人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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警告:今回と次回には携帯アプリを利用した会話として、一部が台本形式のようになっています。苦手な方はご注意ください。


183話 片付けの最中

 一時間後

 

 料理に舌鼓を打ちながら会話に花を咲かせ、皆には満足してもらえたようだ。

 

「どれも見事な料理だった。楽しませてもらったが、そろそろ時間だな。あまり夜遅くなってしまうとまた問題になる」

 

 ということで、用意したお土産を配ってパーティーはお開きとなった。

 最後に皆にも飲食をしたスペースの片づけは手伝ってもらったが……

 

「葉隠、こっちの皿はどこの棚だ?」

「右から三番目の棚です」

 

 約一名、荒垣先輩は裏での皿洗いまで手伝ってくれていた。

 どうも何か目的があるようなので、順平たちには俺の荷物を持って帰ってもらった。

 山岸さんや会長たちには、天田を寮まで送って欲しいと頼み、先に帰ってもらった。

 桐条先輩や真田には本人が何か言ったのか、今ここには俺と荒垣先輩のみ。

 

 できるだけ有利な状況に立っておきたいが、まず何がしたいのか……

 静かに食器を片付ける音だけが響くキッチンで、彼が行動を起こすのを待つ。

 

「葉隠。聞いていいか?」

 

 来た!

 

「何でしょうか?」

「お前がヤク中の集団に襲われた時のことだ。“ブラッククラウン”とか呼ばれてる奴に助けられたんだよな?」

「そうです。それが何か?」

 

 誰かに聞かれる事は想定していたが、真田でも桐条先輩でもなく、荒垣先輩が聞いてきたか。

 

「そいつをどう思う?」

「どう……テロ騒ぎの事ですか? あの人が首謀者なんて噂も出てるみたいですが、助けられた一人としては、悪く言いたくありませんね。確かに怪しい風貌だったけれど、無差別テロの首謀者とは思えません」

「……お前、そいつと何か話したか?」

「逃げる時にこっちだとか、そのくらいなら。ちゃんとした会話はしてません。と言うか、できませんでした。状況が状況だったので」

「そうか」

「……気になるんですか?」

「人並みにはな」

 

 オーラは青、かなり冷静なようだ。

 ペースを掴んでおきたい。

 少し突っ込んだ話をしてみよう。

 

「意外ですね」

「あ? 何がだ?」

「いえ、その話を聞いてくるのは真田先輩か桐条先輩だと思っていたので」

「……そう思うか?」

「桐条先輩とは向こうに滞在していた時に少し連絡を取っていたんですが、その時にテロ事件をやけに気にしていたようでしたから。真田先輩の方は言わなくてもわかるでしょう?」

「確かにな」

 

 わずかにオーラが揺らぐ。

 表情にも緊張が見られた。

 影時間に関わる事だし、警戒したかな?

 でも続ける。

 

「そんなわけで、質問されるなら二人のどっちかだと思ってたんです。まさかどちらでもなく、荒垣先輩に先に聞かれるとは思いませんでした」

「色々とバタついてるみたいだからな。忘れたんじゃねぇか」

「桐条先輩はそうかもしれませんが、真田先輩がですか? それは少し考えにくいかと。だってあの真田先輩ですよ? 以前より多少マシにはなってるようですけど、強さを追い求めているのは今も変わらないでしょう」

「……よく見てるな、お前」

「不本意ですが、自分自身とよく似たタイプらしいので」

 

 ……オーラに僅かな悲しみと怒りを配合。

 演技の練習を思い出せ……

 

「俺もまた会えたら会いたいです。ブラッククラウンに。礼を言いたいのもそうですし、できることなら少し戦い方を教わりたいとも思います。あの時俺たちが助かったのは 他の人たちの協力もありますが……一番は先導してくれたあの人の活躍です。彼が銃を持って襲ってくる連中をなぎ倒してくれたおかげで、親父たちは車を奪って逃げる事ができました」

