人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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今回は三話を一度に投稿しました。
前回の続きはニつ前からです。


197話 野菜の使い方

「お久しぶりです」

「どうしたの? テンションが低いわよぉ?」

「やたらと台本にフリートークが多かった訳がわかりました」

 

 前回は台本があってもフリーダムだったからな、この人。

 

「さて、今回の課題はこの私、カリスマダンサー・アレクサンドラが教える~」

 

 両腕を大きく開き、ステップを踏み始めた。

 

「ダンスですね」

「ちょっとぉ!? 何で先にバラすのよっ!」

「カリスマダンサーが教える、って先に言った時点でバレバレですって……それにほら、“マキ”でって指示が出てますし」

「今始まったばかりなのに!?」

「練習時間が……」

 

 丹羽ADが小さく答える。

 

「んもぅ! 仕方ないわね。じゃあ葉隠くん、ダンスの経験はあるかしら?」

「ないですね。……昔、格闘技でカポエイラをやっていたことがありますが、ダンスとしてはまったく。あ、数ヶ月前に一度だけ、10分ぐらいの体験レッスンを受けたことがあったかも」

「カポエイラはともかく、そんなの回数に入らないわよぉ。それじゃあほとんど素人さんの葉隠くんに、私がダンスを手取り足取り腰取り、教えてア・ゲ・ル」

 

 激しく不安だ……! 主に勉強ではないところで!

 

「それじゃ、まずは基礎から行くわよぉ!」

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 初日の練習が終わった……

 先生の独特のノリは終始変わらなかったが、やはり練習中は真剣そのもの。

 指導はちゃんとしていてほっとした。

 

 ダンス練習の感想は、語弊があるかもしれないけれど“楽”だった。先日まで学んでいた演技やマスコミ対応よりも勝手が分かるし、修正も簡単というか……やっぱり俺は体を動かす方が得意になっているようだ。

 

「葉隠君は体の動かし方が分かってるみたいね。前回陸上の練習を見ていたけど、それ以上の成長速度に驚きよ! これなら予定よりももっと高みを目指してもいいわね!」

「と、いいますと?」

「課題の振り付けを難しくするわ。練習は明日から。難しいけど、それだけ凄いダンスにするわよ!」

 

 ちなみに練習期間の終了後は、どこかで発表をするらしいが……その辺りはまだ調整中らしい。

 

 なんだか色々と行き当たりばったりな感じ。

 しかし、俺はやると決めたんだ。

 なら全力でやるしかない!

 

「明日もよろしくお願いします!」

「カットー! お疲れ様でしたー!」

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

 ~タルタロス・エントランス~

 

 収穫した野菜の効果を確かめるため、今日は一人でタルタロスにやってきた。

 しかし、

 

「こうなるのか」

 

 タルタロスに踏み込んだ瞬間から異変が発生。

 なんとカエレルダイコンが輝き始めた。

 おまけにその光は、転送装置が放つ光と非常に似通っている。

 

 カエレルダイコンは持ち運びのできる転送装置のようなものなのだろうか……?

 そうだとしてもどう使えばいいのか……

 

「色々試してみるしかないな……」

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 翌日

 

 9月13日(土)

 

 朝

 

 ~教室~

 

「今日も午後は文化祭準備になる予定だったけど、急遽変更して午前も準備に使えることになったから、準備を始めてね」

『オオー!』

 

 先生からいきなりそんな通達があり、文化祭の準備をすることになった。

 

「それじゃあ時間もないし、今日から実際に演技の練習に入ろう」

「葉隠、俺まだセリフ覚えきれてないんだけど……」

「本を持ちながらでいいよ、何度もやってればそのうち覚えるさ。今日のところはまず雰囲気を掴む事だけを考えよう」

 

 予定は変わったが、やることは変わらない。

 今日から実技に入ることにした。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 昼休み

 

 ~生徒会室~

 

 昼食を済ませた人から生徒会室に集まり、午後からの会議の準備に取り掛かっていると、

 

