人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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116話 読書と学習

 ~タルタロス・エントランス~

 

「よしっ!」

 

 買ったばかりのカードを使い、“チャージ”と“コンセントレイト”を習得した。

 どちらも魔力を使って物理か魔法の攻撃力を高めるスキルだ。

 エリザベスとかボス戦では定番のスキルだし、桐条先輩のスキルとしても有名だった。

 

 “コンセントレイト”からの“テンタラフー”

 

 これは間違った使用例。“コンセントレイト”は攻撃の威力を高めるものので、敵全体を混乱させる魔法と組み合わせても意味がない。まぁこちらでは違うのかもしれないが、そこは要検証だ。早速行ってみよう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 ~タルタロス・16F~

 

「なるほど」

 

 ここまで上ってきて、大体分かった。

 今回身に着けた二つのスキル。

 使ってみると、ゲームでは感じられない魔力と気の動きが分かる。

 

 “チャージ”は気の流れを後押しか増加させて、物理攻撃の威力を上げるスキル。

 “コンセントレイト”は集中力を高め、魔法の威力を倍増させるスキルのようだ。

 

 テンタラフーとの組み合わせは、これといって効果はみられない。

 どちらも魔力を使い、攻撃に移るまでの溜め(・・)が必要になってしまうが……

 

「訓練していて良かった」

 

 気功やルーン魔術で培ったエネルギーの操作技術。

 これを使えば溜めにかかる時間を減らしたり、威力をさらに上げることができそう。

 なかなか使い勝手が良い。買って正解だ。

 

「しっ!」

 

 チャージを使った一撃が、オーロラの壁にめり込む。

 破れはしない。でも前より深くまで入っている。

 このまま鍛えていけば、あるいは?

 気長にやろう。

 

 さてもう一周だ。

 今日はまだ実験が残っている。

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 ~タルタロス・8F~

 

「このあたりでいいか」

 

 チャラッと軽い音をたて、タイガーアイの振り子がゆれた。

 周辺把握に集中して、通路の形状把握に努める。

 脳内に組みあがる地図。

 それを変形能力で手元にアウトプット。

 

 周辺把握の範囲は俺を中心に235メートル13センチと2ミリ。

 ペルソナの覚醒直後と比べたら、範囲が倍以上にまで伸びている。

 今日は振り子を使い、潜在意識では範囲外は知覚できているかのを探る。

 

 この通路の先は行き止まりか? Yes

 この通路は? No

 曲がり角がある? Yes

 右? Yes

 

 ……答え合わせは後でするとして……次の質問。

 

 脱出装置はあるか? ……分からない。地図の範囲内には明確な反応がない。

 上への階段は? 十字路の先にある。

 しかし階段は確認済みだったので、ダウジングの効果かは分からない。判断は保留。

 では宝箱は? ……おっ、二箇所あるみたいだ。

 最後にシャドウの位置は、一番反応が多い。

 

「よし!」

 

 最も近くの反応に足を向ける。

 

 今日の目的は

 ダウジングによるマッピングの実験。

 ダウジングによる階段、脱出装置、宝箱、シャドウ発見の実験。

 そして最後にもう一つ、シャドウの使役(・・)を試すこと。

 

 昨夜、封印の手がかりを求めて読みそびれていたThe 陰陽道と修験道を一気読みした結果、興味深い記述を見つけた。

 

 それが“式神”。

 世間一般にも名前は広がっているこの“式神”だが、実は三種類の分類がある。

 一つは霊力を何らかの物に宿し、術者自身が作り出した式神。

 次に神霊や護法童子と呼ばれる存在と契約した式神。

 最後に……そこらへんにいる霊や妖怪を調伏して従わせた式神。

 

 “式神”は“式鬼”とも言い、“式”という字には使役するという意味がある。

 “式”の“鬼”。つまり使役された鬼(妖怪)。

 前の二種類はよく分からないが、三つ目は鬼をシャドウと考えればまだ分かる。

 要はシャドウを力ずくで従えられないか? ということだ。

 

 とはいえ最初は穏便に

 

「ちょっといいかな?」

「ギャァッ!!」

 

 問答無用で攻撃された。

 言葉が通じていない? 

 

「まぁ、想定内だけど……」

 

 用意してきた紙を取り出し、魔力を込める。

 

「けっこう消耗するな……俺の言葉が分かれば頭を振ってくれ、こう縦に」

「ギッ!? ……ギィ!!!」

 

 “意思の伝達”を目的としたルーン魔術は効いたのか?

