人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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123話 決定

 影時間

 

 ~庭~

 

「……ッ! ……ッ! ……ッ! ……」

 

 影時間を利用して、鞭打の練習。

 しかし、どうも上手くいかない。

 現時点でもある程度使えてはいるが、気を観察すると無駄な力が残っている。

 もっと脱力して必要な力のみに注力できれば、より速くより強力な一撃になりそう。

 しかしある程度までいくと、進歩が停滞しはじめた。

 不可能を可能にするため、さらに練習を重ねる。

 

 腕の気の流れは維持したまま、量を減らす。

 こうして放った一撃は余計な力が抜けて速い。しかし軽くなってしまった。

 気の流れと動きが合っていないし、失敗だ。

 気をもっと速く。腕の中で弾丸のように。

 練習を続けていると失敗が続く。

 

「フッ!?」

 

 今度は動きより先に気が腕を駆け巡り、勢い余って飛び出てしまう。

 飛び出した気の塊が勢いよく拳の延長線上を突き進み……

 

「……は?」

 

 芝生を抉った。ボールか何かを叩きつけられたような、小さな穴だけが残る。

 

「……今の何?」

 

 もう一度やってみると、また気の塊が打ち出されて地面に穴が開く。

 気を体外に放出するのは、吸血の応用でできる。

 しかし物や人に流し込む時と違って、今のは物理的な衝撃を与えていた……

 

「……気弾?」

 

 漫画とかに出てくるそれが一番近い。というかそのものだ。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

「はぁ……っ……」

 

 色々試してみて分かった。

 気弾の威力は通常、だいたい拳の一撃と同程度。

 気のコントロールで威力と気弾の形状は調節可能。

 ただし相応の技量が必要。

 今は槍貫手のように射程が延びたと考えるのがよさそうだ。

 それから連発は体力の消耗が激しい。

 一発の消耗は少ないけど、確実に気(肉体のエネルギー)が失われていくから。

 ……ちょっと休憩にしよう。

 

「ふー……」

 

 昼は暑いが、夜はそれなりに涼しい。

 日本よりやや空気が乾燥している気がする……

 

 テキサス州は複数の気候帯が交わっているため、地域によってガラリと気候が違う。

 たとえばカウボーイやサボテンをイメージするような乾燥した地域は西部、竜巻などの被害が多い北部。このあたりは緑も豊かだし、人のこぶし大の雹が降る地域もあれば、冬は温暖ですごしやすい地域もある。……と、エレナが車で話していた。

 

「……何でなんだろう」

 

 エレナから安藤家の人たちを、そしてアンジェリーナのことを思い出してしまった。

 

 何でか知らないが、彼女が俺を徹底的に避けているのは事実。

 そして時々、観察……監視? されている。

 理由は不明。家族は何か心当たりがあるようだけど、それを隠している。

 ただし、口ぶりからして俺が悪いというわけではなさそうだ。

 

 しかしこう毎日逃げられたり見張られたりしていると、さすがに気になる。

 江戸川先生は無視か、踏み込むか。

 好きにしろと言っていたが……

 

 今日までを踏まえて考えると……無視しきれそうにない。

 こうなったら、踏み込むことにしよう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 翌日

 

 8月5日(水)

 

 昼

 

 ~リビング~

 

「エレナ、今いいかな?」

「何かしら? 射撃? トレーニング?」

「いや、そうじゃなくて」

 

 昨夜考えたことを伝えてみた。

 このまま避けられ続けるのは正直、気分の良い物ではない事。

 それを良い方向で解消するために、仲良くなる方法は無いだろうかと。

 

「何か事情があるのは薄々感じてる。だから手伝って欲しいんだ。下手に踏み込んで傷つけるのは俺としても不本意だから」

「……オーケー、私にできることならするわ」

「いいのか?」

「私もっていうか、誰も今の状況を良くは思ってないのよ。あの子の人見知りは“個性”だとも思うけど、自分から交友関係を狭めるようなことはして欲しくないの。

 でも体のことがあるから、離れていくお友達も多くてあの子も気に……あ、その子たちが悪いわけじゃないのよ。ただ無理をさせないように気を使って、結果的に」

「大丈夫、そこは誤解しない」

 

 一緒に遊んでた友達が突然倒れたら子供は驚くだろうし、何度も続けば気にもするだろう。

 

