人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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172話 召喚の応用

 影時間

 

 ~テニスコート~

 

「タイガー」

「ん? ロイドか、今日はどうした? エイミーさんも連れて、昨日の続き?」

「まぁ、そんな感じだね」

「実験に協力してくれたって聞いたわ。ありがとう。それと結果を教えてほしいの」

 

 そういうことか。

 結論から言うと、応用は可能。

 召喚は意外と自由度が高かった。

 

 まず召喚したシャドウの形状変化、これは成功。

 ただしシャドウの活動に支障をきたす場合がある。

 

「最初に何をどう変形させようか迷って、マーヤを変形させ慣れたナイフに変えたところ、“ナイフ形のマーヤ”になりました。これは俺の指示に従って攻撃魔法を撃てましたが、自分で動けませんでした」

「マーヤは這って動くシャドウだったわね。ナイフにされて、それができなくなったと」

「だと思います。試しに浮かぶ生首の姿をしたシャドウ、“囁くティアラ”をナイフ形にしたところ、こちらは浮かんで移動できましたから」

「形が変わっても、能力は同じと考えてよさそうね」

 

 召喚で生み出したシャドウは能力の調整も可能。

 

 気と魔力とMAGから作ったシャドウが、何故自然発生したシャドウと同じスキルを使えるのか?

 

「実験中に不思議に思って色々試してみたんです。そしたらどうも俺のスキルを一部コピー(・・・・・)しているんじゃないかと」

「どういうこと? 詳しくお願い」

 

 そのままの意味なんだけど……

 

 何度も言うが、俺の召喚は三種類のエネルギーでシャドウを作っている(・・・・・)

 決してどこかから連れてきたり、呼び出しているわけではない。

 エネルギー源も、製造者も、俺。

 

 そこからはほとんど直感に従った。

 

 たとえば臆病のマーヤのスキルは“ブフ”。

 残酷のマーヤだったら“アギ”。

 囁くティアラは“アギ”に回復魔法の“ディア”が加わる。

 

「考えてみると、今召喚できるシャドウのスキルは俺も持ってるんですよね」

 

 だから昨日は“トランスツインズ”の召喚も試してみた。

 

「トランスツインズのスキルは“吸魔”、“ジオ”、“マハジオ”。この内、マハジオを俺は持っていません。それを承知でやってみたら、見事に失敗しました」

 

 その後で“マハジオを持ってないトランスツインズ”と考えてやったら成功したけど。

 

「とにかくこの実験の結果から、

 既存のシャドウを召喚する場合、対象となるシャドウのスキルが揃っている必要がある。

 所有していないスキルを最初から省き、劣化版としての召喚なら可能。

 召喚シャドウの能力は俺の意思で調整できる。

 以上の三点が判明しました」

 

 さらに言ってしまうと、既存シャドウの情報はガイドラインのようなもの。

 料理を作るときに、本のレシピを参考にするのと変わらない。

 

「え、じゃあ完全にオリジナルのシャドウも作れたりするんじゃ……」

「それもできないことはない。だけど、なかなか面倒くさい」

 

 オリジナルはゼロから作るから、既存のシャドウよりも難しい。

 そのため召喚に少し時間がかかる。

 そういう意味では既存シャドウのガイドラインも役に立っていたのだろう。

 

 さらに実験中、与えられたスキルの数は最高で三つ。

 だけどまだ技量が足りないようで、エネルギーの負担が大きかった。

 実用性を考えると、現状ではスキル二つが限度だろう。

 おまけに強力なスキルほど負担になりやすく、スキルによっては一つで限界に達する。

 

 そして召喚シャドウは総じて、俺と比べてスキルの威力や効果が大幅に下がる。

 

「当分は使い方を考えながら、練習と実験の繰り返しだな」

 

 召喚の条件らしきものと、応用できることが分かっただけでも大きな進展だ。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 翌日

 

