人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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141話 結果(前編)

 気づけば闇の中にいた。

 

 俺は……どうなった?

 ……思い出せない。

 皆は?

 ……それも分からない……

 周りを見ても、何も見えない。

 暗視に望遠能力もあるはずなのに、暗闇だけが続いている。

 周囲には人どころか建物や物もない。

 捕まったにしてもおかしい……!

 

 遠くに一瞬、明かりが見えた気がした。 

 ……ここにいても仕方がない。

 暗闇の中、見えたはずの光へ向かう。

 

 

 ……

 

 

 ずいぶん長く歩いた気がする。光が見えない。

 

 

 ……

 

 

 まだ見えない。気のせいだったのだろうか……

 

 

 ……

 

 

 なんで歩き続けているのか分からなくなってきた。

 でも……歩かなければならない気がする……

 

 

 ……

 

 

 針の穴ほどの光が見えた。重くなってきた足に力を込める。

 

 

 ……

 

 

 光が野球ボール程度まで大きくなっている。光源があることは間違いなさそうだ。

 

 

 ……

 

 

 さらに近づくと、光源が四角くなってくる。

 

 

 ……

 

 

 かなり近づいて、光が色づいていることに気づく。

 

 

 ……

 

 

 闇に開いた四角い穴……そこから漏れる群青色の光……まさか……

 光の中に踏み込む。

 

 

「ようこそ、我がベルベットルームへ……」

「ッ!! イゴール……?」

「おやおや。私の事をご存知とは、これはまた珍しいお客様がいらっしゃいましたな」

「夢と現実、精神と物質の狭間。ベルベットルーム。その主の……イゴールさん、と呼んでも?」

「どうぞお好きなように」

 

 そう言われるが……それより何を話していいものか。

 

「ああ……すみません。まさか自分が貴方にお会いできるとは思っていなくて……もしかして貴方に招かれた……んでしょうか?」

 

 ここに俺が自力で来れるとは思えないし、最近来ようと思った覚えもない。

 

「私はただ扉を開けていただけ……ご自身で歩み、迷い込まれたからこそ。こうして我々は顔を合わせることができました」

「イゴールさんが呼んだのではない、と?」

「残念なことに、客人をお招きする用意も整っておりませぬ」

 

 ……よく見れば、ベルベットルームもエレベーターなどではない。ただ真っ青な部屋だ。調度品もイゴール一人分の椅子とテーブルしかない。俺は招かれざる客だったりするのだろうか……?

 

「心配召されるな。ここは本来何らかの形で契約を果たされた方のみが訪れる部屋……ですが同時に育むべき自我を持つお客人のための部屋……ここを訪れた事実こそが、何よりこの部屋を訪れる資格があることの証明。貴方には、近くそうした未来が待ち構えているのかもしれませんな。

 どれ、まずは、お名前をうかがっておくと致しましょうか……」

 

 イゴールはその大きな目で俺を見る。

 

「葉隠影虎です」

「……ふむ、なるほど。では貴方の未来について、少し覗いてみることに致しましょう……“占い”は信用されますかな?」

「……はい」

「結構」

 

 イゴールはどこからともなく取り出したタロットを操り始める。

 

「常に同じカードを操っているはずが、まみえる結果はそのつど……」

 

 イゴールの表情が変わり、無言になった。

 

「まさか……こんなことが……」

 

 驚きに満ちた声で、大きな目をさらに大きくなして俺を見る。

 手元で捲られたカードは……塔、運命、そして死神。

 

「貴方様は何者かの大いなる力に縛られております……」

「縛られて……?」

「それは貴方に苦難を呼び、運命を捻じ曲げ、そして定めてしまっている……」

 

 そう言うと彼はカードを前に黙り込み、俺に告げた。

 

「本来、我々はこの部屋でお客様の旅路をお助けします……ですが、残念ながら我々には、貴方様のお力になれることが無いようだ……」

「……」

 

 そう、か……

 薄々諦めてはいたけれど、ペルソナ全書や合体……

 ここに来られて期待しなかったと言えば嘘になる。

 

「ここまで妨害を受けるとは……はたまたどうしたものか……」

「……妨害?」

 

 待ってほしい。

 その何者かには心当たりがある。しかし妨害とは何だ?

 あいつは俺をこの世界に送り込んで、それ以上の手出しは無いと……

 

 ……無いと言ったんだ。他ならぬアイツ自身が(・・・・・・)

 どうしてそれを信じられる? どこに保証がある?

