人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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150話 合議

 8月17日(月) 

 

 午前1時

 

 ~病室~

 

 影時間が明けたのを見届けて病院に戻ってきた。

 

「……ストレ……」

「こっちにも……」

「……そこ! バイタルサインのチェック急げ!」

「……まだ……きます……」

 

 窓からは沢山の救急車が訪れ、続々と影人間をERへ運び込む救急隊員と医師の姿が見える。

 明らかに不慣れな研修医らしき若者まで、使える人間は全て投入したような大騒ぎだ……

 

「……! ……」

 

 チラッと見えたスーツ姿の影人間。

 彼はコールドマン氏の護衛の一人だった。

 ということは、彼らは森に入ってしまったホテルの客だろう。

 街中の被害者の数は分からないけど……ホテル内は全滅だと考えた方が良さそうだ。

 

「……クソッ」

 

 気が滅入る。

 手伝いもできる状態ではない。

 今日のところは寝てしまおう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 朝

 

 ~病室~

 

「おはようございます。ミスターハガクレ。朝食のお時間です」

 

 疲れた顔の男性ナースが朝食をはこんできた。

 

「ありがとうございます。あの……何かあったんですか? やけに病院内が騒がしいですし、それに」

 

 視線を窓に向けると、彼はすぐに理解した。

 

「無差別テロ、らしいですよ」

「テロ!?」

「実は我々もよく分かっていないのですが……昨夜あちらのホテルでガス漏れが発生したとの通報があり、救急隊が駆けつけると宿泊客やスタッフが大勢倒れていたそうです。しかし……」

 

 患者の症状がホテルで通常使われるガス中毒とは異なること。そして事故によるガス漏れにしては被害者が避難しようとした形跡が異様に少なく、通報のできる状態の人がいなかった事。

 

 以上の点から事故ではなく、人為的に計画されたテロである……との噂が流れているようだ。

 

「あくまで噂ですが。ミスターハガクレは今日が退院日でしたね」

「はい、お世話になりました」

「旅行中に災難でしたね。街もこんな状況ですから、どうぞ帰国までお気をつけてください」

「ありがとうございます」

「それではまた」

 

 男性ナースは部屋を出て行った。

 

 ……無差別テロ、ね……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 昼

 

 ~病院前~

 

「お世話になりました」

 

 忙しい中、見送りをしてくれたドクターにお礼をして退院する。

 

「……いいぞ、こっちだ」

 

 特別に使用を許可していただいた職員用の出入り口からこっそりと駐車場へ。

 流石は元ボディーガードのジョージさん。実にスムーズに車まで誘導してくれた。

 

「タイガー、見てみろよ」

 

 発進から数分後。

 同じく迎えに来てくれたウィリアムさんの指差す方には、遠ざかる病院。

 その表には、大勢の取材クルーが詰め掛けている様子が見られた。

 

「普通に表から出ていたら、邪魔で仕方なかったな」

「あの手の連中はしつこいっつーか、何かネタとってこねぇと帰れねぇってかんじだからな」

「中の様子くらいは聞かれたかもしれませんね……ところで、お二人とも覚えてますか? 昨夜のこと」

「ガッチリ残ってるぜ。俺たちだけじゃない。家族全員だ」

「それに……どうやら記憶を残している人間は他にもいるようだ。記憶が残る度合いに差はあるようだが、街中で“モンスターを見た”と叫んでいた奴がいた。ロイドはネット上に書き込みもされていると言っている。もっとも、まともに信じる人間はいないが」

「おまけに救助活動の最中、江戸川の言っていたオフ会の参加者が保護されたみたいでな……カルト教団の怪しい儀式で何かヤバイ物でも使ったんじゃないかとか色々言われてるみたいだ。それか今回の事件に便乗した悪質なデマとか、あるいは事件の影響で集団幻覚を見たとか。どこもかしこも噂ばかりだ」

「……そうですか」

 

 影時間の記憶が残った、それも全員。

 一体どうなっているのか……

 

「良い報告もあるぜ。お前が助けたコールドマン氏とペルソナを召喚した天田。二人は今朝、無事に目を覚ました」

「本当ですか!」

「当たり前さ! こんな嘘ついてどうする」

「ですね。……良かった」

「今日一日は激しい運動を控えるよう江戸川の指示が出ているが、まず問題ないそうだ」

「リアンと親父もそれぞれ情報集めに動いてる。とりあえずはその結果を聞いてから会議だな」

「分かりました」

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~リビング~

 

「おお、来たか」

 

