人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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今回は三話を一度に投稿しました。
前回の続きはニつ前からです。


174話 継続は力なり、その二

「おっ」

「タイガー、魔術教えて」

 

 演技の勉強が早めに終わり、部屋に戻る途中でアンジェリーナちゃんが待ち構えていた。

 魔術を教えるのは構わないが、もう俺が使ってたのは一通り教えきったんだよな……

 

「この際、新しい魔術を作るか……何かこんなことがしたい! ってアイデアはある?」

「これ……」

「?」

 

 ポケットから小さな紙袋を取り出してきた。

 袋は薄い青色で、振るとシャラシャラ音がする。

 

「お花の種。さっき貰った」

「貰った?」

「当家の庭師がアンジェリーナ様を気に入ったようで……」

 

 ふと口から出た疑問に、アンジェリーナちゃんと一緒にいたメイドさんが答えてくれた。

 種と一緒に土を入れた鉢植えもプレゼントされたらしい。

 つまり育てる準備はできているが、普通に育てたら時間がかかる。

 でも花が咲いているのを見たいので、魔術で何とかできないか……ということ? 

 

 聞いてみると、アンジェリーナちゃんは何度もうなずいた。

 

「花を育てる魔術……よし、試してみようか!」

 

 しかしここではやりにくい。まず場所を移そう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 ~自室~

 

 さて、まず今回の目的は花を育てる、つまり植物の成長を促進する魔術。

 となれば使用するルーンも植物に関するルーンを選択すべきだ。

 

 候補としては以前、掘削や土の壁の魔術にも使った“イング”のルーン。

 これには豊穣の意味もある。

 他にも“ヤラ”という収穫を意味するルーンもあるし、植物の成長には水や光も必要だ。

 水は“ラグ”。光は太陽光と連想して、活力の象徴でもある“シゲル”……このあたりか。

 記述式で成長を促進すると書き込む手もあるが……

 

「アンジェリーナちゃん、そっちはどう?」

「これだけ」

 

 彼女には使えそうな英単語を羅列してもらった。

 その内容に目を通すと、気になる単語が見つかる。

 

 “Life(生命)

 

 北欧神話に“リーヴスラシル”という登場人物がいる。この人物は世界の破滅(ラグナロク)から生き残り、“リーヴ”というもう一人の生き残りと共に、後の人類の祖となったといわれているが……この二人の名前に共通している“リーヴ”は、ルーンを生活にも使用していた時代の言語。古ノルド語で“生命”という意味を持つのだそうだ。さらにそのつづりは“Lif”で、英語のLifeにも近いのが不思議で面白い。

 

 今回の魔術にはこれを組み込んでみよう。

 ……そういえば以前、家庭菜園の本も買ってたな……

 あの本の内容も参考にしよう。

 

 その後、アンジェリーナちゃんに提案し、最終的に二人で一つずつ成長促進のルーンを作成。

 最後に貰った植木鉢の(ふち)と側面に作ったルーンを書き込み、種を植えて二人で魔力を込めた。

 

「……効果、ない?」

「どうかな?」

 

 変化はないが、魔力がルーンを通して植木鉢に宿っているのを感じる。

 しばらくここに置いて様子を見てみよう。

 

 この後、昼食までかくれんぼをして過ごした。

 昨日勘違いが解けたおかげだろうか……今日は手ごたえを感じた。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 昼食後

 

 ~会議室~

 

 コールドマン氏の授業が始まる……と思いきや、

 

「エリーとの勉強中にトラブルがあったそうだね?」

 

 そう切り出され、今日はお茶を飲みながらの雑談から始まった。

 せっかくなので彼から学んだこともあわせて、簡潔で分かりやすい説明を心がけた。

 

「なるほど……あのエリーが、感情のサンプルだなんて言い方をするとはね」

 

 体調については問題ないことをしっかり伝えたが、食いつくのはそこか?

