人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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102話 交流

 午後

 

 疲れた……

 めっちゃ疲れた……

 

「お疲れ様っ!」

「お疲れ様です。渋谷さん、アレクサンドラさん」

「さぁ休んで休んで。なんなら私の膝枕、使う?」

「いえ、そこまでではないので」

 

 う~ん……

 

 この二人もさすがというか、カメラの前でも自然体。

 自由で生き生きとした表情を見ていると本当に楽しそうだった。

 いや、本当に楽しんでいるのが伝わってくるようだ。

 気遣ってくれるし、いい人なんだけど……

 

 この2人、自由すぎる。

 撮影中は天然の入ったおバカ発言と破天荒さを発揮してくれた。

 

 ツッコミ不在の環境でグダグダになったりNGを出したりもしたが、楽しかった事は楽しかった。スタッフさんたちの空気も悪くない。けれど三国コーチは二人のノリに付いていけず、なぜか俺が間に入ることになっていた。

 

 天然発言から本当に聞きたい部分を解釈して伝えたり、ツッコミ入れたり。ピザカッターから聞いた昔話やペルソナの力をフル活用して何とか乗り切ったけど……これおかしくない? 俺ってサポートされる方じゃなかったっけ?

 

「おーい葉隠君、悪いけど時間が押してるから移動で」

「あっ、はい! すぐ行きます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~月光館学園 高等部校門前~

 

 撮影のために学校へやってきた。

 今日は部室で紹介映像を取る予定になっている。

 

「本番五秒前! 四、三……」

「はぁい。やってきました月光館学園」

「今日は葉隠君のパルクール同好会を紹介してもらえるということで、行ってみましょう!」

「それではこちらへどうぞ」

 

 俺は校舎ではなく門の外を手で示す。

 

「あれ? 学校に入らないの?」

「はい、うちの部がやっているパルクールはさまざまな環境をより速く安全に移動できるようにする訓練をします。だから色々と障害物が必要になるんで、ここからこっちに行きます」

「あら、こんな林に入っていくの?」

「こういった自然の障害物も練習に使いますから」

 

 細い道をアリのように歩いていくと部室が見えてきた。

 

「あれです」

「結構、古そうね」

「もともとはあちらに見えます展望台の職員が使っていた宿直用の建物らしいです。でも展望台が閉鎖されて以来、使われることなく放置されていた施設を、今年から使わせてもらっています。活動内容からここがベストだと判断されたみたいで」

 

 そしていざ中に入ると

 

「「「「「ようこそパルクール同好会へ!」」」」」

「ヒヒヒ……」

 

 江戸川先生と皆が待っていた。

 

「カット! はいオーケーでーす!」

「「「「は~……」」」」

「ヒヒヒ、大丈夫ですか? 皆さん」

 

 撮影が一旦止まり、みんなが息を吐く。

 約一名はいつも通りだが、他はみんな緊張しているようだ。

 その気持ちは分かる。

 

 

「大丈夫か?」

「「うっす!」」

「なんとか」

「こういうの初めてで、ドキドキするよ……」

「まあその気持ちはわかるけどな。 っとそうだ、あまり話してるヒマはない。こちらが今日サポートしてくれる」

「渋谷でーす! 特技はものまね! よろしくね」

「ボーイズ&ガール、あなたたちが葉隠君の部活仲間ね? アタシはMs.アレクサンドラ。私たちの事、ご存知?」

「知ってます!」

「お二人の番組、私いつも見てます」

「有名人っすからね」

「だよなぁ」

「だったらオッケー! イェーイ!」

「「「「イ、イェーイ?」」」」

 

 謎のハイテンション。

 戸惑う四人に更なる追い討ち。

 

「元気がないわよぉー! イェーイ!」

「「「「イ、イェーイ!!」」」」

「オッケー元気ね、私も元気! 心も体もフリーダァム!!」

「ヒヒヒ……頑張りましょう、という意味でいいんですかねぇ?」

「たぶん、間違ってないと思います」

 

 部活の紹介ということで、顧問の先生と仲間の皆を加わる。

 まずは始めにメンバーと役職の紹介をしてから、部室内の様子を撮影なのだが……

 

「イヤー!!!」

 

 江戸川先生の部屋の前で、野太い叫び声が上がる。

 

「イヤッ、ちょっとやだぁ~!! 渋谷君、ちょっとお願い!」

「あー、すごいですねここ。標本がいっぱいで理科室みたいだ。ここは先生が?」

「ヒヒヒ……ええ、私が管理する保健室のようなものです。生徒がもし怪我をした場合、校舎の保健室では遠いですからねぇ。用意したのですよ」

「そうなんですか~」

「ちょっと渋谷君! 何で納得してるの!? ココ明らかに不要なものっていうか怪しいもの混じってるじゃない!」

 

 怯えるアレクサンドラさんの指差す先には……ゲッ!

 なんであんなとこに魔方陣と羊の頭蓋骨があるんだ? 

 ああいうものは片付けたはずじゃないんですか!? 先生!