「葉隠、また相談してもいいだろうか?」

「アイドルソングの件ですか? 桐条先輩」

「そうなんだ。実は……」

 

 どうやら先輩は律儀に俺が渡したリストのアイドルソングを聞いたらしい。

 しかし、アイドルと一口に言っても様々なキャラが存在している。

 そんな彼女たちがそれぞれの個性を十全に発揮した曲を多数聴いて、逆に混乱したらしい。

 

「私が一人で歌うことを考えると、大勢のグループで歌っているものは選ぶと少々寂しいかもしれない。あれは大勢で歌うことに意味があるのだと思う。しかしそれらを省くと残りの候補がぐっと減ってしまってな。

 課題がアイドルソングならば、ちゃんとアイドルらしいものを歌うべきではないかと思う。しかしあまり個性が強いものは私も恥ずかしく、ものによっては本家の方から注意が入る可能性がある……わがままを言っている自覚はあるが、これはという曲が決まらないんだ」

 

 先輩の相談とはあまり過激すぎたり奇抜すぎず、なおかつアイドルらしく程々に可愛らしい曲を紹介してほしいということだった。難しい……俺も特別アイドルに詳しいわけではない。特にこの人生ではほとんど気にしていなかったし……

 

「ひとまず一番の条件は過激でも奇抜でもないことだ。多少の恥ずかしさは我慢しよう。元はといえば私が安請け合いをしたのが原因だからな」

「ん~……少し詳しそうな人に聞いてみます」

「それでも助かる。ありがとう」

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 午後

 

 ~会議室~

 

「認められない」

「そこをなんとかなりませんか?」

「悪いが、諦めてくれ」

「他所の学校では」

「他所の学校には他所の学校のやり方がある。月光館学園では生徒の泊まり込みは許可しない。この件については先日からすでに何度も希望が出され、検討の上結論が出ている。

 代わりに今朝は午前中の授業を潰し、全校で文化祭準備を行った。今後も先生方に授業計画を急遽調整していただき、準備の時間を捻出する予定だ」

「泊り込んでワイワイやりたいって気持ちはわかるけどさ、それは修学旅行があるから、ここは我慢してもらえないかな」

 

 集まった各クラスの実行委員と、喧々諤々の会議が続けられている……

 特に激しく交渉されているのは、この“泊まり込み”について。

 結論から言うと、不許可。

 学校も桐条先輩も、この点に関して譲る気は全くないようだ。

 

 色々な責任問題や準備があるのも事実だけど、そうでなくても無理だよな。

 泊り込み=タルタロスに迷い込む=集団失踪事件、もしくは影人間大量発生だもの……

 この件には俺も桐条先輩に同意する。

 が、タルタロスのことを知っていると悟られないようにしなければならない。

 俺はあくまで規則に従うというスタンスで、会議の成り行きを傍観する。

 

 代わりに参加している実行委員のオーラを観察……一部は注意が必要そうだ。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 放課後

 

 ~教室~

 

「失礼しまーす! 葉隠君いますか?」

 

 またE組の木村さんが入ってきた。

 後ろには山岸さんと3人の女子生徒を連れている。

 

「どうした?」

「葉隠くんの部活ってさ、部室にキッチンがあったよね? お願い! そこを貸して欲しいの!」

「貸して欲しいって……」

 

 いきなり言われても困る。とにかく事情を聞いてみよう。

 

「ほら、うちのクラスって喫茶店やるじゃない? その関係でちょっとした料理を用意するんだけど、その練習に家庭科室を使おうとしたの」

「そしたらさー、2年と3年でも競合するところがあるらしくてー」

「ああ、喫茶店でなくてもお好み焼き屋やたこ焼き屋を希望している所もあるね」

「そうそう、それでもうスペースがないからって追い出されたんだよね」

「一年は後でやれ、二年や三年が先だー、みたいな感じで先輩風吹かせてさー」

「困ってたところで、山岸さんが声をかけてくれたの」

「つい思いついたことを言っちゃって……」

「なるほどなー……まぁキッチンを使うだけなら構わないと思うけど、ちょっと待って」

 

