人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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127話 モーターショー

 8月7日(金)

 

 今日はモーターショーが開催される日。

 地域の催し物と言うことで、まだ会場に着かないうちからかなりの人の姿が見える。

 

「この辺は雰囲気がずいぶん違うな……高層ビルも見えてきたし」

「ここは一応ビジネス街に近いから、買い物に連れていった地域とは違うわよ」

「へぇ、そうなのか」

「ニューヨークと比べるとしょぼいけどね」

 

 確かに高い建物がところどころに立っているが、まだ田舎のような暖かさを残す町並みだ。

 道幅もそうだが、どこもかしこも広々としている。

 そんな町並みを眺めていると、駐車場に入った。

 

「ここからは歩き。ロイド、ケン、準備して」

「「了解!」」

 

 ヒーロー物の話ですっかり仲良くなったらしい二人は、荷物をまとめ始めた。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 モーターショーの会場は予想以上の盛り上がりを見せている。ただでさえ広々としたアメリカの道が歩行者天国になり、露天や大道芸人、設置されたステージなども豊富。人々は自由気ままに行き交ってお祭り騒ぎだ。

 

「ロイドあれ見て!」

「グッドマンじゃないか!」

「ちょっと二人とも、あんまり離れないでよ」

「……皆、来たみたいだ」

 

 歩行者天国の入り口。

 人目につきやすい柵の近くで周囲に目を配ると、向こうもちょうど到着する頃だったようだ。人ごみの中をキョロキョロしているところへ声を張り上げる。

 

「おーい! コリント! こっちだー!」

 

 しばらく手を振ると気づいてくれた。

 

「よっ、待たせたか?」

「ごめんねー」

「あー!」

「タイガーだー!」

「こんにちはマイス、ルイス」

 

 やって来たのはカフェで知り合った四人。彼らとは昨日の雑談中にたまたまモーターショーの話になり、せっかくなので一緒に見て回らないかと言う話になったのだ。そして帰宅後に確認を取ると、許可が出た。

 

 と言うより親父たちがメインの展示ブースに張り付くとの事で、俺と天田は子供同士自由に楽しめるよう、大人組と子供組に分かれて行動することになったのだ。

 

「じゃ、どうする?」

「んー、露店とか冷やかしながら大道芸でいいんじゃない? まだお昼にも早いし」

「とりあえず最初はあのコスプレイヤーの所に行こうか」

 

 天田たちも興味を示していたし、なにより双子がもう向かっている。

 

「マジか!?」

「こらっ! はぐれちゃうでしょ!」

 

 慌てて追いかけ、それぞれ一人ずつ手を握って捕まえるコリントとジェイミー。

 まるで活発な双子に振り回される親のようだ。

 

「……二人は付き合ってるだけなんだよな?」

「言いたいことは分かるわ。あの子たちがいると夫婦に見える、って学校でもはやされてたし」

 

 そんな四人を加えて行動開始。

 

「写真撮っていいですか?」

「オーケー! ハッハー!」

 

 ある時はコスプレイヤーと写真を撮り。

 

「四、五本になりましたよ!」

 

 ジャグリングを初めとした大道芸を見て。

 

「ねぇ、これどうかな?」

「ちょっと大きすぎない?」

「何でこう女子って買い物長いんだよ……」

「まぁ、仕方ないと思って諦めるしかないさ」

「「ねー、どこか行こうよー!」」

「もうちょっと我慢しましょう、ね? 先輩、手品か何かで」

「……ネタが尽きた……今度までに何か用意しとく」

「今はお手上げだね、タイガー」

 

 露店の買い物につき合い。

 それなりに楽しい時間をすごした。

 しかし、少々疲れも感じる。

 

「「あれ欲しい!!」」

 

 対してまったく疲れた様子を見せない双子が指差したのは、煙に包まれた小さなステージ。

 花火だろうか? 火をつけると煙を噴き出す玩具を売っているようだ。

 パッケージにキャラ物のプリントがついていて、小さな子供と親が大勢集まっている。

 

「おこづかいあるー」

「買おうよー」

「って言ってるけど、どうするよ」

「んー……まぁいいでしょ。ただ遊ぶときは姉ちゃんかコリントと一緒にだからね!」

「「はーい!」」

 

 本当に仲むつまじいことで……

 しかしこんなところで花火の実演販売って大丈夫なんだろうか?

 いや、そもそも花火を実演販売するのって珍しい気がする。

 ……よく見たら変な店も多いな……フリーマーケットが混ざってるような感じか?