 

「ああ、あれは大丈夫。ただの教材です」

「「教材!?」」

 

 まさかの言い訳! 

 そんな理由が通じるわけない。

 彼……彼女も絶対に信じないという顔をしている。

 

「いえいえ、あれはれっきとした教材ですよ。私、保健だけでなく総合学習、道徳のような授業も担当していましてね……ヒッヒッヒ」

 

 しかし江戸川先生は落ち着いて説明を始めた。

 すると……なんだか空気が変わってきた。

 そして最後には

 

「キリスト教や仏教などの有名かつ信者の多い宗教はもちろん。黒魔術や霊などに関わるシャーマニズムもしかり……宗教というものは人々の生活に密接にかかわり、社会常識、または個人の人格形成、考え方にも大きな影響を与えてきたのです。

 それはもはや信仰する者同士の共通言語ともいえるもの。その宗教を知る者と知らない者では認識にも隔たりができる。つまり宗教への理解をもって、他者を真に理解する一助としよう、という目的があるのです」

「そんな理由があっただなんて……すばらしいわ! アタシ、誤解してました! 騒ぎ立てた自分が恥ずかしい!」

 

 なん……だと……

 ほんの数分で丸め込みやがった……

 渋谷さんやスタッフさんたちまで先生の言葉を信じているようだ……! なにこれ怖い。

 

 そのまま取材班はごく自然に外へと促され、他の場所を撮影に行くことになった。

 

「こっちは……うわっ! すごいキッチン!」

「あら素敵ー! ここも宿直室だった名残かしら。学校の部室とは思えないわねぇ」

「周囲に自販機がないとか、ちょっとした不便なことはありますけどね」

「ここ普通に泊まれそうだよねー……」

「元宿直室ですからね」

「あ! そっか!」

「なに言ってるのよ渋谷きゅんったら、もう! で本当にいい設備。でも運動部でキッチンなんて使うの?」

「たまに使いますよ。使わないのももったいないので」

「あっ、ほんとだ。食材ぎっしり」

 

 何のことかと思えば、渋谷さんが冷蔵庫を開けていた。

 中には見覚えの無い食材が色々入っている。

 

「ちょっと、勝手に他所の冷蔵庫開けるのやめなさいよ」

「別に構いませんけど……なんでこんな入ってるんだろ?」

「どうかしたの?」

「普段、こんなに食材はないんです。それこそ周りに自販機が無いから買ってきた飲み物とか……料理をするならその都度買いに行くので、その余りくらいで……撮影用ですか?」

 

 スタッフさんは知らないらしい。

 答えてくれたのは、隙間から顔をのぞかせた和田と新井だった。

 

「すいません兄貴、それ俺らの両親からっす。次の仕入れが届くから冷蔵庫空けたいって言うんで」

「梅雨時だし、捨てるくらいなら兄貴や俺らで悪くなる前に食ってくれって言ってました」

「そういうことか。あ、この二人って実家“わかつ”と“小豆あらい”ってお店やってるんですよ。偶然にも叔父が経営してる“はがくれ”ってラーメン屋と同じビルで」

 

 一瞬忘れて思い出したカメラに、アピールしておく。

 すると、どこからか大きな腹の音が。

 

「聞いてたらお腹すいてきた、なにか食べたくない?」

「もー、本番中なのに。でも、そういえば今日お昼まだよね。NG連発したから」

 

 軽い笑いが起こるなか、ADさんが……

 

「そろそろお昼にしますか? だそうですよ」

「あら? いいの? もしかして現役男子高校生の手料理?」

 

 いいえ、ロケ弁です。

 

「なーんだ、つまらないわねぇ」

 

 あれ? フリップに続きがあるようだ。

 

「もしよければ普段部活でどんなものを作ってるのか……簡単なものならいいですけど、味は保証しませんよ?」

 

 というわけで料理をすることに。

 俺とカメラマン一人に音声スタッフだけが残される。

 その間は彼らは先生と部活仲間へ、俺についてのインタビューをするらしい。

 

 体よく追っ払われた?

 俺がいると言いにくいこと聞いてるのかな……

 

 そんな疑問を抱きつつ、料理にとりかかる。

 新しいものに挑戦するのは趣旨に反するし、失敗するのも嫌。

 というわけで、最近作れるようになった麺料理を披露する。

 今日は……ジメジメしてるし、この前も作った冷やし中華にしよう。

 

 手順を確認。

 材料と道具の用意。

 前回の復習。

 ……よし!

 

 気合を入れて、麺を打つ。まずは小麦粉に塩と重曹を適量加え、水と混ぜる。

 水気を持った小麦粉はバラバラの状態からあっという間に一つの生地にまとまった。

 これをいったん寝かせている間に、タレと具の用意。

 肉は鳥のササミにしよう。スポーツ番組だし。

 あとは卵を焼いて錦糸卵に、きゅうりとハムもある。

 薬味にはネギ……あっ、ゴマもちょっと炒るといいかもしれない!

 夏バテ防止に、レモン汁もちょっと加えるとよさそうだ。

 

 

 アドバイスに従いながら、選んだ材料を料理番組の司会になったつもりで。ペルソナ能力によって生まれた余裕をフル活用して、手元を見ずにカメラへ話しかけながら調理をすすめる。

 

 ! 

