人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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だいぶ遅くなりますが、新年明けましておめでとうございます!


106話 練習終了

 7月4日(土)

 

 朝

 

 “封印”という道が見えたからか、心が軽い。

 体の調子も良く、変わり映えのしない景色も輝いて見える。

 自然と歩調も速くなり、気分良く練習に行くと

 

「葉隠君!」

「あっ!」

 

 なんとピザカッターの二人が戻ってきていた。

 

「おはようございます! 大丈夫でしたか?」

「うん、とりあえずね。それより収録、頑張ってるみたいじゃない」

「今日から復帰するから、またよろしく頼むな」

「はい! あ、でも」

 

 そうなると渋谷さんとアレクサンドラさんはどうなるんだろうか?

 

「心配ご無用! アタシたちもいるわよぉ」

「僕たちも最後までスケジュールは押さえてあるから、四人体制でフォローするって」

「予定を狂わせて申し訳ない」

「葉隠君にも、お二人にも」

「いえいえ、俺はそれほど……」

 

 原因はスケジュールの調整ミスだとしても、有名芸能人に予定より多く会えたと考えればある意味得な気もしてくる。昨日までの苦労もいい経験だと思えてきた。

 

 もともと腹を立てていた訳ではないが、今日は怒る気にもならない。

 しかし撮影が始まるとピザカッターの二人は、迷惑をかけた分を取り戻すように気合を入れてサポートをしてくれた。

 おかげで俺は練習だけに集中することができ、今日もまたタイムを縮められた。

 

 

 

 

 

 

 影時間

 

 ~タルタロス・15F~

 

「しっ! 」

 

 刃をつけた模造刀で、シャドウの仮面を断ち切る。

 刀を使っての戦い方もだいぶ形になってきた。

 

 “武器は手足の延長、己の体の一部”

 

 かつて読んでいた格闘漫画のセリフだが、これが実に参考になる。

 空手、腕の代わりに刀を使うと考えたらしっくりきた。

 

 例えば相手が殴りかかってくるとしたら、その拳に手の甲を当ててそらす。

 その手は翻して腕をつかみ引き倒す、あるいはそのまま相手を突いたりもできる。

 

 これを刀でやるとしたら?

 まず刀身を添えて拳を逸らすことはできる。

 次につかむ事はできないが、引き倒す動き。ここで腕を切れそうだ。

 最後に刺突と応用もできる。

 刀の基本的な動作にまだ固さがあるが、実践でも自然に戦えるのは大きい。

 

 でも空手を応用するなら、腕一本より二本使いたい。

 その方が自然だ。

 

「……形だけなら何とかなるか」

 

 右手に模造刀を持ち、左手からドッペルゲンガーを伸ばす。

 模造刀を参考に形を修正し、もう一本の刀を作ってみた。

 

「う~ん……」

 

 使えるは使えるが、違和感が強い。

 変形で作った刀と模造刀では重さも違う。

 それにリーチが違うから、時々うっかり刀が手に当たりかける。

 もう少し短いほうが使いやすそうだ。

 

 模造刀を鞘に戻し、変形能力の応用で長さを切り詰めた刀を両手に持ってみる。

 軽く振ってみた感想は、悪くない。

 少なくとも刀で二刀流をするよりは間違いなくやりやすかった。

 シャドウと数回戦ってみても、初めてとは思えないくらいに使える。

 

 今日は恐ろしい速さで武器が変わっていくが、どれもそれなりに使えそうで困る。

 二刀流もこれに慣れたらもっと使えそうだ。

 ってか、誰かが小太刀二刀流を使ってる漫画があったような……

 

 そうだね、“るろうに○心”だね。

 

 前々から漫画の技とか再現できないかな~?