 

「ここは本屋……」

「いらっしゃい、古本だよ。何か買っていくかい?」

「んー……」

 

 せっかくなので、目に付いた“銃器構造・徹底解明”“私が極めたパン作りのすべて”“ハンドレタリング徹底指南”と言う本を買ってみる。

 

「まいどあり! こいつもサービスだ、持っていきな」

 

 “家庭菜園・自給自足の第一歩”という本がついてきた。どれも英語の本だが、今となっては苦にもならない。しかし……サービスじゃなくて在庫処分じゃない?

 

「タイガー、そろそろ昼飯にしないかって話になったんだけど」

「そういえばもうそんな時間か。うん、いいと思う」

「だったら何を食べるかだよね」

「何があるんでしょう?」

「レストランやファーストフードは通常通り営業してるみたいだね。あとは出店とか?」

「この人数でレストランは厳しくねぇか? 絶対待たされるぞ」

 

 頭を悩ませていると、双子がなにやら服を引っ張ってきた。

 

「どうした?」

「「あれ!」」

「なんだ、また何か見つけたのか?」

 

 この双子、好奇心旺盛で次から次へと何かを見つけてくる。今度は何を見つけたのか見てみると……いくつかの店が集まってオープンカフェを作っていた。その内二人が見ているのは……

 

「ホットドッグか」

「そういえばアメリカに来たのに食べてませんね」

「いいんじゃないか?」

 

 コリントが聞くと誰からも反対意見はなく、昼食はホットドッグに決まったが……

 

「じゃあまとめて注文するから、いくつ食べる?」

 

 ジェイミーがバイト経験を発揮して、すばやく注文をとろうとしたところで問題発生。

 

「私は二つで」

「僕も! ケンもそれでいいよね?」

「うん、僕も二つで」

「俺は三つかな」

「じゃあ俺は四つ」

「タイガー四つで足りるの?」

「別に毎食限界まで食べてるわけじゃないからね。マイスとルイスは?」

「「十個ー!」」

 

 その答えに耳を疑った。

 こんな小さな体で十個も食べられるのか?

 と思ったが、すぐジェイミーに却下された。

 

「やだー!」

「食べるー!」

「そんなに食べられるわけないでしょ」

「「食べる! グッドマン欲しい!」」

「……もしかして、あれのこと?」

 

 “十分間で十個食べきった方に、グッドマンの限定フィギュアをプレゼント”

 そう書かれたチラシが目についた。

 

「あー、だから十本とか言い出したのか」

「人気なんだな、グッドマンって」

「そりゃそうさ。こっちじゃ超有名だし、今でもアニメやってるぜ」

「あんな特典があるなら僕も欲しいよ! タイガー、やってくれない?」

「んー……」

 

 一個のサイズは見る限り特別大きいと言うわけではない。

 手のひらよりもちょっと細いサイズを十分間に十個。

 一個につき一分と考えれば……まぁいけるか。

 

 ? 天田がチラシをチラチラ見ている。

 

「もしかして欲しいのか?」

「いえっ! 僕はそんなに食べれませんし……」

 

 食べれたらやりたい、と言っているようなものだな。

 

「仕方ないわね……コリントがやるから一個で我慢しなさい!」

「俺がやるのかよ!?」

「だって私食べられないし、体型維持だって大変なんだから」

 

 どうやら向こうではコリントが挑戦する流れになっている。

 

「……コリント、俺もやるから頑張ろう」

「タイガー……分かったよ! やってやるぜ!」

 

 こうして俺たちの挑戦が決定した。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 そして、勝負の時がやってきた。

 

「十個にチャレンジのお客様、こちらでーす」

「ふー……」

「そして、二十個(・・・)に挑戦のお客様はこちらにお願いしまーす」

 

 店員がタイマーをセットして、置かれた席に座る。

 俺たちの前には大量のホットドッグが盛られた皿。

 コリントに十個、俺が二十個だ。

 ロイドに頼まれ、天田も欲しそうだったから追加した。

 しかし……倍に増えるとかなりの強敵だ。

 

「ルールは簡単、十分の制限時間内に目の前のホットドッグを食べきれば商品獲得! 二十個のお客様は通常の倍なので、制限時間も倍の二十分とさせていただきます。それでは準備はよろしいですか?」

 

 返事をすると、店員はスタートを宣言してタイマーを動かす。

 同時に俺とコリントは、ホットドッグに手を伸ばした。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 前半は快調だった。

 適度な咀嚼と、乾燥した口内を水で湿らせる程度の水分補給。

 急ぎすぎず、四十秒に一本のペースで食べ進めると十本はすぐに無くなる。

 しかしその時点で腹にはなかなかの重量感があり、ペースが落ちた。

 一本にかかる時間が増え、前半で稼いだ二百秒が削られていく。

 

 そして最後の一本まで食べた。

 しかし残された時間はすでに一分を切り、五十二秒。

 これまでのペースでは間に合わない!

