「それでは一班の方々は私が。二班の方々はADの
全体での打ち合わせが終わった。
参加する高校生は俺を含めて十人。撮影は五人ずつの二班に分かれて交代で行い、まず各校の制服で練習風景の視聴と質疑応答。次に後撮りでちょっとしたパフォーマンスとして特技を披露。最後に一班、二班合同でエンディングとなる。
俺の班は二班。他の顔ぶれは交流を持った四人だった。
「葉隠、俺たちも行こうぜ」
俺たちと先生方。さらに久慈川さんも一般人扱いのため、行動を共にするという話だ。総勢十一人がぞろぞろと、ADさんの後ろをついて歩く。
……“久慈川りせ”。
彼女はペルソナ3の続編、ペルソナ4に登場するキャラクター。
山岸さんと同じサポート系のペルソナ使いで、職業はアイドル。
作中では休業して主人公グループに加わることになるが……
存在していたところで、俺が顔を合わせることはないと思っていた。
そんな彼女が数歩前を歩いている。
前から思っていたが、どうしてこう原作キャラに遭遇するのか……
なんか意味でもあんのか?
「こちらです。中の食べ物、飲み物はご自由にどうぞ。備え付けのテレビでは撮影の様子を見ることもできます。トイレはここから見える……あそこですね。時間まではどうぞごゆっくり」
「何から何までありがとうございます」
「それでは私はこれで。何か問題があれば、先ほどの資料に私の電話番号がありますから、そちらにお願いします」
ADの丹羽さんは、笑顔でそう言うと足早に立ち去った。やっぱり忙しいんだろう。
「葉隠先輩」
「!? 久慈川さん?」
「どうしたんですか? 皆入っちゃいましたよ」
「ああ、忙しそうだなーとね。……ところでその先輩って?」
「え? 私は中学生で先輩達は高校生だし……ダメでした?」
「……いや、問題ない」
思わぬ事態に少し動揺しているようだ。
落ち着こう。
……とは、思うが。
「……………………」
なぜか真剣な目で観察されている……
何? 何でそんな目で見てんの? 二度見したから?
「葉隠君遅いでー」
「とっとと荷物置いてくつろごうぜ」
「でも運が良かったね。僕ら全員で同じ班だなんて」
「奇遇じゃの」
本当にそうだなと思いつつ、部屋に入ってみると。
「だいぶ広いな」
十一人で使うにはかなり広い部屋だ。
部屋の半分をテーブルやパイプ椅子が占め、もう半分は少しくらいなら運動もできそうな空きスペースになっている。
「ヒヒヒ。長丁場になると言う話でしたし、配慮していただいたんですかねぇ? どうやら横にもなれるようですよ?」
部屋の角に立てかけられた畳を指して先生が言う。
確かに不可能ではなさそうだ。
「竹刀を振ってもよさそうじゃな」
「萩野さんの課題って剣道やったん?」
「うちがやったんはテニスじゃ。剣道が本職でな。パフォーマンスを頼まれたけん、持ってきたんじゃ」
「そうなんや」
「そういう椎名は?」
「うちは陸上やってて、課題はフィギュアスケートやったで」
「フィギュアスケート? あんなの一週間でできるんですか? 椎名先輩」
「たしかに難しかったわ~」
女子が会話に花を咲かせる中、俺はテレビをつけてみる。
……撮影はまだ始まっていないようだ。
動き回るスタッフの姿しか見えない。
「ねぇ、男子はなにやったん?」
おっと、こっちに話が飛んできた。
男子も自分の課題と本来の競技を伝え合うと、細川君は自己紹介のときに言っていたが本来は相撲で、与えられた課題はウエイトリフティング。富田君はアメフトでライン(最前列でぶつかり合うポジション)をやっているらしく、その体格で課題のレスリングは難なくこなしたそうだ。
俺もパルクールと陸上について話したところ……
「葉隠先輩はすごく良い結果だったんですよね?」
「パルクールも走ったりするし、たまたま得意種目に当たったみたいで……何で知ってんの?」