 あからさまに反応を示したものの、残酷のマーヤはすぐさま攻撃を再開。

 

「ちょっと待って! 話を聞いてくれ!」

 

 攻撃せずに語りかけるが、返事は爆炎だった。

 こりゃだめだ、伝達の魔術はまだ完全には使いこなせていないっぽい。

 マーヤの言葉も分からないし、それ以前に話を聞いてもらえない。

 

「……仕方ない」

 

 今はこれで何とかするしよう。

 とりあえずマーヤを捕まえる。

 

「ギィィ……」

 

 氷の鎖で捕獲した後、デビルタッチ(恐怖)でようやくおとなしくなった。

 

「……言葉が分かるか? 分かったら首を縦に振ってくれ」

 

 動きをつけると、マーヤが首を縦に振った。

 こっちの意思は一応、伝わっているみたいだ。

 

「従えば、殺さない。分かるか? ……Yesなら首を縦に、Noなら横に」

「ギィ……」

 

 分かったようだ。

 

「力を貸して欲しい」

「ギィ」

「よし……あそこにいるシャドウと戦えるか?」

「ギィ」

 

 あっさりYes。やらせといてなんだが、抵抗はないのか。

 マーヤは少々小柄な相手を倒し、傷つきながらもちゃんと逃げずに戻ってくる。

 

「効くかな……? ディア」

「ギッ?」

 

 お、治ってる治ってる。

 シャドウを回復するのは初めてだが、ちゃんと効いた。

 

「シャドウの使役は成功ってことでいいよな」

 

 結果に満足すると同時に

 

「……こいつ、これからどうしよう? 飼う場所……いや、それより食事はなに食べるんだ? 人なら食わせるわけに行かないし……」

 

 新たな問題に頭を悩ませることになる。

 その結果、マップの正しさを確認するまで連れまわした後、逃がすことにした。

 

「ギィッ!」

「汚っ……あ」

 

 帰っていいと伝えると、マーヤは地面に唾を吐くような動きをする。

 しかしよく見てみると、吐いたのは五百円玉だ。

 

「これ」

「キイィー……」

 

 マーヤはもう一目散に逃げている最中……

 見逃す代わりにくれたのか? せっかくなので貰っておこう。

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 7月21日(火)

 

 放課後

 

 ~部室前~

 

 部活用教材ビデオの撮影後、掃除に手間取り遅くなってしまった。

 軽く走りながら帰っていると、校門前を順平が歩いているのを見かける。

 

「あれ? 順平?」

「おっ、影虎か。どうしたー?」

「いや、順平こそなんでこんな時間に? 帰宅部だよな?」

「ちっと図書室で勉強しててさー。……ほら、期末の点悪かったし」

 

 やっぱり気にしていたか……

 

「調子は?」

「それが聞いてくれよー! ぜんっぜん進まねーの! わからねーから参考書を探して読むんだけどさ、参考書も参考にならねーっつーか、いまいち理解できねー部分があってさ。そういや影虎って参考書とかどんなの使ってんの? オレッチにも分かるような易しい参考書ってねーか?」

「俺は学校の教材が中心。学校のテストは当然だけど“学校で教えた範囲しか出せない”から、教科書の中に説き方は説明があるはずだし……けどそういうことなら“教科書ガイド”がいいかもしれない」

「何だよそれ? 参考書と違うのか?」

「参考書は問題の解き方や勉強内容を解説してるけど、“教科書ガイド”は教科書の内容を解説する教科書の解説書って感じだな。教科書を作ってる会社が作ってるから、ピンポイントで詳しいことが載ってる」

 

 月光館学園で使われている教科書は別に特別な物じゃない……というか、桐条グループ系列の有名な教材メーカーが発行していて、広く使われている物をここでも使っている。教科書ガイドも販売されているはずだ。

 

「教科書の説明ってどんなかんじ? オレッチでも分かる? つか聞いたことねぇけど」

「教科書の内容が分からないなら役に立つと思うぞ。たとえば……そうだな、英語で単語とか英文を和訳する宿題とか出るよな?」

「あれマジめんどいんだよな……」

「ぶっちゃけると、対応した教科書ガイドならその答えが全部載ってたりする」

「は? えっ、なにそれマジで!? それ丸写しできんじゃん!」

「だから学校の先生は言わないんだろうな……まぁでもちゃんと勉強に使えば便利だ。たとえばさっきの和訳だけど、単語はともかく英文を一生懸命に翻訳したとして、それ、自分を信用できるか?」

「……正しいのかは自信ないままだな。授業で答え合わせすりゃわかっけど」

「授業でなかったら、分からないままになりがちじゃないか?」

 

 順平はそっぽを向いた。

 

「“教科書ガイド”を使えば、そういう場面で分からないことは減らせる。だから理解するためにもまた知識が必要になる参考書よりは、分かりやすいと思う。それをもとに勉強して、問題集を解きながらおぼえれば効率も上がるんじゃないか? ちなみに“教科書ガイド”と同じように教科書にそった“教科書トレーニング”って商品もある」

 

 実際アナライズのない一度目の高校時代を、俺はそうやって乗り切った。

 否定的な意見もあるけど、ちゃんとした勉強に使うなら恥じることはない。

 

