人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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120話 顔合わせ

 ~Jones activity本社前~

 

「着いたわよ!」

「デカいな……」

 

 空港から走ること三時間弱。

 いくつかの町を超え、たどり着いた町のはずれからさらに少し郊外へ進んだ森の中。

 三階建ての豪邸にやってきてしまった。ジョナサンの家ってめちゃくちゃ金持ち?

 

 自動的に開いた大きな門を抜けると、広い前庭の中心にそびえる噴水。

 その周囲をぐるりと回って駐車場へ入ったが……

 

「まるでホテルだな」

「この建物はホテルそのものよ。以前はグランパが宿泊客も受け入れてたから。私たちのプライベートな家はあの裏にあるの」

「それはまたすごい……」

「そうでもないわ。負担が大きくて、今は宿泊とその他もろもろのサービスはやってないし、部屋が無駄に多いだけよ」

 

 体全体でやれやれ……と表現するエレナ。

 表現が大きい彼女と荷物を降ろしていると、ジョージさんの運転する車もやってきた。

 

「遅かったのね、パパ」

「少し渋滞に捕まった。待たせたか?」

「それほどじゃありませんよ」

 

 むしろ荷物を降ろすのにちょうどいい時間だった。

 俺たちの乗っていた車に荷物を詰めた分、母さんたちはほぼ手荷物のみ。

 速やかに降りてきた皆は、各々自分の荷物を取って移動することができる。

 

 

 

 

 ~フロント~

 

 左右を階段で挟まれた木製カウンターを初めとして、落ち着いた雰囲気で統一された内装が驚きだ。どれもこれも高級に見えて、想像していたのとだいぶ違う……

 

「ママ! グランマ! お客様が来たわよ!」

「はいはい、今行きますよ」

 

 数秒でカウンター奥の扉が開き、 2人の女性がでてきた。

 

 1人は若々しく、どこかとは言わないがとても大きいエレナにそっくりな女性。

 もう1人は少しお年を召して、全体的に体の大きな女性だ。

 

「ママ! カレン!」

「ジョナサン!! 無事に帰って来れたのね……」

「久しぶりね、ジョナサン。元気そうでよかったわ」

「2人もね! 紹介します。僕のママと1つ上の姉、カレンでーす」

「遠いところを、よくいらしたねぇ」

「自分の家だと思って、くつろいでくださいね」

 

 そこから始まる挨拶と自己紹介の最中、さらに人がやってきた。

 

「やぁ! 日本からのお客様はついた?」

「!?」

 

 中学生くらいの男の子と、その後ろに隠れる小さな女の子だ。

 男の子はボサボサの黒髪に銀縁のメガネで頭がよさげ。

 しかし服装には無頓着なようで、どこかだらしない印象を受ける。

 

 女の子はエレナと同く綺麗な金髪を緩やかに波立たせ、腰まで伸ばしていた。

 白いワンピースと青い瞳。人形のような、という表現がぴったりだ。

 肌も白い。いや、若干顔色が悪い? 

 それに、なんだか俺がにらまれてるような……

 

「こんにちは、俺はっ……!?」

 

 目線を下げて、怖がらせないようにしたつもりだったが、一歩踏み出した瞬間に全速力で逃げられた。まるで宝物の手のように。

 

「おいおい、なにやってんだお前は。女の子を怖がらすんじゃねぇよ」

「何もしてないって……?」

「ごめんなさいね、うちの娘が」

「あの子は人見知りなのよ。良くあることだから気にしないで」

「あ、いえ……別に」

 

 親父に反論しようと思ったが、一瞬だけ彼女のオーラが見えた。

 初対面で見えるなんて、相当強い感情だったんだろう。

 色は深く、暗すぎて黒にも見える青。

 言葉にすれば悲しみや恐怖、と言ったところだろう。

 しかし原因が分からない。まさか本当に俺のせい?

 

 記憶を探っても心当たりは見つからず、気がかりなまま部屋へと案内された。

 

 

 

 

 ~自室~

 

 割り当てられた部屋は、ホテルとして使われていただけある。

 全てがアメリカンサイズで広々としているし、寝泊りには困らないだろう。

 

 ……荷物の整理が終わると、することがなくなった。

 天田の様子でも見に行こう。

 

「天田ー?」

「はーい……」

 

 天田が自分の部屋から出てきた。

 

「そっちはどんな感じか聞きにきたんだけど……眠そうだな」

「はい……ちょっとゆっくりしたら、なんだかもう……ふぁあ……」

 

 飛行機の中ではあまり眠ってなかったみたいだし、時差ボケか?

