人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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137話 襲来

「警察の方かしら……」

 

 部屋に備え付けられた機械式のドアベルが、表からの来客を知らせた。

 

 カレンだけでなく部屋にいた全員が表へ出るべく立ち上がる。

 

 だが、建物に入った人間は迎えを待たずに彼らのいるリビングへと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ママ!!」

『アンジェリーナ!?』

 

 攫われたはずの娘が目の前にいる。

 家族の動きは速かった。

 母親は飛びついて娘を抱きしめ、父は体の無事を確認する。

 姉と兄は両親の体に阻まれ、妹に抱きつけず横から覗き込む。

 他はそんな一家をさらに囲んで口々に無事でよかったと呟く。

 誰もが目に涙を浮かべながらアンジェリーナの無事を喜ぶ中、遅れてさらに二人。

 

「影虎ぁ!」

「っ!?」

「あっ、何してんだいきなりっ!」

 

 目視した瞬間影虎へ詰め寄る龍斗。

 その顔と勢いに共にいた少女が驚いたのを見て、影虎は父親を遠ざけようとする。

 だが龍斗は影虎の胸倉を掴んで離さない。

 

「何だぁ? ふざけてんじゃねぇよこの馬鹿野郎!!! お前がその子ら誘拐したって大騒ぎだったんだぞこっちは!」

「な、誘拐!? いつだ!? 誰から聞いた!?」

 

 影虎まで龍斗の胸倉を掴んで問う。

 

「質問してんのはこっちだ! 何でこんな事しやがったか言ってみろ!」

「今はそれどころじゃない! いつ誰から聞いたのか教えろ!!」

「落ち着いてください影虎君!」

「リューもストップ!! ストップ!!」

「二人ともやめなさい! この子が怖がってるじゃないの!」

「「っ……」」

 

 取っ組み合いを止めようとした江戸川とジョナサンだったが、効果があったのは雪美の一言。そしてその後ろで天田に保護された少女の怯えた姿だった。

 

 ばつが悪そうに、どちらからともなく手を離して離れる二人。

 

 そこへボンズが間に入る。

 

「お互いに言いたい事はあるだろうが……タイガー、まずは説明してくれ。何があった?」

「時間がなさそうだから簡潔に言います。アンジェリーナとその子、ホリーが麻薬取引の現場を目撃したそうです。俺は買い物の途中で追いつめられた二人を見かけて、連れて逃げました」

「ホワッツ!? アンジェリーナ、本当なの?」

「うん……」

「こちらは“ブラッククラウン”が警官の目の前で子供を誘拐したとしか聞いていない」

「その情報、警察から?」

「そうだ」

 

 肯定に思わず舌打ちをする影虎。

 

「二人を追っていた麻薬の売人が、警察官だったんです」

 

 様々な能力を手に入れている影虎だが、敵と味方を一目で見抜くような力は持たない。さらに相手にはブラッククラウンの姿を見せていたため、警察署へ駆け込むことはせず、この家へ帰ってきたと話す。

 

 正義と平和を守るべき警察官が麻薬の密売に手を染めていた事実。

 それを聞いた者は絶句してアンジェリーナへ確認の目を向ける。

 

「間違いない……売ってたのはお巡りさん……買ってたのは、担任の先生……校舎裏で……柵越しに……」

「Oh……」

「F○○○!!」

 

 泣きながら本当だと訴えるアンジェリーナの横から口々に、罵声が飛び出す。

 

「ポリスマンって警察ですよね? 警察が敵なんですか? じゃあさっきの電話は?」

「分からん。流石に警察官全員が関与してるってことは無いだろうけど……どこかで俺の動向がバレた? 家に連絡して来たんだよな? なら住所は調べる手段があるのか。…にしてもブラッククラウンとこの家を直接繋げるような物は残してないはず」

「理由はともかく、探ったのはアンジェリーナさんの方からでしょう。その警官の取引相手は学校の先生なんですね?」

「そう……」

「教員なら生徒名簿が閲覧できると思いますよ。協力すれば連絡先はすぐ分かりますねぇ」

「そういえば……!」

 

 江戸川の発言に続くように、エイミーが携帯電話を取り出した。

 

「やっぱり……さっきの連絡、密売犯の可能性が高いと思うわ。根拠はこれよ」

「携帯電話?」

「そう。私の携帯。連絡が来る前も後も、電源は入ってるのに一度も鳴ってないの。“アンバーアラート”もね」

「あっ!?」

「そうか!」

「確かに」

 

 この場にいる中で、アメリカ人だけがその言葉の意味を理解した。

 

 “アンバーアラート”

 それは未成年者の誘拐や行方不明事件が発生した際に、事件の迅速な解決を目的として事件発生や犯人と被害者の特徴を公共のメディアや携帯電話を通じ、地域住民へ通達するシステムの事。