 昨夜と同じリビングに着くと、既に俺たち以外は集まっていた。

 

「何処にも行く気にならねぇよ」

「タイガーは平然としすぎでーす」

「んなこと言われても、俺にとっちゃいつもと大して変わらないもの」

 

 父さんとジョナサンもさすがに昨日の今日で遊びには行かないか。

 

「……先輩……」

「天田。無事で何よりだ。それから改めて、母さんを助けてくれてありがとう」

「……先輩。先輩は全部知ってたんですよね? 僕のこと」

「ああ、大体の事情は知ってる」

「それを黙って近づいて……僕をどうしたかったんですか?」

「……自分でも分からない。正直、天田がやりたい事を実行するのは勧められない。けど、それをどうしてもやりたいって気持ちを俺は理解していない。だから無責任にやめろとは言わないし、言われてやめる位なら最初からやろうなんて考えない方が良いとも思ってる。だから俺はあえて、パルクールについて天田が興味を持つように話した。そして様子を見るつもりだったんだ。最初は」

 

 だけど俺は見誤った。ちょっと話し相手として見てもらうつもりが、関心を引きすぎて入部を申し込まれることになった。

 

「だけどまぁ、近いうちにペルソナに目覚めてシャドウと戦うことも知ってたから、それに備えて力を付けておくのはいいと思った。だから入部を受け入れて今に至る。

 特別課外活動部での活動開始後にさりげなく探りを入れようとは思っていた。そういう下心があったことは認めるが、打算だけで付き合っていたわけでもない」

「……………………そうですか」

 

 天田はそう言って、体から力を抜いた。

 

「事情を聞かされてからの数日は、これまでの思い出が崩れていくような気分でした。先輩が善意で僕の世話をしてくれていたのか、それとも何か企んでいたのか……ずっと考えて。でも、僕にも分かりませんでした」

 

 だから、と前置きして天田は続ける。

 

「先輩、僕と取引をしましょう」

「どんな?」

「先輩は僕に戦い方を教える。これまで通りの格闘技だけでなくて、ペルソナや魔法の使い方も。その代わりに僕は特別課外活動部に入部した後、先輩に情報を流します。もちろん桐条先輩たちには、僕たちの関係は秘密にします」

「それは……自主的にスパイをするって事でいいのか?」

 

 天田はしっかりと頷いた。

 

 俺が介入することにより、状況とストーリーに変化が起こる可能性がある現状では、情報を流してもらえれば俺は非常に助かる。だがそれは特別課外活動部の仲間に対する裏切り行為にもなるだろう。

 

「構いません。先輩の話を聞いた後だと、桐条グループの事はあまり信用できません。でも先輩は嘘をついてない……嘘だと思えたら、何も悩まなかったのに……」

「天田……」

「っ! 僕は、先輩は、少なくとも今はもう嘘はついてないと思いました! だから取引しましょう!」

 

 天田はそこを落としどころにしたようだ……

 当分はこちらが先払いをする形になるが、以前とあまり変わりはない。

 少しばかり踏み込んだだけだ。

 

「分かった。契約成立だ」

「……じゃあ、またよろしくお願いします。約束は必ず守ってもらいますからね。反故にしたら桐条先輩たちに洗いざらいしゃべりますから」

「念を押さなくても分かってるよ。全力で教えるさ。ちょうど指導に適した能力を身に着けたところだったしな。……まぁ、そのあたりの事はまた後で話そう」

 

 天田との話はこれで一段落だ。

 

「もういいのかね?」

「はい、お待たせしました。それと、ご無事で何よりです。Mr.コールドマン」

「礼を言うのはこちらの方さ。昨日のこともおぼろげながら覚えている。午前中は少しガードマンの様子を見に行ったが、君がこなければ私もああなっていたのだろう?」

 

 話をするため、リビングの中心部に置かれた大きなソファーへ座る。

 

 対面にはコールドマン氏とボンズさん。隣にはアンジェリーナちゃんとその両親二人。持ち運べる一人用のソファーに天田が座り、他の人は思い思いに立っているか、適当な所に座って俺たちを囲んでいる状態だ。

 

 基本的に会議の中心となるのはソファーの俺たち。

 他はあまり口を挟むつもりはないそうだ。

 もちろん疑問があれば質問したりはするらしいが。

 

「急を要する事から話していこうと思うが……まずは状況の確認だ」

 

 ボンズさんはそう言いながら、テーブルへ地図を広げる。

 

「ここが我々のいる家。ここが病院。そしてここが例のホテルだ」

 