「プロデューサーの目高さんに挨拶をした時“プロだけじゃなくて、素人の出演者もよく見ておきなさい。君の参考になりそうな子がいるから”って言われて。葉隠先輩と椎名先輩の名前はその時から聞いていたんです」
それで様子を伺ってたのか。
「うちの名前も?」
「はい! 椎名先輩の明るさと元気のよさは、見ていて清清しい。アイドルにも劣らない魅力だって」
「うは~、そんなん言われるとこそばゆいわ……」
椎名さんは、瞬時に顔を赤らめて飲み物に手を伸ばす。
「それから葉隠先輩は、ハプニングにもめげずに最善を尽くそうとする態度は見習うべき、だそうですよ」
「たしかにハプニングは多かったけれどもね……」
恥ずかしくなり、俺も飲み物に手を伸ばす。
ここで、部屋の扉をノックする音が
「失礼しまーす!」
「どーもー!!」
「きゃあっ!?」
「うわっ!?」
「何事!!?」
したかと思えばいきなりカメラと芸能人が大勢詰め掛けてきた。
一人として顔を知らない人がいない。
「渋谷さん、それにMs.アレクサンドラまで!?」
「やっほー、葉隠君」
「また会ったわね!」
「どういうことですか?」
「これも撮影なん?」
一度落ち着いて話を聞くと、彼らは俺を含めた五人のサポートを勤めた方々で、本番前の激励を兼ねた軽いドッキリ企画らしい。わざわざ控え室を分けたのはこのためか。
「どう? 驚いた?」
「そりゃ驚きますよ! というか……何ですかその袋」
「あっ、気づいちゃった?」
「隠そうとする意思すら感じませんが!?」
渋谷さんは一人だけサンタみたいな袋を背負っている。
他の芸能人の方々は誰も持ってないのに。
「これはね。今日の収録、待ち時間が長いから退屈しないようにプレゼント」
「差し入れを持ってきてくださったんですか。ありがとうございまっ!?」
持った瞬間、重みのある袋の中身が崩れた。
「おっ! と」
「大丈夫?」
「ああ、ありがとう二人とも」
男子二人に支えられて事なきを得たが
「何ですかこれ? だいぶ重いですよ」
「僕が普段家でやってるやつ」
「いや、分かりませんって……」
相変わらずの渋谷さんに苦笑しつつ、袋を開けてみると。笑いがこみ上げてきた。
「確かに暇つぶしになるけども!」
中身を斜め後ろから近づいてきたカメラに見えるよう、口を広げて場所を譲る。
袋の中身はジグソーパズルの箱がぎっしり。三千ピース越えの大きな箱が所狭しと詰まっていた。全部で二十三箱ある。パズルもこれだけあればそりゃ重いわなぁ。
「ジグソーパズル!? これ全部ジグソーパズルなの!?」
「どの柄が好きかわからなかったから」
「それにしたって多すぎるわよ! てか今ここでやる遊びかしら? いくら待ち時間長くても」
「せっかくですし、あとで一つ」
「やる気なの? 律儀な子ねぇ」
激励を受けた俺は程よく力も抜け、ドッキリ後には芸能人の楽屋訪問ツアー等もあり、準備や交流に忙しくも有意義な時間をすごした。
……
…………
………………
リハーサル前
「いよいよやなぁ~」
「緊張するね……」
「一週間撮影したんだろ? それとおんなじだって」
「そうじゃな。観客も大会と考えればええんじゃ」
「撮影中なので、ここから静かにお願いしますね」
撮影用のメイクを済ませ、スタジオを訪れた。
中ではきらびやかなセット。
扇形に広がるひな壇。
そしてそこに並ぶ芸能人と高校生たちが撮影をしている。
彼らの撮影はもうすぐ終わり、観客の入れ替えと俺たちのリハーサルが始まるが……
彼らを見ているとなんだか複雑な気持ちになってきた。
まず席を探していたとき最初に声をかけて断られた男子は、あのときの緊張が抜けるどころか悪化しているようだ。一人だけ飛びぬけてガチガチになっている。見ていて不安。そしてつい応援したくなる。
心の中で応援を飛ばすが、何の意味もなさそうだ。
そして例の事務所に所属しているあの男子は……素直にすごいと思う。
あの爪をガリガリやる不機嫌さと暗い雰囲気はどこに行ったんだろう?
