4月21日(月)放課後
~アクセサリーショップ・Be blue V 店内~
俺はどうしてここに居るんだろうか……
事の始まりは昼休みが終わる直前、俺の携帯から聞こえたツィゴイネルワイゼン。
着信は江戸川先生からで、用件は暇があったら買い物の手伝いをして欲しいらしい。
一昨日の連戦で体を酷使した俺は、今日まで休むと決めて予定を入れていなかった。
そして授業が始まりそうなタイミングだったので、深く考えずに手伝いを承諾した。
約束の放課後。
江戸川先生が車を出すと言っていたので、待ち合わせ場所の教員専用駐車場まで向かうと驚いた。教員用駐車場の存在を初めて知ったとかそういう事ではなく、江戸川先生の車がイメージに合わない真っ赤なスポーツカーだったことに。しかも、車はおそらく誰もが知っている超有名ブランドの高級車だった事にだ。しかも内装は一般的。
「よく来てくれました、影虎君」
「はい……」
「おや? どうかしましたか?」
「江戸川先生、いい車に乗ってらっしゃるんですね。予想していた車とちょっとイメージが違って」
「人は目に見える物で多くを判断します。持ち物や身につける物は安っぽかったり奇抜な物よりも、ある程度ちゃんとした物の方が何かと波風が立たなくて便利ですから。江古田先生とかは社会人としてそのあたりにも厳しいですしねぇ」
「それにしたって、高いでしょうこの車。下世話な話ですけど……」
「この学校のお給料はいいですし、必要なら収入は他にも……まぁ、どうにかなるものです。特にこだわりがあってこの車を使っている訳ではないので、影虎君は遠慮せず乗ってください」
先生がそう言って助手席の扉を開け、まず感じたのはお香のような謎の匂い。ここで江戸川先生の車という事をなんとなく実感した。そして同時にこう思った。
……車よりも、普段の行動とかもっと他に取り繕うべき所があるだろう!?
「シートベルトをしたら出発しますよ」
「よっ、と……シートベルトOKです。ところで今日は何を買いに行くんですか?」
「ヒッヒッヒ、それはですねぇ……おっと」
車を出そうとした先生が近づく他の車に気づいて止まり、先を譲ってから再発進。そのタイミングで出てきた言葉が……
「昨日のサバトで使っていた物が色々と壊れてしまいまして、また買い揃えなければいけないのです。少々量が多くなるはずなので、きっと車に運ぶのも一苦労……手伝ってくれて助かります、影虎君」
「そういう買い物だったんですか!? てかどうしてそんな事になるんですか!?」
「ちょっと失敗しまして……まぁ、些細な事です。この機会に影虎君も色々見てみるといいでしょう。部活動初日に興味がありそうでしたしね……ヒッヒヒヒ」
あの時二つ返事で了解したのをちょっと後悔した。
そして連れてこられたのがポロニアンモールのBe blue V。ここのオーナーが江戸川先生の知人だそうで、従業員以外立ち入り禁止になっている店の奥のさらに奥。オーナーのプライベートな部屋へ通された後はもう、江戸川先生の同類だなぁ……としか言えない。
強いて違いを挙げるとしたら、江戸川先生の部屋がミイラとか動物系の物が多いのに対して、ここは宝石やパワーストーンが多い。ずっと体調を良くするヒーリングの店だと思っていたけど、ゲームだと能力が向上するアクセサリーを売っている店でもあるんだっけ? どっちにしろ、なんとなく納得……
あとは部屋の隅に積み重なる古くて統一性のない品物の数々が気になる。他は整然と棚に並べて飾られたられた宝石や置物なので綺麗に見えるが、そこだけまるで物置の中身を引っ張り出してきたみたいだ。
そんな風に部屋の物を眺めていたら、相談をしてくるからと席を外したオーナーさんと江戸川先生が戻って来た。
オーナーはジーンズと黒のタートルネックを来て、ショールを羽織った線の細すぎる中年女性。魔女っぽいというか、病んでそうな雰囲気なので、言っては悪いがちょっと不気味……
「先生、お話は終わりましたか?」
「ええ、ほったらかしにしてすみませんねぇ。でも、今日は良い買い物ができましたよ」
「こちらこそ、良い商談ができました……例のものをお忘れなく……フフフ……」
「もちろんですとも……ヒヒッ」
なんか、お二人ともすげぇ怪しい笑みを浮かべてらっしゃる……と思っていたらオーナーがこっちを見た。
「それにしても、江戸川さんが人を連れてくるなんて……葉隠くんは生徒さんなのよね?」
「はい、江戸川先生に部活の顧問をしてもらっています」
「聞けば
「時々ネットでそういうサイトにアクセスするくらいには」
「そう……パワーストーンに興味は?」
「割とありますね」
この店のアクセサリーに能力向上の効果があるなら、その秘密がパワーストーンだとしたら、そう考えたら興味も出てくる。
「あら、そういう事ならお近づきのしるしに何か一つプレゼントしましょう。何が良いかしら……」
「いえ、そんな」
「遠慮は要らないわ。その代わり、どうぞBe blue Vをご贔屓に」
そう言われるとこれ以上断るのも失礼な気がしたため、結局アクセサリーを貰う事になってしまった。しかしこの店に来てからこの応接室に直行したので、どんなアクセサリーがあるのか分からない。
困ってあたりを見回すと、部屋の隅が目についた。
「……そっちの山は商品じゃないわ。それはこっちのコレクションを集める過程で集まった余計な物、ただのゴミだから」
「コレクション?」
オーナーが見ているのは棚の中。確かに宝石類に混ざって古い物がいくつも並べられているけど、違いがよく分からない。
「そういえば影虎君には教えてませんでしたねぇ……彼女はいわゆる“いわくつき”の品を集めるのが趣味なんです。綺麗に見えても、迂闊に触っちゃいけませんよ」
「人づてで買うと、ちゃんと
憑いている、ってそういう事だよな?
……ペルソナとかシャドウも居るし、存在を否定できないだけに怖いな!?
つか江戸川先生の注意が遅い! でも、逆にそれならこの山の物は安全?
そう思ってこの中から選べないかと聞いてみると、むしろ持って行ってくれた方が助かると言われ、江戸川先生が購入した物の用意ができるまで目を通した末に、部室に似合いそうな古い茶道具一式をいただく事にする。
それからオーナーの用意したズッシリと重い箱を三箱、近くの駐車場に停めた先生の車まで積み込んで戻ると、さらにオーナーは茶器が店の商品じゃないという理由で、店頭の商品から“ラックバンド”をくれた。あなたにはこれがいいと思うわ、と一言添えて。
ゲームでは運を上げるアクセサリーだったけど、何に関わるステータスだっけ?
まぁ、とりあえずはお礼だな。
「ありがとうございます、こんなにいただいちゃって」
「フフフ……今度はお客様として来るのを期待しているわ」
また怪しげに笑うオーナーに見送られ、俺は茶道具を抱えて江戸川先生とBe blue Vを出る。
オーナーは江戸川先生の同類らしいけど、結構まともな人だったな……
最終的にそう感じた俺は、江戸川先生に毒されてきているのだろうか?
影虎はBe blue Vの裏側を知った!
影虎はラックバンドを手に入れた!
Be blue Vでアクセサリーを購入できるようになった!
運のステータスは確立に左右される物事に関わります。
例:バステの付着率、クリティカル発生率など
普通の店のアクセサリーに何で効果があるんだろう? って考えていたら書いていた。
せっかく書いたので投稿しました。