ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ
ヤバイ!!!!!!
目に付いた瞬間脳内はその一言で埋め尽くされ、足が勝手に転移装置へ駆け出していた。
あれはヤバイ! 何がヤバイかって何もかもがヤバイ! 今の俺じゃ絶対に勝てない!
全速で逃げるが鎖の音が背後に、間違いなく追って来ている。周辺把握の感知距離は100メートルほど。連日の使用で距離は伸びてきているが、それでも200メートルは無いはずなのに転送装置にたどり着かない。短いはずの距離が遠い。足の震えか背中の男が重いのか、いっそ男を捨ててしまおうかとの考えが頭をよぎる。
そんなときに思い出す。こんな時こそ、トラフーリを使うべきであると。
それに気づくまでは僅かな時間でも、十分に対応を遅らせてしまった。
「!? がっ!?」
慌ててトラフーリを使う直前、“刈り取る者”が俺へ銃身を向けた事に気づいて全力で斜め前に跳び退く。するとその直後俺の居た場所が爆ぜ、同時に発生した熱風に煽られて転倒。いや、吹き飛ばされた。
「くそっ!」
今のは? 熱、火、アギ系の何か、でも俺のアギの比じゃない。いくらなんでもあんなのが直撃したら即死だ!
混乱しかけた頭と体を無理やり起こすと、背負っていた男性の重みが無い。何処に……と思えば俺の少し先まで吹き飛ばされている。駆け寄った勢いで腕を掴み、改めてトラフーリを試みるが……
「っ!?」
刈り取る者の持つもう一丁の銃口から、怪しい光を放つ球体が打ち出された。
これが、漫画でよく言う時間が間延びする感覚……なのか?
光の玉はやけにゆっくり向かってくるし、刈り取る者の一挙手一投足が完全に把握できる。そして自分の体も同じく動きが緩やかだ……
だから分かる。トラフーリが間に合わ……
「うぉおおおおおお!!!!!!」
ないからといって諦めるなと自分に喝を入れ、全力で男性の腕を引く。
もう一度! 俺はまだ死んでない!! あれを避ければその隙にチャンスがある!!
しかし意識を失った成人男性は重く、タルカジャをかけても腕の力だけで引き上げるのは容易ではなかった。運びにくい、だけど背負い直す時間は無い。
「ガルゥウウウウウ!!!!」
俺は全力で男性を抱え込み、渾身のガルを放つ。
足元から吹き上がる攻撃に使えるほど強い突風による風圧と気持ちの悪い浮遊感に包まれ、追い討ちの衝撃波が体を吹き飛ばした。
「が、っは……」
体を貫くような痛みと廊下をバウンドした事で、肺の中の空気が押し出される。
きつい、だけど生き……!
また刈り取る者の攻撃で吹き飛ばされたんだろう、気がつけば眼前に、文字通り目と鼻の先に転移装置があった。
「う、らぁああああああ!!!!!!!」
痛む体に鞭打って、がむしゃらに力を振り絞り、抱えた男性ごと転移装置へ飛び込む。すると刈り取る者の行動が変化した。
「オオオオッ!!」
突然の咆哮。
転移装置に飛び込む俺達目掛け、両手の二丁拳銃を突き出す。
銃口にはまたあの光が今度は二つ。早く起動しろ!
「!!!!!」
自分で理解できない声を上げながら転移装置を叩く。
そして刈り取る者が光の玉を撃ち出した瞬間爆音が廊下に響き、光が俺と男性を包み込んだ。
間にあわなかっ……
…………生き、てる?
来ると思った衝撃や痛みがいつまでも来ず、そっと頭を庇う腕をどけて周りを見ると、俺達はエントランスの転移装置の上にいた。隣には気を失った男性も居る。ということは
「っはぁ、はっ、うっしゃあ! 逃げられ」
助かった……!?
状況を理解して安心した途端、急に体が痛んで震えが止まらなくなる。
「うっ!」
腹の底から胃液がこみ上げてきた。喉に熱く焼けるような不快感を感じる。
酷い吐き気に襲われて体を動かせば、今度は体重のかかった手足を中心に全身から激痛。
「ごほっ、けほっ、くそっ」
逃げられたけど、酷くやられた。手足は動くし、骨は折れてない。だけどヒビくらいは入っているかもな……動くのがつらい。とりあえずディア、は無理か。いつの間にかドッペルゲンガーは消えている。もう一度……出せない。回復アイテムは……無い。ついでにまとめておいたゴミもない。
「逃げるときに落としたか……いや、たしかここに」
手の痛みを堪えてズボンのポケットをまさぐると、折りたたんだ一万円札が出てくる。
よし! 荷物と別にお金を入れておいて良かった、これで回復時計が使える。値段は一回五千円だった、俺の次にあの人も回復させよう。
しかし、体を引きずって時計にすがりつくと値段のメーターには
“全回復、一回七千円”
………………
「値上げ!? っ!」
痛っ、傷に響く……こんな時に値上げかよ!
