人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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129話 エレナの疑い

 ~エレナ視点~

 

 タイガーどうしたのかしら? 

 

 荷物を預けて走り去る直前の雰囲気が気にかかる。

 性別も顔つきも何もかも違うのに、妹のことが思い浮かんだ。

 特別な力があるみたいだし、ある意味似た者同士なのかもしれないわね。

 ……発作まであったりしないわよね?

 アンジェリーナの事しか考えてなかったけど、大丈夫なの?

 

 走り去った方向に、もう彼の姿はない。

 

「あれ? エレナ、タイガーは?」

「トイレに行くって戻ったわよ」

「そうなんだ。ぜんぜん気づかなかったから迷子になったかと」

「こいつらじゃあるまいし、大丈夫だろ」

 

 引き合いに出されたマイスとルイスの頬が膨らむ。

 

「そういやタイガーってさ、なんか不思議な奴だよな」

「どうしたのよ急に」

「なんとなく。まだ会って三回目だけど面白いなって。ほら、最初は手品やって、次はアクセサリー作って、今日は早食いやって、人ごみの中でこいつら見つけて、逃げ遅れた人も見つけて……何なんだろうな?」

 

 ……私もよく分かっていない。でも何があってもおかしくない気がする。

 最初は普通の男の子だと思っていたけど、蓋を開けたらアンジェリーナ以上に常識ではかれない人だったもの。

 

「そういえば彼、この前400メートル走の日本新記録出したみたい。高校一年生限定だけど」

「マジか!?」

「普通にすごいじゃない。陸上選手なの?」

「ううん。テレビ番組の企画だそうよ。本当は空手家というか格闘家みたい。こっちに来てからグランパのトレーニングを受けて、射撃もよくやってるわね」

「へー」

「そうなのか……」

 

 皆なかなか助けの来ない火事が気になって、気休めの会話も長くは続かなかった。

 

「ヘリはまだなの!?」

「まだ生きてるのか……?」

「お、おい! ありゃ何だ!?」

「?」

 

 何かしら? 急に騒がしくなってきた。

 ヘリの陰は見えない……けど、代わりに変な黒い点が見える。

 対面にあるビルの上を飛び跳ねて、どんどん燃え盛るビルへ近づいて……

 

「ジェイミー、エレナ、何だあれ?」

「ノミ、じゃ無いわよね」

「大きすぎるわよ。……人……ピエロ?」

 

 真っ黒な衣装のピエロ。

 正体がなんとか分かる距離まで近づいてきた。

 ものすごいスピード。

 離れているから目で追えるけど、人間なの?

 

 考えているうちにピエロは燃えるビルの隣まで近づいて……

 

『ウォー!?!?』

「跳んだぞ!?」

「見て! ビルを登ってるわ!」

「きっと子供を助けに来たのよ!」

 

 今度は燃えるビルを登り始めた。

 火が出る窓の少ない角を超人的な跳躍力で軽々と登るピエロ。

 下の消防士や警察が大騒ぎしているけど、もう手が届くような場所にはいない。

 

 というかそれ以前におかしいわよ!

 ビルの間を飛び越えるって何!?

 登る速さも壁を走ってるみたいだし、人間なの!?

 あんな漫画のヒーローとかニンジャみたいな…… 

 

「……」

 

 “BUNSHIN”

 “ニンジャみたいな事ができると思ってくれていい”

 

 あれ、まさかタイガーじゃないわよね……


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