人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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119話 いざテキサス

 7月31日(金)

 

 夏休みが始まって早一週間。

 ほどほどに仲間と遊びつつ、能力を活用し宿題を片付けて。

 とうとう、アメリカへ旅立つ日がやってきた。

 

 ~成田空港~

 

「準備はいいな?」

「はいっ、バッチリです先輩」

「ヒッヒッヒ。楽しみですねぇ」

 

 俺はジーンズ、Tシャツ、ルーンストーンのアクセサリー。

 天田は半ズボンにシャツで黄色のリュックを背負い。

 江戸川先生は普段の白衣を脱ぎ捨てて、アロハシャツを着用。

 長時間のフライトのため、それぞれ緩めの楽な服装でやってきた。

 

「先輩のご家族はどこでしょうか? 人が多すぎて……」

「航空会社の受付の近くで待つ、だそうだ。あと親父と待ち合わせるときは人が避けて通る場所を探すと見つかりやすいぞ……ほらあそこだ」

「あそこって、どこですか?」

「ほら、あっちのMって看板の下あたり。短パンとアロハシャツで江戸川先生と服装がかぶってるのが親父」

「そんな遠く、よく見えませんよ」

「人が多いですからねぇ……ヒヒッ、それを抜いてもだいぶ遠い気がしますが」

「……今度、視力を測り直しますか? 2.0以上でどこまで見えるか」

「試してみたいですが、まずは合流ですねぇ」

 

 望遠能力で素の視力まで上がってたりするのかも知れない。

 でも先生の言う通り、ひとまず置いておいて合流する。

 

「江戸川先生、お久しぶりです。いつも息子がお世話になって」

「いえいえ、彼とはお互いに助け合える関係ですから」

「あら、そうなんですか? それでしたら……ああ、こちら夫と同僚の」

「ジョナサン・ジョーンズでーす。よろしく、お願いしまーす」

「こちらこそ、お世話になります。私は江戸川、そしてこの子が」

「天田乾です、初めまして」

「ほー、お前が影虎の弟分か」

「わぷっ!?」

「どうよ? こいつちゃんと面倒見てくれてっか?」

 

 挨拶もそこそこに先生はジョナサンと話し、親父は天田に絡み始めた。

 天田は戸惑っているようだけど、この分ならすぐに打ち解けるだろう。

 

「虎ちゃん」

「母さん?」

「久しぶりね。 二ヶ月くらい会わなかっただけなのに、ちょっと大きくなったかしら?」

「かもね」

「元気でやってるの? 食事はちゃんと食べてる?」

 

 こちらはこちらで細かい事をいろいろと聞いてくる。

 そうこうしながら手続きを済ませ、搭乗時間がやってきた。

 

「うわー!」

 

 天田はすごく楽しそうだ。

 

「海外は始めてか? 」

「僕、海外どころか飛行機も初めてですよ」

「そうなのか?」

「母さんは仕事があったし、家もあまりお金なかったみたいで。出かける時はいつも近いところだったんです。旅行も学校の遠足くらいでした」

「だったらこれが天田少年の初旅行ということですね? ぜひ最高の旅行になるように、お手伝いしますよー?」

「手伝うのはジョナサンの家族でしょ?」

「HAHAHA! that's right!」

 

 ちなみにジョナサンは家族が観光業を始めてから実家に帰ったことがない。

 俺たちとほぼ同じお客様待遇で遊んで帰るつもりだと宣言していた。

 

「でも、みんなに楽しんで欲しいのは本当ですね。困ったことがあれば手伝うし、あっちには僕の家族がたくさんいるから、大抵のことは大丈夫さ」

「おいジョナサン。俺たちだけで6人だぞ? 他の客は大丈夫なのか?」

「ノープロブレム。うちは大家族だからね。まず両親でしょう? それからお兄さんが3人、お姉さん2人、さらにお姉さんの旦那さんと子供が3人同居してるはずなのさ」

 

 そんな話初めて聞いた。総勢11人とはすごい。

 

「兄と姉が1人ずつ別の仕事をしてるけど、残り9人は空いてたかな? まぁ大丈夫でしょう」

 

 そうなのか……

 

 まだ見ぬ旅行先へと思いを馳せて、十二時十分発の飛行機に乗り込んだ。

 

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 ~アメリカ・テキサス州 サンアントニオ国際空港~

 