 

「かもしれませんね……」

「今眠ると生活リズムが崩れそうだな」

「では、眠気覚ましに体でも動かしてはいかがです?」

 

 江戸川先生が隣から顔を出した。

 先生も若干時差ボケ気味らしい。

 普段との違いが分からないが、俺たちは提案に乗ることにした。

 

 

 

 ~フロント~

 

 運動できる場所を聞きに来たが、誰もいない。

 三人でどうしようかと困っていると、外から誰かが入ってきた。

 

「うわっ!?」

「肉買ってきた、ぞ?」

 

 入ってきたのは若めの男性。だが……山のように大きい。

 これまでの道中で見かけた誰よりも大柄で、顔を見るために見上げてしまう。

 

「もしかして、日本からのお客さんか? ハロー、日本語でなんつったっけ……! サヨナラ!」

 

 一言でお別れ!?

 

「ヒヒヒ……初めまして、私と彼は英語が喋れますので」

「オゥ! そいつは良かった。俺はウィリアム、ここのオーナーの息子さ」

「ご丁寧にありがとうございます。江戸川です」

「影虎・葉隠です」

「マイネームイズ……ケン・アマタ。オーケー?」

「OK! よろしくな!」

「わっ!」

「おや……」

 

 巨体に見合う長い腕で、がっしりと肩を組んでくるウィリアムさん。

 

「ところで、こんなところで何やってたんだ?」

「実は……」

 

 ここに来た事情を話すと、彼はため息をつく。

 

「客をほっといて何やってるんだか……そういうことなら俺がトレーニングルームに案内してやるよ。ちょっと待っててくれ、キッチンに夕飯の食材を運び込むから」

「でしたらぜひ手伝わせてください」

 

 

 

 

 ~トレーニングルーム~

 

「凄い!」

「広いですねぇ」

 

 大量の食料を搬入する手伝いをした後、ホテルの裏に案内された。

 彼らのプライベートなスペースだが、会員制のジムと言われても信じられる設備がそろっている。試合ができそうなスペースや、窓から見える庭にはプールまであるのはさすがアメリカ、って言っていいのだろうか……

 

「どうだ? スゲェだろ? 我が家自慢のトレーニングルームさ。兄貴二人が警察官と筋トレマニアでな。へたなジムより設備はいいぜ。どれ使う?」

 

 ウィリアムさんに教わりながら、天田と江戸川先生は目を覚ます程度に。

 俺は夜に向けての腹ごなしをかね、みっちりとトレーニングを行った。

 

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 夜

 

 ~庭~

 

 夕飯だと呼ばれて来てみると、大勢の人が集まっている。

 

「主賓が来たわね」

「こちらへどうぞ」

 

 初対面の男女に案内された席につくと、全員が俺たちの前に並んだ。

 そして口を開いたのは、最年長であり唯一俺も以前から知っているボンズさん。

 いつの間に帰って来たんだろう?

 10年近く前に会ったきりだが、あまり昔と変わっていない。

 相変わらずお年を召しているのに筋骨隆々な人だ。

 変化といえば頭髪がすっかり白髪になったくらいか。

 

 

「お久しぶりです。こうしてまた息子の友人の顔を見ることができて幸せだ。我々ジョーンズ家一同は、心よりあなたたちを歓迎いたします。もう会ったでしょうが、こっちは妻のアメリア」

「生活で何かあれば気軽に声をかけてちょうだいな。それから私は射撃場の管理人とインストラクターも兼任しているわ。射撃がやりたくなったら声をかけてね」

 

 さらに面識の無かったジョナサンの兄弟も続く。

 

 最初は熊のようなヒゲを蓄えた男性。

 

「長男のリアンだ。警察官をしている。何かあれば力を貸すが、できるだけ私の力が必要な事態にならないことを祈っている」

 

 続いて日焼けでかなり色黒な男性。

 ここに居る男性の中で最も筋肉を強調するような、ぴったりしたTシャツを着ている。

 

「俺は次男のカイル。マリンスポーツの会社を経営しているから、サーフィンやダイビングがしたいなら俺のところに来ることになるな。よろしく!」

「タイガー、ケン、江戸川はもう知ってるだろうが、三男のウィリアム。俺はカイル兄貴の店を手伝ってるが、本業は総合格闘家だ。基本的に土日しかこっちには顔を出さないが、よろしくな」

 

 そして最後は美人なのに、あまり外見に気を使っているようには見えない女性。

 ボサボサの髪とゆるい服装で眠そうだ。

 

