人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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187話 マスコミ対応の成果

 ~生徒会室~

 

「はい、葉隠君」

「ありがとうございます、会長」

 

 校門前でのインタビューを終え、俺と桐条先輩は一旦生徒会室に戻ってきた。

 会長から受け取ったコーヒーを流し込み、ようやく一息つく。

 

「それにしても、よく2時間も話したよね。適当なところで切り上げてもよかったのに」

「あまり短すぎると記者の方々が、おざなりにされていると感じてしまう可能性がありますから。体力と集中力が続くうちはしっかり答えて見せておこうかと……根気と寛容さが鍛えられた気がします」

「ま、そのおかげでインタビューは成功したんでしょ? 美鶴」

「おそらく大丈夫でしょう。最後には質問を手が上がらなくなるまで答えていましたから、少なくとも葉隠の対応に反感を抱く記者はいないと思います」

「……そうだといいんですが……」

「何か不安があるのか?」

 

 俺もインタビューは無難に切り抜けられたと思う。

 でもひとつだけ気になることがあった。

 

「週刊“鶴亀”の記者の事が少し」

「ああ、あの矢口という男か。そういえば随分と酷い質問をしていたな。葉隠があっさりと受け流していたから何も言わなかったが、そうでなければ口を出したくなっていたくらいだ。しかし最後の方は諦めて大人しくなったと思ったが」

「だといいんですが……」

 

 先輩の言うとおり、あの矢口という記者は俺に含みのある質問ばかりしてきた。しかしそれは最初の方だけ。インタビューの中盤になると手を挙げる頻度が減って、後半は黙って他との話を聞いているだけ。まるでやる気を失ったようにも見えた。少なくとも外見だけは。

 

 しかしオーラはさほど変化することなく、徹頭徹尾、暗くて嫌な感じのオーラを漂わせていた。

 

「なんか、おもしろおかしく書くのを諦めたようには思えないんですよね……毎週何曜日に発売でしたっけ?」

「鶴亀は月曜日だな」

 

 何か仕掛けて来るかもしれない。

 気のせいならいいが、あまり気を緩めない方が良さそうな気がする。

 

「あれ? 電話鳴ってない?」

「……あ、本当だ。俺のです」

 

 マナーモードでカバンに入れていたから気づかなかった。

 

「ちょっと失礼しますね……はい、葉隠です」

『葉隠君? 私だけど』

「オーナー、どうされました?」

『実はね……あなたを取材したいってお話があって』

「取材? まさか鶴亀ですか?」

 

 一瞬、先輩方と目が合う。

 

『鶴亀? ああ、あの雑誌じゃないわ。そもそもマスコミじゃなくて、個人なの。あなたのことが話題になって、うちの店に動画を撮影して投稿してる人が来たって話をしたじゃない?』

「はい、確かに」

『その人よ。あなたが帰国したって話を聞きつけて、もう一度取材させて欲しいって連絡してきたの』

「それはまた……」

 

 情報が早いな。

 

『私は見てないけど、あなたが通学したって情報はもう昼ぐらいに拡散していたそうよ。ネットで』

「俺が通学した事実がネットで拡散している? 昼ぐらいには」

 

 あえて声に出し、先輩方へ伝える。

 素早く海土泊会長が確認を取ろうとしていた。

 

『そうなのよ。それでもう一度、今度こそ葉隠君に会って話がしたいし、占ってもらいたいんですって。しかもできる限り早くお願いしたいんですって。どうする? 私は別に構わないけれど』

「……少しお時間いただけますか?」

『大丈夫よ、返答に時間がかかるかもって言ってあるから。そっちにも事情があるでしょうし、決まったらまた連絡して』

「ありがとうございます」

 

 通話を終えて、先輩方に向き直る。

 

「どうですか?」

「うん、確認した。掲示板に書き込みがあったらしいね」

「おそらく学園の生徒だな。君が始業式で演説をしたことが書かれている」

 

 ため息を吐きながら見せられた携帯の画面には、確かに始業式のことが書かれている。

 書き込みをした誰かにとっては、あのスピーチがかなり高評価だったらしい。

 なんだか恥ずかしくなるくらいに持ち上げられていた……

 

「そちらは?」

「バイト先の方からです。以前も訪ねてきていた動画投稿者の“又旅”という方が、また取材を申し入れてきたそうで。今度こそ俺と直接話して占ってほしいと。バイト先は問題ないそうですか、どうですか?」

「こちらとしては何とも言えないなぁ……その人も結構有名な方だよね? なんかまた話題になりそう。もう今更感が強いけど」

「葉隠的にはどうなんだ?」

 

