人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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今回は三話を一度に投稿しました。
前回の続きはニつ前からです。


151話 合意

 桐条グループの動向か……そちらも細かい事までは知らないけど、

 

「多くの人が影人間となった事。これはまず耳に入るでしょう。すでにニュースになっているから……そして彼らはシャドウが原因と知っている。調査を行うための人員が派遣されてくるかもしれません。少なくとも何もしないとは考えにくい。

 部下はともかくトップにいる桐条総帥は本気で、命を捨ててでも先代が引き起こした事態の収拾をつけようとしているはずですから、情報を集めようとする可能性は高いかと。解決まではどうか知りませんが」

「人が派遣されるとしよう。効率的に情報収集を行うなら複数人でチームを組むはずだ。護衛は調査員に戦闘訓練を施して省くとしても……影時間では特別製の機器以外は動かない、これは確かだね?」

「はい。“黄昏の羽根”と呼ばれている物を組み込んでいるらしいです」

「そうなると装備はどこかから持ち込まれると考えていいか……常時どれだけの兵と装備を動員できるように準備しているかは分からんが、影時間の行動には注意をはらうべきだ」

「銃器の他に目出し帽も用意しよう。窓や扉の補強も必要になるな。すぐに手配する。あちらの動きには私ができるだけ情報を集めてみよう」

 

 なら、俺も一つ提案する。

 

「役に立つ情報が出るかは分かりませんが、一度探りを入れてみましょうか?」

「探りというと?」

「ペルソナ使いであり、桐条グループ総帥の一人娘。桐条美鶴と連絡が取れます」

 

 もちろんペルソナやシャドウについて何も知らない風を装うが、ちょうど退院したことだ。

 無事の報告がてら、街が騒がしいと世間話くらいならできる。

 

「彼女は桐条総帥と同じくシャドウに関する問題には真剣で、そのためにやや盲目な部分があります。もしかすると何か情報を引き出せるかもしれません」

「タイガーが怪しまれたりはしない?」

「世間話程度なら大丈夫かと。ネットでもある程度話題になってるんだよな? ロイド」

「シャドウについてもモンスターってことでバッチリね」

「目先をそらせる話題もいくつかありますし……事前にどこまで話すかを明確にして、気をつければ疑われないと思います。そのあたりは相談させていただけると助かります」

「分かった。この件について他にはないか?」

 

 周りを見回すが、誰も意見は無いようだ。

 

「ではこれも警戒と追加情報を待とう。

 次は……これまでとは違い、少し先を見据えた話になる。やることが大きく変わるわけではないが、現状は問題に対して場当たり的な対応しかできていない。その原因は全て、我々がシャドウに対して無知であり無力であることだと考えている。君が協力的なおかげで、今は首の皮一枚が繋がっている状態だな。

 だが先ほども言ったように、シャドウのようなオカルト的な存在に対して軍や警察の対処はいつになるか分からない。そこで、だ。……我々は新しく“PMC”を設立しようと考えている」

「PMC……民間軍事会社であってますか?」

「いかにも。電気製品の使用は不可能。通常兵器では効果が薄いとは聞いているが、我々もただ座して見ているわけにはいかない。だから対シャドウを想定し兵力を集める。桐条の特殊部隊と同じようなものだと考えてくれ。その表向きの理由としてのPMC設立だ。経営は私、ボンズも協力してくれる」

「ボンズさんも?」

「私も元ではあるが軍人だ。国民の安全が脅かされているならば守るために動きたい。警察や軍がすぐに動けないというならなおさらだ」

「私たちも一員として働くつもりでいる」

 

 ジョージさんも一言。

 それに言葉にはしていないが、カレンさんや他の人たちからも協力の意思を感じる。

 これはお国柄か、それとも家庭環境か。皆、武器を取る覚悟があるようだ……

 

「ここはアメリカだ。脅威に対抗し、国を守るのは我々アメリカ国民であるべきだと私は考える。しかし、君も言っていたようだね? “気持ちだけではどうにもならないことがある”と。まさにその通りだ。

 故に、我々は君たちと協力関係を結びたい。今回だけではなく、その先もね」

「具体的には、どのような形で協力を?」

「基本は情報交換だが、先日話した“超人プログラム”。あの計画も利用しようと考えている」

 

