翌朝
パソコンをチェックすると、昨夜のメールに返事が帰ってきていた。
どれも俺がやりたいようにやればいい、と認めてくれている。
これでスッキリした。
清々しい気分で目高プロデューサーへのメールを書く。
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朝食後
昼までの隙間時間を利用して、アクセサリーを作る練習をする。用意するものは市販品の銀粘土。オーナーが用意してくれる特製銀粘土を使う前に、まず銀粘土でまともなアクセサリーが作れるようにしなければ、せっかくの素材が無駄になってしまう。
最初は本当に基本的な“ドッグタグ”を作ってみよう。
まずは指と使用する道具に、銀粘土がへばりつかないよう薄くオイルを塗る。
次に小さなパッケージから取り出した銀粘土を指先で捏ねてひとまとめに。
1つのパックに含まれる量は少なく、小さなビー玉程度のサイズになった。
指紋がつかないよう専用の道具で丸めてから押し伸ばす。
少しだけ小麦粉の生地を練る感覚に近かったからか、なかなか上手くいった。
銀粘土は今や1mm程度の厚みを持つ楕円形の板。
そしてルーンを刻む作業だが……ここは銀粘土だからこそできる“刻印”で済ませよう。
ドッペルゲンガーを脳内で描いた彫り込みたいルーンの形状にして、細部を整える。
それをさらに目の前の銀粘土板に収まるサイズまで縮小させ、軽く押し付ける。
強すぎると潰れてしまう。やり直し。
何度かやり直して、綺麗に押せたことを確認。
最後にチェーンを取り付ける穴を開けたら、デザインは完成だ。
あとはこれを乾燥させた後に焼結させる必要があるが……ここは魔術を応用しよう。
特殊弾生成と同じように魔法陣を作る。
乾燥は“
実際に使ってみると、銀粘土全体が白っぽく、硬い質感が変わっていた。
この白っぽくなった表面を紙ヤスリで磨く。
最後の焼成は“
安全のため、火属性を無効にしたドッペルゲンガーの中で作業を行う。時間は十分程度。
焼成が済むと、また銀粘土は白くなっていた。
これを再び磨き上げれば……
「完成!」
実にシンプルなドッグタグ型ペンダントヘッドが完成した。
刻印なら一度にルーンを刻むことができるし、その内容を変えれば効果も変えられる。
今回は最もシンプルなやり方で作ってみたが、大量生産も比較的容易。
確かに自由度が高そうだ!
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昼
~自室~
バイクでアンケートをお願いしている店舗を回り、2日分の結果を回収して帰宅。
「思ったり集まってるな……」
回答の内容をアナライズで記憶し、まとめてみると……
近隣の方々からは学園祭を見に行きたいと思っている、という回答が多い。
期待もなかなかに高いようだ。
もちろん期待していない、行かないという意見もある。
ただその理由として、以前がっかりさせられたという理由が添えられていた。
マイナスイメージではこの辺りを強調して行こう。
まとまった結果をパソコンに入力し、グラフ化も行う。
“事務作業マニュアル”とコールドマン氏から学んだマスコミ対応(資料を用意する場合)のポイントを押さえた資料が完成した。
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~部室~
「おや、葉隠君。今日は日曜なのに、どうしました? 部活は明日からですよね?」
「ちょっと生徒会に用があったので」
資料が完成したことを桐条先輩に連絡したら、なんと学校で仕事をしていた。
「それで提出するついでに、これを持ってきたんです」
買っておいたプランターと、この前買った苗。そして必要な肥料のセットだ
「ほう! これが例の野菜ですか……実をつけたら少し分けていただきたいですねぇ。解析すれば何かわかるかもしれません」
「ぜひお願いします。そういえば先生、最近直接会えませんでしたが大丈夫でしたか?」
「少しばかり副業の件で手続きをしなければならなくて。忙しくなりましたが、これといって問題はありませんよ。ヒヒヒヒ……おっと、そろそろ実験に戻らなければ。それでは」
実験室に戻る先生を見送って、部室にプランターを設置。
植え方や手入れの仕方はご丁寧にまとめられた冊子が同梱されていたので、それに従う。
今回の苗は“プチソウルトマト”と“カエレルダイコン”
