人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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175話 衝撃の事実

 夜

 

 ~廊下~

 

 料理の練習から夕食と続いたため、少々食べ過ぎに感じたので、気功で消化を促進。

 エネルギーに変えていたら、いきなり父さんに呼び出された。

 

「父さん? 来たよ」

「入ってくれ!」

 

 面倒に思いつつ部屋を訪ねると……

 父さん、母さん。江戸川先生に天田まで。

 ソファーに日本人が集合していた。

 

「おう、そっち座れ。大事な話があるからよ」

「大事な話?」

「天田君の事よ」

 

 ソファーに座ったタイミングで母さんが補足。

 続けて父さんに目配せをする。

 

「影虎。俺ら、ベッドの中にいる間考えてたんだ」

「いきなり言われても困るだろうけれど、天田君。私たちは今のあなたの保護者に、良い印象を持っていないわ。金銭的な援助はしているようだけど、保護者の義務はそれだけじゃない。そう、私たちは考えているの」

「……はい」

 

 天田は答え方に困っている……

 

「そこでだ。天田、お前、うちの息子にならないか(・・・・・・・・・・・)?」

 

 ……

 

「えっ!?」

「はぁっ!?」

「ヒヒヒ、思い切った提案ですねぇ……」

「ちょっ、ちょっと待ってください! どういうことですか!?」

「父さん、最初からちゃんと説明してくれ。面倒だからって説明を端折るなよ」

「ぐだぐだ話すより分かりやすいと思ったんだがなぁ……いいか?

 俺らは天田の保護者がクソだと思ってる。

 そんで実際に連中は天田が事件に巻き込まれても電話一本、一言で済ませるクソ野郎共。

 俺らはそんな奴を保護者として認めねぇし、天田にとって良い環境とは思えねぇ。

 だったら俺らの息子になって、俺らが保護者になれば万事解決って訳だ!」

「万事解決! じゃねぇよ馬鹿親父!? 突然すぎるだろ!」

 

 天田が困りすぎて固まってるじゃないか!

 

「虎ちゃん落ち着いて。龍斗さんも急すぎるわ。……虎ちゃんと天田君には私から説明するわね」

 

 母さんから説明を受ける。

 それによると、二人は天田の保護者に対して不信感と、同じ保護者として怒りを覚えていた。

 相談した結果、天田にその意思があれば、養子として迎え入れても良いという事で合意。

 二人の合意はあるので、天田の同意があれば養子縁組の最低条件はクリア。

 

「……養子縁組って、そんなに簡単にできるんですか?」

「俺もそう思う。法定代理人(後見人)である今の保護者からも許可を得る必要があるんんじゃない?」

「確かにそうね。だけど代理人が代理人としての義務を果たしていない場合、家庭裁判所に訴え出て認められれば、代理人を解任させることができるわ」

「小学生を全寮制の学校にぶち込んで、金だけ渡して休みにも帰省させねぇでほったらかし。挙句の果てに事故に巻き込まれても直接会ったことのねぇ他人の親に任せきり。保護者の義務を果たしてるなんて言えるかよ?」

「会社の顧問弁護士さんに、龍斗さんの昔のお友達にもその手の問題が得意な弁護士の方がいるそうなの」

「弁護士……」

「天田君。こんな話を急にされて戸惑っているでしょうけど、答えを急ぐ必要はないわ。よく考えるべきことだし、今の保護者を解任するなら、そのための準備も必要になる。だけどこれだけは覚えておいて。……天田君は一人じゃないの。弁護士を用意することもできるし、私たちも天田君が困っていたら協力できる。だから、何かあればすぐに連絡してほしいわ」

「雪美さん……!」

 

 涙目で呟いた天田の頭に、親父の手が覆いかぶさる。

 

「何泣いてんだよ」

「なっ! 泣いてなんか!」

「そうかよ。……まぁ雪美の言う通りだ。あと急な話ですまなかった。日本に帰ったら俺らは仕事もあるし、直接会いにくくなるだろうから、つい、な……あ、だからって遠慮なんかすんじゃねぇぞ? したらその次会ったときにぶん殴るからな」