 俺的には……

 

「正直、条件次第では受けても良いかと思っています」

 

 始業式でのスピーチと同じで、心が躍るような感覚がある……

 それに撮影内容はこれまで散々話してきた事を話して、占いをするだけ。

 これまでとほとんど変わらない。

 

「何より先日撮影した動画。あれを投稿するだけでも人目には着くと思いますが、それを“又旅”さん動画に便乗して宣伝すれば、ファンを通してより早く拡散させることが可能かもしれません」

「それは確かにあるだろうね。その人のチャンネル登録者数って100万人超えそうだったはずだし」

「……とにかく一応理事長には話を通しておくよ」

 

 桐条先輩が言うには、今この状況で最も奔走させられているのがあの人らしい。

 

「そういえばお元気ですか? 理事長」

「お元気、ではないな。とても疲れていらっしゃる」

「この前ちょっと顔見たけど、すごくやつれてたよ。体重も8キロ減ったらしい」

 

 え? そんなに忙しいの?

 

「私も詳細は分からないが、やけに仕事が多いようだ。しばらく顔も見ていない」

「購買で毎日ツカレトレール買ってるらしいよ。毎日置いとくように頼まれたって、購買のおばちゃんが言ってた」

「大変だなぁ……」

 

 今は騒動になっているからか? それとも普段から仕事が多いのだろうか?

 ……日常の仕事と“滅び”のために暗躍まで、よくやるなぁ……

 いっそこのまま理事長の仕事だけに集中してくれないかな?

 

 そんなことを割と本気で考えながらコーヒーを飲み干す。

 

「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末様でした。とりあえず今日はもう用事ないから、帰っていいよ」

「理事長からの返答がきたら、そちらにメールを送ろう」

「ありがとうございます。それじゃまた明日」

 

 変装を整えて、寮に帰ることにする。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 放課後に受けたインタビューは今夜のニュースで早くも流れるらしい。

 リアルタイムでチェックをしよう。

 そんな事を考えたのは俺だけではなかった。

 

 ――グループ名:影虎問題対策委員会――

 順平 “ニュース始まるまであと五分。なんつーか、ドキドキするな!”

 岳羽 “何であんたがドキドキしてんだっつーの”

 順平 “ゆかりっちってば、ノリ悪いってー。もう開き直って楽しもうぜ?”

 山岸 “確かにもうインタビューは終わっちゃったし、成り行きに任せるしかないもんね”

 影虎 “これで少しは騒ぎが収まるといいんだが……”

 桐条 “火に油を注ごうとしている奴の言葉とは思えんな”

 

 桐条先輩から厳しい一言が送られてきた……

 

 順平 “え? 何?”

 岳羽 “ちょっと葉隠君、また何かやったの?”

 影虎 “やってないよ。まだ”

 Kirara“まだって何さ!? それ何かやる気って意味じゃん!”

 桐条 “まぁ、半分は冗談だ。

     葉隠、理事長から例の件の許可が下りた。

     ただし、また話題になっても対応は君と君のバイト先で行ってくれ。

     学園はその件に関与しない”

 影虎 “了解。あ、岳羽さんと島田さんには近いうちにオーナーから連絡あると思うから”

 Kirara“オーナーが了承済みなんだ……”

 岳羽 “ビジネス的には話題があった方がいいのかもね……”

 

 二人には悪いが、オーナーに引き受けると連絡させてもらおう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 連絡が終わると、ちょうどニュースの時間がきた。

 

 天田 “始まりましたね!”

 会長 “冒頭から葉隠君のニュースだ!”

 

 皆番組に集中しているのか、アプリのコメントが止まる。

 

 ……悪くない感じだ。

 俺が生還して登校した事実の説明から、実際のインタビュー映像へと繋がっている。

 

 

『ではまず最初に、旅行中に何が起こったかを……』

『一度に聞かれると答えにくいので、質問がある方は挙手でお願いします』

『撃たれた時はすぐ気絶してしまい』

『では次の方ー』

『どうも、週刊“鶴亀”の矢口です』

『はい。えーこのように、葉隠君は記者の前で元気な様子を見せてくれました』

『葉隠君はこの後。報道陣の前で約2時間もの間、にこやかにインタビューを受けていたとの事です』

『集まった記者全員の質問に丁寧に答えており、インタビューの終了間際には“ありがとう”“誠意を感じた”と声をかける記者の姿も見られました』

『それでは次のニュースです』

 

 俺のニュースが終わった。

 最初から最後までポジティブな意見でまとまっていた!

