人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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101話 撮影三日目

 7月1日(水)

 

 昼

 

 ~練習場~

 

「最後にもう一本やろう」

「はい!」

 

 学校を休んで朝から続いた練習も最後だ。

 練習の成果を出すために、この一度に残る力を込める。

 

 スタートラインで呼吸を整え、合図と共に走り出す。

 そこからはフォームを正しく、疲れや弱気を押し込めてただ走るのみ。

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ッ!」

「よし!」

 

 ゴールテープを切った俺に向け、コーチがタイムを測ったストップウォッチを掲げている。

 

「今回のタイム! 記録更新48.82!」

 

 ……最高記録から0.2縮まったようだ。

 

 息を整えていると、ピザカッターとコーチが笑顔で走ってきた。

 

「おつかれー!!」

「三国コーチ、これはいい調子ですよね!?」

「初心者と言っても体はできてますからね。フォームが身についてきているからでしょう。ある程度上達すると0.1秒伸ばすだけでも苦労します。でもまだ三日目ですし、このまま残り四日でまだ伸びる可能性はありますよ」

「一体、どこまで届くのか~♪」

「楽しみになってきましたわ~♪」

「これからもガンガン練習しましょう」

「まぁ頑張りすぎも良くないんでね、今日はここまで!」

「ありがとうございました!」

「カーット! はいOK!」

「お疲れ様でーす!」

「お疲れ様ー」

 

 スタッフさんから声がかかる中、手招きをするプロデューサーの下へ。

 

「お疲れ様! 遅くなっちゃったけど、これ」

「“ロケ弁”ってやつですね!」

「中身普通のお弁当だし、そんな喜ぶほどの物でもないけど。肉は焼肉とハンバーグ、魚は鮭弁当があるから好きなのを一つか二つ選んで。食べながら午後の撮影の打ち合わせがしたいんだ」

 

 というわけで、遅い昼食にハンバーグと鮭弁当。付け合せのサラダと味噌汁もガッツりいただきながら話を聞くことにする。もちろんドッペルゲンガーで味わいつつも内容の聞き漏らしは完璧に防ぐ。

 

「午後は寮の部屋を撮るというお話でしたね?」

「そう。撮影班を二つに分けて、葉隠君は寮。三国コーチには学校で陸上部と交流していただく。それから……物は相談なんだけど、葉隠君はアルバイトしてるだろう? そちらもちょっと撮影させてもらえないだろうか?」

「紹介映像のために?」

「それもあるんだけどさ、実は使う予定だったある競技の映像が使えなくなったんだ。丸々一人分……」

 

 その穴埋めのために、俺を含めた他で一人分の尺を分けることになった、と。

 

「お店の撮影ならオーナーと話していただかないと」

 

 というわけでオーナーに連絡、軽く事情を話した後はプロデューサーに代わる。

 

「……はい、ええ。そうですね。そこは……」

「どうなるかな?」

「うちのオーナーって来るもの拒まず、去るもの追わずって感じのところありますし、大丈夫な気もしますけど、急ですからね。どうでしょう」

「まぁだめでもどうにかっと、ごめん」

 プロデューサーが交渉する背中を横目に見ながら一緒に弁当を食べていると、カッターさんの携帯が鳴ったみたいだ。

 

「はい井上です、お疲れ様ですーはい、え? スケジュール? ちょっと待ってくださいね。はい。……はい。今週はずっとこっちって話になってますね。……ええっ!? ピザ、ちょっと」

 

 なにやら重要そうだ……

 

「やー葉隠君ありがとう。話はまとまったよ」

「あ、プロデューサー、それは良かったです」

「……ところで、トラブルかな?」

「そうみたいですね……」

 

 しばらくして二人が戻ってくる。その表情は暗い。

 

「大丈夫ですか? って俺が聞くのも違うか……」

「いや、聞いてくれ。関係あるから。プロデューサーもお願いします」

「それが……」

 

 なんでもピザカッターは今週、このロケとこの近辺で行なう取材くらいしか仕事をいれず、空き時間は多忙な中での、つかの間の休息にしていた。彼らは人気が出てから働きづめだったため、事務所も仕事を入れないことになっていた。

 

 が!