 先輩に連絡しておく。

 

「もしもし、桐条先輩ですか?」

『葉隠か? どうした』

「お疲れ様です。実は……」

 

 聞いたことをまとめて説明し、許可を取る。

 

「根本的な解決にはなりませんが、部の厨房を解放すれば練習場所がひとつ増えて、練習場所を必要としているクラスが助かるのは事実ですから、許可をいただけないでしょうか?」

『わかった。その件についてはこちらで対応する。部室の設備については顧問である江戸川先生に一声かけてから使わせてくれ』

「ありがとうございます。ただ今後の事ですが」

『分かっている。部室に不特定多数の部外者が出入りするのはあまり良い事ではない。特に君の状況では注意も必要だろう。今回は事情を考慮しての特別措置とする』

「こちらの部活に支障をきたさないのなら、強く拒否はしませんが」

『問題を解決する方向で話を進めよう。最悪の場合でも利用者は限定させるよ』

「よろしくお願いします。失礼します。……OK、話はついたよ。部室使っていいってさ」

「やった!」

「さすが葉隠くん!」

「頼りになるぅ!」

 

 別クラスなのに、いつからそんな評価になったんだろうか……

 妙にもてはやされながら移動する。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~部室~

 

 部室に顔を出すと、江戸川先生がいた。

 野菜についての話もあるので、E組女子は山岸さんに任せて実験室へ。

 天田も先に来ていたので、三人で秘密の会議を行う。

 

「まず結論から言いますと、昨日収穫した“プチソウルトマト”と“カエレルダイコン”はどちらも有効でした」

 

 使用法も推測が当たった。

 プチソウルトマトは食べることで魔力が少量回復。

 カエレルダイコンは手に持って脱出を念じるとエントランスに瞬間移動が可能。

 

 また、プチソウルトマトはどの実を食べても魔力を回復できた。

 実の数が多くても効果がない実は混ざっていないようだ。これは嬉しい誤算。

 

 対してカエレルダイコンはある意味、当初の予想通り。

 一回脱出に利用すると謎の発光現象がなくなり、二度使うことはできなかった。

 

「一応説明書には両方とも食用と書かれていましたが、勝手に光り出したものを食べる気にはならず、カエレルダイコンの食用は試していません。先生の方はどうでしたか?」

「預かったサンプルを成分解析してみました。体に害のありそうな成分は検出されませんでしたねぇ。トマトもダイコンも……ですが進展はありましたよ。以前預かった“ソーマ”に含まれていた謎の成分の一つが、プチソウルトマトから検出されました」

「本当ですか!?」

「ええ。ごく微量ですが」

「つまりそのトマトがもっとあれば、そのすごい薬を作れたりするんですか? 先生」

 

 天田の質問に先生は首を横に振る。

 

「まだまだソーマには謎の成分が複数あります。すぐにとはいきません。ですが、明らかな進展ですよ。葉隠君、研究用にもっとプチソウルトマトが欲しいので、増産をお願いします」

 

 そう言った先生は、懐から封筒と折りたたまれた紙を取り出した。

 封筒の中身はお金のようだが、この紙は?

 

「増産のためには苗を植えるスペースが必要でしょう? 部室の周りを畑にできるように、許可を取っておきました」

「!」

 

 確かに、部室の周りを自由にしていいと書かれている。

 それに校長の印鑑も押してある……いったいどうやって?