「へぇー! いいこと聞いちったー……なぁ」

「どうした突然」

「気になるんだけどさ。一冊いくらくらい?」

「会社と内容によるな。七百円くらいの安いやつから、CD付きで千円二千円するのだって……」

 

 気づけば順平は頭を抱えている。

 

「一冊ならともかく、全科目分になると……厳しいなぁ。トホホ……」

 

 つぶやかれた内容からして、金欠のようだ。

 

「仕方ないな……」

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~古本屋・本の虫~

 

「こんばんは」

「おうおう、虎ちゃんかい」

「遅くにすみません。まだお店、開いてますか?」

「開いとるよ。そっちはお友達かい?」

「ちーっす。すっげえ本の数」

 

 順平を本の虫に連れてきた。

 ここなら教科書ガイドがあるかもしれない。

 もしあれば、新品より安く買えるはずだ。

 

 ここに来た経緯を文吉爺さんに説明すると……

 

「ほう。教科書ガイドじゃったら……ある!」

「マジっすか! どこに?」

「……どこじゃったかいのう?」

「だぁっ!? わかんねーのかよ……」

 

 そんな順平を尻目に、参考書のコーナーを探せばすぐ見つかると笑う文吉爺さん。

 二人が教科書ガイドを探している間、俺は店内を見て回る。

 この間の本も役に立ってるし、面白そうな本は無いだろうか……

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 “違いの出る勉強法”

 “らくらく英会話”

 “フードファイト心得”

 “ハイパー速読術”

 “事務作業マニュアル”

 

 これらはペルソナ4に登場する本だ。

 とりあえず買う。

 さらにこんな本も目につく。

 

 “こんなにいらない英単語”

 ネイティブでもあまり使わないような単語、専門用語まで網羅した辞書。

 六法全書のような厚みがある。

 

 “格闘のススメ その一、その二”

 はじめて見る格闘漫画。

 地下闘技場を舞台に戦う男の話らしい。

 

 “刀剣の美学は実戦の中に……”

 刀や古の剣術流派、そしてその歴史について書かれた本のようだ。

 

 どれも微妙に役に立ちそうだ……

 

「影虎ー! あったぜー」

「ん、おう」

 

 いいや、全部買ってしまおう。

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~自室~

 

 早速買った本を読んでみる。

 何から読むかは考えるまでもない。

 

 “ハイパー速読術”

 目の通し方。ページをめくるコツ。そして心構え。

 アナライズのような能力ではない、本をすばやく読む“技術”を学べた。

 ……読む前と比べて、本を読む速度が明らかに違っている!!

 

 続いて“違いの出る勉強法”

 様々な物事を学ぶための、効率的な勉強法の数々。

 その特色や脳のメカニズムを丁寧に説明している。

 これは……うまく使えばアナライズの処理がさらに早くなりそうだ。

 

 本を読むのが面白くなってきた……

 

 “らくらく英会話”

 意思の疎通に必要な単語から、よく使われるものを厳選した単語集。

 そして使っていいボディーランゲージ、使ってはいけないボディーランゲージのまとめ。この本は単語の羅列とボディーランゲージだけで意思の疎通は可能であると説いている。

 

 例文: Want(欲しい)、This(これ)、I(私)

 文法的に正しくなくても、何かそこにある物が欲しいという意思は伝わりそうだ。

 きれいな英語が喋れれば、それは“Best”。

 しかしコミュニケーションをとるためには、絶対にベストである必要はない。

 単語だけでも、実際に会話をしてみることを薦める言葉で締めくくられている。

 英会話へのハードルが低くなった。

 

 まだ読めそうだ……気分を変えて漫画にするか。

 “格闘のススメ その一、その二”

 ……この作者、本当に地下闘技場に通ってたんじゃないか? 

 そのくらい地下闘技場の描写が繊細だ。

 あまりにもリアルすぎる……と思っていたら。

 

「二巻で打ち切り……しかも原因が描写って……そっとしておこう」

 

 しかし使えそうな技がいくつかあった。

 しかも技の使い方、ポイントまで細かく書かれている。

 ボクシングのフリッカージャブを改良した打撃。腕の力を極限まで抜く。

 そして極限まで速度を高め、しならせた腕で……ってこれ鞭打(べんだ)? 

 体を動かしてみると空手の“ムチミ”のようで、再現できそうだ。

 

 “刀剣の美学は実戦の中に……”

 刀や古の剣術流派、そしてその歴史について書かれた本。

 知識が増えたし面白かったが、これはそれだけだった。

 

「あ……」

 

 気づけば夜もだいぶ遅い

 残りは明日にしよう……




影虎はチャージとコンセントレイトを習得した!
シャドウと“交渉”ができるかもしれない!
ダウジングをマッピングに使えるようになった!
地図を使ってシャドウや宝箱が発見できるようになった!
影虎は本を大量購入して読んだ!
読書の速度とアナライズの処理速度が向上した!

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