 とは思っていたけれど、刀に関してはそれがぴったりハマったようだ。

 空手は親父との殴り合いでそこそこ実践慣れしていても、剣道は学校で習ったきり。

 しかも実戦経験といえるものは授業中の試合しかない。

 代わりに空手の経験と漫画が、立ち回りのイメージに思いのほか役立つ。

 

 まぁここまで有効利用できるのは、ドッペルゲンガーの処理能力やローグロウの成長補助があるおかげもあるだろう。

 

 しかし、こうなると更に希望が湧いてくる。

 俺の強みは速さだし、刀一本で“飛天御剣流”はどうだろう?

 できることなら“牙突”もやってみたい。

 小太刀二刀流は継続するとして……

 どれもこれも努力と研究が必要そうだけど、夢が広がるなぁ……

 あの漫画はどこか、所々再現できなくはなさそうに感じるからまた面白い。

 

「おっと、忘れるとこだった」

 

 今日の予定は武器だけじゃなかった。新しいルーン魔術の実験がある。

 

「さて……適当なシャドウは……」

 

 懐から取り出した数枚の紙には、俺が書いたルーン文字が並ぶ。

 大型シャドウを“封印”すれば生き延びられるかもしれない。

 希望は見えたが、まだ封印についてはよく知らないし、実現できない。

 これはそのための第一歩。

 

「いた……」

 

 数枚の中から、最初に使う一枚を引き抜いて力を込める。

 

 実験その一 単体捕縛魔術

 

「“敵を縛る氷の鎖”」

「ヒッ!?」

 

 次の瞬間、札から氷で形作られた鎖が飛び出した。

 鎖は対象のシャドウへと絡みつき、その自由を制限する。

 しかしそれほど拘束は強くないようで、ただ邪魔になっているだけだ。

 

 なら次の一枚。

 実験その二 氷結効果の付与

 

「“敵を縛る氷の鎖、凍結して敵を止める”」

 

 最初に放った物に、もう一行文言を追加した魔術。

 邪魔な鎖に阻まれて、動きを鈍らせたシャドウはその鎖にも絡みつかれた。

 

「ヒイッ!?」

「おっ!」

 

 その途端、二本目の鎖が縛った部分が凍りつき始めた。

 シャドウの体表を鎖に沿って、薄い氷が張っていく。

 所々では氷が連なって分厚くなり、シャドウが固められているようだ。

 シャドウは弱弱しい声を漏らし、ほんの少しだけ動かせる手をばたつかせている。

 しかしもはや脅威にはならないだろう。

 

「悪いな……」

 

 近づいて、体力と魔力を根こそぎいただいた。

 

「よし! こっち(・・・)もちゃんと使えるな」

 

 今回試したのは、いつも使っていたルーン文字の“意味”を組み合わせるやり方ではない。

 ルーン文字をアルファベットに対応させて、願いを記述する方式のルーン魔術だ。

 最初に使った氷の鎖は“Chain of ice that binds enemy.”とルーン文字で記述していた。

 

 この二つはどちらもルーン魔術だが、長所と短所がある。

 

 まず俺が使っていたバインドルーンは

 ・文字の意味を組み合わせるため、文字数が少なくてすむ。

 ・効果が大雑把になりがち。

 ・使用時に失う魔力が、記述式と比べて少ない

 

 対して記述式の場合は

 ・文章にしなければならないため、文字数が多くなる。

 ・代わりに願い(効果)を細かく設定することができる。

 ・使用時に失う魔力が、バインドルーンと比べて多い。

 

 よって

 

 狭い範囲に文字数を収めなければならないアクセサリーには“バインドルーン”。

 対象の限定や複雑な効果を必要とする魔術には“記述式”。

 それぞれに向いているやり方があった。そして封印に向いているのは“記述式”。

 つまり俺が封印をするためには、まずこの記述式を使えるかを試す必要があった。

 

「とりあえず使えてよかった……」

 

 オーナーの護符は記述式の所々にバインドルーンを組み込んで、さらに文字列の向きで内容を暗号化した複雑なものだそうだが、俺はそんな手を加えていない。

 

