人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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今回は三話を一度に投稿しました。
前回の続きはニつ前からです。

















142話 結果(後編)

「さて……ちょっと話がそれたが、とにかく俺たちがワイルド能力者、ってとこまではいいな?」

「大丈夫だ」

「ならここでもう一つ、俺の性質について教えとく」

 

 性質?

 

「俺たちはワイルド能力者。だけどペルソナの付け替えはできない。ただし……俺が知る限りワイルド能力者が持たない可能性を持っている。ペルソナの“進化”だ」

「たしかに順平とか岳羽さんとか、原作キャラのペルソナは進化するけど、主人公のペルソナは進化しないな……ベルベットルームで合体とか付け替えられるから必要ないのか。ペルソナを一体だけしか持てないのは彼らと同じだけど……できるのか?」

「できる。ただこのあたりは俺もよく分かってない。なんと言うか……ほら、俺たちは本来原作に登場しないというか、存在すらしないはずの人間だろ? 所詮モブというか、ゲームで喩えるならバグの塊なわけよ」

 

 言いたい事はなんとなく分かる。

 

「だからなのか……俺、進化先が三つあるみたいだ。感覚的に理解できるだけだけど」

「……詳細は?」

「三つの内、二つは一切不明。一つはある程度分かるんだが……なんとなくヤバイ気がする」

「どんな風に?」

「んー……俺たちはまだ進化先が定まっていない。将来的にどれかを選ぶかもしれないし、勝手に決まるのかもしれない。バグの塊として全部を自由に使い分けられるようなバグ技でも身につけば理想だけど、まだ三つの内二つは使えないな。

 でも最後の一つだけは使おうと思えば今すぐにでも使えると思う。ただし、それは使ったら後戻りができなくなりそうな感じだ。進化先が固定されるって意味じゃなく、それ以前に自分の中の何かが根本的に変わるというか……あ、ちなみにその進化先のアルカナは悪魔な。それだけは分かる」

「どう考えても嫌な予感しかしないな……」

「だろ? まぁ、とりあえずすぐに進化しなきゃいけないこともない。様子を見て、詳細が分かってからでもいいだろう」

 

 話を締めくくったドッペルゲンガーは俺に向き直る。

 

「なんにしても、俺たちはこれからも生き延びる道を探し続ける必要がある。タイムリミットが来るその日まで。あのクソ野郎に騙されてたことは頭にくるが、どうやらまったく何もできないわけじゃなさそうだ」

「だな。たった五本だけど鎖が切れていた。何が要素かは分からないけど、力をつけていけば対抗できるかもしれない。これは朗報だ」

「だな……それじゃ最後のアドバイスだ。……“命の答え”を探せ。

 力を求めるでもいい。大型シャドウを封印する方法を探してもいい。

 その中でお前の“命の答え”を探せ。

 主人公が自分の命を捨てても世界を救うと決めたように。

 同じワイルド能力者であれば、見つかるかもしれない。

 そしてその答えによっては……」

「なにか道が開けるかもしれない」

 

 ドッペルゲンガーは黙って頷いた。

 

「頼むぞ。俺はそのために力を貸す。だから寿命以外で死んでくれるなよ!」

 

 そう叫んだ途端に世界が揺れた。

 船が傾き、波が荒れる。全てが遠ざかっていく……

 一人座り込むドッペルゲンガーが手を振った。

 やたらと人間くさいそのしぐさを最後に、俺の視界は暗転した。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

「………………ん…………」

 

 白い、天井が見えた。

 

「! 影虎君! 聞こえますか!?」

「江戸……川、先生? ……!」

 

 胸が痛い……胴体の前面が全体的にか? 皮が突っ張るような感じもする。

 

「いっつ……」

「良かった、無事に目を覚ましてくれましたね」

「……ここは?」

 

 ずいぶんと広い。まるでホテルのスイートルームのような家具もあるけど……江戸川先生が枕元のボタンを押した。ナースコール? ってことは病院か。こんな豪華な部屋で。

 

「その通りです。事が事でしたし、警備の厳重なVIPルームを用意していただきました。桐条系列の病院でもないので、そのあたりは安心してください。……何があったか覚えていますか?」