 

 養子縁組。

 まったく考えていなかったやり方だが、二人も天田のことを考えてくれていた。

 天田も複雑そうではあるが、嬉しそうでもある。

 不安もあるが……最も幸せになれる道を選んでほしい。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

「葉隠先輩、それって……」

「お、訓練用シャドウをもう倒したのか」

 

 召喚の実験をしていたら、天田が顔を引きつらせながら声をかけてきた。

 

「ええ、だんだん慣れて……じゃないですよ!? なんで“ルサンチマン”を使ってるんですか!?」

「ああ、大丈夫だよ。これ外見だけだから」

 

 ルサンチマンを使っているのではない。

 ルサンチマンの形をした、オリジナルシャドウだ。

 それも“囁くティアラ”をベースにして能力も与えてない、宙に浮かべるだけのシャドウ。

 

「名付けて“移動用シャドウNo.01”」

 

 ルサンチマンはまだ扱えないが、攻撃に対する守りの堅さや飛行能力が使えれば便利だ。

 日本に帰って天田もタルタロス探索に加わるなら、移動手段があった方が良い。

 だから試してみた。

 

「一応飛べたけど、スピードは遅いし防御力も低い。そして何よりルサンチマンほど快適じゃない」

 

 ルサンチマンの中は体にフィットして常に快適な硬さと沈み具合だったけど、これは硬い。

 改善の余地はまだまだある……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 翌日

 

 8月27日

 

 朝

 

 ~自室~

 

 朝目覚めたら、預かった鉢植えがすごいことになっていた。

 

「おはようございます、葉隠様。……それはどうなされたのですか?」

「朝起きたらこうなってました。たぶん昨日の魔術の効果が出たんでしょうね……」

 

 鉢植えからは茎が伸び放題。

 自重を支えきれずに倒れてしまい、鉢を置いてテーブルの足にまで絡み付いている。

 そして肝心の花はコスモスのようだけど、

 

「枯れてる……」

 

 成長が進みすぎて、種になってしまっているようだ。

 二人ががりで魔術を行使したのは過剰だったか?

 植物の成長促進には成功したが、これじゃ綺麗な花は見られない。

 まだ改良する必要がある。

 でも目下の問題は、

 

「アンジェリーナちゃん、がっかりするかなぁ……」

 

 作業中の楽しみなオーラ。輝いていた目。

 それらを思い出すと、結果を伝えるのが少々心苦しい。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~食堂~

 

 朝食の時間で人が集まるが、今日はエリザベータさんの姿が見えない。

 席を外している事は珍しくもないが、昨日のこともある。

 やはり忙しいのだろうか?

 

「今回の相手先が少々頑固なようだね。それに事務所の担当者も弱腰だと息巻いていたよ」

 

 本気で怒ってたしなぁ……

 まぁ、彼女がいないならここで話しても大丈夫だろう。

 

 魔術実験の結果を皆に報告した。

 

「もう一度やる」

 

 アンジェリーナちゃんはやはり、がっかりしている。

 しかし次回への熱意もあるようだ。

 

「ちなみに気づいたらスキルが一つ増えてたんだけど、たぶんその実験が原因だと思うんだ。アンジェリーナちゃんにも増えてない?」

「……増えてる。“豊穣祈願”?」

「それそれ、同じスキルだね」

「名称から概ね検討がつくが、詳細は?」

 

 父親として害がないか気になるんだろう。

 ジョージさんの声がやや固い。

 