彼は明るくハキハキと喋る、優しそうなイケメンになっていた……
さすがプロを目指してるだけはあると感心してしまった。
刺々しい女子は聞かれたことに答える以上のことはしない。
台本をなぞるように淡々としているが、それだけに問題もないらしい。
観客としてみていると、個人的には少々つまらなかった。
でも問題が無いのが一番だ。そういう意味で彼女は堅実なのかもしれない。
「カットー! お疲れ様でした!!」
「テープチェンジ! それと誘導始めて!」
彼らの撮影が終わり、スタッフの方々があわただしく動き出す。
「やぁ、そろっているね」
「目高プロデューサー……!!」
動きに目をとられていると、目高プロデューサーが近づいてきた。
後ろに以前天田をスカウトした、Bunny's事務所の木島プロデューサを引き連れて。
「お久しぶりです」
礼儀として挨拶すると、木島プロデューサーは首を捻った。
「おや? 二人は知り合いで?」
「……申し訳ない、どこかで会ったかな?」
どうやら忘れられているようだ……
「えーっと……葉隠といいます。以前後輩の天田、小学生の子の付き添いで事務所にお邪魔したことが」
「っ! あの時の子か!」
思い出したみたいだけど、なぜか俺をじろじろと見られた。
「前とずいぶん変わっていて気づかなかったよ。これは失礼をしてしまった」
「お会いしたのはそのとき一回だけですし、この企画で髪型も変わってますからね」
仕方ないと言おうとすると、彼は首を横に振った。
「そういう外見的なこともあるけど、変わっているのは雰囲気さ。なんだろうね……自信がついたのかな? 堂々としていてこう、魅力みたいなものを前より強く感じるよ」
「そうでしょうか? 自分じゃ良く分かりません」
まさかステータスが上がってる?
シャガールのフェロモンコーヒー。
叔父さんの店のトロ肉しょうゆラーメン。
そしてなによりBe Blue Vのバイトはかなりやってるけど。
「そうかもしれないね。でも間違いなく君は変わっているよ。前にも聞いたが、アイドルに興味はないかい?」
そう言って名刺を渡された。
以前のように“天田のついで”ではなく、“俺個人”をスカウトしようという意思が感じられ……あっ。
「……」
プロデューサーの後ろからやってくる、高校生の集団。
そのうちの一人が、人を殺せそうな視線で俺を睨んでいた。
そいつは俺の視線に気づくと、撮影中のイケメンスマイルで近づいてくる。
「お疲れ様です」
「おや、光明院君。前半の子が戻ってきたみたいだね。それじゃ後半の皆は準備を始めてもらおう」
「それでは私はこれで。撮影頑張って。もし興味があれば気軽に連絡をしてほしい。行こうか光明院君、ここにいては邪魔になる」
「はい! プロデューサー」
俺をにらんでいたイケメンは足を止め
「僕は
言うだけ言って立ち去った……
ろくに挨拶もしてないのに、何で俺の名前を知ってるんだろう?
台本には苗字しか載ってないのに。
「大丈夫か? 葉隠」
「問題ないよ」
まぁ、どこかで聞いていてもおかしくない。
それよりあれは絶対歓迎されないだろうな……
所属するつもりも無いけど。
……
…………
………………
リハーサルを終えて、本番。
俺たちはステージを中心として右側のひな壇に、サポーターの芸人さんと一緒に座った。
対面には現役アスリートやサポートに着いていない芸能人の方々。
さらに撮影を見守る観客の前で、カウントが始まる。
「本番五秒前ー! 四、三、二、一……」
「プロフェッショナル~?」
『コーチング!!!』
撮影の開始と共に、司会者と観客の声が轟いた。
「番組も後半となりました!」
「そーですね。前半の皆は頑張ってくれました! そしてここからは彼らが頑張る姿を見せてくれます!」
前半の撮影があったので、番組の趣旨など細々したことは説明が済んでいる。
そのため俺たちは簡単な前フリの後、すぐに各自の紹介とVTRに入る予定だ。
「今度の五人はいったいどんな子たちなんですかね?」
「はい、こちらにそれぞれのあだ名が」
アシスタントのアナウンサーが取り出したフリップには。
“アメフト王子”
“鬼姫”
“トラックの妖精”
“土俵の王子”
“特攻隊長”
の五つが並んでいた。
「島さんは誰がどれだ分かりますか?」
「とりあえず女の子二人が“鬼姫”か“妖精”。男三人がその他なのは分かるわ」
俺たちとフリップを交互に見る、司会の
お笑い芸人からのし上がって数多くの番組で司会を務める。芸能界の大物。
その視線は鋭く、俺たちを値踏みしているようだ。
「とりあえず女の子から。萩野さん、彼女が“鬼姫”やろ? 気が強そうな顔しとるし」
「いかがでしょうか? 萩野さん」
「正解です」
萩野さんは短く明確に肯定。そして自動的に椎名さんが“トラックの妖精”に決定。
そして残るは男三人がそれぞれどれかを明らかにするところで
「それやったら……天乃川!!」
「はい!?」
突然、予定にないフリ。
対面のひな壇にいた若手芸人が呼ばれた。
呼ばれた本人はしどろもどろになってイジられる。
ピザカッターのお二人によれば、彼はこのように突然の無茶ブリが日常茶飯事で有名な司会者。絡まれたほうは驚くし困るが芸人、特に若手にとってはカメラに写れるチャンスだそうだ。
その後、彼は何とか“土俵の王子”が細川君だと発言して、正解した。
「ったく、ボーっとしてんなよー? ならホンコンの田辺!! お前は?」
「僕は、葉隠君」
俺か?
