人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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184話 潜入

 翌日

 

 9月1日(月)

 

 朝

 

 ~男子寮・食堂~

 

「今日から学校かぁ……マジでダルイ」

「おいおい、初日の登校前からそれかよ」

「だってさー、うちの学校、始業式の後にもう授業やるんだぜ」

「うちは進学校だからしかたねぇって。少しでも多く勉強させたいんだろ」

「それよりさ、一年のあいつ、学校に来るのかな?」

「どうだろうなぁ……帰ってきたとこ見たって話は聞かないし」

 

 隣の席の男子生徒たちが、俺の噂をしている……

 他にもそこかしこから俺の事を話している声が聞こえてくる……

 今日はドッペルゲンガーをカツラ代わりに、髪の長さを変えただけ。

 それでも意外とばれてないようだ。

 

 昨日の料理。皆への説明。変装と潜伏……

 学んできたことが結果として現れていることを確認して席を立つ。

 食べ終わったトレーを返却し、上着と荷物を持って登校。

 この時間なら遅すぎず早すぎず、のんびり歩いてちょうど良い時間に着けるだろう。

 

 

 

 ――グループ名:影虎問題対策委員会――

 

 影虎 “寮を出ました、これから登校します。マスコミにばれた様子はありません”

 

 桐条 “了解、学園の警備を再確認する。

     それから始業式でのスピーチと撮影した動画の件だが、どちらも許可が出た。

     動画と同じ内容であればインタビューに答える許可も取り付けた。

     場所はこちらで用意しよう。

     君は登校したらクラスではなく、生徒会室に顔を出してくれ。始業式まで匿おう”

 影虎 “了解。このアプリは顔を合わせるまでこのままにしておきます”

 桐条 “私の方もそうしておく。何かあればすぐに連絡を”

 影虎 “ではまた後で”

 

「おい、本当に来るのか?」

「学園は無事を確認してるって話ですし、おそらく」

「おそらく? 撮れなきゃ帰れないんだぞ……ったく」

 

 風景に溶け込むことを意識して、息巻いたカメラマンの横を素通り。

 スニーキングミッションのようで、少し楽しくなってきた。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ……………

 

 

 ~大通り~

 

「おい、何だよこれ」

「すいません、ちょっとお話よろしいですか? 旅行中に撃たれた葉隠さんが」

「通してよー!」

「映ってる? 私映ってる!?」

 

 学園に続く道の()に、大勢の取材陣が詰めかけている。

 取材を受けて足を止める生徒。野次馬として取材を眺める生徒、そして無関係な通行人。

 道が少し細くなっていることもあり、通行の邪魔になっている……

 

「良くないな……」

 

 ――グループ名:影虎問題対策委員会――

 

 影虎 “問題発生。通学路前の道に多数の報道関係者あり。散発的なインタビューで通行が妨げられています”

 

 証拠として写真も添付する。

 

 会長 “私にも今連絡が入ったよ! 写真ありがとう! これ酷いね!”

 副会長“警察は来ていないようだな……”

 

 桐条 “おそらく、学校の敷地内では警備が邪魔をするから、その前で自由にということなんだろう。取材マナーの悪さには困ったものだ。いま警備員をそちらに送るよう手配したが、粘るだろうな……”

 

 実際に目にすると壮観だ。

 これが俺のニュースに飛びついたマスコミか……

 しかしマスコミの行動によるものとはいえ、学校前の公道で警察沙汰。

 ……学園のイメージの悪化が心配だ。

 

 そう考えていると思い浮かぶ。

 この騒動原因は俺、マスコミが一番関心があるのもおそらく俺。

 インタビューを俺が引き受けて誘導し、ある程度状況を改善できないだろうか?

 

 飢えた獣の中に飛び込むような真似だ。

 以前までの俺なら、避けようとしていたはず。

 しかし今はむしろ、やる気が湧いてくるようだから不思議だ。

 

 ……自信がついたのかもしれないが、調子に乗って思いつきで行動するのは良くない。

 逆に混乱を生む可能性もある。

 一応先輩方に提案してみよう。

 

 副会長“狙いは分かるが、インタビューは学園で用意した場所で行えばいい”

 桐条 “既に解決に動いている。早まった行動はするな”

 影虎 “了解、生徒会室へ向かいます”

 

 反対されたので、この場は無視だ。

 人ごみに紛れ、少し迂回して校舎を目指す。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~生徒会室~

 

「失礼します」

「誰……葉隠か」

「おはようございます、副会長」

「無事に着いたようだな。無茶をしていないか心配だったのだが、杞憂に終わってよかった」

「桐条先輩、先ほどの件ですか? あれは単なる思いつきですから」

 

 あの状況を放置したらどうなるかを想像したと、冗談のように伝えておく。

 

「あまり冗談にならないことを言わないでくれ……前にも言ったが大人は本当にピリピリしているんだ」

「でも張り詰めっぱなしはよくないよね」

 

 ため息混じりの桐条先輩に、会長がマグカップを手渡す。

 

「それにしても葉隠君、よく何事もなくここまでたどり着けたよね。男子寮にも大勢マスコミが張り込んでたんでしょう?」

「変装して普通に入口から出てきましたよ」

「変装は見ればわかるが、その程度で騙せるものなのか? 髪の長さくらいしか違わないじゃないか」

「変装の秘訣はできる限り自然に、周囲に溶け込む事。気合の入れすぎも逆効果だそうです。気配を消して他の男子生徒に紛れたら、意外と気づかれないものですね」

 

 朝食も寮の食堂でしっかり食べてきたと言ったら、もはや呆れられてしまった。

 

「とにかく無事ならいいよ。それより始業式ではよろしくね。何もないけど時間までゆっくりしてて」

 

 会長の言葉に甘え、椅子を借りてスピーチの内容を再確認する。

 学んだテクニックを一つずつ。

 これまでの練習も思い出す。

 

 ……やっぱり、おかしいな……

 

 さっきの野次馬を見た時にも感じた。

 独特の高揚感が湧き上がってくる。

 体が熱を帯びて冷めない。

 時計の音が澄んで聞こえはじめた。

 一秒ごとに近づくその時が待ち遠しい。

 

 この感覚、地下闘技場で煽られた初日に似ている。

 戦闘じゃないのに……ルサンチマンの影響かもしれないな……

 

 時間になれば、思い切りやる。

 だからもうしばらく我慢しろ。

 

 瞑想をして心を落ち着けながらその時を待つ。

 先輩方から声がかかるまで……


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