 超人プログラムの正式な始動までは、まだしばらくの時間が必要だった。

 しかしコールドマン氏はそこを逆手に取り、俺をテストケースにしようと言う。

 問題点を探るためのテストケースと理由をつければ、俺はサポート体制を利用できる。

 そしてコールドマン氏はサポート体制を隠れ蓑に、俺の活動を物資や資金の面で支援する。

 そこまでに考えられる問題は彼の権限でどうとでもなるらしい。

 

 そして俺に求められる協力は二つ。

 アメリカ滞在中の協力と、影時間に関わる知識の提供。

 

「ずいぶんと要求が少ない気がしますが」

「情報は力だよ。君が持つ情報すら我々には未知で、価値のある情報だ。それに先ほど言っていたように、君はすでに桐条グループの関係者の近くに身を置いている。今この場で君が知りえている情報だけでなく、この先に君が知りえた情報も報告してもらいたい。我々には何もかもが足りない状態だからね。

 情報交換とは言ったものの、こちらから君に渡せる情報がない。だから研究が進むまでは、プロジェクトのサポートを好きなように使ってくれ。このままずっと戦力に加わってくれるならもちろん歓迎するが……そこは君の問題が解決した後に改めて話してもいいだろう」

「……ではもう一つ。先ほど“君たち”と言われましたが、それはつまり天田や江戸川先生も入っていると考えてもよろしいですか? だとすると、天田はともかく江戸川先生はどう協力を?」

「天田君には君と同じく滞在中の協力と今後の情報提供を求める。将来的に桐条の組織からスカウトを受けるのなら適任だ。

 対価の支払いは君を通して支援をするのが良いだろう。残念ながらプログラムは高校生以上が対象。彼はまだ規定の年齢まで達していない。年齢制限を緩めることも考えたが実行するなら根回しに少々時間を要する。

 それに彼の家庭環境も気になる所だね。未成年である以上契約には保護者の同意が必要になるが、軽く話を聞いた限りでは今の保護者に問題がありそうだ」

 

 天田が微妙な顔をした。

 

「あえて彼の気持ちを考えずに言わせて貰うが、徹底した無関心ならまだいい。保護者であることを盾にあれこれ口を出される方が面倒だ。天田君も自由に動けなければ困るだろう?」

 

 言われた内容について確認をとると、天田は首を縦に振る。

 

「トレーニングとか、強くなるために必要なことを自由にやりたいです。そこに口出しをされると、ちょっと……」

「そのあたりも含めて慎重にならざるを得ない。正式な契約は保留と考えて欲しいが、君を窓口にすれば支援には問題ないだろう」

「なるほど、では江戸川先生は?」

「君の現地サポート要員として正式に雇用し、研究協力を求める。教員と副業をする形になるな」

「可能なんですか?」

「本人は問題ないと言っていたが……」

 

 視線が先生に集まる。

 

「月光館学園は私立高校ですから、教師の副業は可能ですよ。学校側から禁止されているわけでもありませんしね。実際去年までは副業をされている先生もいましたし、私自身不定期の仕事をしたことも何度かあります。学校の仕事に影響を及ぼさなければ何も言われないと思いますよ。

 それにこのお話は我々のメリットだけではなく、養護教諭としてのスキルアップになるかもしれませんしねぇ……ヒヒッ」

「彼には研究資金と必要な機材。そして最新の医学に関する情報を可能な範囲で提供できるようにするつもりだ」

「ソーマや反魂香の研究もやりやすくなりますし、医学情報は他の生徒の治療にも役立ちますねぇ」

「その特殊な道具を研究することで新たに効果的な薬品が作り出せるならば、それは私や社会にとっても大きな利益になるだろう」

 

 当然と言えば当然だけど、天田も江戸川先生も事前にある程度話は聞いていたようだ。

 親父がまったく口を挟んでこない所をみると、おそらくうちの両親にも話したんだろう。

 その上で、俺の意思で決めろということか。

 