今後も手に入れられるようだし、最初は魔術を使わずに育ててみよう。
……特に問題なく苗を植え替えることができた。
「お疲れ様です。コーヒーでもいかがですか?」
「ありがとうございます。いただきます」
先生が持ってきてくれた、ビーカー入りのコーヒーで一服。
「実験は終わりましたか? あと何の実験を?」
「化粧品の実験ですよ。商品化のため、向こうにデータを送るので確認を少し。そういえば葉隠君はまたテレビに出ることにしたんですねぇ」
「はい。決めました。またご迷惑をおかけするかと思いますが」
「ヒヒヒ……
ところで聞きましたか? コールドマン氏の部下の方が日本に来日するそうです」
「昨夜、直接連絡をいただきました。一度面会の機会を設けたいということでしたが、いつになるでしょうか?」
「君のテレビ出演の補助もしてくださるそうですし、早めの方がいいですねぇ。まぁ本日中に向こうから着任の連絡が来るそうなので、その時に決まるでしょう」
しばらく先生と雑談や情報交換をした。
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夜
近藤と名乗る男性からメールが届いた。
例のサポートチームのリーダーを務める方のようだ。
基本的な自己紹介の後に都合を聞かれ、面会日が9月9日の夜に決まる。
また、何度かやり取りをしているうちに目高プロデューサーからは返事が来た。
文面には感謝の言葉も多く、とても安心したような雰囲気を感じる。
そんなに追い詰められていたのだろうか……
打ち合わせと契約をしたいようなので、さっそく近藤さんと相談。
彼を同席させていただけるようお願いし、9月10日に面会することになった!
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影時間
~タルタロス・エントランス~
「天田、ちょっとこれ着けてみてくれないか?」
「何ですかこれ?」
「昼間作ってみたアクセサリーなんだけど、魔術の実験も兼ねて。一人じゃ試せないから頼む。首にかけるだけで大丈夫だから。ほら、こんなふうに」
「? いいですけど……」
俺も同じものをつけている。
警戒しながらドッグタグのチェーンの首にかける天田。
それを確認して念じる。
『天田、聞こえるか?』
「うわっ!?」
どうやら聞こえたようだ。
「何ですか今の!?」
「テレパシーみたいなもんかな? 正直俺もよく分からないけど、魔術で自分の伝えたい事を飛ばしてみた。これまでシャドウや動物と意思疎通を図る実験は何度かやってたんだよ。アンジェリーナちゃんもそれを応用してシャドウに指示を出してたし」
何度か魔術によるメッセージを送ったり、アンジェリーナちゃんから受けたりしていたから、人間同士でもできるだろうとは思っていた。
「ほら、影時間は電子機器が使えないだろ? だから万が一の場合に通信手段であったほうがいいと思ってさ。応用できないかと思って作ってみたんだ。とりあえず俺から天田への送信は可能だったみたいだな」
問題は天田から俺への送信。
天田はまだ魔術を習得していないため、アクセサリーには事前に魔力を込めておいた。
「使うってどう使えばいいんですか?」
「俺の場合は魔力を流しながら念じてたけど、それにもう魔力を込めてあるから、何か念じてみてくれ。少なくともつけてるだけでは、思考が流れてきたりはしないみたい」
「念じる……」
『せ…ぱい』
おっ!
「少し流れてきた。もうすぐ強くできるか?」
「……」
『先、ぱ』
あと少し!
「先輩!」
『先輩!』
「うぉっ!?」
耳と頭の中、両方に響いた。
「ありがとう。とりあえず成功したみたいだ」
「結局叫んじゃいましたけど」
「いや、最初から少しは聞こえてきてたし、慣れたら声を出さなくても使えるんじゃないか?」
そうでなくても、影時間中に万が一の時に使える連絡手段があるだけで今は十分だ。
使っていくうちに見えてくる改善点もあるだろう。
さらに距離など条件を変えて、実験を繰り返した。
影虎はテレビ出演を決意した!
影虎は銀粘土でアクセサリーを作った!
影虎はアンケート結果をまとめた!
影虎は資料作りを行った!
影虎は苗を植えた!
サポートチームとの面会日が決まった!
目高ブロデューサーとの面会日も決まった!
影虎は魔術による通信装置を作り上げた!