「長女のエイミーです。研究所に泊り込むことも多いから。私もあまり家にはいないわね。たぶん面白いことも無いけど……よろしく」

「エイミー、あなた何日寝てないの?」

「まったく……いい年だというのに。結婚もいつになるやら」

「お母さんもお父さんも、余計なお世話よ。それより料理早くー」

「今やってるわよ、伯母さん」

 

 エイミーさんは、エレナが肉を焼くバーベキュー用の大きなコンロの方に行ってしまった。

 

「わかりづらいだろうけど、エイミーも歓迎はしてまーす。それが表に出ないだけね」

 

 なんというか、マイペースな人だ。ジョナサンが言うには昔からそういう人らしい。

 

 ジョーンズ家は

 父  ボンズ

 母  アメリア

 長男 リアン

 次男 カイル

 長女 エイミー 

 三男 ウィリアム

 次女 カレン   

 ここに四男としてジョナサンが加わる家族構成のようだ。

 兄弟そろって綺麗なブロンドヘアーが特徴。

 日本人がおしゃれで染めた金髪とはやはり雰囲気から違う。

 

「タイガー、貴方の分よ」

「ありがとっ!? 凄い量だな……」

 

 エレナが大皿に山ほど盛った料理を持ってきた。

 肉、ソーセージ、とうもろこし、それからポテトサラダ?

 

「昼なんか二キロのステーキ食べてたじゃない。これくらい食べるでしょ?」

 

 たしかにステーキ二キロを二十分で食べたらタダってメニューに成功したけど……

 変に大食いなイメージを植えつけてしまったようだ。

 

「うん、美味しい! この香りは何? 昼のステーキにも似てるけど」

 

 日本ではなじみのない独特な香りがする。

 

「メスキートかしら? テキサスではポピュラーなものよ。燻製のチップにしたりするの」

「日本じゃ聞かないね」

「気に入ったならどんどん食べて。グランマがどんどん焼いてるから」

 

 アメリアさんを見てみると、うちの母さんと味つけについて話しながら、がんがん肉を焼いていた。人数も多いけど、食材の量はそれ以上じゃないかな……

 

「ヘーイ! これ見て!」

「見ろ? なに……!! フェザーマン?」

「そう! ジャパニーズヒーロー! 僕ヒーローが好きなんだよ、君このヒーロー知ってる? アメリカの“グッドマン”ってヒーローなんだけど」

 

 フィギュア片手にロイド君のマシンガントークを受けつつ、興味があるのかつたない英単語で対応する天田。

 

「フレームの軽量化か強度の向上、同時にできるような新素材に心当たりないですかね」

「……と、彼は言っています」

「それなら……」

 

 エイミーさんにバイクの材質について話を振る親父と、その通訳になっている江戸川先生。

 ジョナサンもボンズさんと久々の会話に花を咲かせている。

 話が弾めば食も進むということか。

 

「今日は一段と仕入れると思ったら、タイガーのためだったのか」

 

 ウィリアムさんが上の兄2人を連れてきた。

 

「あまり無理をして食べる必要はないぞ、作りすぎはうちの母の癖だ」

「ありがとうございます、美味しいですからこれくらいなら食べられますよ」

「ウィリアムから聞いたんだが、タイガーは体を鍛えているんだってな? どうだ? ボディビルに興味はないか?」

「カイル兄さん、タイガーは見せるための筋肉じゃなくて使うための筋肉を鍛えてるんだ。そこは総合格闘技だろう」

 

 どちらだ? という視線を送られる。

 

「身を守るために体を鍛えているので……その二択だと総合格闘技ですね」

「よっしゃ! なら今度俺が通うジムにも遊びにこないか? 副業でエクササイズとか体験用のクラスもあるし、話は通しとくからさ」

「近々小さな大会があってだな、それを見てからでも遅くはないと思うんだが」

「ここぞとばかりに自分の趣味を押し付けるのはやめんか二人とも。本人がやりたい事をしてもらうのが一番だろう」

 

 リアンさんが取り成してくれる。

 そこで総合格闘技は普通に興味があるし、ボディビルは……

 一度くらい見てもいいかもしれない。

 

 見るといえば……

 

「アンジェリーナちゃんの姿が見えませんね」

「あの子なら部屋で寝ているそうだ」

「そうなんですか?」

 

 即答するリアンさん。

 そういえば顔色も悪かった。

 体調不良なら仕方ないが、少々申し訳なさを感じる。

 

「そう心配しなくてもいい。バーベキューは胃に重いだけで熱もないという話だ」

「あの子少し体が弱い。もう少し鍛えるように進めるべきか?」

「やめとけって。兄貴基準で鍛えさせんな」

 

 三兄弟と話しながら、美味しいバーベキューをいただいた。




影虎はジョーンズ家、安藤家の全員と面識を持った!

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