人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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今回は五話を一度に投稿しました。
前回の続きは四つ前からです。


186話 順風満帆?

 ~始業式後~

 

 危ねぇー!! 桐条先輩に怪しまれてた……

 何とかごまかせたけど、内心はヒヤヒヤだ。

 帰ったら何か適当な理由を用意しておこうと心に決め、教室へ。

 

 久しぶりに顔を合わせるクラスメイトに多少は騒がれたが、始業式でのスピーチが上手くいったおかげか、状況説明の必要はなかった。さらに気を使った順平たちも壁になってくれたので、クラスでは少し騒がしい程度。先生の到着後は速やかに授業が始まり、早くも日常に戻ってきた実感が湧いてくる……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 気づけば昼休み。

 うちのクラスは穏やかだ。

 しかし他のクラスからの野次馬が集まりかけていたので、仕方なく生徒会室へ避難。

 

「やぁ葉隠君、今朝ぶりだね」

「すみません会長。またお邪魔します」

「全然構わないさ。葉隠君は忘れてるかもしれないけど、前に生徒会の仕事を手伝ったことあるよね? あの時に手続きしたから、君も生徒会の一員なんだよ?」

「あれ? それって一時的な手伝いのはずじゃ……」

「うん。だけどそのために生徒会役員としての試用。つまり私の推薦で、私の管理の下、お試しで働いてみる手続きをしてもらったんだよね。その期間が終わる時には私からまた別の書類を提出しないといけないんだけど、実はその書類をまだ提出していません! よって君はまだ試用期間中の生徒会役員なのだ!」

「おい清流。その話、俺も初耳なんだが」

「うん、武将には言ってない。ていうか私も書類を出してないことに今朝気づいた。書類整理してたら別の処理済み書類の隙間から用紙が出てきてさ……いやー、問題になる書類でなくてよかった」

「……不幸中の幸いだな」

「というか生徒会役員に試用期間とかあるんですね」

「会長は選挙だけど、副会長以下は結構色々やり方はあるみたい。転出や転入による欠員もしくは増員の必要が出た場合に利用できる特例とか、結構この学校独特のルールがあったりするんだよね。

 まあとにかくそういうわけで、葉隠君には二つ選択肢があるんだ。仕事ができるのは見せてもらったし、このまま正式に生徒会役員になっちゃうか、あるいはやめちゃうか。個人的には役員になってもらった方が助かるなぁ~」

 

 避難場所ができるのはありがたいが、部活やバイトもある。

 生徒会役員の仕事までこなせるだろうか?

 

「あぁ、その点は心配しないで。仕事は前と同じ、皆の補助でいいから。それも時間が空いてる時とか、気が向いた時に来てくれれば十分助かるし」

「確かにこの先は文化祭、それに三年は修学旅行などのイベントが控えているからな……」

「正直猫の手も借りたいっていうのが本音なんだよね」

 

 部活やバイト優先でいいのか……

 避難所にする間はここで能力を活用し仕事をする、それくらいなら。

 

「わかりました、お手伝いさせていただきます」

「本当!? ラッキー! 助かるよ~。じゃあこれ、正式採用に関する書類ね。こことここに名前。あとこっちにサインをお願い」

「……用意がいいですね」

 

 あっという間に用意された書類に記入し、正式な生徒会役員になった!

 

「ありがとう! これからもよろしくね!」

「経緯はともかく、君には期待している。歓迎させてもらうよ」

「よろしくお願いします」

 

 なんとなく雰囲気で握手を交わしていると、生徒会室の扉が開く。

 

「なんだ? 楽しそうじゃないか」

「あ、美鶴~。葉隠くんが生徒会役員になってくれたんだよ」

「葉隠が?」

 

 状況がつかめていないようなので、先輩に説明。

 

「なるほど、怪我の功名だな。事実これから生徒会はさらに仕事が増える。有能な者は大歓迎だ」

 

 彼女はそう言ってから、思い出したように話題を変える。

 