「影時間に関する活動において、君と江戸川はすでに実績がある。天田君もこれからの活動に参加する強い意思を持ち、可能性を感じさせる。人格にも大きな問題があるようには見えない。そして現在、君たちはどこの組織にも属していない状態。だからこそ我々は、君たちと協力関係を結びたい」

「総合的な知識量や戦力なら、既に研究を重ねて知識を蓄えている桐条の方が上だと思いますが?」

「確かに。だが彼らは大きな組織だ。新参者の我々が下手に接触するには危険すぎる。組織に飲み込まれるだけならまだいいが、影時間で起こった出来事は認知されない……つまり影時間を悪用すれば簡単に口封じもできてしまうのだろう? だから君も彼らを警戒し、秘密裏に活動を続けてきた。違うかね?」

 

 ……風格、と言えばいいのだろうか?

 すべてを見通されていると錯覚しそうな雰囲気だ。

 もっとも本当にすべてを見通せるのであれば、俺の情報提供なんて不要だろう。

 だから、そんなはずはない。

 影時間の性質を知っていれば考えられる可能性だ。

 

「仰る通りです。実際にそういう仕事を請け負っている連中もいますしね」

「我々は知識と力を持ち合わせていない。だが財力と組織力はある。

 君たちには知識と力がある。だが財力と組織力は我々よりも小規模だ。

 我々を信じろとは言わないさ。私も清廉潔白な人間ではないからね。

 疑ったままでも構わない。しかし……」

 

 一拍おいて、コールドマン氏が右手をさし出した。

 

「互いの短所を補い合うことが、影時間を生き抜くため、最も合理的でお互いのためになる。

 そう私は考えるが、どうかね?」

 

 ……はっきり言って、断るメリットを感じない。

 資金力や組織力は大きな魅力だ。

 彼らと手を組めば、取れる手段も増える。

 コールドマン氏もこちらの事情について理解した上での提案だろう。

 前とは状況からして違う。

 何か裏があるとしても、リスクがあるのはいつものこと。

 それに滞在中は協力を断るつもりもない。

 あえてここにいる彼らを突き放さなければならない理由があるだろうか? 

 ……ない。

 

 そう結論付け、俺は彼の手を握る。

 

「分かりました。手を組みましょう」

 

 こうして俺たちは、協力関係を結ぶことが決定した。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 協力関係を結んだ後も細かい事を話し合い、終わる頃には夕方になっていた。

 

 そして……

 

『退院おめでとう!』

「ありがとうございます!」

 

 リビングでは退院パーティーが開催された。

 たくさん料理を用意していると聞いてはいたが……

 目の前のテーブルには本当に、溢れんばかりの皿がところ狭しと並べられている。

 

「見ろよタイガー! クリスマスでもないのにターキーがあるぜ!」

「僕、こんなの初めて見ました」

「天田君、虎ちゃん。食べるなら切り分けるわよ」

「ロイド、このバーガーのソースに何を入れたの?」

「エイミー伯母さんが食べてるのは“ミソ”って日本の豆ペーストが入ってるのさ! ちなみにカイル伯父さんのは“ショウユ”を使ったソースのフィッシュバーガーだよ」

「これはいけるな」

「最近はハズレが無いわよね」

「雪美さんが監督してくれてるからねぇ。私らは大助かりさ」

「これ、オススメ」

 

 次々に進められる料理を、片っ端から腹の中に詰め込んでいく。

 たった三日なのに、病院食でない料理がずいぶん久しぶりに感じる。

 あ、その前に四日寝てたんだ。合計一週間か。

 

 ちなみに病院食は味が薄くて質素……と思いきや、そうでもなかった。

 食事制限がなかったからか、それともVIPだったからか……

 マッシュポテトやローストビーフ。スープにパンにステーキやデザートのブラウニー等。

 濃い味でガッツリ系の料理が出ていた。

 

「タイガー、それは普通でーす。確かにVIPルームでちょっと豪華かもだけど、アメリカでは普通にハンバーガーとか出ます。病院食で」

「マジで?」

「マジでーす。もちろん病気にもよるけどね。日本の病院食みたいにヘルシーで見た目もいい食事、こっちにはありませーん。初めて見て、食べた時に感動しました。ジャパニーズ病院食、アメージング!」

