人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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196話 再来

 翌日

 

 9月10日(水)

 

 昼休み

 

 ~生徒会室~

 

 近々各委員会の代表者を集めて行う会議があるのでその準備。

 そして先日受けた質問へ対応する作業が続いている。

 

「葉隠。講堂での飲食物販売だが、前例はあると言っていたな?」

「13年前の文化祭で一度だけ。購入者の残したゴミが散乱して多くの苦情を受けた事と、商品提供の遅れが目立ったそうで、それ以降は一度も行われていません。

 商品提供の遅れに限って言えば、原因は連絡の不備だそうです。当時は携帯電話も今ほど気軽に持てるものではありませんでしたし、連絡網を整備することで改善できる余地はあるかと」

「ではそちらはその方針で。もうひとつのゴミ問題だが。こちらはゴミ箱の設置だけでは不十分だろう。清掃のために人手を割くことを条件と注記を加えた提案書を作ってくれ。先生方に確認してもらう」

「承知しました」

「では次の」

 

 生徒会の仕事をした!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 午後

 

 ~教室~

 

 演劇の配役決めを、オーディション形式で行うことになった。

 ここは……エリザベータさんとの練習の成果を発揮する!

 

『…………』

「おいおいおい! なんだよ今の演技力!?」

「なんかすげー」

「葉隠くん演技もできるの!?」

「中学で演劇部だったとか?」

「いや、夏休みに少し」

 

 マスコミ対策の一環として学んだとだけ言っておいた。

 皆にとってもそのあたりはそれほど重要ではないらしい。

 

「これイケんじゃね!?」

「うちのクラスで最優秀賞取っちゃう?」

「何のだよ!」

「でもまぁ、経験者がいると心強いな」

 

 昨日テンションの落ちかけていたクラスメイトにも希望が見えたようだ。

 クラス全体のテンションが上がった!

 

 代わりに俺は、主役と演劇指導の役割を任された。

 覚悟はしていた。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~高級レストラン~

 

 ムーンライトブリッジを一望できるレストランの個室で、目高プロデューサーと近藤さんが顔を合わせた。 お互いに自己紹介をする際に、超人プログラムについての説明も行われる。

 

「葉隠君から事前に少し聞いてはいましたが、壮大なプロジェクトですね……」

「ご心配なく。我々のプロジェクトは御社の企画と競合するものではありません。彼の番組出演については上からも許可が出ていますし、全く問題はありません」

 

 オーラが不安と警戒の色になっているプロデューサー。

 そんな相手に対して近藤さんはやんわりと。時にきっぱりと。

 メリハリのある会話でプロデューサーの警戒を解いていく。

 

 ……聞いているだけでも参考になる会話術……

 

 注文した料理が届く頃には、プロデューサーの心はだいぶ開かれていた。

 

「出演料ですが」

「大丈夫ですよ。先日葉隠君とお話しいただいた内容は事前に共有させていただきました。葉隠君は出演料よりもそちらの企画で“学ばせていただきたい”という意思が強く、多くの出演料は求めていません。お気持ちだけで結構です」

「それは助かります! ありがとう、本当に助かるよ葉隠君」

「いえいえ。近藤さんも言っていましたが、本当にプロから技術を学ばせていただけるだけでも嬉しいので。その上お金まで貰えるなんて」

「謝礼といっても食事代と交通費+αくらいさ」

「すみません。業界の相場とかよくわからなくて」

「私どもも日本のテレビ業界には疎く……よろしければ少しお話を聞かせていただけませんか?」

 

 おそらく下調べは済ませている近藤さんも無知を装っている。

 オーラが見えなければ気づける自信がない。

 

「もちろんですよ。疑問があればどんどん仰ってください」

 

 完全に緊張が解けたようで、口の回りが良くなったプロデューサーが言うには、ギャラは5000~3万円が相場だそうだ。俺の場合、一週間のロケ+テレビ局での撮影になるので、1回3万円前後になるだろうとのこと。撮影だけで放映されなかった場合、テレビ局までの交通費は減るがギャラは支払ってもらえるらしい。

 

 俺としてはおいしい話だ。

 

 だが、具体的なスケジュールの話になると、プロデューサーは表情を暗くする。

 

「その件なんですが。明後日から、というのは無理でしょうか……?」

「明後日とは急ですね」

「申し訳ない。放送日が10月の2日と決まっているので、他の出演者のスケジュールなどを考えると色々とギリギリなんです。葉隠君の返答が思いのほか早かったので、撮影も早めにと上から」

 

 そう言われても、こちらも文化祭の準備で忙しいことを伝え、近藤さんに交渉してもらう。

 しかしこの件に関してはプロデューサーも一向に折れない。

 平身低頭しながら頼み込んでくる。

 

