~エレナ視点~
タイガーどうしたのかしら?
荷物を預けて走り去る直前の雰囲気が気にかかる。
性別も顔つきも何もかも違うのに、妹のことが思い浮かんだ。
特別な力があるみたいだし、ある意味似た者同士なのかもしれないわね。
……発作まであったりしないわよね?
アンジェリーナの事しか考えてなかったけど、大丈夫なの?
走り去った方向に、もう彼の姿はない。
「あれ? エレナ、タイガーは?」
「トイレに行くって戻ったわよ」
「そうなんだ。ぜんぜん気づかなかったから迷子になったかと」
「こいつらじゃあるまいし、大丈夫だろ」
引き合いに出されたマイスとルイスの頬が膨らむ。
「そういやタイガーってさ、なんか不思議な奴だよな」
「どうしたのよ急に」
「なんとなく。まだ会って三回目だけど面白いなって。ほら、最初は手品やって、次はアクセサリー作って、今日は早食いやって、人ごみの中でこいつら見つけて、逃げ遅れた人も見つけて……何なんだろうな?」
……私もよく分かっていない。でも何があってもおかしくない気がする。
最初は普通の男の子だと思っていたけど、蓋を開けたらアンジェリーナ以上に常識ではかれない人だったもの。
「そういえば彼、この前400メートル走の日本新記録出したみたい。高校一年生限定だけど」
「マジか!?」
「普通にすごいじゃない。陸上選手なの?」
「ううん。テレビ番組の企画だそうよ。本当は空手家というか格闘家みたい。こっちに来てからグランパのトレーニングを受けて、射撃もよくやってるわね」
「へー」
「そうなのか……」
皆なかなか助けの来ない火事が気になって、気休めの会話も長くは続かなかった。
「ヘリはまだなの!?」
「まだ生きてるのか……?」
「お、おい! ありゃ何だ!?」
「?」
何かしら? 急に騒がしくなってきた。
ヘリの陰は見えない……けど、代わりに変な黒い点が見える。
対面にあるビルの上を飛び跳ねて、どんどん燃え盛るビルへ近づいて……
「ジェイミー、エレナ、何だあれ?」
「ノミ、じゃ無いわよね」
「大きすぎるわよ。……人……ピエロ?」
真っ黒な衣装のピエロ。
正体がなんとか分かる距離まで近づいてきた。
ものすごいスピード。
離れているから目で追えるけど、人間なの?
考えているうちにピエロは燃えるビルの隣まで近づいて……
『ウォー!?!?』
「跳んだぞ!?」
「見て! ビルを登ってるわ!」
「きっと子供を助けに来たのよ!」
今度は燃えるビルを登り始めた。
火が出る窓の少ない角を超人的な跳躍力で軽々と登るピエロ。
下の消防士や警察が大騒ぎしているけど、もう手が届くような場所にはいない。
というかそれ以前におかしいわよ!
ビルの間を飛び越えるって何!?
登る速さも壁を走ってるみたいだし、人間なの!?
あんな漫画のヒーローとかニンジャみたいな……
「……」
“BUNSHIN”
“ニンジャみたいな事ができると思ってくれていい”
あれ、まさかタイガーじゃないわよね……