言われてしまうのはどうにも気に食わないが、見た目・正確・能力共にその通りなのでぐうのねも出ない。
要は僕の力不足に対しての餞別なのだろう。
…よくよく考えると、聖遺物に加えて本来提出されるはずだったマジックアイテムまで僕が強奪したような形になるのではないだろうか?
今更そんなことで悩んでいても仕方がないので結局はもらっておくのだが、彼の言葉には他に気になる部分があった。
「あの、聖杯戦争が興味の中心ってことは…もしかして参加者だったりするんでしょうか?」
そう、最も気になったのがその部分だ。
ケイネスに非協力的な上でそのように発言しているのだ…可能性は十分にある。
そうなればあまり気乗りしない話ではある。
「さて、どうでしょう。空席があれば参加するかもsーーーーー
ーーーーーッ!?」
会話の途中、彼は突然右手を抑え顔を歪ませる。
「あ、あの…大丈夫ですか?」
苦痛に顔を歪ませたかと思うと今度は一変、口角が釣り上がり強烈な笑みに塗り替えられる。
その瞬間からだろうか、彼の纏う空気というかオーラというか…そういったものが変下かのように感じた。
「キンブリーさん?」
「フフ…失礼、大丈夫です。ンフフ…さて?何の話でしたか…あぁ、もし空席があったら参加するかもしれないという話でしたねぇ」
彼の笑いにどこか奇妙な…不気味さを感じる。
そしてそんな彼が改めて参戦する可能性を示したことにより若干血の気が引く。
死闘というからには最悪死ぬかも知れないのだ…ケイネスはともかくとして、彼を相手取る事を想像すると到底面白いものではない。
軽く顔色が悪くなっている僕とは対照的に、彼はどこから取り出したのか真っ白な手袋を装着した彼は、鼻歌まで歌いだすほど上機嫌だ。
もしかして一人目の脱落者として僕はここで消されてしまうのでは?
「やっぱりあなたも…もしかして僕はここでやられちゃったり…?」
「フッまさか。まだ聖杯戦争に参加できると決まったわけではありません。ですが…互いに選ばれるようなことがあればそのときは…」
「…」
彼はニコリと微笑みかける。
なんだ?その時はボコボコにしてやる…ということだろうか?
「おや、そろそろ講義も終わる頃ですね」
「へぁ?…あ、はいそうですね」
「空席の件もありますし、何よりもうじき人が来るでしょう。引き止めたのは私ですがそろそろ移動したほうがよろしいかと」
「げっ!まだ本とか直してないのに…」
「それなら直しておきますのでそのままで結構ですよ」
「え、それはさすがに申し訳ないというか…」
「正直私も読みたいものがあるので、さっさと行ってくれるとありがたいのですが?」
どこまでもにこやかに表情でありながら、その目は完全に笑っていなかった。
最初からそうだったが、この人は基本笑っているがその全てが何らかの恐怖をはらんでいるような気がする…僕の気が弱いだけだとは思いたくないが…
「す、すみませんでした!で、では僕はこれで…サヨナラ!」
ここで心変わりされてはかなわないので、僕は包を抱えると脱兎のごとく図書館を後にした。
「はぁ…はぁ…ゾルフ・J・キンブリーか…参加者の可能性があるんだったら日本へ立つ前に少し調べておこうかな」
少なくともケイネスより下なのは確定しているのだ。
妥当系ネスを掲げている僕にとってはいい基準になるのかもしれない。
◇◇◇
「なにやらここ数日充実してますねぇ…ふぅ…」
右手に発現した月齢のような令呪を白い手袋の上から撫で、最近の充実具合に思わずため息が出る。
「思いのほか材料が多く用意されていて実験が成功したかと思えば、一時間もしないうちに令呪が宿るとは…うまくいき過ぎるというのも逆に不安をあおりますね…」
経験として、以前の世界では何か事を起こそうとすれば十中八九邪魔が入っていたために、そういった不安よぎる。
だが不安と口にしたものの、手の甲に刻まれた令呪と、手のひらで踊る紅い石のもたらす歓喜の前には無に等しいものだった。
令呪が発現したことはもちろん喜ばしいことなのだが、石の生成において嬉しい誤算があった。
ケイネスに頼んでいた材料…すなわち生きた人間の数が予想以上に多く、四十人前後の魂を内包した賢者の石を生成することに成功した。
材料となった人間を見る限り、何らかの魔術実験が行われていたのだろうか、ほぼ脳死状態であったり最低限の生存機能しか残されていないものも多々存在した。
私の錬金術を随分高い値段をつけてくれたようだが、ロードとしての人脈で廃棄物でも集めたのだろうか?生きてさえすれば素材としての質が損なわれることはなかったのでむしろ好都合だった。
「あぁ…やはりこの美しさだけは変わることはありませんね…」
石については他にも面白いことがわかった。
賢者の石は以前の世界とは異なる性質をしていた。
石の内部にはマナではなくオドが内包されている。
正確には賢者の石の構成材料である人間の魂を、石が自動的にオドへと変換しているのだ。
この時点で天然の魔力石とは大きく異なっており、どちらかというと魔力炉の部類に入るのではないだろうか?
そしてもう一つ特異的な部分を上げるのであれば、知識の内包である。
これ自体は元の世界の賢者の石と同様ではあるのだが、その知識の抽出方法が異なっていた。
内包された魂を触媒とした霊的な記憶庫へのアクセス…それにより発動魔術の演算強化を行うことで、発生する現象の規模を底上することが確認できている。
故に私のような錬金術の使い方にはもってこいなのだが、他の繊細な術式などにおいては外部の魔力出力としてのみ利用するのが正しい使い方だろう。
このように二つの点で以前の世界の賢者の石とは異なる性質を持っていると判断したのだが、そもそも以前の世界ではこれを観測する手立てが存在しなかっただけではないだろうか?