「着いたねー……」

「ぐあっ、体がバキバキいってやがる」

「テキサスって遠いんですね。十四時間もかかるなんて」

 

 日本時間は8月1日(土)の午前二時前だが、こちらはまだ7月31日(金)の昼十二時前だ。

 日本時間とは別にこちらの時間も体内時計で記録しておこう。

 

「ヒヒヒ、時差ボケは大丈夫ですか?」

「ここからどうすればいいのかしら?」

「迎えがきているはずでーす」

 

 そう言われても、出入り口は同じように誰かを迎えに来た人々でごった返している。

 

「プラカードを持っているはずですがー……」

 

 探してみるとやはり目が良くなっているのか、俺たちの名前が書かれたプラカードはすぐに見つかった。しかし、持っているのは記憶にない男性。黒スーツにサングラスをかけて、まるでSPかマフィアのようだ。

 

「オゥ! その人たぶん姉の旦那さんでーす。Let's go!」

 

 目視できた時点で真っ先にジョナサンが駆けていく。

 それを追っていくと、

 

「ようこそテキサスへ」

 

 短いながら、きれいな日本語で迎えられた。

 

「皆、彼はジョージ・安藤。僕の姉の旦那さんで、日本語喋れます」

「父が、日本人でした」

 

 口数は少ないが、気遣いを感じる。

 

「ダディはどうしたの?」

「今朝、急に飛び込みの客がきた。代わりに私と娘が運転手と案内をさせていただく」

「Oh! エレナも来てるの? 免許も取れるほど大きくなったかー! 十六歳だっけ?」

「Yap」

「そう! こっちのタイガーも十六歳なんだよ!」

「I'm glad to meet you.お世話になります」

「Pleasure to meet you.娘もじきに戻ってくる。もう少し待っていてほしい」

「だったらすぐ出られるように準備はしとくか。影虎、天田、行くぞ!」

 

 ……

 

「どこに行くかと思えば、トイレだったんですね」

「必要は必要だけどな……ところでどう? うちの両親。というか父さん。やけに絡まれてたけど、迷惑じゃないか?」

 

 手を洗いながら聞いてみると、天田は首を横に振った。

 

「迷惑だなんてぜんぜん」

「そうか? なんか困ってそうだったけど」

「本当に迷惑とかじゃないです。いろいろ気にかけてくれてるし。……ただ、“お父さん”って感じの人がいた事ないから、どうしたら良いかよく分からなくって」

 

 天田は母子家庭。やっぱり母親が亡くなる以前から父は居なかったからか。

 

「まぁ、すぐに慣れろとは言わないさ。でもうちの両親に遠慮する必要はないからな。特に父さんは父さんなりに相手を思いやるってるつもりだろうけど、デリカシーがない上に強引だから。いやな事あったら蹴りでも入れてやればいいからな」

「さすがにそこまでは……」

「そうだそうだ、お前はちったぁ親を敬えってんだ」

 

 あ、戻ってきた。ってか

 

「そうするように教え込んだのは誰だよ」

「俺だわなぁ! ま、そういうこった。天田、俺もこいつと同意見だ。遠慮はいらねぇぞ」

「あっ」

 

 そう言って天田の頭を片手で掴んで撫でる父さん。

 天田はとまどって黙り込んだところで、父さんの手が止まる。

 

「しまった。まだ手洗ってなかったわ」

「汚っ!」

「悪い悪い。でも小便引っ掛けたわけじゃねぇし平気だって。そうだ、せっかくだし車は俺らと一緒に乗れよ。慣れるにはまず話さねぇとな!」

 

 強引に決定されていく話。

 

「先輩!」

「あー……面倒だから頑張れ。大丈夫。母さんが一緒なら、やりすぎは止めてくれるから」

 

 天田の救援要請を、あえて無視してみた。

 

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 ~駐車場~

 

「このくらいで十分だ」

「OK、それじゃ残りは僕たちが持って行きましょー」

「ヒヒヒ、それでは影虎君、またあとで」

「おう影虎、失礼なことすんじゃねぇぞ」

「そっくりそのまま返すよ」

「うちの子をよろしくお願いしますね」

「おまかせ、ください」

 

 小型車のトランクに荷物を詰め込んだ親父たちは、肌を撫でる熱気の中、ジョージさんの車に乗るため去っていく。

 