 

「アンバーアラートは発令されるまでに4つのガイドライン。条件があるわ。

 1.警察などの法執行機関が誘拐発生の事実を確認しなければならない。

 2.誘拐された児童が身体や生命の危険にさらされている事が明らかでなければならない。

 3.誘拐された児童および誘拐犯に関する明確な情報がなければならない。

 4.誘拐された児童は17歳以下でなければならない。

 誘拐された時点で身体や生命の危機にさらされているからまず2番はクリア。この二人は小学生だから4番の条件もクリアしているわね。

 残る条件は1と3。でも今回は誘拐犯が“ブラッククラウン”で被害者がこの二人。服装などの特徴はもちろん、学校まで分かっている。そして誘拐現場を目撃したのが警察官ならすぐに所轄署へ報告が行くはずよ。誘拐発生の事実を確認したも同然。

 条件はすべて満たしているから、目撃したのが職務に忠実な警察官なら(・・・・・・・・・・・)もうアンバーアラートが発令されていなければおかしいわ」

 

 説明をしながらエイミーは携帯を操作する。

 

「もしもし、リアン兄さん? 今誰かといる? ……ドーナツ? 一人で食事中なのね? 捜査は? 休憩中……やっぱり連絡入ってないのね。××××……」

 

 小声の非常に口汚い暴言に続き、彼女は彼に事情の説明を始めた。

 その姿を見たカレンは肩を落とす。

 

「私……緊急時の連絡先、二番目にリアン兄さんの職業と連絡先を書いて学校に提出していたわ……」

 

 自分と夫、祖父母の仕事は客の要望次第で遠出をする可能性がある。エレナは当時まだ免許を持たず、カイルとウィリアムは当時から平日は他所の街で生活していた。エイミーは仕事が忙しく生活も不規則。よって活動範囲の決まった警察官のリアンが、緊急時の連絡相手に一番の適任者だった。

 

「……連絡したわ。信頼できる部下を連れてくるそうよ。でも私たちはすぐにここを離れろって」

「だろうな。先にここへ着くのは犯人かもしれん。皆、何があるか分からん。敵が来る前に場所を移そう」

 

 この家は最寄りの街から十分前後車で走った場所にある。

 都会の喧騒から離れられる穏やかな自然に包まれているが、その分他の人目も無い。

 話を聞いた以上、見知らぬ者を警察官だからと招き入れるのは論外。

 しかし拒絶などして相手に不信感を与えれば、相手はなりふり構わない可能性が高い。

 ボンズはアンジェリーナの語った警官の様子からそう踏んでいる。

 結論として安易な篭城は危険。

 先に全員そろって行方をくらませる方が安全と判断した。

 

 本人は既に、リビングの一角に当たり前のように設置されていたガンロッカー(銃火器保管庫)から、ホームディフェンス用の銃や弾丸を取り出しにかかっている。

 

「皆これ着な! 子供用も予備もあるから全員だよ!」

 

 アメリアは別の棚から取り出した防弾チョッキをあわただしく配り始めた。

 ジョージはロイドに声をかけ、ソファーやテーブルでバリケードを張ろうとしている。

「対応早っ。準備もいいな……」

「銃社会ですからねぇ。それに家長の職業柄もあるのでは? とにかく今は着ましょうか」

「何がどうなってるんですか……」

「影虎……今は聞かねぇが、落ち着いたら話してもらうからな。前は見逃したが今回は無理だ。覚悟しとけよ。天田もさっさと着ろ! 俺も訳がわからねぇが、今は動かないとやばそうだ」

「お話は後でたっぷりね」

 

 防弾ベストを一つ投げ渡して天田の方へ向かう龍斗たちと入れ代わるように、エレナが近づく。

 

「タイガー、ごめん。実は……」

「大体状況は察してる。俺がアンジェリーナの誘拐犯にされて、話さざるを得なかったんだろ? 大事な家族の事だ。仕方ないさ」

「それにエレナさんの責任ではありません。最初に話そうと言ったのは私ですからねぇ」

「江戸川先生、一つだけ聞かせてください。どこまで話しました?」

「ブラッククラウンの正体だけで、あとはほとんど何も。君のお父上は君自身の口から語られる事を望んでいるようです。……まぁ後で無理やりに聞きだすつもりかもしれませんが」

「なんにせよ、今はどうこう言ってる場合じゃないからッ!」

 

 逃げる用意を整え始めた矢先。

 影虎は表に止まる車を感知した。




影虎、アンジェリーナ、ホリーは無事に家までたどり着いた!
警察の連絡は嘘だった!
龍斗は空気を読んだ!
影虎への詰問が先送りにされた!
何者かが近づいてきている……
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