人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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15話 禍福は糾える縄の如し

 ~影時間・タルタロス2F~

 

 エントランスから二階に入りなおしたら中の様子が変わる、と言う事はなかった。

 眼前には相変わらずシャドウのいない寂しい通路がのびている。

 日をまたぐと普通に道は変わるし、おそらく中のマップが変わるのは影時間の終わりか始まりの、あのガチャガチャした変形の時なんだろう。

 

 レアシャドウを探し回って五分、周辺把握が小さな階段の付いた台のある部屋とレアシャドウの存在を捉える。もう何度も感じたこの形を間違えるわけがない。早速疑問を確かめるとしよう。

 

 俺は普段使っている隠蔽と保護色を使わず、隠れることなく部屋に入って部屋の真ん中に居るレアシャドウへ近づく。いったいどんな反応をするか……と思って観察すると、レアシャドウはこちらを振り向き、体をブラブラ揺らしながら俺から距離をとる。

 

「……」

 

 しかし、いままでのように走って逃げはしない。部屋の隅から遠巻きに様子をうかがっている感じだ。とりあえず俺も様子を見ながら直進。周辺把握で警戒はするが、体はレアシャドウを無視して壁際に寄ってみる。

 

「!」

 

 するとレアシャドウは部屋の入口から離れる俺をチラッと見てから廊下へ走り去った。俺も急いで廊下に飛び出すと、走り去るレアシャドウの姿がだんだん遠ざかっていく。しかしいつものように突然消える事はない。

 

 ……かなり微妙な反応だが、すぐに逃げないところを見ると“レアシャドウも俺をシャドウだと思っていた”ということでいいのだろうか? まるで不審者を見たような動きだったし。

 

 時間をかけてシャドウじゃない事を確認していた可能性もあるが、レアシャドウって元々他の種類のシャドウと一緒に居ないんだよな……他の種類のシャドウが嫌いなのか?

 

 よし、今度はそれを確かめられないか試してみよう。今だってドッペルゲンガーを忍者装束と翁面に変えているんだから、宝物の手に似せることだって出来るは……!?

 

「早っ!?」

 

 ドッペルゲンガーの形を変えようとしたら、驚くほどのスピードで形が変わった。

 擬音で現すと普段の服装やさっきの投げ縄への変形はジワジワッなのに、今回はシュバッ! 早い分には困らないけど、何でだろう? しかも色まで全身金ピカに変わってる。

 

 周辺把握で確かめてもサイズが多少大きいくらいで、形状はいままで周辺把握で何度も確認した宝物の手と相違ない。って、まさかそれで? 形状をしっかり把握していると変形も早くなるんじゃないか? 

 

 まぁ、これは後々検証するとして……とりあえずこれで見た目は予想以上にうまくいっただろう。

 

 

 

 それからレアシャドウの姿で探し回る事さらに五分。俺は正面から歩いてくるレアシャドウを見付けた。探していると一秒一秒が長く感じるが、これでハッキリする。あわよくば倒せるともっといい。

 

 そんな考えを隠し、俺は廊下を歩く。レアシャドウもこちらに歩いてきているので、このままいけばすれ違うことになるが……

 

「………………」

「………………」

 

 互いに無言のまま、一歩、また一歩と距離が縮まる。

 

「…………?」

「! …………」

 

 もう少しで飛び掛れば手が届きそうな距離に達すると言うところでチラリとシャドウが俺を見たが、落ち着いてスルーを心がけると…………

 

 レアシャドウも俺をスルーした。すれ違っても逃げずに同じペースで歩いている。

 

 よっしゃ! チャンス!! 

 

 完全に騙されたらしく、こちらに背を向けて無警戒なシャドウへ飛び掛る。すると俺の拳はシャドウの頭部を強く殴打、できなかった。

 

「なっ!?」

 

 確実に当たると思った次の瞬間、シャドウは急に頭をそらして背後からの拳を回避。そのまま前傾姿勢で逃げてしまう。

 

「嘘だろ……何で避けられんだ? 今回は声も出してないのに。いや、それが宝物の手の探査能力?」

 

 考えてみれば、探査能力なら視界に頼らなくてもいい。俺の周辺把握も目で見る必要は無いし、能力の範囲内であれば動きも分かる。……そう考えると周辺把握は戦闘にも応用できそうな気がしてきた。

 

 動きが分かれば不意打ちにも普段の回避行動にも役に、って、まさかレアシャドウの能力も周辺把握か?