 

「手違いで仕事が入っていた、と」

「はい、明日大阪ロケが入っているみたいで」

「原因はこちらの連絡ミスです」

「そうか」

 

 つまりはダブルブッキング。

 現場の空気が重い……

 そして無関係とはいえないが、俺が口を挟める問題でもない。

 

「…………ん、起こってしまったことは仕方ない。この件については事務所と話そう。今日のスケジュールは大丈夫なんだね? ならとりあえずこのまま撮影を続けてほしい。葉隠君も、明日からのことは追って連絡するから」

 

 目高プロデューサーはそう言い残し、電話をかけながら慌しく去っていった……

 大丈夫なんだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして午後

 

 ~男子寮~

 

 部屋の撮影を行なった。

 特に変な物は置いていない。

 というかそもそも物が少なく、真新しい話題もでてこなかった。

 必然的に模造刀、特攻服、バイオリンへ注目が集まる。

 抜けない飾り物をアピールしたり、プレゼントや預かり物であると説明するが、それもすぐ終わってしまい尺が心配とのことで……

 

「そうだ、練習してるならバイオリン弾いてみたらどうかな?」

「いや弾けませんって!?」

「大丈夫大丈夫、俺弾けるからアドバイスするし」

「せっかくだからさ」

 

 なぜかスポーツとまったく関係のないバイオリンを弾いて指導を受けることになった。

 おまけにその後

 

「なぁ、これヤバくないか?」

「いやー、マジっすか……」

「私、今日帰る前にお払い行きたいんですけど。一緒に行きません?」

 

 テープチェックをしたスタッフ達がそんな話を始め、最終的にバイオリンはお蔵入り。

 無駄に大勢の前で(つたな)い演奏を披露した挙句、穴埋めとして音楽繋がりで発声練習の様子を撮影した。

 

 今後の撮影とかカラオケで役に立つと言ってくれたが、スタッフさんの反応からすると寮の映像はあまり放映されないだろう。

 

 代わりに寮の施設を撮るなら、最初からそうして欲しかった……

 

 

 

 おまけにその夜

 

 ~???~

 

 ……真っ暗闇だ。そしてバイオリンの音……

 

「トキコさんですか?」

 

 返事をするように、音量が上がった。

 タルタロスも早めに切り上げたのに、一体何の用だろうか?

 明日のために早く休みたいんだが……?

 

 目の前にバイオリンと弓が浮かんでいた。

 手に取れ、ということか。

 

 浮かぶバイオリンを掴み取ると、ひとりでに腕が動き出す。

 ……勝手に動いてはいるものの、悪いものや嫌な雰囲気は感じない。

 抵抗せずに人を任せていると、俺は穏やかな曲を弾いていた。

 何度も何度も、繰り返し同じ曲を弾き続ける。

 ひょっとして喜んでいるのだろうか?

 表情なんかは一切見えないのに、不思議とそんな気がしてくる。

 

 

 

 

 

 7月2日(木)

 

 朝

 

「結局何がしたかったんだ……」

 

 夢の中でバイオリンを引き続けるうちに朝を迎えていた。

 幸いなことに体調は疲労が残っているというほどでもないが……ん?