 地図には海岸に沿って、半月型に薄い斜線。さらに赤い点がいくつも入っている。

 

「現在確認されている無気力症の患者、それから怪物の目撃証言があった位置だ。やはりこのホテルを中心に広がっている。被害者の数もホテルに近い地域ほど多い傾向にある。警察もこれには気づいていて、このホテルを重点的にマークしているようだ。

 ここで疑問なのが……あの現象は昨夜限りか、それとも今後も続くのかだ」

「分かりません。でもタルタロスのように続くとしたら」

「この町の人々は毎晩、シャドウの脅威にさらされ続けることになるわね」

「そして最初に被害者となるのは、おそらくホテル周辺を警備する警察官」

 

 カレンさんとジョージさんの言う通りだ。

 通常の銃器でもシャドウを倒すことは不可能ではない。

 しかし非常に効率が悪く、大群で押し寄せると普通の人にはまず対処しきれない。

 結論として大勢のシャドウに対抗するには、ペルソナ使いがいなければ厳しい。

 昨夜の件はそう考えるに十分だった。

 

「現在広まっているモンスターの話。警察や政府の上層部も信用に足らない夢物語と判断している。真実を認めるのがいつになるかは分からんし、気づいたときには後手に回っているだろう」

 

 だからこそ、被害を最小限に抑えられるように動きたいとコールドマン氏は話す。

 

「具体的な策は?」

「策というほどではないが、一つだけ気になる点がある。Mr.江戸川」

「はい。影虎君、これを見てください」

 

 先生から見せられたのは数枚の写真。

 ホテルの中だろう、広いホールが怪しげな飾りで満ちている。

 

「例の儀式が行われていた場所を、警察が捜査資料として撮影したものです。その内の……これ、この写真を見てください」

 

 ? 妙だな。周りにはいろいろ怪しげな物があるのに、そこだけポッカリと何も無い。

 

「気づきましたか? これは儀式場の中心部を撮影した写真です。周辺の装飾から儀式内容と手順を推察するに、おそらくここには悪魔召喚に使われる魔法円があったはず。ですがこの写真にはありません。捜査資料ですから警察官が片付けたということもありません。……そうなると、この魔法円はどこへ消えたのでしょうか?」

「……もしかして、あの森の中に?」

「あくまで可能性の話です。ですが事件の中心部に位置するホテルで、儀式の中核を成す物が失われている……何らかの関連性はあると思いますよ、私は」

 

 そうなると、やるべきことは森の探索か。

 

「俺が探しに行きます」

「一人で行くつもりかね?」

「先輩、僕もペルソナが使えるようになりましたよ」

「私も。魔術、使える」

「俺は一人のほうが動きやすいです」

 

 率直に言うと……

 ボンズさんたちは対人戦闘のプロだと思うが、対シャドウではあまり戦力にならない。

 天田やアンジェリーナちゃんは力を得てからまだ日が浅すぎる。

 シャドウの強さを考えると、彼らが巣に飛び込むのは危険なのは明白だ。

 機動力とスタミナにも差があるため、同行者がいるとペースも落ちるだろう。

 

「何よりも俺が多人数での探索に慣れていないし、俺たち全員で戦いに出たらここの守りはどうなる。俺一人なら機動力と隠密行動力を最大限に発揮して探索ができるし、現に昨夜はMr.コールドマンを見つけて連れ帰るまでは問題もなく探索できていた。だから森の探索は俺一人で行くほうが無難だと思う。

 だから皆さんにはここで拠点の確保をお願いしたい」

「この場での最高戦力は君だろうしな。無理に同行しては足手まといになるか」

「あまり戦力を分散させたくはないが……固まっていては対策も立てられない」

「承知した。だが無理はしないでくれ。君は病み上がりなのだから」

 

 了解。無理はしない。俺も死にたくはないから。

 

「よし、シャドウについては君の探索報告を待とう。装備品や薬品、食料など必要な物資があれば後で遠慮なく言ってくれ。サポートを惜しむつもりはない。

 では次に、気になるのは桐条グループの事だ。彼らは十年以上も前からシャドウやペルソナについての研究を進め、専門の特殊部隊まで組織しているのだろう? 果ては非合法な人体実験まで行っていたと聞いた……そんな彼らは今回の件をどう考えるかね?」

 

 コールドマン氏の言葉が、俺の胸に重くのしかかった。




影虎は退院した!
天田との関係が元に戻った!
会議で状況を把握した!
異変解決につながる可能性のある情報が得られた!
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