「それじゃ具体的にどうするかだけど、何かアイデアはあるの?」

「それがまったく。せめてロイドみたいに男の子ならまだやりようはあるんだけど……」

「タイガーはあまり女の子に慣れてなさそうね」

「そんな感じがする?」

「というか、女の子に興味がなさそう? 私の胸にもあまり目を向けないし」

 

 そう言いながら薄着な胸元をはためかせるエレナ。

 

「目に毒だからやめなさい。俺はマナーとして気を使っているだけです」

「ふーん? それならいいんだけど、興味をまったく持たれないのもあまりいい気はしないわよ。もちろん遠慮がなさすぎるよりはいいけど」

 

 まぁ今は色恋より力に意識が向いている自覚はあるが……

 でも俺は一度見たらいつでも記憶を引き出せる。

 だから何度も目で見る必要性は感じない。

 ジロジロ見るなんて、俺にとってはデメリットしかない行為だ。

 

「話を戻すけど、勉強とかは? 一応成績は日本の有名進学校で学年一位なんだが」

「グランマは元教師だから、先生役には事欠かないわ。断りやすいわよ。それより料理はどう? あの子、意外とよく食べるから。タイガーもたくさん食べるし、共通の話題になるんじゃないかしら?」

 

 それでお願いしよう。

 

「それじゃ買い物しなきゃね……あとグランマに説明しておくから、表で待ってて。車を回すから」

「車は普段から表にとめてないの?」

「プライベート用は裏にちょっと歩いた所なの。表は送迎の時とお客様用だから」

 

 それなら不都合でなければ俺が裏に行こう。

 頼んだのは俺だし、車を表に回すためのガソリンがもったいない。

 

「じゃあそうしましょうか。用意ができたらここで合流ね」

 

 こうして俺は、外出の用意に動きだした。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 街でアメリアさんから預かったリストに従い、買い物を済ませた後。

 舗装が新しくなったばかりのようで、やけに綺麗な歩道を歩いていると……

 

「あ、ちょっと寄り道していい?」

 

 エレナの希望で、通り道にあったカフェへ入る。

 レンガ造りの古めかしい建物。中は若干薄暗いが、営業中ではあるようだ。

 店内には大きな壁掛けテレビがいくつも設置されている、スポーツカフェかな?

 俺がそれを聞く前に、エレナはカウンターにいたカップルに声をかけていた。

 

「ジェイミー!」

「エレナ! あら?」

「エレナ? 恋人の語らいの邪魔だか……なんだ、そっちも男連れか。んじゃお互い邪魔はなしってことで」

「コリント……あんた色ボケも大概にしなさいよね。彼はうちのお客よ」

「客連れてサボりかよ、こんなガイドで大丈夫かい?」

「買い物できる場所をしっかり案内してもらってるよ」

 

 話をふられたので、答えたついでにカップルと自己紹介を済ませる。

 

「今度のボランティアの話なんだけどさ……」

「あれね。都合悪くなった?」

「ボランティア……あの二人、何かやってるのか?」

「進学に活動暦は必須ってくらい評価の対象になるからな。たしか図書館の仕事だったはずだ」

「へぇ……」

「なんだ、珍しいのか? 日本人もボランティアくらいやるだろ」

「やる人はやるけど、日本はやっぱり成績や内申の方が重要になるから。進学に必須でもないし、やらない人は一切やらないよ」

「マジか!? 日本人ってこう、身を投げ打ってでも人助けをしたりする民族なんじゃないのか!?」

「……コリント君、日本人にどんなイメージ持ってんの?」

 

 確かに世界的に見たら真面目で勤勉な人が多いと言われてるけど……ん?

 小学生、それも低学年だろうか? 店内に風船を持った男の子が二人入ってきた。

 双子のようだ。しかし親が近くにいる様子はない。

 

「どうした? ……げっ!」

「あー! コリントだー!」

「あそべー!」

「うわっ!? やめろよマイス! ルイス!」

 

 男の子二人はこちらを見るなり駆け寄ってきて、コリントに飛びついた。

 

「知り合い?」

「ジェイミーの弟だよ、こら引っ張るな! 高かったんだってこの服!」

「おめかしだー!」

「姉ちゃんとデート?」

「姉ちゃんの彼氏ならいつか兄ちゃん?」

「兄ちゃんなら一緒にあそべー!」

「ちっくしょう、面倒なのに捕まっちまった」

「元気だなー」

「あっ! こら! あんたたちまた! お店でさわいじゃダメって言ってるでしょ!」

「「えー!」」

 