 8月25日

 

 朝食後

 

「表情もだいぶ自然になってきたわね」

「ありがとうございます」

 

 表情の指導を受けていたら、珍しく褒められた後、新たな練習に入ると伝えられた。

 

「次は“感情の込め方”よ。

 どんなに優れた脚本の、どんなに含蓄のある台詞でも、演者が感情を込められなければ途端に上っ面だけの薄っぺらい言葉に成り下がるわ。それは舞台上でもマスコミ対応でも同じ。

 たとえ怒りを感じて言葉を荒げても、気まずさで顔がヘラヘラ笑ってたら本当に怒ってるのか冗談か、相手に伝わりにくくなる。そして貴方の言葉が本心でも。演技でも。相手に届かなければ(・・・・・・・・・)それまでよ。これまでの練習内容はそういう誤解を生まないために使えるわ。表情と声を一致させて、あとは言葉に十分な感情を乗せなさい」

 

 そして指示された練習内容は、感情を表現する前に、まず自分の感情を把握すること。

 

「楽しければ楽しんで、怒りなら怒って、悲しみなら悲しむ。自分の感情をコントロールしなさい」

 

 そして始まった感情表現の訓練は、言葉では表現できない難しさがある。

 声と表情はそれなりだが、感情が乗り切っていない。

 エリザベータさんが言う、薄っぺらい演技になっているようだ……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

「見つかった……」

 

 演技の勉強が終わり、アンジェリーナちゃんとのかくれんぼ。

 目を皿のようにして踏み込んだ部屋のクローゼットからアンジェリーナちゃんを発見。

 できたけれど……

 

「ごめん、今回ノーカウント」

「?」

 

 不思議そうな顔でこちらを見つめるアンジェリーナちゃん。

 実は今回彼女を見つけられたのは、能力を使ったからだ。

 何とか彼女を見つけようと捜索していたら、うっかり見えてしまった。

 彼女のオーラがクローゼットから漏れているのを。

 このかくれんぼでは能力の使用は禁止なので、今回は俺の反則。

 

 そう説明しても彼女の態度は変わらず、何を言ってるの? と言いたそうな顔。

 かと思えばハッとして、急に両手を振り始めた。

 

「違う。それは違う。勘違い、してる」

「勘違い?」

「ペルソナ禁止。魔術も禁止。でも能力は禁止じゃない……」

「……ん?」

 

 もしかして、俺のオーラを見る能力はペルソナの力でも魔力でもないからOKって事?

 しかも勘違いって事は、最初から使って探す前提だった?

 そう聞いてみれば、彼女は頷いた。

 

「私も、危険とか見つかりそうな時は分かるから……気づいたら安全なところに逃げる。そういうの、感じて動くのが大切だと思うから……ごめんなさい」

「いや、こっちが勝手に勘違いしてたから」

 

 ……この“かくれんぼ”は、霊感の使用が前提。

 というのもアンジェリーナちゃんは人の“気配”とでも言うべきものを感じているそうだ。

 彼女自身の能力の影響か、そういうものに敏感だったらしい。

 しかし気配やそれを察知する方法を上手く言葉で説明できず、実技で教えようとした。

 だからペルソナと魔術を禁止したが、それを俺は“能力は全て使用禁止”と履き違えていた。

 本当は周辺把握と便利な魔術だけを禁止にして、気配を感じてほしかった。

 むしろ霊感はどんどん使ってほしかった。

 

 申し訳なさそうなアンジェリーナちゃんを励ましながら確認すると、そういう事だった……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 昼食後

 

 ~会議室~

 

 コールドマン氏に時間を作っていただいて、マスコミ対応にスピーチの手法を教えていただくことになったが……邸宅の最上階にこんな部屋まであったとは。

 機密保持のためか室内に窓はない。

 扉は電子ロックがついた分厚い鉄板入り。

 壁には巨大なモニターが埋め込まれている。

 防音? そんなの当たり前。

 