「危険はなさそう。貴重な材料がとれやすくなる。それから取れる回数が増える……?」

「作物の質が良くなったり、生産量が増えるんじゃないかと思います」

「ペルソナには本当に多種多様な能力があるんだな」

「アンジェリーナがそれで野菜を作ってくれたら、家計の助けになるかもねぇ」

「グランマったら」

「私はグランマに賛成。影響する範囲によっては、食糧問題を改善する一助となる可能性を秘めているかもしれないわ。攻撃魔法も体内にある魔力を、火なら熱。風は風力。雷は電気。私たちが日常的に使う様々なエネルギーに変換して利用できるかもしれない。使い方さえ間違えなければ、元手がかからなくて環境にやさしい、クリーンなエネルギーを生み出せる、ペルソナは可能性の塊なの。わかる?」

「分かった。分かったから落ち着きなさい、エイミー」

「なぁカイル、近頃エイミーが以前にも増して思考に没頭してないか?」

「いくら考えても疑問や調べたいことが尽きないんだろう。ロイドが能力を手に入れて、手がかりも増えたからな」

「他人事みたいに言いやがって。毎晩付き合わされる身にもなってくれよ……」

「「俺たちはペルソナを使えないから仕方がない」」

「この野郎共ッ……!」

 

 エイミーさんに付き合わされる、ウィリアムさんのストレスが大きそうだ……

 

「とにかくペルソナは戦力でもあるが、平和的活用の道も考えられるということだね。将来を見据え、そちらの道を探求するのも有意義だと思う。

 タイガー。アンジェリーナ。余裕があるときにでかまわないから、新しく得た“豊穣祈願”を試したら結果を教えてほしい」

 

 確かに平和利用は悪くない。

 日本に帰ったら気長に調べてみよう。

 プランターなら寮の部屋でも置けるだろう。

 もし部室の周りを使えたら家庭菜園でも……あっ。

 

「? タイガー。どうかしたのかね?」

「一つ思い出した事があって。特殊な作物の苗なんですが、育てると特殊な効果を持つ野菜があったはずなんです。体力や魔力の回復はもちろん。即死魔法を無効化したり、敵の攻撃を反射したり」

「そんな作物があるのかね!?」

「というかそれは野菜なの!?」

 

 声を上げたのはコールドマン氏とジョナサンだが、この場にいる誰もが驚いたようだ。

 

「そんなものがあるなら是非とも手に入れたいが……調達は難しいだろうか?」

「いや……実際に見たことはありませんが、買えそうな場所に心当たりはあります。それに売ってるのが主婦だったり、そんなに貴重な扱いをされているようには思えません。少なくとも俺の持ってる情報では」

 

 だいだら.と八十稲羽市の存在は既に確認できている。だからそのあたりを調べてみれば分かるかも知れない。

 

「八十稲羽市?」

 

 そう告げたところで、意外な声が上がる。

 

「父さん。何か知ってるの?」

「だいぶ前の話になるが、龍也がその町に住んでる親戚の店で昔修行してたんだ。それにあの辺は海も近くて、走ると気分の良い道が多くてな。若いころはよく遊びに行ってた。つーかお前を連れてった事もあるぞ」

「マジで!? いつ!?」

「まだ歩けもしない頃だ。さすがに覚えてねぇか。俺が最後に行ったのもそんくらいだし、苗のことはわからねぇ。でもあそこの事なら龍也に聞けば何か分かるんじゃないか? 本人が知らなくたって、あいつの修行先の親戚に頼めば調べてもらえるかも知れねぇし」

 

 なるほど!

 

 そんな繋がりがあったとは知らなかったが、望外の有力情報だ。

 さっそく叔父さんの修行先について聞こう。

 そう考えたところで気づく。

 

 叔父さん。修行先は親戚の店。これってもしかして……

 

「ねぇ父さん……その親戚の店ってさ、“愛家”って店じゃない? 肉丼がある」

「なんだ、覚えてんのか? “愛家”で合ってるぜ」

 

 ペルソナ4で度々登場する“愛家”は、俺の親戚の店でもあったようだ。




天田は養子縁組という道を提示された!
影虎は移動用シャドウを作った!
影虎は“豊穣祈願”を習得した!
影虎たちは“苗”に興味を示している!
影虎と愛家の関係が発覚した!

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