~リビング~
言われた通りに来てみると、江戸川先生と天田も呼ばれたようだ。
三人が肩を並べてノートパソコンを見ている。
位置的には正面にいるのに、あまりにも真剣で誰も俺に気づいていない。
「ロイドー?」
「タイガー!? こっちに来て! 早く!」
「先輩、大変なことになってますよ……」
「何? まずい事?」
「どっちでしょうかねぇ……まぁ座って見てください。ロイド君、順番にお願いします」
先生が譲ってくれた席に座り、ロイドが操作するパソコンを見る。
開かれたページは有名な動画サイトだ。
これがどうした? と思いながら待っていたら、映し出された動画は見覚えがある。
「あ、これ部活の……」
「練習の参考用に先輩が撮った動画ですよ」
「そういやアップしたのもこのサイトだったな……で?」
見たところ別に普通と言うか……問題は見られない。というか動画は問題ないことを撮影後に確認し、念のため生徒会の許可も取ってから上げることになっていたはずだ。
「問題はここだよ、閲覧回数!」
「……目がおかしくなったか? 五万回超えてるように見えるんだけど」
「ヒヒッ、正常ですねぇ」
マジか!?
「これただの型の動画だぞ? こんなに見られる要素あるか? テレビに映ったことを加味しても多すぎない?」
「うん。だからそれだけじゃないんだよ。この動画の横にダーッと出てる関連動画。これをいくつか辿っていくとね……」
ロイドが説明をしながら操作を続ける。関連動画の先頭をクリックして三つめになったところで、開いた動画の内容にまた目を疑った。
「どうしてこれが!?」
表示されたのは“俺と真田の試合動画”。しかもその関連動画には、青木との動画まである。
「学園のネット掲示板で公開されていた物とほぼ同じです。こういう試合をしたこと自体は放送されていましたし……どうやら学校関係者が流出させてしまったようですねぇ……」
「そのままだったり、顔にはモザイク入れてたり……とにかくここや他のサイトにもたくさん転載されてますよ。先輩」
マジか……関連動画ってことは型の動画から閲覧者が流れてきてるだろうから……うわっ。
「あと二十人で十万超えるじゃん……」
「というかリロードすればたぶん……達成オメデトー」
あまりめでたくはない。
「だね。テレビの話題性だけならここまで騒がれなかったと思うけど、この試合動画で再加熱。無断転載と動画を見た人からさらに拡散してるみたいで……ほら、こっちには英語字幕を付けた動画まである。僕が最初に見たやつはもう削除されてるけど、いたちごっこになってるみたい」
「誰だか知らないけど流出させるなよ……」
試合はまだしも青木とは喧嘩だ、不適切じゃないか?
……前にもこんな事あったなぁ……あの時とは規模が段違いだけど……
「ヒッヒッヒ、問題はこの動画を見た人の感想でしてねぇ……」
「?」
「それは……ちょっと待って……こっちのサイトを見たほうが早いかな」
ロイドがまた別の動画サイトを開いた。こっちのサイトは動画に対するコメントを流せる仕様で、試合動画を開くとコメントがじゃんじゃん流れていく。
『特攻隊長キター!!!!!』
『888888888888』
『この動画は無断転載です。 でも見ます』
……………………ん?
まだ入場の時点だけど、なんだか俺が考えたような雰囲気ではない。
「どうも動画と一緒に、君がこうして試合をした理由も公表されていたらしくてですねぇ……先にテレビで良い印象を与えていたお陰もあるのでしょう。批判的なコメントもありますが、影虎君や我々、そして真田君はどちらかと言うと高評価なんですねぇこれが」
「批判はほとんど学校の対応とか管理体制の方に行ってるみたいです」
「なるほど……」
俺も石見が訪ねてくるまでは、マスコミに言ってやろうかと考えたしなぁ……
『こいつらやべぇ』
『想像以上にガチな異種格闘技戦』
『隊長普通に強くね?』
『そりゃ相手は今年に入って怪我で欠場するまで無敗記録保持者だもの』
『真田選手は高校ボクシング界の麒麟児。互角に戦えるだけ強いだろ』
『どっちも一般的な高校生レベルじゃないよ。もう……』
『難しいこと考えずただの試合と思えば何回でも楽しめる(今5回目) By格闘オタ』
『参考になります』
「評判が悪くて部活がどうかなるよりはいいけど……」
『隊長がキレた!!』
『くるぞ!』
『wktk』
『啖呵キター!!!!』
その部分は蒸し返さないでほしい!