「マスコミとの話だが、今日の放課後でも構わないか?」

「問題ありませんが、急ですね」

「昨日の動画と今朝の演説が効いたようだ。あの後、本人に話させてもいいんじゃないかという話になったらしく、学校側から許可が降りた。どうせ下校中を狙ってマスコミが張り込むだろうから、情報を流して校門前に集める。そこでインタビューを受けてくれ。

 ひとまず君の無事と事情説明だけでも。質問への返答はできる限りで良い。あまりにも長くなりすぎるようなら一旦打ち切り、別の日に場を設けるよう調整もできる。最初からその条件で許可を出すからな」

「承知しました」

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 放課後

 

 ~昇降口~

 

 俺と一緒に桐条先輩と警備員が二名。

 周辺把握は校門前に陣取るマスコミの姿を捉えている。

 

「よし、行くぞ」

「はい」

 

 先輩の一言を合図に、俺たちは校門へ。

 

「来たぞ! カメラ撮れ! 撮れ!!」

「葉隠君ですよね!? 報道テレビです! お話を」

「毎夜新聞です! 先日放送された番組の」

「撃たれたというのは本当ですか!?」

 

 絶え間ない質問と終わらないカメラのフラッシュ。まるで嵐のよう。押し寄せる記者たちの体は先生方や警備の方々が押し止めてくださっているが、そのせいで横に広がり校門が封鎖されてしまった。

 

 そこへ冷静に声をかける。

 

「取材の方々ですよね。申し訳ありませんが、このままだと下校中の生徒の迷惑になりますので、お話はもう少しあちらに移動してからでもよろしいでしょうか?」

 

 まず慌てて返事をするのではなく、少しでも優位に立つため、周囲への配慮を理由にして相手の出鼻を挫く。逃げるつもりはない。インタビューに応じるという意思を込めるのを忘れなければ、マスコミもある程度おとなしく従うとコールドマン氏は言っていた。

 

 そして実際に目の前の彼らも少し勢いを落とし、俺を囲みながらではあるが、校門から出て右側の壁沿いに集まった。俺は壁を背にして半円になったマスコミに囲まれた形になったが、これで生徒の通行には問題がなくなった。そして十分におちつく時間も取れた。

 

「ご協力ありがとうございます。ところで今日は何から話せば?」

「番組の!」

「いやアメリカでの襲撃について!」

「ネット上の噂ですが!」

 

 漠然とした質問をすると、まとまりのない記者団からバラバラの質問が飛んでくる。

 これではとても何から話せばいいかわからない、ということで……

 

「ではまず最初に、旅行中に何が起こったかをざっと説明させていただきます」

 

 番組を見たのも、事件に巻き込まれたのも全てアメリカ旅行中。

 だからそれを芯として話す事を宣言。

 自分から話すことで自分のペースを作りつつ、話すつもりがあるということをアピールする。

 

 その内容はもう慣れたもの。

 対応が遅れたこと、心配をかけたことについては丁寧に謝罪しておく。

 さて、問題の質疑応答だ。

 

「一度に聞かれると答えにくいので、質問がある方は挙手でお願いします」

 

 事前に大体されるであろう質問は想定して回答を用意してあるが、それで全部終わるとは限らない。おまけに暗いオーラを纏っている記者がちらほら見える。彼らには要注意だ。

 

 まずは手を上げている中から問題なさそうなオーラの人を選んで答える。

 

「日本では銃そのものが珍しく、撃たれた経験のある方は少ないと思いますが、実際に撃たれた感想は?」

「撃たれた感想ですか? ……実は撃たれた時はすぐ気絶してしまい、4日後に目が覚めてから、撃たれた事を知らされたんです。だから特に感想もなく、気づいたらベッドの上だったという印象ですね。それから色々聞くうちに、死にかけた事を理解して。そんな感じです」

 

 問題なし。

 次、その次、とテンポよく答えていく。

 できることなら悪意を感じない記者にだけ答えたいが、特定のマスコミに偏るのも問題だ。

 ここらで一人、暗いオーラの男性記者を指名。

 

「どうも、週刊“鶴亀”の矢口です」

 

 鶴亀、あの俺の死亡説を書いた雑誌の記者だ……

 

「葉隠君は格闘技とかやってて強いらしいね? なのに襲われた時、何もしなかったの?」

 

 場が静まり返った。

 露骨に眉をひそめる記者もいる。

 

 挑発か?