「そういえば昔、盲腸で入院したことあったっけ。ジョナサン」

「あたしも覚えてるよ。この子ったら入院した事を連絡しないで、退院した後に病院食が凄かった! って連絡してきたんだから」

「あの時はまだ日本に来てそんなに経ってなかったから、とても心配でしたー。手術して何日も入院だから、破産するかと思ったよ」

 

 アメリカと日本では保険制度が違い、医療費は高額なので、入院は手術をした後でも日帰りか一日二日。可能であればできるだけ短期ですませる傾向にあるので、日本の入院は長い! 治療費が心配! と当時は訴えていた。保険を持たず治療を受けられない人も大勢存在するし、治療費で破産も本当にありえる話だそうだ。

 

 そんな環境で俺は一週間入院したけれど、海外旅行保険と権力者パワーで何とかなったのは幸いだった。

 

「日本で凄いのは病院だけじゃないよ。カプセルホテル! 一度泊まってみるまでは狭くて、遺体安置室みたいな部屋を想像してたけど、入ってみたら寝るには十分広いんだよ。座っても天井にあたま、ぶつからないの。それに横になりながら見られるテレビもついてるしー、枕元に全部の電気やエアコンのスイッチがあって便利だしー、あとお風呂は共用だけど日本のホテルはとても綺麗!」

「ワオ!」

「それは凄いな!」

「一度泊まってみたいわね」

「……先輩、なんでこんなに盛り上がってるんですか?」

「俺もよく分からないけど、日本の普通が海外では凄いんだろう。日本の常識は世界の非常識、とか言われてるし」

「はーい皆! 注目!」

 

 何事だろうか? 

 エレナがテーブルから離れて注目を集めた。

 

「タイガーの退院を祝して、ショータイムよ! カモン!」

 

 合図と共に、部屋の外から楽器を抱えた安藤一家が続々と入ってくる。

 ……あれ?

 

「いつの間に?」

 

 隣にいたはずのアンジェリーナちゃんが、扉の外から入ってきている。

 料理を勧めてから一度離れたのか?

 そんなことを考えているうちに、楽器の用意が整ったようだ。

 

「タイガーは私たちの演奏、初めてだったわね?」

「しっかり聞いててよね」

 

 ロイドがキーボード。エレナはギター。カレンさんはチェロ。

 そしてジョージさんがサックスを吹き、曲を奏でる。

 静かで温かみのあるメロディーが流れるその中心で、アンジェリーナちゃんは口を開く。

 途端にあふれ出る旋律に驚いた。

 伸びやかで心地よく、歌声を耳にした瞬間から目を離せない。

 ただひたすらに、歌声を聴くことだけに没頭させる強制力のようなものを感じる。

 

 …………………………強制力?

 

 正気に戻ったのは、歌の終わりに差し掛かった頃。

 確かにびっくりするくらい、彼女の歌は上手かった。天才じゃないかと思う。

 だけど心を強く持つと強制力は薄れていく。

 まるでオーナーの倉庫で精神に攻撃を受けているのに近い感覚。

 効果はまず間違いなく“魅了”。

 それを確認したところで曲が終わり、室内は大きな拍手で満たされた。

 

「ブラボー!」

 

 叫んだのはコールドマン氏。

 他の皆も、演奏をしていた家族すらも熱狂している様子だ。

 水を差すのもどうかと思い、この場は黙っておくことにした。

 後で改めて話をしよう。

 

 なお、続く二曲目、三曲目にも魅了効果はあった。

 しかし同時に、魅了効果で歌が上手く聞こえているわけでないことを確信した。

 アンジェリーナちゃん、ハイスペック過ぎる……

 

 ちなみにその後、俺もバイオリンを演奏することになった。

 わざわざ俺が以前教えた“情熱大陸”を練習してくれていたようだ。




影虎たちは、アメリカのチームと今後も協力していくことが決定した!
これにより今後、
アイテムや装備品を購入する際の金銭的負担が軽減され、
江戸川の薬品生産力が向上します。


シャドウや影時間は桐条が作り出したのではなく、
それらを研究する過程の事故で日常化したはず……
なので日本以外にシャドウがいても、それに対抗しようとする組織があってもいいと思う。

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