「これはこれで結構、精神的にダメージ来るんですけど……」
「それは諦めるしかありませんねぇ……ヒヒッ。とにかくこういう事になっているようなので、帰国の際は気をつけましょう。何かまた新しい情報が入ればそのつど連絡します」
先生の一言で締められ、この場は解散となった。
帰国までに落ち着いてほしいと願いつつ、部屋へ戻る。
「待ってタイガー」
「ん?」
「このパソコン貸してあげるよ。今回のことで調べたいこととかあったら、持ってた方が便利でしょ? ちゃんと日本語に対応させたからすぐ使えるよ」
「いいのか? 助かる」
帰り際にロイドがノートパソコンを借してくれた。
おかげで部屋でネットを使えるようになった。
……
…………
………………
~自室~
「よし」
借りたパソコンをネットにつないでみた。
「とりあえずメールチェックでもするか」
パソコンは荷物になるから持ってきていないし、携帯は海外で使えないタイプだったからしばらくチェックしていない。テレビの件も合わせると、結構たまってるかも……やっぱり。未読メールが山盛りだ。知り合いのほとんどからメールがきている。
「誰だこれ……ああ、中学の時の……」
先生やクラスメイトならまだ分かるが、ろくに話したことも無い相手からもメールが来ていた。ちょっと紹介されて話の流れでアドレス交換した相手なんて、アナライズが無かったら絶対に思い出せなかった。
「まず分別するか……とりあえず高校入学以前と以降でいいや」
ざっと分別して、先に数の多い高校入学以前に目を通す。
その数なんと百件以上。これは先に雛形を作ったほうが楽だな……
宛名や挨拶、事情説明などほぼ共通で済ませられる部分をまとめ、パソコンのメモ帳にコピー。その後、アナライズをフル活用して返信メールを作成。
能力のお陰で一通の返信にかかる時間は短縮できている。
しかし流石に100通もあれば相応の時間がかかり……
メールを返し終わった時には、影時間が間近に迫っていた。
「疲れた~……」
返信作業も疲れたが、メールを読んだら日本の状況が少し詳しく分かった。
ロイドから聞いた内容でも相当盛り上がっているように感じたが、実際はさらに上。
まず占いや雑誌に載ったことも知られている。
そして“速水モーター”“はがくれ”“わかつ”“小豆あらい”“Be Blue V”と……
俺がテレビで宣伝した店の客が増え、売り上げが上がってきているとの話だ。
和田や新井もこの機に乗じて稼ごうと張り切る両親にこき使われているようだ。
これもゴールデンタイムの特番での宣伝効果だと思うが……まだ話は終わらない。
なんと送られてきたメールには番組でお世話になった目高プロデューサーからのお礼状まであった。なんでも視聴率がかなり高かったらしく、
もっともそっちは芸能人が頑張るという内容のため、出演者や撮影スケジュールという点で現実的ではないそうだが……とにかくそれくらい番組が好評だったということ。
そして俺の動画が流出していたサイトには、何人もの人気動画投稿者が存在する。その一人、珍しい場所や話題のスポットをいち早く訪ねる動画“○○へ行ってみた”シリーズで人気を博す“
「……これか」
例の動画サイトで検索するとすぐ見つかった。
“【ポロニアンモール】話題のアクセサリーショップに【行ってみた】”
見てみると投稿者の挨拶と趣旨説明から始まり、店で撮影許可を取ってアクセサリーを見てから占いをして貰うという内容だった。モザイクがかかっているが、対応したのは岳羽さん。撮影許可は出たものの、占い師の俺はいない。そこはどうするのかと思えば、師匠としてオーナーが代わりに占っていた。
今のところサイトにあるのはそれ一つだけど……今後他の店の動画も上げる事が予告されている。
「これは当分騒がれそうだ……」
騒がれると言えば、今はもう一つ別な方向で理由があったな……
「こっちもか」
あのビル火災自体が大きく取り上げられているため、そこに現れた“ブラッククラウン”、つまり俺の事も絶え間なく話題になっているようだ。流石にこちらはアメリカ限定……かと思ったら、ニュース映像も動画サイトに上げられている。
……日本ほどではないけど、コメントを見る限り特撮とかヒーロー物が好きな層が見ているようで、そこそこ視聴回数も伸びている。
心が、心が休まらない……
「とりあえず報告だけしとこう……」
先生の部屋を訪ねて用件だけ伝えた後は、気を紛らわせるため先日買った“銃器構造・徹底解明”を読んで寝ることにした……
ネット上で影虎の話題が盛り上がっている……
影虎は帰国後が心配になった……