 こういう時は熱くならず、軽く笑って受け流す。

 返答は一般論でいい。

 どんなにくだらない質問でも丁寧に。

 

「残念ながら、ショットガンやサブマシンガンで武装した数十人を相手にできるほど強くはないですね。米陸軍にいた元軍人のお爺さんの指示の下、逃げの一択でした。元とはいえプロもそう判断した状況で、多少格闘技をかじった程度の素人ではどうにもならなかったと思います」

「へぇ……そう」

 

 矢口と名乗った男性記者はつまらなそうだ。

 

「ならそのお爺さんがいなかったら?」

 

 仮定の話は無理に答える必要はない。

 

「冷静に指示を出してくれる方がいなくなると、もっと危険だったと思います。それ以外は実際にそうなってみないとわからない、としか言えませんね」

「でも結果として君、撃たれてるよね? そのお爺さんか、例のブラッククラウンって人の指示がまずかったんじゃないの?」

「落ち着いて話を聞けたのは目覚めてからですが、あの時の状況は本当に全員無事でいられたのが奇跡だと思います。場合によっては全滅してもおかしくないと思っているので、ふたりの判断が間違っていたとは思いません」

「なるほど。つまり……君が撃たれた責任は二人にはない、ということだね?」

「誰の責任でもないですよ。強いて言えば撃った奴の責任ですね」

 

 答える毎に、青に近い男のオーラが赤みを増していく。

 暗くて嫌な感じは変わらないが、イライラしてきているようだ。

 おそらく目的の言質が取れないから。

 

 この反応からして、今のは確認に見せかけた誘導尋問。“責任は二人には(・・)ない”という言葉に同意させて、“自分に落ち度がある”とあたかも俺が言ったかのように書きたかったのだろう。

 

 こういう風に、確認のように問いかけられた時に、安易に同意してはならない。

 

 記者の言葉(・・・・・)同意した(・・・・)ことで、記者の言葉=自分の言葉として書かれてしまう恐れがあるからだ。記者との間に共通の認識があればいいが、たちの悪い記者に都合よく曲解された意見を、自分が実際にした発言として書かれては目も当てられない。

 

「あの状況は本当に、みんな無事で生きていられたのが奇跡だと思います。ですから誰が撃たれてもおかしくない。その中で私が撃たれたのは、運が悪かったんだと思います」

 

 彼ばかりを相手にしているわけにもいかないので、さっさと次の人に移る。

 そう簡単に誘いには乗らない。そのための練習だったんだから。

 

「麻薬の社会的影響、実際に麻薬を利用している人についてご意見を……」

 

 正直、麻薬にも利用者にも良いイメージはない。

 しかしこれも感情に任せて下手な発言をしようものならバッシングの原因になる。

 あの襲撃で実際に体験した事をベースに、感じた麻薬の恐ろしさを慎重に語る。 

 

 矢口と似たようなオーラをしている記者からも質問を受けたが、やはり全員要注意人物に認定。

 自分のオーラを監視する事で冷静を保ち、要所では感情を込めてマスコミ対応を続ける。

 

 ……それにしても最近調子が良いというか、順調に事が進んでいくなぁ。

 いや、そのためにわざわざ事前にガッチリ準備してきたんだけど。

 でも何だろう? こう順調な日々が続いてると……

 

 

 

 逆に嫌な予感がしてきた。




影虎は全校生徒の前でスピーチを行った!
影虎は正式な生徒会役員になった!
影虎はマスコミのインタビューに答えた!

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