「驚いているところ悪いが、時間は有限だ。早速始めよう。スピーチの内容は考えてきたかね?」

 

 もちろんだ。

 

「では最初にどの程度できるのか、見せてもらいたい」

 

 ということで、一度これまでの事件についてスピーチを行う。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 前世の社会人生活で培った技術と経験。

 昨夜読み込んだ著書の知識。

 二つを合わせてスピーチの内容を組み立てた。

 

 そして二度目の人生で培った胆力。

 演技指導で身に着けた声と表情の調整。

 それらを使って、スピーチを行った。

 

 ……二度の人生を合わせて、最高の感触だ!!

 

「いかがでしょうか?」

「なかなか立派なスピーチだった。私が本に書いた要点をよく守っていたし、話し方も実に堂々としていた。……しかしまだ甘いところがあるね」

「どのあたりを改善すべきですか?」

「細かい点はいくつかあるが、全体を通してまず一つ。スピーチの内容は君の能力を使って何度も推敲しただろう? よく考えられていて、丁寧で、状況がよく分かった。だがそれだけに……“高校生らしくない”。

 事前に内容を考えておくのは問題ない。記者会見などでは当然のこと。マスコミが来るとわかり切っていたなら、ある程度用意していてもいいだろう。しかし今のスピーチでは“考えすぎ”だ。細部にまで気を使い、徹底的に用意を整えてきたということを感じさせる。

 どうしてそこまでするのか? 何か隠したいことがあるのか? そんな風に、逆に気になってしまうよ。少なくとも私はね」

 

 少々、わざとらしすぎるか……

 

「今のままでは、大人から強く指示を受けて喋る子供、と思われる可能性が高いな。まぁ誰かの指示だったとしても、今のスピーチをマスコミの前でできれば、高校生のわりに立派と評価されると思うが……不自然さは極力なくしたほうがいい」

「スピーチの質を落としますか?」

「いや、せっかくここまで高めた質をわざわざ落とすことはないよ。ただ少しだけスピーチの内容を大雑把にしよう。マスコミは話を聞いたらそれで終わりじゃない。必ずより詳細な情報を聞き出そうとする。だから最初の説明を大雑把にした分、その後に来る質疑応答で今の話をすればいい。

 最初に出す情報の不足から、事前準備の甘さを演出(・・)するんだ。だから質疑応答で詳細を説明することを前提に説明は簡略化。その分スッキリと話を聞かせられるように考えてみよう」

 

 コールドマン氏から改善のアドバイスをもらった!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ごく軽く疲れが出始めた頃、コールドマン氏の指示で用意されたお茶と軽食をいただきながら、雑談することになった。スピーチの練習は明日以降もできるし、こうした会話も勉強の内にするそうだ。

 

「おっと、忘れていた。君に相談したいことがあったんだ」

「相談したいこと?」

「君達の帰国についてだよ。具体的にはまだ話していなかっただろう」

「そういえばそうでしたね」

 

 うちの両親の体調を見ながら考えることになって、そのままだった。

 

「Dr.江戸川にご両親の事は聞いてみた。回復しつつあるが、まだ安静にしていたほうが無難だそうだ」

「俺としてはできるだけギリギリまで休ませてあげたいですね」

「帰国を急がず、二人の逗留を延ばしてはどうだろうか?」

「そのあたりは父に聞かないと何とも。俺の荷物や宿題はこちらに来る前にまとめてあるので、当日の朝の到着でも、寮に寄る時間さえあれば出席に問題はありませんが……心配をかけた知り合いに挨拶するなり、桐条のご令嬢に根回しをするなり、一日はあった方がいいですね」

「となると日本時間で8月30日の夜には着くようここを出るのが良いか。その予定で飛べるように飛行機を用意するよ」

 

 時々雑談を交えながら、帰国後について詳しい話を詰めていく……


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