 『それだけ失敗もしにくいし、今の貴方なら大丈夫よ』

 

 オーナーにはそう言われていたが、成功してようやく一安心だ。

 

 魔力の消耗もこの程度ならまだ許容範囲。

 ペルソナを身につけた頃なら多分きついけど、今ならまだ連発しても余裕がある。

 自分の成長を実感した。これから更に成長していければ……

 

 未来への希望を胸に、集中力が途切れる直前まで。

 俺は刀と魔術を使い続けた。

 

 なおその最中に、思いつきで手首から小さな槍貫手の射出に成功。

 隠し武器として使えるようになった。

 形を整えるとまるっきり“アサシンブレード”だったので、今後はそう呼ぶことにする。

 次は“ロープダート”とかもいいな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 7月5日(日)

 

 今日でちょうど一週間。

 陸上の練習も早いもので、最終日を迎えていた。

 最後とあってコーチはもちろん、撮影スタッフからも相応の気合いを感じる。

 機材や段取りのチェックに余念がない。

 

 そんな彼らから少し離れた休憩所で、俺は待ち時間を利用して座禅を組む。

 ウォーミングアップの後で最終確認として軽い練習。

 さらに人生初のドーピング検査も受けた。

 

 残るは最後の計測だけ。

 もう間もなく始まるだろう。

 はやる気持ちを落ち着かせる。

 霊がはびこる倉庫の中と同じように。

 体からは余分な力を抜き、気を十分に巡らせる。

 

 今日までの練習はしっかりとこなした。

 そして必要最低限のことは身につけたし、それ以上の技術も手に入れている。

 後はその全てを出し切るだけ。

 

「準備、整いました! 葉隠君、お願いしまーす!」

 

 呼ばれた。最後のコースへと向かう。

 

「葉隠君、大丈夫かい?」

「頑張ってな」

「アタシも踊って応援するわ! ア~ン、ドウ~」

「これまでの成果を見せてくれ。あと邪魔だって飯沼さん」

「私はアレクサンドラ! 間違えないでちょうだいっ!」

 

 応援を受けて、コーチの待ち受けるトラックへ到着。

 手足を軽く回し、合図とともにスタート準備。

 スターティングブロックへ足をかけ、クラウチングスタートの体勢。

 重心を深く、スタート時に足のバネで加速をつけるため。

 

「用意」

 

 掲げられたスターターピストルの引き金に、指がかかる。

 

「……!」

 

 進行方向を見据えて溜めた力を、引き金が引かれたと同時に解き放つ!

 

「いけー!!」

「もっともっと!!」

 

 すっ飛んでいく景色。

 スタートは成功、十分な立ち上がり! 

 フォームも正しく、全身の力を足に伝えて地面を蹴る。

 勢いに乗っていく体は今、50メートルを越えた。

 

 ここでさらに加速!

 スタート後、およそ60メートルから120メートルの区間。

 体をやや内側に傾けて、気持ちよくコーナーを回りながらトップスピードに乗る。

 120メートルを過ぎれば、ここから先は根性だ。

 コーナーからの直線。

 せっかく出したトップスピードを出来る限り落とさずにゴールまで走り抜ける。

 

 すると250メートルを超えたあたりから本当にきつくなってくる。

 300メートル地点を突破。残るは100メートル。

 ここで全力を出し尽くすべく、再度加速する気持ちで手足を動かす。

 体の動きのみに集中し、気を巡らせてフォームの維持。

 

 息が上がるし手足は重い。だがまだ限界じゃない!

 加速! 加速! 加速!

 影時間まで使って体に染み込ませた動きを、ただひたすらに繰り返す。

 

 そしてついに時は来た。

 コースを横切るゴールテープ。

 そこに胸から、思い切り飛び込んだ。

 

「ゴール!!」

「くはっ!?」

 

 ゴールしたことで気が緩んだか。

 直後につまづき、そのまま数歩進んで膝をつく。

 

「……………………」

 

 この一週間で一番……限界に近づいた。

 結果は?