賢者の石の性質を分析することができたのもこの世界の魔術という技術あってこそというものだ。
そして石の性質を理解したことによってあることができるようになっていた。
「まさか完全な物質である賢者の石の体積や形を変換できるとは…」
そう、以前の世界において賢者の石は生成された時点で液体であれ個体であれ、その性質や体積を変化させることはできなかった。
しかしこの世界において複数の魂が内包された石は、魂一つ辺り20グラム前後の個体や液体に変換することが可能であった。
「ですがまぁこの技術はそれほど役立つことでもありませんね…体積が増えたところで…」
立方体の賢者の石を手の上で転がす。
紅い錬成反応が走ると、立方体は二つ、四つと分裂し、その数を倍に増やしていく。
かと思えばその全てが液体のように溶け出し一箇所に集まると、一つの歪な石へと姿を変える。
この方法を利用することで、実に四十人分の賢者の石を一つの石に結合させることが可能であった。
「…鋼の錬金術師との戦いを考えると、二つに分けて所持しておくのも手かもしれませんね……あむ」ゴクン
賢者の石を二つに分けると、一つをポケットにしまい、もう一つを口の中に放り込む。
特技として人間ポンプができる私は、以前から体内に隠し場所を持っていた。
これが中々便利なもので、ボディチェックや不意打ちなどには絶大な効果を発揮していた。
そんなこともあって、賢者の石を飲み込んだ今の安心感は以前とは比べ物にならないものになっていた。
「食べ歩きとはあまり関心できないな…キンブリー君?」
石を飲み込んだ直後、前方から声が聞こえる。
「これは恥ずかしいところを見られてしまいました、アーチボルト卿」
先程まで図書館で話題に挙がっていた私の魔術基礎の師であるケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ。
ちょうど講義が終わったのだろう、いくつかの資料を抱えている。
ひとまず工房へと戻るのだろう、歩調を合わせて歩く。
「講義終わりですか?」
「うむ、まぁ前半は講義というよりは復習のようなものだったが…中々有意義なものではあった」
「はぁ…復習ですか?あなたなら無駄と切り捨ててしまいそうな行為ですが、めずらしいですね」
「私とて学んだことを再び繰り返すような無駄なことはしない。ただ先日にも話したあの"新世紀に問う魔導の道"という論文、これを正す場は必要だろうと思った次第だよ…あんな妄想を抱く生徒がいたとはまったくもって嘆かわしい限りだよ」
「あぁ、なるほど…そういうわけでしたか」
だから彼があの場にいたというわけか。
実のところウェイバーのことはケイネス伝いで話には聞いていた。
ウェイバーが提出した論文は私個人としてはそれなりに興味深いものがあった。
しかしケイネスはこれが気に入らなかった様子であり、それが原因で私も読まされたというわけだ。
術式に対するより深い理解と、より手際の良い魔力の運用によって生来の素養などいくらでも埋め合わせが効く…
私の行使する錬金術の性質や、賢者の石という魔力の外部出力を利用する私にとってはそれなりに頷ける内容ではあったのだが、ケイネスが言うように刻印や回路、術に関する知識などは家系がなければどうしようもない部分が存在することも事実である。
つまるところどちら側にも頷いておくというのが私の答えだった。
「だが悪い芽を早々に摘みとれたという点では安心できる。周囲の生徒に伝播しないとも限らん」
「お疲れ様です。講師というのも大変ですね…代理を引き受けなくて正解でした」
「問題児がいなければこんなことにはならないよ。それにその件の代理はもう見つかった」
「私が断ったばっかりにお手数をおかけしたようで」
「構わない。君も何かと忙しいのだろう…そういえば、君の言っていた研究の調子はどうだね?あまり質がいいとは言い難いモノばかりだったが…」
「つい先程完了しました。質に関していうのであれば、注文通り生きてさえいれば良かったので問題ありません」
「それは用意した側としても喜ばしい限りだ。一体どんな秘術が完成したのか気になるところではあるが…そんな無粋なことはやめておこう。今はそれどころではないからな」
「と、言いますと…やはり聖杯戦争の準備ですか?」
その質問を待っていたかのように彼は口角を釣り上げる。
「その通りだ。随分と待たされたが、手配していた聖遺物がようやく今日届くのだ。特殊な契約を用いる予定故に今日は中々忙しくなりそうなのだよ」
「…」
その言葉に思わず口元が緩みそうになるが、かろうじてそれをこらえる。
その聖遺物は今後彼の手に届けられることはないのだから…一枚かんでいる身としては中々面白い状況だ。
「そういう訳で私は急ぐ。おそらく今日以降は教務で出向くことはないだろう…要件があるのであれば今のうちだが?」
「フフ…いえ、そういう訳でしたらお気遣いなく。吉報を期待しておきます」
「無論だ。君も私が戻るまでに自身をどうするのか考えておきたまえ」
そう言い残すと、彼は工房に向かって歩いていく。
このあと訪れるであろう展開を思い浮かべると悦を感じざるえない…それを見届けたいという気持ちもあるのだが…
「えぇ、では”また”」
彼の背中にそう投げかけると、私は反対へと歩を進める。
聖遺物の件は私自身から綻びが生まれないとも限らない。
さて、どこで時間を潰したものか…
なんか色々とごめんなさい
今回も誤字脱字の嵐かもしれません…m(_ _)m
コメント、感想、誤字脱字の指摘、ご意見等ございましたらいつでもお待ちしております^^