「男子の中で一番小柄な彼が“アメフト王子”だと思います」
「ほうー、何で?」
「僕知ってるんですよ。アメフトって色々ポジションがあって、たとえばパス回すポジションとか、ぶつかり合いの少ないポジションなんじゃないかと」
「なるほど。では正解はどうでしょうか? 葉隠君!」
「違います」
「ウソォ!?」
笑顔で一言答えると、叫ばれた。
「えっ!? ちょっと待って? 二択っしょ!? 葉隠君じゃなかったらアメフト王子は……」
「俺っす」
富田君が控えめに挙手。
「となると葉隠君は残った……」
「“特攻隊長”です」
『えーーーー!?』
向けられたマイクに返事をした瞬間、いかにもテレビらしいエーッという声が会場から寄せられる。
「意外ですね」
「なんでかね? 見た感じ真面目そうな普通の子やけど」
「それも含めて、この先で明らかになります!」
こうして、まずは富田君からVTRを交えての撮影が始まった。
……
…………
………………
「細川君、お疲れ様でした!」
「ありがとうございました!!」
フリップと同じ順番にVTRを見て、笑いあり、涙ありの撮影が進んだ。
そして細川君が終わったと言うことは、俺の番だ。
「さー! とうとう最後の挑戦者。そしてやってきましたね。後半の初っ端から“エー!!”言わせたこの子!」
「月光館学園の“特攻隊長”! 葉隠影虎君です!!」
「よろしくお願いします!!」
会場からもらった大きな拍手が静まる。
「影虎ってかっこいい名前ですね~」
「なんか意味とかあんの?」
「八割くらい元ヤンの父の趣味ですね。最初に父が自分と同じくらい強くなって欲しいって願いをこめて、“虎”の文字を使いたがったらしいです。父は自分の名前に“龍”が入ってるので」
「あー! 龍と虎が向かい合ってる絵! あれか!」
「それです! “影”は母が、父の様に強くなるのはいいけれど、もうちょっと控えめでいいから。縁の下の力持ちくらいでと言うことで」
「ああ、お父ちゃん元ヤンやからね。もうちょっと大人しくしとけってことか」
「そう言うことです」
軽い笑いを取りながら話は進み、初日と二日目のVTRが流れた。
……
…………
………………
VTR後。
「なるほどなー……番組出演の座をかけて、学園最強に特攻したわけか」
「選抜大会の成績が同率一位だったもので」
「で、そんときに特攻服で行ったと。葉隠君、ぶっちゃけ不良なん?」
「いえいえ、前日に突然ボクシングガウンが必要だと言われても用意できなくて、たまたま部屋にあったのを使っただけです」
クスクスと小さな笑いが起こる。
「特攻服がたまたまあるんはおかしい気もするけどね……ナースティーボーイズの加藤!」
「ウッス!!」
暴走族の経歴を持つお笑いコンビ、ナースティーボーイズの一人が立ち上がった。
「お前こういうの詳しいやろ? お前の目から見てどんなもん?」
「チラッと
「ガチなやつ?」
「近頃は萌え特攻服だとかありますけど、ネタに使われる安っぽい作りのじゃないですよあれ。マジで。だからそうっすね、大人しそうな顔して意外と……」
「いやいやいやいや!! そんなことありませんよ」
ここでアナウンサーに注意をひきつけるためのベルがなる。
「特攻服で試合にのぞみ、特攻隊長と呼ばれる葉隠君ですが。実は真面目な生徒であるとの情報が入っています」
テストの成績や生活態度を併せて、特攻服やら不良は紹介の中のネタとして処理された。
そして続く三日目と四日目のVTRは、ピザカッターのダブルブッキングを中心とした、シリアスな雰囲気で編集されている。
「それでか。ようやく分かったわ、何で一人だけ四人もついてんのか疑問だったよ」
「「関係者の皆様には、大変ご迷惑をおかけしました!」」
「ピザカッターのお二人の代わりに、残りのお二人が抜擢されたと言う事ですが……」
「お前ら……ちゃんとやれたんか?」
「んもぅ! 頑張ったわよ!」
「VTRをどうぞ~」
収録はつつがなく進んでいく……
知らないうちにステータスが上がっていた!!
影虎は改めてスカウトを受けた!
練習生にしたくなる程度の魅力はあるらしい……
ちなみに翻訳のバイトで伝達力、
地下闘技場で勇気が上がるかもしれません。