人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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108話 斡旋

 7月7日(火)

 

 昼休み

 

 ~1年B組~

 

「すみません」

「あっ葉隠君」

「岩崎さん、ちょうどよかった岳羽さんはいる?」

「岳羽さん? 分かった」

 

 しばらく待つと、変な顔した岳羽さんが来た。

 

「どうしたの? 急にうちのクラスまで来て…… 」

「いや、岳羽さんって昨日バイト探してたでしょう? それでちょっと話があるんだ。昨日、俺のバイト先で学校がアルバイトブームだって話したら、オーナーが新しく人を雇うか考えているって」

「えっ、それマジ? 葉隠君のバイト先って、Be Blue Vだよね? ポロニアンモールの」

「マジ。それで島田さんとかにも声をかけてるんだけど、岳羽さんもどう? 採用はオーナーが決めることだけど、面接だけなら確実に受けられるから」

 

 岳羽さんは悩んでいるようなそぶりを見せる。

 

「……」

「何か問題ある? 」

「問題ってかさ、なんで私?」

「アクセサリーショップだから。女の子とかおしゃれに興味のある人、センスのいい人が望ましい。その点、岳羽さんはそういうの詳しそうだし。あとはぶっちゃけ俺が親しい女子って勉強会をやったメンツくらいだから。っと、これももしよかったら」

「これ、また作ったの?」

 

 それは期末試験の対策問題集。

 数学、英語、現代文、古文の試験範囲と模擬試験用のプリントをそろえてある。

 岳羽さん以外の高等部メンバーには配布済み。

 余計なお世話かもしれないが……

 

「………こんな事してて自分は大丈夫なの?」

「それは平気。自分の復習ついでに作ってるから」

「あっそ。前回の予想だいぶ当たってたし、これは使わせてもらう。バイトの話も正直助かるんだけど……なんか釈然としない。てか、何か隠してない?」

 

 するどいな……怪しまれているようだ。

 

「実は、俺の代わりになってほしいんだ」

 

 テレビ撮影のためにシフトを調整してもらったこと。

 夏休み中は長期旅行の予定が入っていること。

 そのためバイトに出られないこと。

 オーナーの許可はあるが、一番の新人として申し訳なさを感じる部分があること。

 

「……まぁ、そういうことなら」

「助かる! それじゃ」

『一年A組、葉隠影虎君。生徒会室に来てください。繰り返します……』

「……呼び出しって、またなんかやったの?」

「いやいやまさか……たぶん、撮影の関係じゃない? とにかく行ってみる。バイトの件、詳しい事はまた後で連絡するから」

 

 岳羽さんと別れ、生徒会室へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 ~生徒会室~

 

「お呼びでしょうか?」

 

 呼び出しに従って顔を出せば、桐条先輩が待っていた。

 

「来てくれたか。まずは撮影ご苦労だった。かなりの記録を残したようじゃないか。先方がだいぶ喜んでいたそうだ」

「これも練習場のためですから」

「そうか。あそこはまだ当分は押さえてある。梅雨明けまでは自由に使えるだろう。

 ……さて、今日呼んだのは連絡事項がいくつかある。来週の日曜、19日は空けておいてくれ。テレビ局の方で撮影がある」

「分かりました。問題ありません」

「それから君のお父上から連絡があった。大分無理を言ったはずだが、思いのほか早く完成させてくれたようでな。色々と話すうちに君のバイクも用意ができているという話を聞いたんだが……そうなるとこれが必要だろう」

 

 先輩がとり出したのは、寮の駐輪場を使用する申請書だった。

 

「忘れていたという顔をしているな。ほら、これで書いてしまえ」

「ご想像の通りです。ありがとうございます」

 

 借りた筆記用具で必要事項を記入していく。

 

「書けました、これはどこに提出すれば?」

「こちらで処理しておこう。数日で許可証が寮の部屋に届くだろうから、必ずバイクに貼り付けてくれ。あとは……君のお父上からの伝言だな。今週日曜に、私のバイクを届けにこちらへ来られる。そのときついでに君のバイクも届けるそうだ」

 

 あの不良親父は……電話かメールすりゃ良いのに、なんでお客様に伝言頼むんだよ。

 

「了解です」

 

 日時の確認で用件は終わった。

 

 

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~アクセサリーショップ Be Blue V~

 

「~♪」

「オーナー、閉店作業終わりました」

「お疲れ様」

 

 また歌ってたのか。

 倉庫でやった実験以来、オーナーは俺が歌ってみた昭和の名曲が気に入ったらしい。

 ……曲と言えば、相談したいことがあった。

 

「相談? 何かしら?」

「オーナーから預かってるバイオリン。最近あれが毎晩夢に出て、朝まで同じ曲を弾き続けるんですよ」

 

