人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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153話 戦力強化

 ~表~

 

「次が来たぞ。バーバリアンの剣が一匹。ウルフが三匹。ウルフが先だ。そっちは俺が片付ける」

「はい!」

 

 前に出て、先頭の一匹へ先制のマリンカリン。

 

「グルルル……ガウッ!」

「ギャウン!?」

 

 悩殺されたウルフは突如体を反転させ、後ろに続いた一匹へ飛びかかった。

 残された一匹は困惑したようにもつれ合う二匹を見ている。

 

「グゥ……」

 

 そんな背後から頭と首へ刃をつき立てて吸血。

 悲鳴をあげる前に仕留める。

 さらに悩殺されたウルフに捕まっている一匹へとどめ。

 最後に同士討ちで傷ついた一匹を片付ければ、残るは遅れてきたバーバリアン一匹のみ。

 

 ネコダマシ……プリンパ……デビルタッチ……!

 三回目で効いた。バーバリアンがおびえたように足を止める。

 

「行け!」

「ネメシス! ……バスタアタック!」

「グアアアアッ!?」

 

 力強い気の塊が腹部を貫く。しかしまだ息がある。

 

「もう一度! 今度は魔法で!」

「ジオンガッ!」

 

 降り注ぐ落雷により、バーバリアンは跡形も無く消え去った。

 ……一発の威力は現時点で俺を超えてる。けど、

 

「大丈夫か?」

「は、はい! まだいけます!」

 

 息は荒く、顔には玉のような汗をかいている。

 バスタアタックにジオンガ。

 どちらも強力なだけに体力と魔力の消費が激しいようだ。

 俺のように敵から吸収する手段も無いので、スタミナが問題になる。

 バスタアタックを七回でこの状態となると、撃ててあと一回か二回。三回はギリかな……

 ジオンガはもう少し撃てるかもしれないが……

 

「このくらいにしておこう」

「えっ、もうですか!?」

「今日は上限が知りたくて連発させたけど、スキルは“必殺技”だと考えてくれ。強力なスキルほど消耗が激しくて、無計画に連発すれば慣れてる俺でもすぐに力尽きる。少しずつ慣らしていかないと危ない。

 ……というか、ここで敵を倒せる威力があるなら十分だ。タルタロス下層の敵はもう少し弱いから」

 

 弱点を突けばどうとでもなるが、下層の敵と比べたら普通に強敵。

 初心者の練習にしてはだいぶ格上の相手と戦っていると思うけど……ちょうどいい。

 

「天田。もう一……三匹来た。全部バーバリアン。二匹は俺が倒すから、一匹任せる。一人で倒してみろ」

「はいっ!!」

 

 天田は即席の槍を構えてやる気を示す。

 

「行くぞ!」

 

 敵は斧、剣、素手が各一匹。

 接近される前にガルの連発で斧持ちだけは、ダウンから立ち直る暇を与えずに倒しきる!

 

「ガァァッ……」

「天田!」

「ジオンガ!」

 

 消え行く斧の後から来た剣持ちのバーバリアン。

 その剣が一瞬避雷針に見えた。

 天田もちゃんと弱点は把握しているようだ。

 

「お前はこっちだ!」

「グッ? グラッ! グガガッ!」

「一発で効いた?」

 

 バリゾーゴンが効いたのか、それとも仲間がやられて頭にきたのか。

 どちらにせよ素手のバーバリアンが見るからに怒っている。

 そして攻撃は俺へ集中。これで天田のほうへは行きそうになくなった。

 けど一気に倒させてもらう。

 

 バリゾーゴンはヤケクソの状態異常にする魔法。

 ヤケクソ状態だと敵の攻撃力は上がってしまうが、防御力が落ちる。

 攻撃も激しくなるけれど、

 

「その代わりに防御が甘くなる!」

 

 大振りの拳が振るわれる前に懐へ入り、ラクンダを使用。

 さらに防御力を下げ、隙だらけの体に連続攻撃。

 一撃は弱くとも、防御力を下げきった状態にして手数で押しつぶせばいいのだ。

 

「……セェイッ!!」

 

 気合と共に打ち込んだ二連打。

 打たれた巨体は力なく倒れて霧に代わる。

 天田は……戦闘中。

 

「はぁ……はっ、っ! ペルソナ!!」

 

 バスタアタック。

 敵は頭を吹き飛ばされて消えていく。しかし……

 

「っ……」

「大丈夫か?」

 

 意識はあるけど、もう歩くのも辛そうだ。

 背負って拠点へ運び込む。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~リビング~

 

 疲れ果てた天田をソファーへ寝かせる。

 

「江戸川先生、天田君は?」

「だいぶ疲れているようですが、それ以外に問題はなさそうです」

「ただスキルを使いすぎただけだだよ、母さん」

 

 事情を考えると無理もないけど、天田は少々シャドウに対して攻撃的だ。

 とにもかくにも攻撃を叩き込んで一刻も早くシャドウを倒したい……違うな。

 殺したい、という焦りがオーラに見える。

 武器での攻撃がいまいち効きにくいことも焦りの原因だろう。

 ガンガン行くように指示はしたけど、ペースが速くてあっという間にガス欠。

 

「ま、これで今の限界は分かったかな?」

「はい……」

 

 理性では理解していても、体は動いてしまう。

 今後も注意が必要だ。

 

 しかし、今日のところはもう動けまい。

 

