人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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111話 テレビ局到着

 7月19日(日)

 

「こちらでしばらくお待ちください。もうじき説明があるはずなので、後のことは指示に従ってください」

「ありがとうございました」

「それでは失礼します」

 

 準備を万端に整えた俺と先生は、テレビ局の一室に案内された。

 すでに何組もの高校生と大人がいる。

 

「俺たちは最後のほうですかね?」

「ヒヒッ。遅刻でもギリギリでもありませんし、気にすることもないでしょう。さて、どこに座りましょうか? 私はどこでもかまいません」

「なら……すみません。ここ、よろしいですか?」

 

 入り口から近い、最前列の席。

 角から三つ目にいた男子に声をかけるが……反応がない。

 

「すみません」

「!! ……なんですか?」

「ここ、空いてますか?」

「ああ……両親がくるんで」

「そうでしたか。すみません、ありがとうございました」

 

 人がくるなら仕方ない。

 次の列は…………なんだか重苦しい雰囲気の女子がいる……

 

「……何かご用ですか?」

「すみません、席をさがしていて」

「……ならいいですが……あまりこちらを見ないでください。精神統一の妨げになります」

「失礼しました」

 

 隣で黙礼した女性もそうだが、なんだか刺々しい。

 この子の近くには座りたくないなぁ……

 

「あのー」

「ん?」

 

 また違う女の子に声をかけられた。

 

「もし座るとこ探しとるんやったら、うちらのとこ来ません?」

 

 大阪? それとも京都? どちらかはっきりとしない。

 そんな関西の訛りで話す彼女が指で示したのは、最後列だ。

 高校生と大人が混ざった七人が固まっている。

 雰囲気はなんとなく、ここよりは柔らかそうだった。

 

「ありがたいです。先生も良いですか?」

「もちろんですとも」

「よかった。ほな行きましょ。皆~、新しいお仲間やで」

「おっ、いらっしゃーい」

 

 軽く自己紹介したところ、俺たちを呼んだ女子を含めた八人はやはり、テレビに出演する生徒と付き添いの先生だそうだ。

 

 まず目立つのは、“私立原ヶ岳学園”の子藪先生と細川君。

 相撲部所属と聞いて、この室内で誰にも負けない巨体を誇る訳が分かった。

 

 次に、体格の良い生徒と小柄な教師のコンビ。

 “県立北三浦高等学校”の富田君と、桑縁先生。

 富田君は宮本のような完全体育会系。

 漢字にすると名前も似ている。

 

 “美里大学付属”の萩野さんと本田先生。

 学校が広島にあるらしく、方言のせいか会話が実に男らしく聞こえる。

 しかしどちらも女性である。

 

 最後に俺たちを連れてきた椎名さんと、担任の佐藤先生。

 彼女は快活で明るい性格で、初対面でも気さくに話しかけてくる。

 佐藤先生はそれを笑いながら見守っているような、穏やかな先生だった。

 

「いきなり災難だったな。ま、気にすんなよ」

「それより何か食べない? 僕ら、食べ物いっぱい持ってきたんだ」

「江戸川先生もどうぞ」

「ありがとう。じゃお言葉に甘えて」

「一ついただきましょう」

 

 原ヶ岳の二人からおにぎりを一ついただく。

 それにしても……後ろから見てみると、最初に話しかけた男子やその他、室内にいる人は張り詰めた雰囲気の方が多いようだ。

 

「皆さん緊張してるんですかね?」

「うちらが出るのは天下の○○テレビじゃけぇ、大概はそうじゃろ。ま、単にせせろしい奴もいるみたいじゃが」

「せせろしい?」

「うるさい、いう意味じゃ。ほれ、あんたが話しとった女子。聖バルトロマイ女学園ってええとこのお嬢らしい」

「全寮制で入学から卒業まで、外出制限や規律が厳しく家族ともろくに会えないと有名なカトリック系の女子高ですねぇ。そんな学校の人まで居るのですか、ヒヒッ」

「うちらもさっき話しかけたんやけど……“同性でも俗人と必要以上の会話は控えるように言われています”って言われて断られてしもた~」

 

 椎名さんは柔らかく笑っているが、だいぶ嫌味な事を言われてないか? 