 

 その瞬間、頭の中で何かが弾けた。

 

「おや……どうやら貴方を助ける役目には、私よりも適任者がいるようだ……であれば、私めはその方と貴方を繋ぐお手伝いを致しましょう。ごくわずかな時間ではありますが、それが私めにできる精一杯の助力」

「!」

 

 イゴールがタロットカードを片付けると、群青色の部屋がまばゆく輝いた。

 あまりの眩しさに目を閉じて、光が収まった頃に開いて見れば……

 

「……船?」

 

 青い空に青い海。そう表現するしかなかった。

 空と海の混ざる水平線らしき物はうっすらと見えるが……終わりは見えない。

 そんな場所にポツリと浮かんだ小船。

 大きめの池がある公園に行けば乗れそうな、しょぼい小船。

 まわりと比べてあまりにもスケールの差がありすぎる小船に俺は乗っていた。

 

「ようこそ、ベルベットルームへ。って言った方が良いか?」

「!」

 

 目の前に現れたのは、俺。

 それだけで誰かは明らかだった。

 

「顔を合わせて話すのは初めてだな」

「いつも声だけだもんな……やっぱり意思はあったのか?」

「我は汝、汝は我。ずっとあったさ。明確に自我を持ったのはお前がペルソナに目覚めた時なんだが、お前が生まれた頃から存在はしていたよ。今はそうだな……俺はお前のペルソナであると同時に、原作主人公における“ファルロス”と似た立ち位置にいると考えてくれ」

 

 ……時々現れて中途半端なヒントを与える役目だろうか?

 

「……何考えてるか大体予想がつくから言うけどな、俺はもっと直接的で協力的なつもりだぞ」

「と言うと?」

「俺が生きるためさ。俺が暴走してお前を殺したとする。そうなったら俺はどうなる?」

「分からないな。そのまま自由になるのか、それとも俺もろとも死ぬのか」

「その通り。俺にも分からない。だからとりあえず死なれるのだけは困る。だから助ける。そのために俺はお前の武器にでも防具にでも、その他の道具にでもなる。力をつける手助けもするし、教えられることがあれば教えてやりたい。……そしてもし、なにもしないことが生き延びる道だったなら、全力でお前をニートにすることも辞さない!」

「ちょっと待て! 最後は余計だろ!」

 

 立場が逆なら俺もやるだろうけども。

 

「というか話し方もだいぶ違うし」

「何度も言うけど俺はお前だ。話し方はそんなに違わない。ただ現実では自由に話しかけられなかったんだ。制限されてるというか……今こうして普通に話せているのはイゴールとベルベットルームのおかげだと思う。たぶん。俺にも正直よく分からない」

「……4の主人公が“クマ”とベルベットルームで会う話があったな?」

「そんな状態だと考えておけばひとまず問題ない。とにかく重要なのは、俺とお前がこうして話せることだ」

「わかった……ところで、俺はどうなったんだ? さっきから急展開に流されっぱなしなんだが」

「……直前の記憶が飛んでるのか? いつまで話せるか分からないんだが……アナライズで記憶を漁れ。それで状況は分かるはずだ」

 

 言われた通りに記憶を探る。

 とたんに蘇ってくる焦り。

 結論から言うと、俺は撃たれたらしい。

 

 俺の悪寒と同時に、アンジェリーナちゃんが声を上げた。

 反射的に周囲の様子を探り、最初に倒したはずの指揮官が起き上がっている事に気づく。

 

「あいつだけ直接じゃなく俺を遠隔操作して殴りつけたからな……強化魔術で一時的に気絶させられたけど、傷が浅かったのかもしれない」

 

 そして復帰した指揮官はアンジェリーナちゃんを狙った。

 位置的に並ぶ車の隙間からちょうど狙える位置だった。

 問題は察知と行動の遅れ。

 ベルセルクモードで消耗していたために後手に回ってしまった事。

 俺が倒すよりも指揮官が引き金を引くほうが速い。

 彼女を逃がすにも間に合わない。

 そう直感した俺は、咄嗟にベルセルクモードを発動。

 気分の高揚で体の疲労を誤魔化して、全速力で射線に割り込んだ。

 直後に衝撃が胸を貫いて……

 最後に見たのは体から離れるドッペルゲンガーと、指揮官へ飛んでいくバール……

 

「そこから先は? 親父たちはどうなった!?」

「お前が意識を失ってからの事は俺にも分からない。でも最後の力で手加減なしに襲い掛かった覚えはある。指揮官が無事ってことはないはずだ。お前はここにいる。意識があるから死んだって事はないだろう。飛び込んだ時は咄嗟に防御に徹してたし……悪くて大怪我。俺に言えるのはこれくらいだな。

 とりあえず落ち着けよ。ボンズさんたちも簡単にやられる様な人じゃない。せっかくの機会を活かすことにしようぜ? こここそ“理性”の使い時じゃないか」

 

 

 煽るような物言いで、逆に焦りを抑えられたような……

 ……不安は残るが……考えても仕方がない、か……

 本音を言えばかなり気になるけど……

 

 

「……分かった。話をしよう」

「よし。ならまず座って周りを良く見てみろ」

 

 周り? 相変わらずの小船だけ……ん?