「撃たれたんですよね……アンジェリーナちゃんをかばって……! 皆は! 親父たちはどうなりましたか!?」

 

 江戸川先生以外、姿が見えない。

 思わずベッドから跳ね起きる。

 

「いっ!? あいたたた……」

「落ち着いてください影虎君。我々は全員無事ですよ。もちろんアンジェリーナちゃんも。治療を要したのは君だけです。だからおとなしく寝ていてください」

「……そうですか……姿が見えないから、てっきり……」

 

 それを聞いて安心した。

 

「ヒヒヒ……安心してください。皆さんは食事に行っているだけですから。それよりすぐに担当医の方が来ます。先に診察を済ませてください。そこで状況もある程度説明されるでしょう」

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

「では私はこれで失礼します。お大事に」

 

 江戸川先生が言った十数秒後、実際にドクターとナースが数名入ってきた。

 ナースコールから来るまでが驚くほど速く、看護も手厚い。さすがVIPルーム。

 しかし……俺が寝ている間に色々あったようだ。

 

 まず俺の体の状態。

 結論から言うと、傷は思ったよりも軽い。

 あの指揮官が撃ったライフル弾は、借りていた防弾ベストを貫いた。

 しかし威力を軽減できたお陰か、ドッペルゲンガーや魔術でギリギリ止まっていたようだ。

 貫通せずに自壊した弾が皮膚を引き裂いていたけれど、筋肉より内側までは届いていない。

 

 ドクターからはライフル弾をプールに撃ち込む実験映像を見せられ、威力の高すぎる弾はその威力に耐え切れず、貫通せず水の表面で壊れてしまうと教えられた。彼が言うにはそれと同じことが俺の体でも起こった可能性がある、らしい。

 

 防弾ベストを貫通した弾と体の状態を他に説明のしようがないと言っていたが、説明した本人も完全に信じきれていないようで何度も奇跡だと呟いていた。

 

 まぁ、普通の医師がペルソナや魔術なんて思い当たるわけがないだろう。

 診察で外された包帯を見たら“治療”や“蘇生”に関係する単語がルーンでビッシリ。

 怖いくらい書き込まれていたけど、誰も子供のおまじないとしか思っていなかった。

 

 ちなみに書き込んだのはアンジェリーナちゃん。

 あまりに必死だったので、傷に障らないよう包帯を厚めに巻いて許可したとドクターが苦笑していた。

 

 しかしルーンの効果は出ていたみたいだ。俺にも治癒促進・小があるが、事情を知らないドクターは傷の治りが早い事に驚いていた。

 

 また、俺が意識を失った直接の原因は傷よりも“心臓震盪”。

 胸部に衝撃を受けることで不整脈が発生し、心臓が止まる状態の事。

 これを俺は撃たれた衝撃で発症したらしい。

 そして気を失った俺を親父たちが回収。

 江戸川先生の応急処置を受けて危機を脱し、病院へ運び込まれて俺は助かった。

 

 多少痛みはあるけれど元々の失血は少なく、最終的に特に後遺症が残ることもないだろうと診断されて一安心だ。

 

「なかなか目覚めないので皆さん心配していましたよ。ヒヒヒ……」

 

 ベルベットルームにいたせいか、今日は撃たれてから四日目。

 それだけ目を覚まさずに眠り続け、何度か状態の急変もあったらしい。

 だから俺の知らないところで、先生たちは緊張状態が続いた。

 そして皆の体を気遣った先生がここに残り、他の全員で食事へ向かわせた。

 というのが大まかな経緯だそうだ。

 

 ……江戸川先生には頭が上がりそうにない。

 

「敵はどうなりました?」

「襲撃犯は全員、警官隊に逮捕されたそうです。まぁ、色々やる前に治療が必要で専門の病院へ搬送されたようですが唯一、君を撃った男だけ……」

「……死にましたか」

「いいえ、重症ですが亡くなってはいませんね……」

 

 先生の歯切れが悪い。

 

「彼は君のペルソナに襲われ気絶。我々はそのまま立ち去りました。そして先日入った情報によると、病院で目覚めた彼は無気力症を発症しているようです」

「……」

 