 最後の気力を振り絞り、食らいついたホットドッグを噛み砕いては流し込む! 

 

「三! 二! い」

「終わった!!」

「ち!? おめでとうございます! 制限時間直前で見事! 二十個達成!!」

『オー!!!!』

 

 やりきった! 本を読んでいたおかげだ……

 できるだけ効率的に、慌てて喉につめることも無く、無事に成功した……

 苦しさの中に達成感をおぼえつつ、背もたれに体を預けると、集まる拍手と声援。

 どうやらロイドたちだけでなく、周囲の人目を集めていたようだ。

 とりあえず声援には手を振って返しておく。

 しかし……苦しい。

 

「お疲れ様、タイガー」

「あんなによく食べられたわね」

「厳しい戦いだった……」

 

 せめて時間に余裕があれば、もう少し楽だったと思う。

 

「あれ? リアンさん?」

 

 ロイドたちの中に、なぜか警察官のリアンさんが混ざっている。

 

「どうしてここに?」

「このお祭り騒ぎだろう? うちの署に応援を要請されてな、休憩中に食事をしようとしていたら君たちを見かけたわけだ」

「なるほど……」

 

 頷こうとしたが、それだけの動きも苦しい。

 

「あらら、これはダメね」

「しばらく休んでいきましょう。コリントもまだ動けないみたいだし」

「仕方ねーだろ……」

 

 同じく背もたれに体を預けるコリントを横目に、エレナたちは飲み物と軽食を買いに行く。

 ずっと見物していてまだ何も食べていないそうで、しばらく休めるのは助かる。

 

「よっ、と」

 

 ポケットからいつものメモを取り出し、“消化吸収を促進する”と記述。

 少しでも楽になれば、と願いながら魔力を込めてみる。

 

「?」

 

 魔力を込めた瞬間、体内の気の流れが変化した。

 体幹部……特に胃腸の辺りの巡りが活発になっている。

 魔力を使って気に変化が起こったのは“チャージ”と同じだ。

 となるとこの気の流れは消化促進に効果があると考えられる。

 

 それならば、と魔力は止めて小周天に切り替える。さっきの流れを再現するように気を動かしてみると、だんだん腹部にあてた手から振動が伝わってきた。消化器官の蠕動が活発になっているんだろう。

 

 そのまま気の操作を続けると、買い物に行った皆が戻ってきた時にはほんの少しだけ苦しさがマシになり、彼らが食事を終える頃には不自由なく動けるくらいになっていた。

 

「デザートにチュロス買っていこうと思うけど、食べる人いる?」

 

 ジェイミーの質問に手を上げたら、滅茶苦茶驚かれた。

 分からないでもないが、落ち着いたら甘い物が食べたくなったんだから仕方ないじゃない。

 十本? そんなにいらない。

 

 彼女らの中で俺は大食いキャラとして定着し、イメージの払拭は不可能なようだ。

 もう開き直ろう。 

 

「リアンさん、コーヒーのおかわりは?」

「ありがとう。もういいよ、私はそろそろ仕事に戻らなければ」

 

 すると彼は、ふと何かを思い出したように口を開いた。

 

「エレナやロイドには前も言ったと思うが……近頃、この近辺で麻薬を売りさばいている連中がいるようだ。もし挙動のおかしい人を見たら近くの警官に通報してくれ。買い物もこのあたりの店なら問題はないが、祭りの雰囲気で怪しい物に手を出さないようにな」

 

 そう言い残し、彼は雑踏の中へ消えていった。




影虎は死の可能性(早食い中の窒息死)を回避した!
影虎は気功により消化を促進できるようになった!


4月14日の時点でお気に入り登録数が1000に達していました。
驚きましたが、これほど登録して(気に入って)もらえた事が素直に嬉く思います。
読者の皆様、ありがとうございます。
まだ拙い部分もあると思うので、これからも精進させていただきます。
今後ともよろしくお願いいたします。

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