 

「あの子はお世辞にも教えるのが上手とは言えない、という話は前にもしただろう? それは向いていないというだけでなく、人に物を教える経験が無いことも一因なのさ」

 

 聞けば彼女は幼い頃から、演技に関して天才的なセンスを有していたらしい。

 俺も彼女の演技力は素直にすごいと思う。

 少しずつ指導に慣れるにつれて、自分と彼女の差を強く感じるようになってきたくらいだ。

 

 そう伝えるとコールドマン氏は喜んだが、その後少しだけ落ち込んだように語る。

 

「才能があることはとても喜ばしいことだがね……それ故に、エリーは一般人の苦労が分からない。勿論あの子自身も楽に今の立場を手に入れたわけではないが、練習を続けていたら、いつのまにかできる様になっている。そういう子だった。

 それにあの子は女優であって、トレーナーではない。だから周囲も後輩への指導力は求めていない。性格的に向いているわけでもないからね。それよりも演技力という長所をさらに伸ばすのが、事務所の方針でもあった。

 結果としてエリーはこれまで人に指導をする技術を持たず、またその技術を磨く必要性もなく生きてきた」

「名選手は必ずしも名コーチにあらず、ということですか」

「まさにその通りさ」

 

 ちなみに俺が最初受け取った大量の本について、コールドマン氏が後で聞いたところ、彼女は俺だけでなく、アドバイスを求めてきた人にはいつもやっていると答えたそうだ。

 

「二度アドバイスを求める者はいないらしいが」

「……無理もないかと。俺も能力が無ければ……」

「私も適当にあしらわれているように感じるだろうと言ったら、“本気で演技力をつけたいならそれ相応の勉強も必要だ”と。“練習してできないなら、練習が足りないか下地ができていないかだ”とも言っていたよ。

 本人は演技関係の本を昔から読んでいたし、練習すればできたからだろうけどね……そんな事を行っていたあの子が、“自分の経験から、感情のサンプルを用意する感じかしら……?”だなんて、教え方を考えているような事を言うとは。いくつになっても孫の成長は嬉しいものだ」

 

 口元へ運ばれるティーカップ。

 同じように俺も一口いただくと中身が無くなった。

 

「では、そろそろスピーチの話に移ろうか」

「よろしくお願いします」

「前回でスピーチの内容を決め、ある程度原稿もできた。そこで今回は実際に練習を行う。加えてスピーチの原稿を他にも作っておきたい」

「原稿を複数。内容は?」

「どれも同じ、夏休みの出来事で。想定する違いはスピーチの相手と状況」

 

 マスコミ相手か、クラスメイト相手か。

 スピーチの会場が用意されているのか、路上で突撃取材を受けたのか。

 話す時間がたっぷりあるのか、それとも急ぎで僅かな時間しかないのか。

 

「スピーチと言うと、壇上で大勢に向かって話すイメージが先行するかもしれない。しかし友人同士での会話でも、相手に物事を伝えるという本質は同じだ。問題はTPOに合った話し方。使える時間。状況に合わせたスピーチでなければ、優れた技術も最大の効果を発揮することはできない。

 理想はその都度、即座に状況を把握し、フレキシブルに対応できることだが、いきなりは難しいはずだ。君のアナライズを使えば不可能ではないかもしれないが、万全を期すためだ。今回はあらかじめいくつかのケースを想定して用意をしておこうと思う」

 

 納得の理由だ。

 そして提示されたシチュエーションは六つ。

 

 1.教室に集まったクラスメイト用。

 2.講堂に集められた全校生徒用。

 3.マスコミの突撃取材用。

 4.記者会見用。

 5.動画サイト用。

 6.桐条先輩用。

 

「1番は学校が始まればまず避けられない。

 2番は学校側の都合もあるが、できれば実行してもらいたい。全体で情報を共有し、共通の認識ができれば、多少は面倒を防ぐ役に立つだろう。少なくとも次々に訪れる個人に対してその都度説明してまわるよりは楽になる。