 もしかしてと思い、バイオリンを手にとると。

 

「……弾ける」

 

 夢の中の曲と体の動きを完成品とすると、非常に(つたな)い。

 途切れ途切れではあるものの、一応、曲っぽいものが弾けた。

 

「これは睡眠学習というやつなんだろうか?」

 

 ……馬鹿なこと言ってないで練習行かなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 ~辰巳スポーツ文化会館練 練習場~

 

「葉隠君入りまーす」

「おはようございます! 本日もよろしくお願いします!」

 

 撮影現場に入ると、挨拶が帰ってくる。

 四日目ともなると、さすがにスタッフさんともだいぶ打ち解けてきているだろう。

 

「おはよう葉隠君」

「目高プロデューサー、おはようございます。昨日の件はどうなりましたか? ピザカッターさんの……」

「ああ、そのことなんだが代役を立てることになったよ。もうすぐ来るはずだ。彼らが戻ってくるまでは、そっちと一緒に撮影してもらう」

「承知しました」

「ありがとう。それじゃ台本の確認をしようか。数カ所にちょっとした変更点があるから」

 

 変更内容はおおむねリポーターの担当する部分。

 別人に変わるからで、特に俺が何かをすることは無い。

 しかし、ここで新しい担当者の名前を見て驚いた。

 

「プロデューサーさん、この方々」

「知ってるかい? 渋谷(しぶや)卓也(たくや)Ms.(ミス)アレクサンドラ」

 

 渋谷(しぶや)卓也(たくや)

 底抜けに明るいキャラクターと特技のものまねで老若男女から人気を得ている。

 バラエティー番組を中心に活躍するイケメン男性タレント。

 お茶の間の人気者ではあるが……同時におバカなタレントとしても有名。

 

 Ms.(ミス)アレクサンドラ

 スタイリストを兼業する有名ダンサー。

 アレクサンドラと名乗っているが、れっきとした日本人。

 そして本当の性別はMr.(ミスター)

 テレビでは自由奔放で破天荒なオネェキャラだ。

 

「どちらも有名ですから。でも正直リポーターってイメージは無かったので。失礼かもしれませんけど、旅番組とかに出ててもまず一人ちゃんとしたリポーターがいて、その横にいる賑やかし役というか……」

「確かに珍しいよね。急遽集めたら」

「渋谷さんとMr.……Ms.アレクサンドラが入られます!」

「おっ、本人のご到着だよ!」

 

 噂をしたら影がさしたか。

 

「おはようございまーす!」

「おはようございまぁす。プロデューサーさん。ウフッ」

 

 渋谷さんはジーンズに灰色のパーカーというラフな格好。

 Ms.アレクサンドラは胸元がガッツリ開いたシャツとスリムなパンツスタイルで登場。

 

「今日はよろしく頼みますよ。それでこっちが」

「葉隠影虎と申します。ご迷惑をおかけすると思いますが、なにとぞよろしくお願いします」

「君が参加者の子? よろしくっ!」

「緊張してるのかしら? ウフッ、可愛いわぁ。私のことはアレクサンドラって呼んでねぇん」

「は、はい……」

 

 スキンヘッドと顎鬚から高い裏声を出すアレクサンドラさん。

 濃い。直に見るととにかくキャラが濃い。あとなんか距離感が近い!

 

 渋谷さんはというと……早々に休憩所の一角に荷物を広げて自分のスペースを確保。

 真剣な目で台本に目を通していた。

 

「あら? 渋谷きゅんが気になるのかしらん?」

「気になるというか、ちょっとテレビとイメージが違って……やっぱりプロなんだな、と」

「そうねぇ、あの子とは時々一緒に撮影するけれど、いつもああやって真剣に台本を読み込んだり話を聞く努力家なのよん」

 

 そうなんだ、と感心していると。

 

「……もっとも、お勉強がどこまで頭に入ってるかは分からないのだけど」

「えっ?」

「やーん。だってあの子のおバカは本物だもん。本番に入ると忘れてることよくあるしぃ、テレビのキャラは演技じゃなくて素なのよね」

「んー、あっアレクサンドラさーん!」

「あらん? ちょっとごめんなさい。なぁに~?」

「この漢字なんて読むんですか?」

「どぉれ? ってあなた! これ中学生で習う漢字じゃないのっ!」

 

 なんか、嫌な予感がしてきた……

 瞑想でもして落ち着こう……

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