 

 友近 “テレビ見たぜ。無事に終わってよかったじゃん”

 高城 “おめでとう”

 岩崎 “おめでとう”

 影虎 “ありがとう。まだ一社目だけどね”

 副会長“それでも試金石にはなる”

 桐条 “ここまで順調な滑り出しだ。他社にもそこまで悪い印象は与えていないだろう”

 山岸 “葉隠君の掲示板も、良い意味で盛り上がってます!”

 

 山岸さんがアドレスを添付してくれている。

 少し覗いてみると……

 

『生存確定!!』

『特攻隊長が帰ってきたぞー!!』

『足がある! あの記録を出した足が!』

『相変わらず、よくカメラの前でこんなに堂々と話せるな……』

『つか映像が変わる直前に指された記者、“鶴亀”って言ってなかった?』

『言ってたw 真っ先に死亡説書いといて平然とインタビューしてんのかよって思ったわw』

『俺、某出版社勤務。その現場に同期が取材に行ってたけど、鶴亀のそいつ特攻隊長に悪質な質問したらしい。社に帰ってきたところで軽い気持ちでどうだったか聞いたら、マジなトーンで“ありえねぇ……”って』

『何それ詳しく』

『詳しく聞いたけど軽々しく言えねぇ』

『そんなマスコミにまで2時間かけて丁寧に答えてやったのか』

『特攻隊長が神対応すぎる』

 

 一部“マスコミに媚を売っている”などという意見もあるが、大多数は好意的に受け止めてくれているようだ。これでひとまずコールドマン氏に良い報告ができるな。今晩の内にメールを送っておこう。

 

 影虎 “ありがとう山岸さん。明日の昼、動画の公開もよろしく”

 山岸 “分かった。動画とネットの方は私に任せて”

 

 彼女にしては珍しく自信ありげな言葉。

 やっぱり機械が絡むと彼女は頼りになる。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

 ~タルタロス・エントランス~

 

 久しぶりの忍者スタイル in タルタロス。

 近々天田を連れて来ることになるので、変化がないか一人で確認に来た。

 1Fから16Fまでざっと上ってきたが、今日はやけに運が良い。

 たった一回でオニキスを1つ、ジェムを2つ、さらに銀の仮面を5枚も手に入れられた。

 そして上機嫌で戻ってきたら……

 

「お久しぶりですね」

「ああ、久しぶりだ」

 

 何でストレガがここにいる?

 

「……どうやら待たせたようだね?」

「チドリがこの塔がまた騒がしくなったと言いよってな。帰ってきたのがすぐ分かったわ」

「そういえば彼女は外からでも中の様子がわかるんだったね」

「少しだけど」

「おかえりなさい。と言うべきでしょうか?」

「ならば私はただいま、と言うべきだな。……で、何の用かね?」

 

 まさかただ挨拶に来たわけじゃないだろう。

 天田を連れて来ていなくてよかった。

 

「一つ聞かせていただきたい事がありまして」

「聞きたいこと?」

「ブラッククラウン」

「最近、毎日毎日ニュースでやっとるやつや」

「聞いたことくらいはあるでしょう」

「確かに」

 

 ストレガもその話か……

 

「率直に聞きます、ブラッククラウンとはあなたのことでは?」

「違う。そう言えば納得するかね?」

「フフフ……するかもしれませんよ?」

 

 ……どうも確信があるっぽいな。

 まぁブラッククラウンについて、彼らの耳にも入るだろうとは思っていた。

 俺が人間でペルソナ使いだと知っていれば、ニュースと繋がるか。

 

 ただそれで俺をどうにかしようとか、そういう意図は感じない。

 良くも悪くもオーラは冷静で揺らぎがない。

 普通の人間とはどこか異質……まるでその色で固定されているような印象を受ける。

 三人とも同じ、もしや制御剤の影響か?

 いや、それだと荒垣先輩もこうなっているはず。

 使用期間の差か、あるいは単純に返答によって心を動かすほどの興味がないのか。

 

「オーケー、答えはyesだ。私がブラッククラウンだよ」

 

 ドッペルゲンガーの表面を変形させ、忍者スタイルからピエロに変更。

 なんにしても不信感を与えるのは得策ではない。

 第一に避けるべきは“敵対”。

 ブラッククラウンと知られても、敵対さえしなければ不都合もない。

 

「おや、随分とあっさり認めましたね?」

「別にそこまで隠すことではないよ。何も知らない相手にわざわざ教える気もないが、君たちは私の能力をある程度知っていることだしね」

 

 ストレガに感情へ訴えかける手は通じそうにない。

 下手な嘘でごまかそうとするよりも、ここは認めたほうが無難だ。

 