『葉隠様。この件は彼に裁量権がないのでしょう』

 

 悩んでいるように見える近藤さんの、冷静な声が脳内に響く。

 

 サンプルとして提出した通信用のアクセサリー、この人上手く使ってるなぁ……

 こちらも魔術で返答。

 

『……どうしましょうか?』

『このままでは堂々巡りになりますね、葉隠様のお気持ちは……』

 

 ここまできて白紙に戻したくはない。もっと技術を学びたい。

 

『……であれば、ここで貸しを作っておく、と言うのはいかがでしょうか? 忙しくはなりますが、こちらでもサポートを行いますし、先々を見据えてここは耐える、というのも一つの手段かと。活動していく上では、協力的な人間を作っておくことも重要です』

『なるほど……分かりました』

 

 同意をすると、彼はすぐ行動に移してくれた。

 明後日からの撮影が決定したが、今日のことはプロデューサーの心に深く刻まれたようだ。

 先々で今日の貸しが役に立つかもしれない。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 次の日

 

 9月11日(木)

 

 放課後

 

 ~Be Blue V~

 

「また大変なことになってるわねぇ……」

「自分でやると決めたことなので」

 

 学校での出来事など、色々と報告しながら裏で仕事をした。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

 ~タルタロス・12F~

 

 天田との探索に慣れてきた。

 訓練も兼ねて主に天田が戦い、俺が魔術やデバフ系のスキルで補助をするという役割分担が完成しつつある。

 

 天田本人の成長も著しく、すでに10Fまでなら死甲蟲以外のシャドウを一人でも倒せるようになった。これが原作キャラの成長力なのか……あまり必要なさそうだけど、そろそろ用意していたスキルカードを渡してみようか悩む。

 

 この際もう一度複製してからにしようかな……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 翌日

 

 9月12日(金)

 

 午後

 

 ~教室~

 

「もう一度!」

『あ! え! い! う! え! お! あ! お!』

 

 演技を担当するクラスメイトに演技を。

 基本となる発声練習の方法を中心に教えた!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 放課後

 

 ~部室~

 

「葉隠君、これって」

「ああ、特別成長が早くて育てやすい品種なんだって」

「それにしても早過ぎないかな……?」

 

 苗を植えて五日。

 “プチソウルトマト”と“カエレルダイコン”が収穫可能になった!

 

「説明書によると、元々早期収穫のための品種改良をしてあるらしいよ。実際に実が成ってるわけだし、収穫しようか」

「じゃあ私、何か入れ物を持ってくるね」

 

 山岸さんは部室の厨房に向かって歩き去る。

 

 ……しかし、彼女の言うことも理解できる。

 魔術なしでたった五日。いくらなんでも早すぎるだろう。

 

 ゲームを基準で考えればまぁ妥当かもしれないが……

 それにもう一つ気になることがある。

 

「トマトの数、多いなぁ」

 

 プチソウルトマトは一回につき五個くらいだったと思う。

 しかし、目の前のプランターにはプチソウルトマトの苗が五本。

 苗一本につき、十個前後の実を着けている。

 すでに熟して採取可能な実だけでも五十三個。

 明日には取れそうな実も二十七個残っている。

 

 プチソウルトマトの効果はSP(魔力)回復。

 これは多数の実の中から五つだけが効果を持っているのだろうか?

 それとも単にゲームとの差異で、実が大量に取れるのだろうか?

 後者なら嬉しい誤算だけれど、前者ならどう見分ければいいのか……謎だ。

 

「……」

 

 品種にもよるが、プチトマトは容器栽培でも一株から五十くらいは収穫できるらしい。

 そう考えれば十や二十は採れてもおかしくないか。

 

 カエレルダイコンの方は五本の苗に対して、目印となる葉が二十本。

 まぁ、これはゲームと同じかな?

 

「ラディッシュ系か」

 

 一本引き抜いてみると、大きな葉の下に指でつまめる程度のダイコンがついている。

 ダンジョンからの脱出アイテムになるはずだけど、どうなんだろう?

 とりあえず一つタルタロスに持って行って試してみよう。

 それに苗の追加注文をしないと。

 今度は普通に育てる用と魔術の実験用。

 それにサンプル用も合わせて多めに……

 

「お疲れ様っす! 兄貴」

「なにしてるんです? 兄貴」

「その野菜……ダメだったんですか?」

「お疲れー。これはこれで収穫時期らしい。だから山岸さんと収穫しようって話になったんだ」

「それはそれは、後でちょっと分けてもらいたいですねぇ」

「お待たせー。あっ、和田君と新井君。それに天田君に先生も。こんにちは」

 

 山岸さんが戻ってきたし、収穫を始めよう。

 部室にきた四人の手も借りて一気に収穫を行った!