「それじゃ俺は実験に入るので……母さん、先生、よろしくお願いします」

 

 天田を二人に任せて、俺は窓際へ。

 

「どうですか?」

「敵影は無い」

 

 ジョージさんから短い答えが返ってきた。

 天田と倒したしな……安全なのはいいが、これでは実験ができない。

 

「バーバリアンを一匹か二匹、引っ張ってくる事はできないか?」

「……それしかないですね。近くを探してきますから、皆さんは“例の弾”を用意していてください」

「承知した」

 

 マガジンを交換する彼らを横目に、俺は窓から飛び出す。

 

 現状、シャドウに有効な戦力を保持しているのは俺を含めた三人。

 その内、天田とアンジェリーナの二人はペルソナと魔術の初心者だ。

 自衛のためにも今後のためにも、今は早急な戦力の強化が求められている。

 

 そのための方法として、昼に作ったのが“対シャドウ特殊弾”。

 塗料でフルメタルジャケットの弾頭に“テュール”のルーンを書き込んだ拳銃弾。

 まんま矢印の形をしているそれは、軍神である“トール”や“勝利”を象徴するルーン。

 そのためルーンを用いた古代の兵士は、自らの剣にこのルーンを刻んでいたそうだ。

 それを真似て作ってみたが、実際の効果は未知数。

 魔力はちゃんと十分な量が込められただろうか?

 成功すれば通常弾が対シャドウ兵器へ変わる。

 それはつまり、ボンズさんたちも有効な戦力になれるかもしれない。

 

 その効果を試すため、俺は見つけたバーバリアンを引き連れて戻る。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~リビング~

 

 結論から言うと、効果は微妙だった。

 

 昨日の影時間に普通の弾丸でシャドウを相手にした四人に特殊弾を使ってもらったところ、昨日より効いているとは感じられたそうだ。しかし、やはりペルソナや魔術にはかなわない。

 

「いやいや、これはこれで使いようがあるとも」

「弾薬の節約。費用の削減にはなる」

「要研究、ですね」

「ヒヒヒ……その意気ですよ」

 

 改良するとしたらどうするか……

 改良案その1、単純に威力を上げる。使用ルーン候補:ウル。

 改良案その2、属性を付与する。使用ルーン候補:カノ、イス、ハガル、ソーン。

 

「威力はともかく、火や雷は作業中の暴発が怖いんですよね……」

「この弾を作るときも言ってたね」

「薬室に送られていなければガスは拡散して弾丸の威力は落ちる。とはいえ危険は危険か」

「それに弾頭ってルーンを書き込みにくいですし」

「ならばいっそ、それ用のルーン魔術を開発しては?」

 

 アメリアさんやボンズさんと意見交換をしていると、先生が提案した。

 どういうことだろう?

 

「仏教用語の一つに“加持”という言葉があります。これは神仏がその摩訶不思議なお力を信仰する人々に与えるという意味の“加”。そして人々がそれを受け入れるという意味を持つ“持”。この二つが合わさり“加持”となります。……簡単に言うと神仏と人、双方同意の上で力の貸し借りをするのですねぇ、ヒヒッ。

 そしてこの加持。種類が色々ありまして、その一つに“刀加持”と言うものがあります。これは悪鬼羅刹や魔性の存在を調伏するために、人間の刀をお不動様の持つ剣に見立てて行う加持です。刀は代表的なもので、他の武具に対して加持をしても“刀加持”と呼びます。今回の特殊弾は神仏ではなくルーンの力ですが、目的としていることはそう変わらないでしょう」

 

 確かに。

 

 さらに話を聞くと、加持には加持を執り行うための儀式があるという。ならば特殊弾を作るためにも、儀式とまでは行かなくても、そのための手順ややり方を定めてはどうかというのが先生の提案だった。

 

「難しく考えなくても構いません。ただ手順を決めて繰り返すうちに、それは貴方のルーティンとなるでしょう。“ルーティン”あるいは“ルーチン”という言葉、一度は聞いたことがあるはずです。

 これは毎日決まった仕事など繰り返すという意味で、ルーティンワークはつまらない、なんて言われる事もありますが……“いつも通り”の行動をすることで余計なことを考えずにリラックスできたり、集中力を高めたりする効果もあるのです。

 リラックスに集中、特殊弾だけでなく魔術を扱うには必要なことですねぇ……ヒヒッ」

 

 なるほど……試してみる価値はありそうだ。しかし何から始めよう?

 

「まず未加工の弾を箱から取り出して、ルーンを書き込む必要はある……」

「それから箱に詰め直し、魔法円でも書いてみては? 円周の内外へ弾に込める魔術の詳細を記載すれば、こういうことがしたい! と自らの意思を確認することにもなるでしょう」

「ある程度まとまった数を一度に作れると我々は助かるな」

「弾薬の違いは考慮しなくていいの? 特殊弾に適した物質があったりしないかしら? たとえば物語に出てくるような銀の弾丸とか」

「高くつくわりに威力は低いって聞くし、あたしは売ってる店なんか見たこと無いよエイミー」

「弾薬なら私が手配する。通常使われる弾丸なら近日中に集まるだろう。……銀は記念品とでも言って注文するしかないな」

 

 こうして相談しながら特殊弾作成用のルーティンを考えているうちに、今日の影時間は終わりを迎えた。




影虎は対シャドウ特殊弾(貫通属性・威力微増)を作れるようになった!

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