 

 寝かせた麺を打つ時間を、“警戒”がアラームのように知らせてきた。

 打っては伸ばし、打っては伸ばし。流れるように、丹念に。心を込めて麺を打つ。

 

「はい! 麺ができました!」

 

 できあがった麺は打ち粉で白く染まっているが、この時点で以前の物より期待できそうだ。

 あとはこれを茹でて、脳内アラームをセットして……

 

 時間になり、茹で上がった麺を流水でさっとすすいでぬめりを落とす。

 さらに用意した冷水で締めた後は、しっかりと水を切る! 

 タレを薄めないために重要なポイントだ。

 

 こうしてできた麺を皿に盛ると、つややかな表面がライトの光を受けて輝いていた。

 

「これに具材を盛り付けて、薬味と炒りゴマ、タレをかければ……葉隠流冷やし中華、完成!!」

 

 自分の拍手と共に、二人のスタッフさんが完成した一皿をこれでもかというほど撮影。

 一通り撮ったところで、ADさんから料理を持って来て欲しいとの指示が出た。

 

 

 

 

 

 ~応接室~

 

 なんだかんだで初めて使うな、この応接室。

 空き部屋だったのを掃除した日が懐かしい。

 

「お待たせしました~、冷やし中華です」

「キャー! おいしそうじゃない!」

「うわっ、本格的だね。じゃあ早速、いただきます! ……!!」

 

 一口すすった渋谷さんの体が震える。

 

「美味っ!」

「よし! あー」

 

 ほっとした。

 大丈夫だとは思ったけど、試食する間もなく人に食べさせるのはやや不安にもなる。

 しかし杞憂でよかっ

 

「エクセレンッ!!」

「!? おお、お気に召しましたか?」

「何よ! おいしいじゃないの! んもう!」

 

 油断したところに叫んでくるのはやめて欲しい。

 あと突然の投げキッスも。

 

 しかしそういったことが小さな笑いにつながり、現場の雰囲気は明るく暖かくなっていく。

 おかげで料理の感想も楽しげになり、部での撮影は円滑に進められた。

 特にいつの間にか天田や山岸さんの緊張がほぐれていたのは驚きだ。

 その後に続いた練習風景の撮影ではいつも通りの動きで、いつも通りの練習ができた。

 

「キャー! 脱いだら凄い筋肉してるじゃない! 特に後背筋が私の好み!」

「普通に背中って言ってもらえませんかね!?」

「先輩始まりますよ!」

「おう!」

「エイッ!」

「オラァ!」

「えっと、あれが三戦という型です。普通は手でやるんですけど、葉隠君は棒で」

「あれ平気なの……?」

「先輩にはあれでも効かないみたいです」

 

 おまけに時々挟む休憩時間には

 

「“やぁ! 牛乳飲んでるかい?”」

「すげー! CMにそっくりだ」

「どうやってるんですか?」

「これはね、まずのどちんこの位置をこうするの」

「そこからできませーん!」

「グッグッとやってダラーンとすればいいんだよ」

「その説明で理解しろって、かなり酷だと思うわよぉ」

「そうかな?」

 

 ものまねショーやダンスを教えてくれたりと、気さくに交流してくれた。

 

 もっとも渋谷さんの教え方はかなり感覚的で正直分かりづらいけど。

 グッグッとやってダラーンって何だ? わからない。

 体の動かし方なら気でなんとかできるか?

 

 首付近の気に集中してみる。

 まだ特に変わった様子はないが、意図的に声を変えようとすると筋肉が緊張する。

 それで動かないのか?

 

「あ゛ー」

 

 こっそり、使い慣れてきた影時間用の声を出してみた。

 緊張はあるものの、ものまねよりも緊張が少ない。

 やはり問題は緊張か?

 もう一度首の緊張を意識して、ついでに気功で気の滞りも取り除きながらやってみる。

 

「あー、!!」

 

 喉仏が少し動いて、これまでより高い声が楽に出た!

 

「あれ? 葉隠君、できた感じ?」

「できた、かもしれない」

「嘘ォ!? あなた何で分かるのォ!?」

「それができたら後は簡単! 何度も声帯を動かして目的の人の声に近づけたり、これ似てる! と思った声を探せばいいよ」

 

 そんなんでいいのか……

 

「こんにちは! こんにちはー。こんちわー」

 

 特に誰の声でもないが、自分の声とは違う声が出ている。

 さらにアドバイスに従い、まだ緊張が残る部分を意識して継続すると。

 

「こんッ!?」

「なに? どうしたのよ? 狐のマネ?」

「いえ、むせてしまって。ちょっとトイレ行ってきますね……」

 

 ……また新しいスキルが身についた。

 その名も“変声”。声を変える能力。

 “ものまね芸人を目指す”か“悪用する”しか使い道が思いつかないんだけど。

 どうしよう?




影虎は“変声”を習得した!

変身能力と合わせたらどうでしょう?

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