 よく見ると船体からたくさんの鎖が伸びている。

 その数、側面に細い鎖が二十四本。

 船首と船尾、どっちがどっちか分からないが、太い鎖が一本ずつ。

 計二十六本。その内二十一本は先端に碇でもついているのか先が海に沈んでいる。

 しかしなぜか残り五本は引きちぎられたように先がない。

 ただそれ以前にこの鎖。なんだか良くない気配を感じる……

 

「あのクソ野郎の仕業だよ……あいつは大嘘吐きだ。お前もイゴールの言葉を聞いて疑問に思っただろ?」

「そっちもか?」

「俺はそっちより少しだけ詳しく分かったみたいだ。知らされたことで開放されたって言うのが正しいか……縛り付けられてた鎖がぶっ壊れたっつーか……何でその可能性を考えなかったのかが不思議だよ……」

 

 やさぐれた感じで忌々しげに語るドッペルゲンガー。

 あれも俺に秘められた一面なんだろうな……

 

「まず、俺のアルカナを言ってみろ」

「アルカナ? “隠者”だろ?」

「そう、俺のアルカナは隠者。……俺自身そう思ってたよ、たった今までな」

「間違ってるのか?」

「言い方が悪いな。正しくは隠者でもある(・・・・)

「!」

 

 でもある。それは複数のアルカナを持っていることを示している。

 しかしペルソナやシャドウが持つアルカナは原則一つ。

 その例外となるのは、ただ一種類。

 

「“愚者”なのか!?」

「そうだ。ペルソナ使いの中で唯一複数のペルソナを持ち、付け替えることのできるワイルドの特性。アルカナは着けたペルソナによる。……あのクソ野郎、それを利用して“愚者”のアルカナを“隠者”で隠してたのさ」

「……隠していた。ということは知られたくない、って考えていいよな?」

「付け加えると、不都合で隠すくらいなら最初から与えなければいい。にもかかわらず与えて隠したって事は、“与える必要があった”って事だ」

「必要性…………待てよ、たしかあいつ、魂が何とか言ってなかったか? 人の魂は等価じゃない、とか」

「ああ、言ってたな」

 

 だとすると……癪だが俺は原作主人公の身代わりとして送り込まれた人間だ。

 原作主人公は正当なワイルド能力者。

 その魂の代わりが普通のペルソナ使いの魂で勤まるだろうか?

 人の魂が等価でないという言葉が本当なら、釣り合いが取れるとは思えない。

 ワイルド能力者の代わりにワイルド能力者。このほうが自然に思える。

 あいつが不都合を隠してでも与える理由にもなりそうだ……

 

 というか俺が死ぬだけでいいのであれば、そもそもペルソナを与える事自体が必要ない。

 あのとき感じたあいつの性格を考えると、慈悲で与えたとも考えにくい。

 

「……ワイルドなら、ペルソナの付け替えは?」

「それなんだが……無理っぽい。俺たちは元々能力者でもなんでもない一般人だろ? 悔しいがきっかけはあのクソ野郎からの貰い物だ。一般的なペルソナ使い程度でも、下手したら人工ペルソナ使いみたいな事になったかもしれないし……そもそもそこまで力を持たせる気もないかもしれない」

「あいつにとっては俺が好き勝手に動いて得になることなんてないしな……」

「むしろ“損”になるんだろう。じゃなきゃ黙って制限なんかする必要がない。……あいつは何もしないとか言ってたけどそれは嘘だ。実際に何か仕込まれてる」

「ということは何か生き延びる手はある? それに……直接的な手出しはできないのか……できるならそれこそ黙って制限なんかしなくていい」

「たしかに生き延びる努力なんてすぐにやめさせるな、俺なら。まぁあのクソ野郎がどうとでもなると見下してるのかもしれないが……」

 

 ……これはひとまず置いておこう。

 

「ペルソナを交換できないのにアルカナは変えられるのか?」

「それなんだが、いただろ? アルカナをコロコロ変えるボスが」

「ああ……ラスボスのニュクス・アバター。“アルカナシフト”? それは……スキルなのか?」

「スキルだ。効果はアルカナを変える事と、そのアルカナによって基礎能力が微妙に変化する。例えば隠者は補助やバッドステータス系の魔法が得意だが、戦車に変えると物理に強くなるって具合に。まあ本当に微妙な差だけどな。

 あとペルソナの弱点や耐性を変える“パラダイムシフト”も一緒に隠されてたみたいだ。この二つと変形能力をあわせて使えば、別のペルソナに付け替えるように……見えないことはなさそうなんだが……」

「一応ワイルドかもしれないけど、ペルソナを付け替えるとは言わないだろ……」

 

 内容がまとまっていなくてもいい。

 疑問に思ったこと、伝えられる情報から考えられることを言葉にしていく。

 するとこれまでの前提が次々と崩れる。

 それは頭の中が澄んでいくような感覚を伴っていた。




影虎はベルベットルームに迷い込んだ!
影虎の体は撃たれていた……
神の嘘が発覚した!
契約者の鍵は手に入らなかった……
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