足元を見られている気がするが、払える額だ。
一万円を時計の台座に突っ込んで“全回復”のボタンを押す。
すると転移装置とはまた違った柔らかい光が俺の体を包んでいく。
「……治ったのか?」
ぬるま湯に浸かるような暖かさが数秒。どんどん体の痛みや疲れが和らいで、光が消えるとさっきまで疲労困憊だった事が嘘みたいだ。……マジでどんな仕組みなのか分からない。絶好調ではないけれど、試してみるとドッペルゲンガーの召喚に成功する。
これならあの人はディアで回復できるな。早速、いや、その前にここから出るか。万が一、今刈り取る者がここに来たら、きっと今度は逃げ切れない。
……痛みが消えて冷静になると、あの刈り取る者は
今ここに居られるのも頭をよぎった思い付きに縋りつき、考える間もなく実行した破れかぶれの悪あがきが功をそうしただけ。助かる保障なんて無い。もちろんここに来る以上、命の危険があるのは分かっている。それでも必要と踏んで、できるだけの安全策を講じていたつもりだ。
しかし……始めは慎重になりすぎ、今度は油断。そのバランスが分からない……間違ってもそれを諌めてくれる仲間も、相談できる相手も俺にはいない。これからどうすべきか……と気にしつつ男性を担いでエントランスから外に出た。
「うぉっ!?」
その瞬間、担いだ男性の感触と大きさが一変してバランスを崩しかける。
何とか堪えて体制を立て直してみると、なんと今まで人の形をしていた男性が紅く不気味な棺桶に変わっている。
“象徴化”!? このタイミング、タルタロスを出たからか?
タルタロスから少し離れたあたりで適当な路地に入り、棺桶を地面に寝かせるようにそっと下ろすが、この状態でディアを使っても効果は出るのだろうか?
……全然効く気がしない。こうなったら前にタカヤが言っていた人を影時間に落とす方法を試そう。ペルソナの力を注げばいい、と言っていたけど……
ここ最近毎日シャドウから体力や魔力を吸い続けた感覚を思い出して、それを普段なんとなく使ってる魔法を使う感じで逆向きに……そうすれば“吸う”の逆で“送り込む”事が
あ、できるわこれ。
自分でやって驚くくらい簡単に力が抜け、棺桶に置いた手を通じて注がれている。
難しいとか言っといて、全然簡単じゃないか。それともこれだけじゃダメなのか、と考えていたら、何事も無く象徴化が解けて棺桶が人に戻った。
まぁ、できたならいいか。
で……息はあるけど、まだ意識は無い。外から見える範囲の怪我は、体中に打撲か骨折による腫れ、足に火傷少々、それと右肩、これ脱臼してる? ……この人気絶していて良かったな。意識があったら激痛でのたうちまわりそうだ。いや、痛みで気絶したのか? とにかくどれだけ治せるか……
「ディア」
患部に添えた手から何かが抜けるのを感じる。同時に内出血の跡が薄れた気がする。
一目瞭然と言うほどの効果は見えないけれど、このまま繰り返せば少しは治せそうだ。
自分の体力に気をつけつつ、ディアを連発して治療していく。
だが、ここで俺は大きなミスを犯した。
治療に集中するあまり、まわりへの注意が薄くなっていた。
だから、俺は気づかなかった。
「ディア……」
「ポリデュークス!!」
「!?」
まだ影時間。聞こえるはずの無い人の声に驚いて目を向けると、路地の先から見間違えるはずも無い。桐条先輩と真田明彦が駆けつけて来ていた。俺と彼らの距離はまだ遠い。大声で叫ばれなければもっと気づくのが遅れただろう。
それでも十分に遅かった。真田は頭に拳銃を付きつけ引き金を引いて、青い光と共に一体のペルソナが現れている。それはゲームでは自分でも使ったことがある。“ポリデュークス”
「!!」
突然現れたポリデュークスが眼前に迫り、杭のような右腕を突き出してくる。
初動の遅れは致命的。横から胸を殴られた俺は、ボールのように軽々と弾き飛ばされた。
「カッ、ハッ……グッ……」
息ができない。声も出ない。目の前がかすむ。呼吸をするたび胸が強く痛む。そんな状態でも今日は三度目、おまけに刈り取る者ほどの恐怖は感じない。地面を転げる勢いに逆らわず、逆に利用して素早く立ち上がる。
「美鶴! 被害者を!」
「任せろ!!」
「……! シャドウめ!」
前半聞き取れなかったが、シャドウと間違われているのは分かる。
「ま、ゴフッ、ヒュー……!」
「貴様はここで倒す!!」
問答無用かよこの脳筋バトルジャンキー野郎!!
今度は自分の手で殴りかかってきた。右ストレートを右に避ける。左フック、腰を落とす。ジャブを受けながら後退。そのまま跳んでボディーを避ける。
「ほう、意外とやるじゃないか! なら、これで!」
周辺把握の補助を受けて、かろうじて避け続ける俺へ続けざまに拳のコンビネーションを繰り出す真田明彦。その顔はどこか面白そうで……
――――――――――――プチッ――――――――――
その顔を見た瞬間、俺の中で何かが切れた音が聞こえた。
命からがら逃げ延びて、今度は原作キャラと遭遇。
次回、別視点。