「葉隠。そのなぎ倒したってのは……」

「文字通り、殴る蹴るで銃を持った相手を軽々と倒してましたよ。とにかく身軽で、あっという間に。正直人間業とは思えませんが、それで俺たちは助かっています……俺は後ろからついて行っただけでしたよ」

 

 オーラの変色に伴い、沸きあがる悔しさ。

 それを頭の冷静な部分で制御し、心の内に留めておく。

 あまり明確に外には出さず、言葉と堅い表情にほんの少しだけ滲ませる。

 

 同時に荒垣先輩のオーラも観察。

 先ほどよりも動揺が大きいようだが、すぐに冷静になり、

 

「何言ってんだ、お前は女の子を一人助けたんだろうが」

「確かにそうなんですけどね。あんなのを見てしまったら、どうしても実力不足を感じます。それに結果的には助けたことになりますが、俺からすると意識を失ってるうちに全部終わって、ブラッククラウンも消えていたんで。どうもスッキリしないんですよね」

「……あまり気にしすぎるな。普通の人間ならそんなもんだ。その中でもお前は十分強い方だろ。アキとまともにやり合えるくらいだしな」

 

 荒垣先輩から、励ましの意思を感じる……

 どうやら“力不足を感じて悔しがっている演技”に成功したようだ!

 これなら俺がブラッククラウンだとは考えていないだろう。

 最低限の布石は打てた。

 

 それに“普通の人間としては”など、もう少し突っ込めそうな発言もあったが……

 そこまでは突っ込まないでおこう。

 ただこの話の流れと先輩の発言は記憶に止めておく。

 いつの日か、誰かの注意を引くために使えるかもしれない。

 

「ありがとうございます」

 

 その後、荒垣先輩は俺がブラッククラウンについての情報を持っていないと判断してくれたのようだ。ブラッククラウンについてさらに追及されることはなく、残りの洗い物を片付けながら聞かれたのは、料理の味付けなど当たり障りのない話題だけだった。

 

 最後に彼は、

 

「アキにも言ってるが、あんまり無茶するんじゃねえぞ。それから天田のこと、よく見といてやってくれよ。お前にはだいぶ懐いてるみたいだからな」

 

 そう言い残し、一足先に帰って行った。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~ポロニアンモール・裏路地~

 

 店内を借りる前の記憶と比べ、元通りになったことを確認。

 最後にゴミを捨てて帰ろうと路地裏の通用口から出た。

 すると路地の一番奥に、青い光が見えている。

 

「……間違いないよな……」

 

 自分の目を疑った。

 しかし青く輝く扉は確かに見えている。

 

「ベルベットルームの扉? 昨日はなかったのに、どうして……?」

 

 周囲に人がいないことを確認し、慎重に扉に触れる。

 その瞬間、意識が途切れるような感覚に陥った。

 

「ようこそ。ベルベットルームへ」

「!! イゴールさん……」

「またお会いできましたな。葉隠様」

 

 前と同じ、真っ青な部屋。

 やっぱりベルベットルームに入れたらしい!

 

「ここは育むべき自我を持つお客人のための部屋。一度ここを訪れた貴方には、ここを訪れる資格がございます。しかし……残念ながら、以前お伝えした通り、貴方はいまだ何者かの大いなる力に縛られておられます。それゆえに、残念ながらここを訪れる事が困難になっているようだ」

 

 ……またそれか。

 

「でも困難、ということは不可能ではないんですね?」

「その通り。本日のように空から月が消える“新月の夜”は、貴方を縛る力が僅かに弱まるようです。こちらをお持ちください」

 

 イゴールがテーブルに手を置くと、小さな鍵が現れた。

 

「契約者の鍵」

「左様。今後、新月の夜に貴方が望むのであれば、私めは歓迎させていただきます。そして先日と同じように、ペルソナとの対話をお助けしましょう。それが私めにできるせめてもの協力」

 

 これからは月に一度、ドッペルゲンガーと意見交換ができるようだ!