「それを聞くためにわざわざここで待っていたのか?」

「そうですね。あなたが思いの外早く認めてくれたので、もう少し話をさせていただきたくなりました」

 

 タカヤが薄く笑った。オーラに変化はない。

 

「貴方、何者ですか?」

「ざっくりとした質問だね……以前もされたような気がするし、さすがに何について答えればいいか困る」

「では、あなたのお仕事は? 確か7月にお会いした時、仕事でここを離れると言っていましたね?」

 

 記憶を探ると、確かに言った覚えがあった。

 旅行に行っていなくなる理由としてそう言ったんだった。

 さすがにそこまで本当のことを話すつもりはない。

 

 この状態の俺とブラッククラウンが同一人物である事は構わないが、そこに葉隠影虎を結び付けられるのは避けたい……

 

「……“探偵”だ」

「探偵? 天職ですね。それでアメリカへ?」

「仕事で行ったのは間違いないが、厳密に言えば“一度戻った”と言うべきだな」

「戻った? 向こうが本来の仕事場なんか?」

「その通りだ。細かいことは守秘義務があるので伏せさせてもらうが、私はとある依頼を受けて日本に来ている。先月はその調査報告のために戻っていたのさ。バカンスも兼ねてね」

 

 ストレガの情報網がどこまで伸びているか分からない。

 しかしブラッククラウンの中身について、世間では憶測ばかりが飛び交っている。

 架空の経歴を作るとしたらここしかない。

 海外なら裏取りもしにくかろう。後でコールドマン氏にも相談だ。

 

「ニュースを見ましたが、何故あんな事を?」

「できる事があった。理由はそれだけだ」

「それだけで、あんなに大暴れしたの?」

「……私自身、あそこまで立て続けに問題が起こるとは思っていなかった。最初は休日に祭りを見に行った、ただそれだけだったんだ。それが次から次へと……」

 

 感情に訴える意味はないが、リアリティーを出すために感情は込める。

 

「お疲れ様でした」

「本当にそう思っているのかね?」

「思っていますよ。……ところで、あなたと一緒にもう一人、話題になっている方がいますね?」

「葉隠影虎だな? 覚えているよ、面識があるからね」

「彼は撃たれてから別の街に移送され、テロ事件に巻き込まれたそうです。あなたも一緒にいたのですか?」

「助け損ねたから経過が気になった。そして足取りを追ってみたら巻き込まれたわけだ」

「なるほど」

 

 ……感情の動きが全くない。

 なんてやりにくい相手だろうか。

 

「では最後です。あの街で大勢の人々が影人間になった原因であるシャドウ。一晩であれほどの被害を出したならば、シャドウも相応の数がいたはず。あなたはどうやって、事態を収束させたのですか?」

「私達とあなたが最初に会った時、あなたはペルソナに目覚めたばかりと言っていた」

「せやな。ワイもそれが気になってしゃーないわ。あんたが毎日のようにこの滅びの塔に出入りしてたんは知っとるが、あの事件を一晩で解決できるとは思えへんわ」

 

 ……ほんの一瞬、三人のオーラがゆらめいた気がする。

 これが本題か?

 

 シャドウを混乱させる能力を用いて、同士討ちを誘発させたことだけを説明する。

 

「街中にシャドウが溢れて、もうどうにもならないと思った時。ほとんど暴走状態で発動した。正直自分でもよく分からない。結果的に助かった感じだな」

「……ペルソナの進化かもしれませんね」

「何か知っているのか?」

「かつて人工ペルソナ使いが強要された実験の一つに、強制的に進化を行う実験があったはず。我々は関わっていませんが、進化したペルソナは従来のものよりも強力になるそうです。……もっとも進化したペルソナは扱いも相応に難しいらしく、被験者は元々適正の低い人工ペルソナ使い。暴走はしても成功したという話は聞きませんでしたが。運が良かったですね」

 

 そんなこともあったのか……

 

「ありがとうございました、聞きたいことは聞けましたよ」

「そうか。それは良かった」

 

 どうやら今日はそれだけで帰るつもりらしい。

 

 ひとまずは乗り切れたようだ……が、どうせ話したんだ。

 

「ところで、何か良い情報はないかね?」

「……しっかりしていますね……」

「ケチ……」

「タカヤとチドリは少し見習って欲しいわ」

 

 こちらの話を聞いた分は、情報で返してもらおう。




影虎はインタビューを受けた!
インタビュー映像がニュースで流れた!
世間の評判は上々だ!
影虎はストレガと遭遇した!
ブラッククラウンについて聞かれた!
虚実織り交ぜて返答した!

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