「それでは出発進行です! 乗って、ください」

 

 残された俺は荷物と一緒に、ジョージさんの娘さんが運転するこの車に乗ることになった。

 

「Are you ready? 準備、できました?」

 

 そう笑顔で聞いてくる娘さん。エレナ・安藤。

 ふんわりとしたボブカットの輝くようなブロンドヘアーに、大きくて青い瞳。

 スタイルも合わせて、実にアメリカ的な美人だった。

 彼女も父親の影響で日本語を少しなら喋れるらしい。

 

「Yes,I'm ready」

「OK。気をつけて、行きましょう。私はライセンス、取立て屋ですからね」

「あー……英語でもいいですよ」

「Oh! あなた、英語、わかりますか?」

「I'm working on translation」

 

 翻訳の仕事に会話はないがある程度は理解できるし、勉強になるからと伝える。

 するとその先の会話は英語オンリーになった。

 

「英語が喋れる人でよかったわ! 日本語は難しいから」

「海外ではよく言われるみたいですね」

「貴方たちは日本人だから簡単よね。私も英語を難しいと思ったことはないもの」

「確かに」

「そういえば貴方も十六歳なのよね?」

「そうです。安藤さんもでしたね」

「もっと気楽に、エレナでいいわ。安藤だとパパに、家に着いたらママと弟と妹まで安藤だもの。名前じゃないと誰のことだかわからなくなっちゃう」

「それじゃ俺のことも影虎で。タイガーでもいいよ、ジョナサンはそう呼ぶから。それでエレナ。こっちの高校はどんな感じ? 通ってみて」

「高校? 見学した限りでは広くて綺麗だったけど……通ってみた感想はまだ分からないわ。だってまだ9月じゃないじゃない」

「9月? ……あ! そうか、こっちでは9月から新学期か」

 

 “こんなにいらない英単語”の例文にも載ってたな。

 

「日本は違うの?」

「日本の新学期は4月からだよ。今は4月から7月までの一学期が終わって、夏休みに入ったところ。日本で9月からは二学期になるんだ。その後に冬休みと三学期もある」

「へぇ、じゃあ貴方はもう高校に通ってるんだ。学校はどんなところなの?」

「月光館学園と言って……」

 

 自己紹介をかねて話していると、まだ会っていないほかの家族についても少し聞けた。

 

「ジョナサンは末っ子だったのか」

「らしいわ。唯一の弟だってママが言ってたもの。あとは……パパはお客様の送迎担当。私もこの前からアルバイトで送迎担当をしてるわ。カイル伯父さんの所とか、グランパの現役時代のお友達の所にお客様を連れて行くのが仕事なの」

 

 客が少なければボンズさん自身が指導に当たるらしいが、忙しい時は業務提携している相手先に任せるそうだ。

 

「エレナにも兄弟が居るんだって?」

「弟と妹が一人ずつね。弟はロイド、中学二年生。妹はアンジェリーナっていって、天田君と同じ年よ」

「へぇ、そうなのか」

「良かったら仲良くしてあげっ……ちょっとごめん、ジョナサンから。運転中だから代わりに話してくれない?」

 

 携帯を受け取る。

 

「もしもしジョナサン?」

『タイガー? エレナは?』

「運転中だから代わりに俺が聞くよ」

『そういうこと、OK。そろそろお昼ごはんの時間でーす。どこかで何か食べていきましょー』

「ということだそうだけど」

「グランマもお昼は何も用意してないって言ってたわね……賛成だけど、何を食べにどこに行くの?」

「……だって」

『それが決まりません。バーガーショップ、ステーキ、適当なカフェ。いまこれだけ案が出てます』

「バーガーショップ、ステーキ、適当なカフェか」

「バーガーなら明日のお昼、おなかいっぱい食べれるわよ」

「そうなの?」

「弟のロイドがバーガー大好きなの。将来バーガーショップを開くとか言ってるから、近頃は毎週日曜にバーガーを作らせてお昼にしてるのよ。私たちは楽だし、本人は特訓とグランパから許可をとるためにね」

「なるほど」

 

 これを伝えると向こうでもバーガーショップは候補から外され、程なくして昼食はステーキに決まった。




影虎達は合流した!
一行はテキサスに到着した!
天田は龍斗との距離感に戸惑っているようだ……
ジョージ・安藤 エレナ・安藤と知り合った!

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