 部屋を撮影した日からずっとだ。

 体へ害がないから受け入れていたが、同じ曲ばかりでさすがに飽きてしまった。

 おかげで俺自身もその曲だけはだいぶ弾けるようになってきた恩恵もある。

 でもたまには別の曲が聞きたいし、できれば弾いてみたい気持ちもある。

 

「ただ、何度頼んでも変える気配がなくて」

「何か執着があるのかしら……? でもそういうときは毅然として、要求した方がいいわ。お願い、ではなくて、やりたくない! とか迷惑なら迷惑だとしっかりと伝えるの。人と同じ。譲ってばかりじゃいけないわ」

「なるほど……今夜から試します。あと、アクセサリー用に水晶をいくつか購入したいんです」

 

 強化系のルーンで日ごろから付けていられるものを作りたい。

 

「それなら、ちょっと待ってね」

 

 オーナーはなぜか、トレーに乗せて四十個も持ってきた……

 

「ちょうどいい機会だから、石の選び方を教えるわ」

「お願いします」

「まず、ここで教える選び方は品質とか物質的なことではなく、“相性”を判断すること。石にも人と同じように相性というものがあってね……それによっては貴方と合わない、アクセサリーにするなら他の石と合わない、なんてこともあるわ。そうなると魔術の効果も下がりやすいから、気をつけておくべきよ」

 

 石の相性……気にしたことがなかった。

 

「本当に相性の悪い石なら、人は無意識に避けたりするから。あまり神経質にならず、良さそうと思った石を選べば、普通の人なら問題ないわ。でも魔術の質を高めようと考えたら必要になるわ。

 それから石の種類。アクセサリーにする場合は刻むルーンに対応した意味と力を持つ石を使うのが基本よ。宝石言葉や由来は以前渡したマニュアルがあるから、それを参考にしてもらうとして……“水晶”は世界中で利用されるオーソドックスで癖の少ない石だから、大抵の人や石と合う。でも、だからこそ見極めの練習になるわ」

 

 オーナーがトレーを俺の前に突き出す。

 

「貴方と相性が“良さそうな水晶”、“それなりに良さそうな水晶”、“ちょっと悪そうな水晶”、“悪そうな水晶”。この四種類を混ぜてあるわ。数はそれぞれ十個ずつ。これで練習しましょう。……タイガーアイの振り子は持っているかしら?」

「携帯に付けてます」

 

 選び方はダウジングなんだろうか? 

 取り外して使えるようにする。

 

「石の選び方は、石の持つエネルギーを感じること。相性のいい石には自然と吸い寄せられるような心地よさがあったり、悪い石には刺々しさを感じたり。慣れれば道具を使わなくてもいいし、石と対話できるようになるわ。たとえば……貴方、その振り子を全然ダウジングに使ってないでしょう」

 

 うっ、それは確かに。

 他の事を優先して、ただのストラップになっていたが……そんなことが分かるのか?

 

「ストラップとしても使えるけれど、ダウジングの道具にも使えるようになっているのは分かるでしょう? そのタイガーアイはやる気があるのに、使ってくれないから不満そうになってるわ」

 

 ……ぜんぜん分からない。しかし申し訳ない気分になってきた。

 

「ごめんな……」

「今後はたまにでもいいから使ってあげなさい。とりあえず最初はそれを使って感覚をつかむこと。どちらに振れたらどの相性の石かを決めて、自分との相性を問いかけるの」

 

 言われた通りにやってみる。

 すると相性が“良さそうな石”と“悪そうな石”はなんとなく分かる。

 

「この二十個、どうでしょう?」

「正解よ。顕著であれば簡単に分かるみたいね。でも他はどうかしら?」

 

 残り二十個……これが難しかった。正直、俺には区別がつかない。

 振り子は良いと悪いのちょうど中間あたりで、迷うように円を描いている。

 円が中心線からどちらに偏っているかで分けてみたものの……

 

「間違いが七個あるわね」

「やっぱり混ざってましたか……」

「要練習よ。これから石は用意しておくから、毎回帰る前にやりましょう。今日はこの良い石を持っていくといいわ。複数の石でアクセサリーを作るなら、この相性診断をそれぞれの石ともやってみなさい」

「ありがとうございました!」

 

 オーナーの指導を受け、水晶を買って帰ることにした。

 

 

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 

 ………………

 

 

 

 

 影時間

 

 ~タルタロス前~

 

「お久しぶり、と言うべきでしょうか?」

「さぁ……それより今日は私に用かね?」

 

 ストレガが三人揃って、明らかに待ち構えていた。

 