 

「今回の記録! ……46秒27!!」

『……オオオオオオ!!!』

 

 スタッフが宣言した直後、地響きのような声が上がった。

 

「はーがーくーれーくーん!!」

「うげっ!?」

「速かったよー!」

「渋谷きゅん! 気持ちは分かるけど振り回しちゃだめ。葉隠君はエクセレ~ント! な走りだったわ!」

「46! 46秒台!!」

「待って! 落ち着いて!!」

 

 カッターさん、助かります……

 感動のシーンだったけど、答える余裕を失っていた。

 息を整えて立ち上がると、カメラを引き連れた三国コーチが近づいてきた。

 

「三国コーチ……」

「よくやった! 本当によくやった!! 一週間でここまでできるとは思わんかった!」

 

 高校一年生としては驚異的な記録に、コーチも興奮気味のようだ。

 そのまま撮影は締めに入り、望外の大成功として収録が終わる。

 

「お疲れ様でした!」

「葉隠君!」

 

 口々に返事を返してくれるスタッフさんの間から、目高プロデューサーがやってきた。

 

「いや~お疲れ様。なんと言ったらいいか、すごいことをしてくれたねぇ!」

「問題ありませんでしたか?」

「大丈夫さ。今日まで撮った内容に問題が無いのは確認してあるし、取れ高も十分だからね。あとはドーピング検査の結果だけなんだけど……大丈夫だよね?」

「大丈夫でしょう。少なくとも僕は不正はしていませんから」

 

 尿検査があることは事前の説明で通達されていたし、江戸川先生の薬も飲んでいない。

 飲んでいたとしても問題はないと言っていたが……

 ペルソナも事前に確認して、先生の保証があるので普通の尿検査ならそれほど心配はない。

 

「しいて言うなら検体がどこかですりかわらないか、ですね。もう手元を離れてますから」

「そこらへんは大丈夫さ。ちゃんとした専門家を呼んで正式な手順で執り行うからね。不正をしてないなら心配無用。それより今夜時間あるかい? もしよければなんだが、葉隠君も打ち上げに参加しない?」

「いいんですか?」

「そりゃいいとも! 君も出演者の一人なんだし、今日までよくやってくれたからね。慣れない仕事だっただろうけど、とにかく体当たりで取り組んでくれる姿勢は、見ていて面白かったよ。

 我々の一番の目的は、君たち高校生が、若者が、真剣にスポーツに取り組んで頑張る姿を撮ること。ただ良い記録が目的なら、身体能力で売ってる芸能人を用意すれば良いからね。

 ハプニングもあったけど、君は文句一つ言わずに最後までやり遂げてくれた。それだけで十分だったんだが……予想以上の盛り上がりまで作ってくれた。検査結果に問題が無ければ、なかなかの傑作ができそうだよ」

「でしたら、お言葉に甘えます」

「オーケー。じゃあ一人追加で、時間は7時くらいを考えてるんだけど……そうだ、葉隠君はこの辺でどこかいい店知らない?」

「それでしたら、いい店がありますよ」

 

 一仕事終えた達成感からか、和やかに話が進むひと時。

 こうして初めての撮影は一つの節目を迎えた。




影虎は漫画を参考にした! 
刀での立ち回りが上達した!
二刀流をひらめいた!
小太刀二刀流をひらめいた!
漫画の技を研究するつもりのようだ……
影虎はルーン魔術(記述式)が使えるようになった!
影虎はアサシンブレードが使えるようになった!
影虎の戦闘スタイルが“SAMURAI”か“アサシン”になりつつある……

影虎の撮影が終了した!
影虎は打ち上げに参加するようだ! 


タグに“他作品の技”を追加しました。
2017年、アサシンクリードの映画が放映されるそうで楽しみです。



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