 

「あ、今日からまたテレビ番組の撮影が始まるんだ」

「そういえば言ってたよね」

「撮影スケジュールは部活の邪魔にならないよう配慮してもらうけど、また忙しくなるし、別のところで何か迷惑をかけるかもしれない。勝手で悪いけど、これからもよろしく頼む」

「協力しますよ、先輩。当たり前じゃないですか」

「うん。文化祭の準備期間は部活の時間も準備に使ってる部もあるし、無理はしなくて大丈夫だと思う」

「中等部にも文化祭はあるっす。時期が少しずれてるんで、もう少し後っすけどね」

「こっちの準備が始まると俺らが忙しくなると思うんで。お互い様ですよ」

「ヒヒヒ、無理せずゆるりといきましょう。私も私なりに協力しますのでねぇ……」

 

 部の仲間は快く協力してくれた!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~巌戸台駅~

 

「やぁやぁおまたせ。行こうか」

「よろしくお願いします」

 

 目高プロデューサーと合流し、商店街に入っていく。

 今回の撮影はこの近くで行われるらしい。

 

「ここだよ」

 

 5分ほど歩いたところで、雑居ビルに着いた。

 撮影場所はここの3階。

 階段を登り、着いたのは……小さな“ダンススタジオ”。

 

「今回学ばせていただくのはダンスですか? 場所的に」

「そうなんだ、さぁ入って。近藤さんも来てるから」

「葉隠君入りまーす!」

 

 プロデューサーが扉を開けると、目の前にいたADさんが俺に気づいて声を上げた。

 

「おはようございます!」

「おはようー」

「おはようございまーす」

「おはざーす」

 

 業界では朝でも夜でも挨拶は“おはようございます”。

 慣習に習って挨拶をすると、スタッフさんからも挨拶が返ってきた。

 

「葉隠君、これが君の台本ね。僕は別の指示に行くから、彼について行ってメイクを済ませてね」

「わかりました。丹羽さん、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします。……私のこと、覚えてたんですか?」

「もちろん覚えてますよ! テレビ局では控え室に案内してもらったり、お世話になりました」

 

 事前に前回の撮影で顔を合わせたスタッフさんの顔と名前は復習してある。

 ちゃんと覚えているだけでも、印象はだいぶ違うはずだ。

 

 ……ざっと見た感じ、前回もいたスタッフさんの顔がちらほら見える。

 できる限りスタッフさん一人一人に挨拶をしながらメイク室へ向かう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

「本番5秒前ー、4、3、2……」

「テレビの前の皆様、こんばんは。“アフタースクールコーチング”、受講生の葉隠影虎です!」

 

 この番組では出演者のうち指導する方を“先生”。

 俺のように指導を受ける側を“受講生”と表現する。

 

 打ち合わせ通りに挨拶をして自己紹介をする。

 しかし……

 

「えー皆様、お気づきでしょうか? 私、今ここに一人(・・)です。前回はサポーターの方々が隣に立って、紹介やお話をしてくださっていたんですが……本日はスケジュールの都合上サポーターなしでやってくれと言われまして、こうして地上波で、素人が一人延々と喋っています。……シュールすぎませんか? 大丈夫?」

 

 スタッフさんから大丈夫大丈夫! いけるいける! 前回平気だったから! 信用してる! なんて声がかかる。

 

「スタッフの皆さんが終始こんな感じで不安なんです、が! どうやら、今回の先生は芸能人だそうです」

 

 “だからその方に指導とサポートを兼任していただいてね。byプロデューサー”

 

「……っていうカンペが今出ています。一人は不安なので早速お呼びしましょう! お願いします!」

 

 俺の合図で入口から先生が入場してくる。はずが……突然の暗転。

 

「え? 何……何!?」

 

 リアクションは大きく!

 以前学んだ芸能界の鉄則を思い出し実行した直後。

 入り口のガラス越しに強い光を感じ、目を向けると人影が写っていた。

 

 さらにスタジオ内のライトが様々な色を放ちながら回転を始め、部屋中をド派手に照らす。

 

「お久しぶりねっ!」

 

 声と共に開かれた扉。

 逆光がまぶしくて姿が見えない。

 だがこの声には覚えがある!

 

「人の出会いは一期一会。あなたとまたこうして顔を合わせる事があるなんて……アタシ、あの時は全然思って無かったわぁん」

 

 ピンク一色になったライトアップを一身に受け、その肢体を無駄になまめかしくくねらせながら歩いてくるスキンヘッドの男性……

 

「ダンス……そういえばダンサーでしたよね……」

 

 今回の先生は、前回サポーターとしてお世話になったMs.アレクサンドラだった。

 

 俺もまた会うとは思わなかった……


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