 

 ……レアシャドウが周辺把握を使えたとする。

 回避行動への応用は出来るとして、何故俺の隠蔽や保護色がばれたのか?

 

 周辺把握は物体の表面の形状や動きで情報を集める。

 そして隠蔽や保護色は自分の存在を隠す事が出来るが、体が消えるわけではない。

 隠蔽で誤魔化しきれずに、体の表面を読み取られたら?

 少なくとも、見えない何かが居ることは分かる。

 しかもそれが動いたりしたら

 

「……そんな怪しいのがいたら俺も警戒するわ」

 

 隠蔽でごまかせても足が着いてる場所とか、一部だけポッカリ読めない場所ができていたらそれはそれで怪しいしな。

 

 周辺把握なら、問題になるのは範囲だ。

 仮にレアシャドウが広範囲を把握できるとしたら、俺と出会う前に逃げるだろう。

 今回は姿を変えてるから上手く騙せたかもしれないが、前は違う。俺の肉眼で見えるくらいまで近づく必要が無い。

 となると、レアシャドウの周犯把握で探査できる距離は狭い。こんな所か。

 予想でしかないけど前にジオで奇襲をしかけたときは成功したし、もう一度探して試してみよう。違ったら又考え直せばいいんだし。

 

 

 一つの疑問が解決すると、次の疑問と新たな予想が生まれる。

 調子よくパズルが解けていくような感覚で気分がよく、軽快な足取りでレアシャドウを探しに向かう。しかし、それから急にレアシャドウは見つからなくなってしまう。

 

 二十分近く探し続け、もう襲いつくしたのかもしれない。帰ろうか……と思った矢先に周辺把握が転移装置を見つける。帰ろうと思ってすぐ見つかるなんてタイミングがいいな。そろそろ影時間の終わりも気になるし、残念だけどもう帰るか……

 

 

 

「?」

 

 転移装置は長い廊下の途中に置かれていたが、装置に近づくと周辺把握の限界ギリギリに何かがひっかかる。しかし、全体までは読み取れない。そちらに目を向けてみるけれど、まっすぐ伸びている廊下は薄暗くてよく見えない。

 

 それが気になり、仕方なく確認のために近寄ってみると……

 

「まさか……!」

 

 歩みに伴って明らかになる物体の正体が分かり、鼓動と歩みが早くなる。

 横道を無視。俺は一直線に突きすすみ、突き当たりの袋小路へ駆け込んだ。

 

 そこに居たのはシャドウじゃない。

 宝箱などの物でもない。

 そこに居たのは一人の“人間”

 サラリーマンらしきスーツ姿の男性が倒れていた。

 

「大丈夫ですかっ!? 聞こえますか!?」

「う、ううっ」

 

 駆け寄って肩を叩きながら声をかけると、男性は苦しそうにうめく。

 息はある! 脈もある。意識も弱いが、ある。迷い込んだ人がこの時期から居たなんて……とにかく急いで外へ!

 

 倒れている人は不用意に動かすべきではない。けれど、この場に居るほうがもっとまずい。

 

「タルカジャ! スクカジャ!」

 

 補助魔法で力と素早さを上げた体で男性を担ぎ上げ、一目散に転移装置へと向かうが……悪い事は重なるものだ。

 

 ジャ…… ジャラ……

 

 薄暗い廊下に音が響く。

 その音は小さいのにはっきりと耳に届き、間違いなくこちらに近づいてくる。

 

 ジャラッ…… ジャラリ…… ジャラッ……

 

 そして、来るときの横道に差し掛かった俺は見た。

 横道の先の角から現れる幽鬼の姿を。

 ぼろきれのような服に鎖をまとい、銃身の長い拳銃を二丁構えたシャドウ。

 一目で分かる“死”の塊。

 

 “刈り取る者”が現れた。




葉隠影虎は成長のためのヒントを掴んだ!
しかし強敵と遭遇してしまった!

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