 

「それは非常にありがたい」

 

 早速今日からと思ったが、今日は都合が悪いそうだ。

 

「このままでは貴方のいらっしゃる現実で、少なくない時が流れてしまう。これ以上のお引き止めはできますまい……」

 

 そういえば前回は四日間も眠り続けたんだった。

 

「ご心配召されるな。あなたは短い旅を終え、前へ進むためのヒントを手に入れられたようだ。それに気づき、自らを信じて一歩を踏み出せるかが鍵……次にお迎えする時までには、問題がないように準備を整えておきましょう」

「ヒント? ……分かりました。よろしくお願いします」

「では、その時まで……ごきげんよう」

 

 イゴールの言葉を受け入れた途端、ベルベットルームが遠ざかっていく……

 

「ん……」

 

 気づけば裏路地へ戻っていた。

 ベルベットルームへの扉が消えている。

 しかし鍵は持っていた。

 

「また一歩前進かな」

 

 考えるべきことは色々あるが、まず人に見られる前にゴミを捨てて帰ることにした。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~自室~

 

 一ヶ月ぶりの男子寮。

 荷物は順平たちに運んでもらったので、ほとんど荷物もなく身軽な体で帰ってきた。

 しかしここに来て、騒ぎの大きさがよくわかる。

 周辺把握の感知範囲内には、大小様々なカメラを所持した集団が七組。

 全て男子寮付近の道に張り込んでいた。

 

 まず間違いなく帰ってきた俺を待ち構えているんだろう。

 もっとも、ドッペルゲンガーで変装した俺に気づける奴はいなかったけど。

 入り口前には確かに警備員が二人、立っていた。

 しかし彼らも寮生全ての顔を覚えているわけではないらしい。

 変装していても男子高校生らしい格好なら止められなかった。

 

「まずは無事に着いたことを連絡しておかないと」

 

 携帯のメニューから新しいチャットアプリを起動する。

 登録したグループ内でのチャットが可能で、情報共有に便利らしい。

 パーティーの席で山岸さんから聞いて、流れであの場にいた皆で登録したが……

 

 

 ――グループ名:影虎問題対策委員会――

 

 順平 “男子チーム、無事男子寮に着きましたー”

 宮本 “やっぱマスコミっぽい連中張り込んでるな”

 友近 “影虎のスーツケース引いてたら、飛び出してきてカメラ向けられた。そんで人違いに気づいて舌打ちされた。何だあれ”

 

 Kirara“ショタ君の護衛完遂! 先輩たちと協力して、無事に小等部の寮までは送り届けたよ。でも寮の中で生徒の目に付いちゃって、ザワザワしてるみたい。大丈夫かな……”

 

 桐条 “天田の身柄は直接、寮内の職員に預けた。彼女らも対応は心得ているだろう。

 それから男子チーム、そのマスコミがいた場所と背格好、その他情報を記載してくれ。

 こちらから注意しておく。葉隠もこれを見たら、帰宅する際には注意してくれ”

 

 天田 “遅くなってすみません。クラスメイトに挨拶して、無事に部屋に入れました。寮母さんや他のスタッフさんが見張ってくれてるので、野次馬が押しかけたりもしてません”

 

 既に何回もチャットでやり取りが行われている……というかタイトル名、もうちょっと良い名前は無かったんだろうか? ……とにかく報告しよう。

 

 

 影虎 “寮の自室に帰宅成功。マスコミ、生徒、どちらにも気づかれずに済みました。

 自室前に路上から部屋の窓を狙うマスコミの姿を確認。可能であれば排除を願います”

 

 あとは、っと。返信早いな。

 

 桐条 “了解、警備の者に通達して追い払わせる”

 順平 “え? 帰ってきたのか? 全然静かだけど”

 

 影虎 “桐条先輩、よろしくお願いします。

     順平へ、こんなこともあろうかとアメリカで変装とスニーキングの技術も学んできた”

 

 宮本 “お前、何しにアメリカ行ったんだ……?”

 会長 “まぁ、無事で何よりだね”

 友近 “帰ってきたなら荷物、そっちに持って行こうか?”

 

 外に光が漏れて帰宅がバレないように、暗い部屋の中で連絡を取り合った……

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