 少し離れてやり取りをほほえましく見ていると、ジェイミーが叱りに来た。

 しかし弟二人はどこ吹く風。

 これはいつもの事なのか、常連客らしきお客さんは笑顔で見守っている。

 こうしてみると、なんだか暖かい雰囲気の店だな。

 

「もう! ジュース持ってくるから、それ飲んでおとなしくしてなさい」

「「はーい!」」

「コリント、面倒見ててね」

「しゃーねーな」

 

 そしてジェイミーが遠ざかった瞬間。

 

「「……退屈だねー」」

「早っ!」

 

 双子はもう気が変わったようだ。

 コリントが必死でおとなしくするよう悪戦苦闘している。

 ……そうだ。

 

「二人とも、ちょっとしたゲームをしないか?」

「ゲーム?」

「兄ちゃん誰?」

「! ああ、こいつはタイガーだ。俺の友達さ!」

「兄ちゃんの友達?」

「なら、あそぶ!」

「「なにするのー?」」

 

 ノッてきてくれた。というかコリントが仕向けてくれた。

 彼らの目の前で握りこぶしを開く。

 

クオーター(25セント硬貨)だー」

「くれるのー?」

「あー……OK、二人が勝てたらあげよう。ゲームは簡単、このコインがどこにあるかを君たち二人のどちらか一人でも当てたら君たちの勝ち。どっちも外れたらお兄さんの勝ちだ。コインを間違えないように……このペンで何かマークを書いてくれるかな?」

 

 すると片方が大きくアルファベットのMを書いてくれた。こっちがマイスって子か。

 

「よし、これでもう他のコインとは間違えないね。じゃあまず練習だ、いくよ。……さあどこ?」

「「こっちー」」

「……正解」

 

 軽く両手の間でお手玉をして聞いてみると、間違えたりはしなかった。

 

「「かんたーん」」

「じゃあもう練習はいらない?」

「「いらなーい」」

「なら本番……どこ?」

「「こっちー」」

 

 疑いなく、コインの入った手を指差す二人。だが

 

「……残念」

 

 手を開いた時。すでにコインは消えている。

 

「「えー!?」」

「正解は、ここ」

 

 もう片方の拳を開けば、そこにコインが乗っている。

 

「「もう一回!」」

「いいよ。それじゃ……どこだ?」

「「こっち」」

「残念」

 

 再びハズレ。それから何度繰り返しても、一向に当たることはない。

 このコインがドッペルゲンガーである限り、正解は俺の意のままだ!

 

 しかしあえて種があると分かるようにお手玉をせず、ハズレからただ拳を握った状態で聞いてハズレさせる。するとうまく興味を引けたようで、次々ともう一度とハズレを繰り返しはじめた。そうしていると流石に知恵をつけてくるようで。

 

「今度はどこ?」

「僕はこっちー」

「僕はこっちー」

 

 二人で別々の手を指定してきた。

 が、しかし。

 

「どっちもハズレ」

「えー?」

「じゃあどこー?」

「正解は、コリント」

「……俺か!?」

「ジャケットの胸ポケットを探って」

「胸……!!」

 

 言われるがままポケットを探るコリント。その顔が驚きに満ちる。

 

「どうやった!?」

「「すげー!」」

 

 つまみ出されたコインには、しっかりとマイスのマークが書き込まれている。

 俺にとってはドッペルゲンガーの召喚位置を調整しただけだが、彼らにとってはコインが瞬間移動したように見えたはずだ。

 

 ……ん? 瞬間ではないけど移動はしてる……あれ? 普通にすごいか?

 なんだか物事の基準が分からなくなってきている気がする……

 

 とにかくこうして双子+一人の興味をガッチリ掴むことに成功。

 エレナの用が終わるまで手品(ドッペルゲンガーの応用)を続けた。

 腕が磨かれた気がする!

 アンジェリーナにも見せてみようか……




影虎は気弾を偶然習得した!
影虎はアンジェリーナとの関係改善を試みることにした!
カップルのコリントとジェイミー、双子のマイスとルイスと面識を持った!
手品の経験を積んだ!
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