 3番は街中が主な場所。通学中なら遅刻を理由に逃げるのも手だ。注意点はまた後で。

 4番はこれまで練習したスピーチだ。引き続き磨き上げていこう」

「5番の動画サイト用とは?」

「メディアを通さず情報を発信し、視聴者へダイレクトに訴えられるというのは大きな利点だ。メディアの情報操作を受けることがなく、こちらの意思や事実をそのままに伝えることができる。不適切な発言など注意すべき点は多いが、上手く使えれば利は多い」

「なるほど。では最後の6番のクラスメイト用との差は?」

 

 まさか先輩用に敬語でとか、そんな些細な違いではないだろう。

 

「6番は状況説明に加えて、超人プロジェクトの表向きの情報。そして君がプロジェクトのテストケースになった事を加えたい。今後君がプロジェクト関連の活動をする可能性があるという事前報告に、桐条への牽制だ」

 

 牽制。

 俺のバックにコールドマン氏がついていると明らかにして、変な手出しをしにくくするのか。

 

「万が一君が桐条グループに怪しまれた場合でも軽率な行動はとりにくくなるはずだ。プロジェクトの重要人物が突然失踪すれば、私が君を捜索させる可能性くらいは想像できるだろうからね。説明の際には不自然でない程度に親密さをアピールしてくれ」

「お気遣い、本当にありがとうございます」

「実際に仕事を頼む可能性もある。そのときはよろしく頼むよ」

 

 今後のために、コールドマン氏との打ち合わせが続く……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~キッチン~

 

 アンジェロ料理長から料理を教わった!

 ケーキは昨日の練習でだいぶ完成度が上がったらしい。

 作っていて少し驚かれた。

 

 これで今日の授業は終わりだが……

 今日はまだ料理を続ける。

 

「葉隠様。こちらがご注文の品です」

「ありがとうございます」

「? まだ材料は残っているはずだが?」

 

 受け取った物が食材と分かり、料理長に問いかけられた。

 

「これは課題練習用ではなく、気になった事を確かめたくてお願いしたんです」

 

 注文したのは、この屋敷では使われないような“安い食材”。

 一般的なスーパーマーケットからわざわざ買ってきていただいた。

 この食材を使って、俺は課題とは別の料理を作る。

 

「……あの、料理長。なぜそこに?」

「何を作るのか興味があるので見せてもらう」

 

 課題とは違う意味で緊張するが、調理開始。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

「できました!」

 

 “豚肉のソテー with バーベキュー風ガーリックオニオンソース”

 “きのこと野菜の具沢山コンソメスープ”

 “ふっくらフランスパン&カリッとガーリックブレッド”

 “謎の青汁”

 

 以前、皆の回復用に作った四品を作ってみた。

 使った食材は一般的なスーパーで買い集めてもらったので、品質に大きな差はないはず。

 違いが出るとすれば、俺の腕前のみ。

 

 緊張を抑えて、味見をする。

 

「!! 全然ダメだ」

「味が悪いわけではないが、まだ改善の余地はあるな」

 

 アンジェロ料理長の言う通り。

 味は以前作った物よりも美味しいくらいだ。

 回復量もやや上がっていると思う。

 だけど、それでも、以前は分からなかった些細な味のバランスの悪さが分かる。

 改善の余地があると分かってしまい、かつて感じた満足感が無い。

 

「ここの生活で相当舌が肥えたみたいです」

「良い傾向だ。料理の上達に繊細な舌は持っていて困るものではないからな。具体的にどこが問題だと思う?」

 

 料理長の問いかけに、一品一品答えていく。

 すると料理長は答えあわせと共に、問題点の解決策を教えてくれた。

 それらを完璧に実行できれば、さらに良い料理になるだろう。

 

 課題と違うにもかかわらず、丁寧な指導をしていただけた!




影虎はアンジェリーナと魔術の実験をした!
影虎はスピーチの勉強をした!
影虎は料理の勉強をした!

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