 

 まぁそれは置いておくとして……

 この場には他校の人間と積極的に交流しようとする人たちと、そうでない人たち。

 まっぷたつに分かれているようだ。

 ここに居る八名は当然ながら前者。

 そんな彼らと適当に話していると、入り口のドアが開いた。

 説明が始まるのかと目を向けてみれば

 

「! お、おはようございますっ!」

 

 大きな挨拶が響く。

 他の人からも集まる視線。

 その集中砲火を受けたのは、かなり小柄な女の子だ。

 ここにきたという事は高校生だと思うが、彼女は一年にしても小さいな。

 顔立ちもかわいいけど、幼い。

 ポニーテールが子供っぽく見えるだけだろうか?

 

「突っ立ってないで、どいてくれ」

「は、はい」

 

 ? 彼女の後ろから、今度は男子か。

 彼は女の子を無視して、適当な椅子に座る。

 つめを噛んで、なんだか機嫌が悪そうだ。

 ……あの男子、どこかで見たような……

 

「え、えーっと……」

 

 おっと、誰からも返事がなくて戸惑っている。

 

「おはようございます。よかったらこっち、どうぞー」

 

 軽く声を張って、呼んでみた。

 あのまま針のむしろになっているよりはいいだろう。

 ちゃんとこちらに気づいたようだ。近よってくる。

 

「おはようございます。あと、ありがとうございましたっ!」

「俺もついさっきこの人たちに声をかけてもらったから」

「せやせや。あんま気にせんと、仲良くしような」

「おにぎり食べない? サンドイッチもあるよ」

「もらっとけよ、めちゃうまいぜ。俺ももう一個いいか?」

「よければ俺ももうひとつ」

「どんどん食べてよ! まだまだあるから」

「……あんた、どんだけ持っとるんじゃ。いくら相撲部員でも多すぎるじゃろ」

「これでも減らしたよ?」

「……よかった、やさしそうな人たちだ」

 

 俺たちの会話を聞いて、胸をなでおろした彼女はおにぎりの詰まった重箱に目を向ける。

 

「ん? ほら、あんたも遠慮せんでええけぇ、はよ食べ。そんなこまい(小さい)体しよって」

「それじゃぁいただきまーす。……あっ、美味しい!」

「良かったー。たっぷり食べてね」

「そうそう、そんで大きくならんと」

「大きくって、皆さんより小さいのは仕方ないですよー。私、まだ中学生ですから」

 

 彼女の言葉を聴いて、疑問が浮かぶ。

 

「中学生?」

「あれ? 僕たちが出る番組、高校生だけが対象じゃなかった?」

「俺もそう聞いてるけど」

「もしかして、控え室間違えたんちゃう?」

「……言われてみれば、保護者も教師も一緒におらんしな」

 

 俺たちの疑問に対して、彼女は困ったように口を開いた。

 

「実は私、アイドルの卵なんです。今日はテレビ局とプロデューサーのご厚意で、撮影を見学させてもらえることになって、ここで待っているようにと」

「なんや、せやったんか」

「これだけ素人がいたら、一人増えても変わらないだろうしね」

 

 納得した皆。そして俺は、アイドルと聞いてピンときた。

 

「君と同じくらいに入ってきた男子。彼も見学?」

「えっ? いえ、あの人は皆さんと同じ一般からの出演者ですよ。でも事務所に所属してるみたいですけど……」

「知り合いやったん?」

「そう言うわけじゃないんだけど……」

 

 以前、部活の後輩がスカウトされて見学に付き添ったことを話した。

 

「よくそんな短時間しか見てない奴をおぼえてたな」

「たった今思い出して、なんか引っかかってたのが分かってスッキリした。ありがとう、……ごめん、名前なんだっけ?」

 

 そういえば、女の子の名前を聞いてなかった。

 

「! こっちこそごめんなさい! 私、“久慈川りせ”っていいます!」

「久慈川さんか……久慈川?」

 

 二度見した俺は絶対に悪くない。




影虎は、“久慈川りせ”と遭遇した!

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