 

「ヒヒヒ。ここ最近、君のスピーチのおかげで生徒から要望の類が急増していましてねぇ……判断に困る案件がたくさんあるんですよ。その中に混ぜ込みました、部室周辺の“美化”……環境整備という名目でね。

 難しい案件に頭を悩ませる中、部室周辺を整えていいか? なんていちいち聞くな、勝手にしろとでも言わんばかりに、あっさり許可が下りましたよ。ヒヒッ! ヒヒヒヒ……」

 

 学校側は清掃活動ぐらいの認識なんだろうな……

 でもこの許可証は周囲に手を加えることを許可している。

 植物を植えることについても許可されている。

 しかも詳細なことは一切言及されていない。

 

「なんだか詐欺みたいですね……先輩」

「とにかく場所はもうできたんだから良しとしよう」

「よろしくお願いしますね。封筒には初期投資として10万円入れています。苗は勿論ですが、必要な道具なども揃えるといいでしょう。お金はコールドマン氏との契約金が入りましたから、遠慮なく使って構いません。どんどん研究材料……もとい野菜を作ってください」

「わかりました。計画を立てておきます」

 

 場所は部室のすぐ横あたりがいいだろう。

 必要なものは肥料と土。仕切りを作るブロックなど……

 トマトは連作障害が発生するらしいしその対策も必要だな。

 後は一緒に植えると良い効果が出る、コンパニオンプランツもあるらしい。

 その辺も考えてみよう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 秘密の会議を終えて部屋の外に出てみると、厨房から女子のかしましい声が聞こえる。

 その内容を聞くと、和田と新井も一緒にいるようだ。

 

「何やってんの?」

「あ、葉隠君。和田くんと新井くんがね、お料理教えてくれてるの」

 

 一歩引いていた山岸さんに声をかけると、そう答えてくれた。

 確かに女子の壁の向こうに二人の姿がある。

 

「あ、兄貴!」

「お疲れ様っす!」

「お疲れ様ー、何があった?」

「いや、それが……俺らがここ来たら先輩方が料理してたんですけど、何か困ってるみたいだったんで」

 

 新井がすごく言葉を選んで喋っている。木村さん?

 

「いや~実は私たち、お料理あんまり得意じゃなくてさ」

 

 よく見ると、確かに作業台の隅に置かれた皿には、黒焦げで何を作ろうとしたのかすらわからない物体が乗っている。

 

『……』

 

 E組女子一同は、俺の視線を避けている……

 

「それで二人が?」

「俺ら夏休み中、実家の手伝いしてましたから」

「まかないとか作らされたりしたんで、最低限食えるものはできるっす」

「なるほどな」

 

 食べられないものを作る彼女達よりはマシらしい。

 

「できればもう少し教えてもらえると助かるんだけど……」

「……兄貴。この先輩方に自由に料理されると、見てられねぇっす。一応料理屋の息子として」

 

 和田がこっそり囁いた。

 そんなにひどいのか……

 

「……仕方ないな。健康な体づくりのための勉強、ということにしよう」

 

 今日はバイトもあるし使える時間も短いので、開き直って皆で料理の練習を行った。

 

 和田と新井は実家で勉強したと自分で言うだけあって、慣れていた。

 俺も夏休みに学んだし、時々手伝いをしていた天田もそれなりにできていた。

 

 それだけに、一緒に料理していた木村さんたちは心にダメージを受けていたようだが……ちゃんと教えたので帰る頃には多少上達していたと思う。俺も野菜を料理に使う実験ができたし、新たに三つレシピが完成したので悪くはなかった。

 

 新レシピ

 ・ソウルトマトパスタ   効果:SP小回復&HP中回復

 ・ソウルケチャップ    効果:SP回復(回復量は摂取量に比例する)

 ・プチソウルドライトマト 効果:SP小回復

 

 パスタはパスタそのものの体力回復効果に、プチソウルトマトの魔力回復効果が加わった感じ。ケチャップやドライトマトも生の状態とそう変わらない。

 

 試しにケチャップとドライトマトを木村さんのオムライスに使わせてみたところ、問題なく魔力回復効果が現れたことから、料理の素材に使ってもプチソウルトマトの魔力回復効果は変わらないのだろう。

 

 ドライトマトやケチャップは保存が効きそうだし、うまく使えば幅広い料理に魔力回復効果を与えられるかもしれない。研究すると面白そうだ。


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