 影人間……

 シャドウに精神を食われた人間……

 この場合、食ったのは俺だ。

 無意識でも理由は分かる。

 敵の排除と自分の命を繋ぐために効率的な方法だ。

 ……思っていたより平気な自分がいる。

 何も感じないとは言わないが……

 

「俺はこれからどうなりますか?」

「何もありませんよ。この部屋と同じく、ボンズさんが手を回してくれました。本人曰く、“軍人も上に行くと政治や経済界の大物と接点ができる”とのことです。元々今回は逃げるためにやむなくやった事。正当防衛として処理されます。一般に説明の難しい部分は追求せず闇の中へ、我々はただの被害者として日常をおくれますよ。

 ……これまでと同じとはいかないかもしれませんが……」

「何か問題が?」

「それがですねぇ……君が撃たれた事実が日本のメディアに流出しました……」

「えっ!?」

「その……君がこれまでの件で注目を集めていたのはご存知だとは思いますが、その件で学校に週刊誌の突撃取材をされたそうです」

 

 それまで取材は俺が家族旅行中で連絡が取れないと断っていた。

 けれどその記者はアポ無しで職員室まで乗り込んだ。

 俺がいないなら先生のコメントだけでも貰おうとしたらしく、職員室での押し問答に。

 そんな状態だとは知らずに、江戸川先生は学校へ連絡を取ってしまった。

 俺が撃たれた事で当初の旅程が崩れ、帰国予定に変更が出る可能性を伝えるために。

 報告自体は社会人として当然だろうけど、タイミングが最悪だった。

 降って湧いた江戸川先生の連絡に、電話を受けた先生が飛びついて早く帰ってこいと要求。

 挨拶もなくまくし立てられた江戸川先生は、学校の状況を聞く前にこちらの状況を説明。

 その結果、俺が撃たれた事を知った先生が、

 

「撃たれた!? 葉隠君が!?」

 

 と叫んだらしい……よりによって雑誌記者のいる職員室内に響き渡るような大声で。

 

「学校側も雑誌に掲載しないようお願いしたそうですが……翌日、発売された週刊誌に大々的に載っていました……“噂の日本人高校生KH、旅行先で射殺!?”と。どうも元々予定していた記事を差し替えてまで刊行したようです」

「俺、死んでないのに……どこの週刊誌ですか?」

「週間“鶴亀”です」

「あー……」

 

 週間“鶴亀”

 世間の関心を集めるあれやこれやを掲載する有名な週刊誌。

 内容は芸能界のゴシップ記事が多く、その手の話が好きな人からは絶大な人気を誇る。

 また読者の年齢層ごとに用意された記事もあり、大人から若者まで楽しめるとか……

 そんな感じで購入者が多く、日本中で販売されている週刊誌だ。

 出版社も大手だし、週刊誌の売り上げは常に業界上位に入ると聞いたことがある。

 ただそのために強引な取材を行うなど、記者や編集者のモラルが低いという噂もあった。

 

「噂は本当だったのか」

「さらにですねぇ……」

 

 まだこれ以上に何かあるのかと思いながら聞いて見ると、今回の事件そのものは“麻薬カルテルの凶行”“日本人旅行者の被害”という点で日本でも少し報道されたそうだ。

 

 もちろんこちらは全国ネットのちゃんとしたモラルがあるニュース番組だったので、俺の事は家族旅行中の未成年者としてだけ。名前も特定されるような情報も発信していなかった。ニュース単体なら。

 

「そんな報道と一緒に鶴亀が記事を出してしまい、さらに取材をお断りしていた理由で君が旅行中なのは知られていました。旅行先と事件現場が同じテキサスとなれば……」

「結びつけて考えるのは簡単でしょうね……」

「そんなわけで、もう手がつけられない状態になっています。どうしましょうね……」

「どうしましょうも何も。……どうしましょう……」

 

 かろうじて生き延びた。

 結果として希望も見えた。

 しかし、前途は多難そうだ……




江戸川は影虎の命を繋ぎ止めた!
影虎は大勢の助力を受けて生き延びた!
影虎は一週間の余命宣告を乗り越えた!!
後遺症もなさそうだ!
メディアが大変な事になっている!

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