「今日は聞きたいことがありましてね。ここにいれば、必ず会えると思ったので」

「そこまでして聞きたい事とは?」

「お前、最近荒垣と暴れたやろ」

「ペルソナの暴走」

「ああ。まさか弁償の話か?」

 

 タカヤは薄く笑って首を振る。

 どうやら違うようだ。

 

「チドリがあの戦いを見ていたんですよ。貴方が暴走したペルソナと戦う途中、シャドウ化する貴方をね」

「シャドウ化?」

 

 聞き逃せない単語が出てきた。

 

「おっと、シャドウ化の意味を尋ねても意味がありませんよ。私たちもあなたのあの時の状態をそう呼んでいるだけですから」

「あれはワイらにもわからんから聞きにきたんや。ええか? シャドウとペルソナはどっちも人から生まれるモンや。理性で抑えこめればペルソナ、コントロールできんかったらシャドウ。そう考えとったらええ。……ペルソナを抑えきれんかったら暴走するのはもう見たやろ」

「ペルソナのシャドウ化……普通なら暴走するはずなのに、あなたは平然と戦い続けた。それどころか、より早く強くなったように感じた……安定したままで」

「……もしや、その方法を聞きにきたのかね? 」

「いかにも。教えていただけませんか? 」

「……悪いが、あの状態については私もよくわかっていないのが正直なところだ」

「やはりそうですか」

 

 それも想定していたようだ。

 一人として落胆している様子はない。

 

「しかし、以前は死を受け入れると言っていた君たちが気にするとはな」

「我々は死を恐れません。しかし自殺志願者ではありません。未来に執着せず、過去にも拘らず、ただ今だけを生きる。いたずらに命を縮める事は、我々も不本意なのです」

「誰があないな薬、好き好んで飲むかいな。飲まんかったら飲むより速く死んでまうからに決まっとるやろ」

「なるほどな……だったらせめて、状況だけは教えよう」

 

 俺が一度暴走を起こしたこと。

 そのときの暴走の仕方。

 シャドウに襲われ“死にたくない”という一心でペルソナに目覚めた事実。

 そして身を守る力を常に欲していること。

 

「だから私は頻繁に、自分の意思でこの塔へ出入りしている。良い方に考えて、理性と本能の方向性が同じだから抑える必要がなく、暴走もしない。悪ければ……あえて殺さず、私を強くなるための道具にしているとも考えられるか?」

「なるほど……無関係と断ずるのも早計ですね。心当たりを当たってみましょう。……今後も何か気づいたら、教えていただけませんか? こちらで分かったことは教えます」

 

 封印のためにもペルソナとシャドウの知識はほしい。

 少し考えたが、了承する。

 

「ありがとうございます。ついでと言ってはなんですが、新しいスキルカードが手に入りましたが、どうします?」

「! どんな能力だ?」

「“チャージ”と“コンセントレイト”。どっちも隙ができる代わりに、次の一撃の威力を高める能力や。各十五万円。それと“ジオ”があるで。こっちは十万や」

「む……」

 

 ジオはいらない。しかし残り二枚は攻撃力の低い俺には役に立ちそうだ。

 でも合計三十万はきびしい。まだオーナーへの借金も返済してないのに……

 

「なんや、金欠か」

「……嘘をついても仕方がないから言うが、前回もだいぶ無理をしていた」

「お金がないなら、稼げばいいじゃない」

 

 チドリがだるそうに言い放つ。

 

「チドリ、合法な手段じゃワイらみたいな収入は難しいんやで?」

「まぁ、そういうことだ……」

「ふむ……でしたらシャドウ化の情報代として、力を求めるあなた向きで稼げる方法を一つ教えましょう」

「何……?」

「ご安心を。我々の仕事を手伝えとは言いません。平日、偶数の日の夜八時以降。駅前広場はずれにあるショットバー“Que sera sera(ケセラセラ)”で、“ヴァージンモヒート”というノンアルコールカクテルを注文し、運んできた店員に“この曲は血が騒ぐ”と伝えてください。そうすれば地下にある“闘技場”へと案内されるでしょう。何か言われたら私の紹介だと教えて構いません。

 そこでは賭け試合をやっていますから、試合に出てファイトマネーを得るもよし、ギャンブルでお金を増やそうとするもよし……あとは貴方のお好きにどうぞ。強制もしません。ただし合言葉は定期的に変わります。行くつもりがあれば、早めに行ったほうが良いでしょう」

「待ったるから、金の用意ができたら連絡しぃや。そん代わり、売れない品物に労力かける気はあらへん。今あるカードが売れへん限りは、次の仕入れもないと思っといてくれ」

 

 

 ジンがそう言い残し、三人は立ち去った……


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